第286回(10月16日)解散国会先送り戦略 またも我慢比べ
 公党間の「近いうち」約束を果たせと年内解散を迫る自・公両党。解散はもとより、臨時国会の召集すら先送りを企む政府民主党。3党首会談はなかなか開かれず、「与党の態度は審議拒否だ」(自民)、「国民生活に重要な特例公債を人質にした」(民主)と非難の応酬。またも国会駆け引きのチキンレースが続いています。9月末に党首選を終えた自民、民主両党は新執行部を発足させ、総選挙態勢を固めました。民主党は過半数割れすれすれで、野田政権は「離党予備軍」を引き止めるため、入閣待望組を10人も起用、論功行賞人事も行いました。だが、早くも法相が外国人から献金を受けていたことが発覚。野党が辞任要求を強め、国会に火がつきました。一方、「日本維新の会」は橋下徹代表(大阪市長)と国会議員団9人との主導権争いが勃発、橋下氏がみんなの党とよりを戻すなど第3極の動きが活発。「石原新党」も蠢き出しました。公明党の山口那津男代表は「大安吉日の12月9日」の総選挙を要求しました。解散時期は首相が第3極新党の動きや世論の動向を睨み「年内か年明け通常国会に先送り」の決断を下す構えです。宜しくご支援をお願い申し上げます。

論功行賞・在庫一掃幕引き内閣
「幕引き内閣だ」(安倍晋三総裁)、「在庫一掃内閣、思い出作り人事」(石破茂幹事長)――自民党首脳は野田政権3度目の内閣改造を酷評しました。前述した「論功行賞人事」とは野田政権を党側で支えた前原誠司政調会長を国家戦略・経済財政相に起用、城島光力国対委員長を財務相に、樽床伸二幹事長代行を総務・沖縄北方相に初入閣させたことです。社会保障・税一体化改革と大震災復興を重視し、首相の信頼が厚い岡田克也副総理、藤村修官房長官、平野達男復興相、枝野幸男経産相が留任。尖閣諸島を巡る中国との関係悪化を踏まえ、玄葉光一郎外相と森本敏防衛相、6月改造で就任後の日が浅い羽田雄一郎国交相と郡司彰農水相も留任させ、中幅改造としました。「在庫一掃?」では、早大・松下政経塾出身で首相に近い長浜博行官房副長官が環境相に昇格、旧民社党グループの重鎮・田中慶秋氏が法相・拉致担当に、鳩山Gの小平忠正議運委員長が国家公安委員長に起用されるなど新人10人が入閣、総選挙にハクを付けて貰いました。代表選で首相を支持した旧民社党Gは城島、田中両氏と父親が民社党代議士だった小平氏の3人が入閣、優遇されました。

献金の法相、両刃の剣の文科相
 注目の的は小泉内閣当時、外務省を「伏魔殿」と呼んで官僚と激しく対立、更迭された田中真紀子元外相の文科相起用です。@知名度の高さから総選挙向きと評価されたA父・角栄元首相が日中国交正常化で大きな功績を残したため対中関係の改善に役立つB首相と距離を置く議員に影響力を持ち、離党者阻止に貢献する――などの狙いから起用されたもの。田中氏は「対立はしません。いつぞやは運が悪かった」とにこやかに職員に挨拶しましたが、入閣直前に政府の「2030年代原発ゼロ」方針を批判しており、「両刃の剣」になりかねないと懸念されています。「反野田」の3陣営からの入閣がなかったため、「挙党体制とは程遠い」と反発が出ていましたが、赤松広隆元農水相の推薦人だった山花郁夫氏を法務副大臣に起用するなど代表選出馬の対立陣営からも副大臣、政務官ポストに多く起用、離党予備軍の動きを封じました。ところが、田中法相は改造4日目に在日台湾人が横浜中華街で経営する会社から5年間にわたり計54万円の献金を受けたことが発覚。おまけに週刊新潮が「約30年前に暴力団幹部の宴席に出席するなど交際があった」と報じ、本人は事実を認めました。自民党は「身体検査」が不十分な首相の任命責任を追及します。

民社は国益・主権の基本認識欠落
 「なぜ外国人の献金を禁じられているか。内閣の1員なら守秘義務がある。国益を考え、実行する上で、外国から絶対に影響を受けないようにするのが基本認識。法の番人・法相にその認識がない。国益とは、主権とは何か、の重要認識が欠落している。民主党政権の“宿痾”のようなものだ」――安倍総裁は民主党の体質を厳しく批判し、公明党とともに田中法相の辞任を要求する方針です。政治資金規正法は、外国人や外国人が主な構成員の団体からの献金を禁じています。菅前首相や前原元外相(現国家戦略相)も在日韓国人から政治献金を受け取った問題が発覚、前原氏は閣僚を辞任し、菅首相は昨年の通常国会で追及を受けているさなか、3・11大震災が発生、「震災対策が第一」として追及を逃れ、命拾いしました。だが、田中法相は“法の番人”であり、辞任は避けられません。このため、首相、輿石東幹事長らは臨時国会召集の先送りか、今年見送るかを検討しています。

