第282回(8月16日)消費増税法成立 解散駆け引き熾烈
 消費増税関連法案は自公民3党の党首会談の結果、ようやくお盆前の10日に成立しました。衆院解散・総選挙の時期を巡る与野党の駆け引きは激しく、チキンレースの様相を呈し,中小の6野党が内閣不信任、首相問責の両決議案を衆参両院に提出。しかし、首相が「近いうちに国民に信を問う」と党首会談で答えたため自公両党が本会議を欠場、激突は瀬戸際で回避されました。解散は今国会の会期末か。秋の臨時国会か。年明けか。政局の焦点は解散時期に絞られ、さらに攻防が続いています。自、公、民3党の党首選は9月末。早期解散を総裁再選戦略とする自民党の谷垣禎一総裁は、「話し合い解散」で各党首選前に決着を図ろうとしていますが、次期総選挙での惨敗を恐れる民主党執行部は解散の先送りに躍起。代表選では事実上、野田首相の続投を認め、震災復興の大型補正予算案や各地元の要求を散りばめた大盤振る舞いの来年度予算案を編成、内閣支持率の回復を待って、出来れば来年の「衆参ダブル選」まで引き延ばす戦略です。これに自民執行部がどう最終決戦を挑むか。お盆政局はますます緊迫。一層のご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

続投意識し選挙目当て予算編成
解散時期は@今国会の会期末A秋の臨時国会中B2013年度予算編成後の年末C同予算成立後の来年4月――の4ケース。これを逃せば衆参両院の任期が満了する衆参ダブル選挙となります。民主党は代表選を9月21日に都内ホテルで行うことを決定。これは自民党の総裁選が総裁公選規定で、谷垣総裁の任期満了前10日以内とされ、日曜の23日を投票日に予定したことから、民主党執行部は自民党総裁選より前に実施することで世論の関心を高め党勢回復を図ろうとしたもの。対立していた小沢一郎元代表グループ約50人が離党し、有力な対抗馬とされた前原誠司政調会長や岡田克也副総理、玄葉光一郎外相らも早々と再選支持を表明しているため、仮に鳩山元首相が若手対立候補を擁立しても首相の再選は確実です。政府与党の13年度予算編成は、@特別枠を設けて首相肝いりの「日本再生戦略」に 重点配分A国債発行額を44兆円以下に圧縮B基礎的財政収支(プライマリーバランス)に関する政策的経費を71兆円以下に抑える――などが骨子。特別枠は有権者にアピールする農業や地域活性化など公共投資に重点配分し1〜2兆円規模に膨らませる方針。首相は早期解散の確約を谷垣総裁に与えず、秋の臨時国会で積み残した特例公債法案など重要法案と震災復興が主体の選挙目当ての補正予算を成立させたい考えです。

頑な輿石氏とチキンレース展開
 加えて、小沢氏に近かった輿石東幹事長は、参院議員会長を兼務して参院審議に強い影響力を持つ熱烈な「衆参ダブル選」論者。参院で増税法案を採決すれば、残留小沢グループや鳩山「離党予備軍」ら計20人前後の造反者が続出、党の崩壊に直結しかねないとし、第一会派の座を堅持するためにはダブル選以外にないと信じて慎重審議を継続。そこでチキンレースが始まりました。ポンコツ車を崖っ淵に向け全速力で運転、墜落寸前に飛び降りて臆病者(チキン)かどうかの度胸試しゲーム。交通事故で急逝したジェームス・ディーン主演の「理由なき反抗」が原典。輿石氏はまず特例公債法案の衆院審議入りなどを条件に盆明けの20日採決を主張、たまりかねた首相が10日採決を指示しても動かず、自民党が不信任案提出をチラつかせ、公聴会後の8日に特別委採決を要求すると、しぶしぶOKしました。野党が政府提出法案の審議を促進、与党が拒否するとは前代未聞。だが、輿石氏が党首会談に難色を示したため、自民党は「支離滅裂な国会運営で甚だ遺憾」(石原伸晃幹事長)、「稚拙な国会運営に加え山口知事選に候補を立てず自主投票にするなど選挙対応も出来ない政権」(茂木敏充政調会長)と強烈に批判、委員会採決を10日に延期しました。