野党予備軍の総大将は原口氏
 そうでなくとも、民主党は杉本和巳衆院議員(愛知10区・当選1回)が5日、「みんなの党に移りたい」と辞表を提出して246人になり、単独過半数割れまで後5人。国民新党3人と合わせても与党は249人で、衆院の過半数(239人)割れまで後10人足らずに迫りました。臨時国会で野党が衆院に内閣不信任案を提出し、仮に民主党10人の造反者が出れば、首相は衆院解散か総辞職に追い込まれます。ゆえに離党防止策を兼ねて召集見送りの案が急浮上したわけ。造反を目論む「野党予備軍」の総大将は代表選第2位だった原口一博元総務相。首相に激しく対決姿勢を示したため、3、4位の鹿野道彦、赤松広隆・両元農水相が党の副代表で処遇されたのに、原口氏は外されました。原口氏は「自民党総裁選2位の石橋氏は幹事長に就任した」と不満を述べ、新党大地・真民主の鈴木宗男代表らと並んで、大阪で講演会を開くなど、「非自民の連立政権」作りに乗り出しています。

小沢氏も解散延期の高等戦術か
 「国民の生活第一」の小沢一郎代表も選挙に弱いチルドレンを多勢抱え、早期解散を嫌う点では同じです。安倍総裁は全野党の党首会談を開いて解散に追い込もうとしていますが、小沢氏は野党共闘には乗らず、単独の内閣不信任案を真っ先に提出、与党に否決させて「一事不再議」の原則で他党の不信任案再提出を阻むという“高等戦術”が囁かれています。解散先送りの中核は首相が「一蓮托生」と称して続投させた輿石東幹事長。輿石氏は民主党の惨敗を防ぐには来年夏の衆参ダブル選しかないと確信。首相補佐官5人の交代では首相に最も近い手塚仁雄衆院議員に代え、輿石氏側近の川上義弘参院議員を送り込み、官邸の国会対策面で圧力をかけています。首相が意欲を示す3党首会談にも、「必要な時になればやるし、必要なければやらなくて良い」と澄まし顔で、自民党への打診を怠りました。岡田副総理は「解散は首相の大権だ」と野党の解散時期明示を拒否。「3党合意を再確認し腹合わせしたい」と党首会談に前向きだった首相も自民党が消費税反対勢力の問責決議に相乗りしたことから、「解散時期は具体的に決めるものでない」と発言を後退させています。15日の3党幹事長会談では、@党首会談は20日までに開くA臨時国会は10月中に開く――で一致しましたが、解散など党首会談の中身は18日の幹事長再会談で決めます。

「近飯」の嘘つき与党が審議拒否
 赤字国債発行の特例公債法案の成立が11月に遅れると予算執行は完全に麻痺します。不決断政治に苛立つ自・公両党は5日、「党首会談では年内の衆院解散・総選挙を首相に迫る」ことで一致しました。首相が「近いうち」と公党間で約束したのは8月8日で早2ヶ月以上が経過。世間でも「近く食事をしよう」と誘うカラ約束を「近飯」と軽蔑しますが、越年などは論外。石破自民党幹事長は同夜、「信を問わないのは国民に嘘をつくこと。嘘つき政府・与党を相手に国会では審議に応じられない」と語り、伊吹文明元幹事長も「ドジョウに騙された」とカンカン。山口公明党代表は、大安吉日の12月9日に総選挙を行うよう提案、石破幹事長も同調しました。これは総選挙での政権奪還を前提に、新政権が来年度予算の年内編成を終える目的で提案、逆算すると11月半ばに衆院解散、同月27日に衆院選公示となります。総選挙での壊滅を恐れる政府与党は「野党は国民生活を人質に、重要法案に協力しない。無責任だ」と責任転嫁していますが、安倍総裁は「必要法案を通すための国会召集の打診も、党首会談の申し入れもない。球を返すべき与党が審議拒否を続けている」と批判。またも国会駆け引きのチキンレース(我慢比べ)が始まっています。

主導権争いで維新の会落ち込む
 両党の党首選の結果、各紙の世論調査はバラつきがあるものの、読売は内閣支持率が34%と30%台に回復。政党支持率も、自民が共同30%、読売28%、民主が共同12%、読売18%、維新の会が共同10・9%、読売13%と似たりよったり。でも、日本維新の会は各紙とも落ち込みが目立っています。維新の会に陰りが生じた原因は、橋下代表と所属国会議員団9人との間で主導権争いが表面化したからです。同会は橋下代表(大阪市長)、松井一郎幹事長(大阪府知事)の下部組織である大阪府議・大阪市議など地方議員団と国会議員団を同列に置き、橋下氏は「国会議員がパフォーマンスでなく、有権者がついてくるなら自らの戦略でやればいいが、大きな方針、戦略は僕が決める」と宣言。竹島や尖閣諸島問題でも「国際司法裁判所(ICJ)に訴えて周辺国と“共同管理”するルールを設けるべきだ」との考えを述べました。これに国会議員団は「次期衆院選には立候補せず、大阪を拠点に活動する橋下氏が、外交など国政の重要課題で方針を決定するのはおかしい」と反発、松浪健太衆院議員は「橋下独裁にはしない」と自らのブログで抗議しました。

兵糧攻めと維新支持率低下待ち
 竹島、尖閣は日本固有の領土であり、共同管理はとんでもない。識者も「空論」と批判しました。元々国会議員団には「我々が参加しなかったら、国会議員5人以上という政党要件は満たせなかったはず」とプライドを示し、地方議員団と同列の扱いにも不満があり、松野頼久氏を団長(代表)に選び、国会対策では独自の行動を取ることを申し合わせました。橋下氏は「みんなの党が母体の政党化」に反対し渡辺喜美代表と仲違いしていましたが、維新会の亀裂を踏まえ、渡辺氏と選挙協力を話し合うなど、関係修復を図りました。しかし、人気取り(ポピュリズム)、地方偏重の政策に対する批判が高まり、各紙世論調査は支持率が頭打ちで陰りが生じてきました。また、立候補者の選挙資金は最低1000万円が相場ですが、維新の会はこれを自前で準備せねばならず、350人も擁立するのは困難です。
当然、民主党の「解散先送り戦略」には、第3極新党結成の動静を分析しつつ、選挙資金作りに苦労する維新の会候補を「兵糧攻め」に追い込み、衰退させる狙いがあります。

石原新党蠢動、橋下氏も再接近
 そこで、橋下氏は13日に上京し、石原慎太郎都知事、たちあがれ日本の平沼赳夫代表と密かに会談するなど、「石原新党」に再接近しました。石原氏は一時、「都の尖閣諸島買収に専念する」と新党結成に距離を置きましたが、@尖閣の国有化が決まったA首相になると期待した息子の伸晃氏が総裁選に敗れたB野田政権が末期症状にある-――などから、5日の記者会見で「急転直下、どうなるか分からんね。人生何が起こるか分からんよ」と“人間万事塞翁が馬”をもじった意味深な発言。12日には、「後は私の年齢と健康だ。身を捨てる心算で何でもやる」と新党に意欲を示しました。石原氏は9月中旬以降、平沼氏や同党の園田博之幹事長と頻繁に会い、石原新党を母体に政界再編を進める蠢動を再開しました。

総裁選の影響で自民派閥再編
 自民党内では総裁選の影響が出てきました。高村正彦元外相が副総裁に就任したため、大島理森前副総裁が高村派を引き継いで大島派に名称変更。谷垣総裁の不支持で事実上分裂した古賀派は旧谷垣派の川崎二郎元厚労相、中谷元・元防衛長官、逢沢一郎元国対委員長ら13人が古賀派を離脱し政策研究会を発足。古賀氏も会長を辞任し、岸田文雄前国対委員長が後任の「岸田派」に衣替え、座長に林芳正政調会長代理を選びました。参院自民党は溝手顕正幹事長と脇雅史国対委員長が留任、岩城光英政審会長の後任に世耕弘成国対委員長代理を選出しました。自民党は臨時国会で田中法相の更迭と特例公債法案成立の前提として13年度予算の組み替えを要求するほか、遅れた災害復旧などを追及する方針です。瓦礫処理は3割程度の達成率、2万3千戸計画の復興住宅は730戸しか建設されず、復興予算19兆円の4割が未執行という停滞ぶり。しかも各省は、災害防止を名目に体育館や学校などの修復〈文科〉、学生の海外交流〈外務〉、反捕鯨団体の防止策〈農水〉など復興と関わりない対策に使う考えで無駄遣いも多いと見られ、11日に衆院決算行政監理委小委を開きましたが、民主党の欠席で流会しました。被災地では火事場泥棒と批判されています。