自民各派も強硬路線に舵を切る
 「首相が政治生命を懸けると言い出し3党合意を結んだが、先延ばし行為が何度も起きた。我々は嘘つきの片棒を担ぐことは認められない。法成立後、直ちに国民に信を問うよう求めてきたが、予算編成まで言い出した。極めて不愉快だ」――谷垣総裁は7日の役員会でこう述べ、不信任・問責両案提出の一任を取り付けました。町村信孝元官房長官も2日の町村派総会で、「予算編成なんて、よくもぬけぬけと臆面もなく言うものだ。不信任あるいは問責を出すと言うなら大いにバックアップしようじゃないか」と発言、これまで慎重論を唱えてきた派閥領袖も「政府民主党がナメ過ぎているなら総裁、執行部が方針を決めれば粛々とやればいい」(古賀誠元幹事長)、「首相が決断できないなら、野党第1党として実力行使をしても解散を迫らなければならない」〈麻生太郎元首相〉と各派総会で述べ、各派は「欲張り」首相の無茶苦茶な政権運営を怒り、結束を固めました。そして、解散の確約を採決の前提条件とする谷垣総裁の強硬路線支持に向けて、一斉に舵を切りました。

確約拒否なら不信任・問責提出
小泉進次郎青年局長ら若手議員は1日、「3党合意に対する不誠実な言動だ。与党が採決を遅らせ野党が採決を促す異常事態が意味するのは合意の破綻。速やかに破棄し解散総選挙で第一党となって進むべきだ」と谷垣総裁に申し入れ、36都道府県連の青年部長・局長も3日、同様の「緊急アピール」を党本部に届けました。「ドラマは参院で始まる」と予言した3党合意の立役者・伊吹文明元幹事長は2日の派閥総会で「国民に対する大変な背信行為だ」と発言、小泉氏ら若手の行動に理解を示しました。そこで、野田首相が解散を確約しない場合は直ちに内閣不信任・首相問責の両案を両院に提出、参院審議を拒否することを決め、一気に主戦論が高まりました。しかし、消費増税や来年の都議選を含めたトリプル選に反対し、早期解散を要求してきたのが公明党の支持母体・創価学会。それをようやく説得し賛成に導いた山口那津男代表は、早期の採決と解散を実現しない限り責任を問われるため、自民党主導の不信任・問責両案の共同提出に乗らず、足並みが乱れました。

隙間突き不信任・問責決議提出
自公対民主の3党せめぎ合いの隙を突いて存在感を示そうとしたのが、みんなの党の渡辺喜美代表。共産、社民両党に働きかけたうえ、「たちあがれ」を除く小沢新党「生活」、「新党きづな」など6野党・1会派は党首会談を開き、消費増税法案の成立を阻止するため、内閣不信任・首相問責の両案提出で合意、7日に提出しました。渡辺氏は大阪維新の会など地域政党との連携を模索し、総選挙共闘の戦略を描いています。3党合意をした以上、自公両党が不信任案に賛成する訳にいかず、さりとて欠席・棄権すれば、鳩山グループが造反しても反対票は足らず、不信任案は否決されます。そうなると「一事不再議」の慣行で、1国会に2度の不信任案を提出できず、野田政権は安泰となります。そこで谷垣総裁ら執行部は参院採決前に首相から解散確約を取り付けて消費増税法案だけを成立させ、確約に応じないなら、内閣不信任案と首相問責決議案を野党7会派と相討ちで提出して可決、その後の参院審議は拒否し、特例公債法案など他の重要法案を阻止する腹を固めました。この「一か八か」の決意を8日朝の役員会に諮り、一任を取り付けた谷垣氏は、同日夜に首相と自・民間で30分、その後山口代表を交えて3党首会談を開き、首相が「法案成立の暁には、近いうちに信を問う」との認識を明示して合意。9日は本会議を退場し中小党提出の不信任案を否決しました。会談前に谷垣氏と首相が長時間の電話会談をしたことから、”密約説”も流れています。これで「国会冒頭は対決―3党合意で妥協―予算編成など首相の欲張りで紛糾―激突寸前で再合意」と続いたチキンレースに終止符が打たれました。

維新の会にゴマすり特別法制定
 地域政党が連携する第3極の新党を意識して、自公民3党など与野党7会派は7月30日、「大都市地域特別区設置法案」を共同提出、衆院を通過させました。橋下徹大阪市長が目指す「大阪都」構想の実現に協力、東京都以外にも特別区の設置を認めるもの。政令市と隣接市町村を含む総人口200万人以上の大都市区域で市町村を廃止して特別区の設置を認めることとし、政令市のうち200万人以上の横浜、大阪、名古屋のほか隣接市町村を含めると200万人を超える札幌、さいたま、千葉、川崎、京都、堺、神戸の10市が対象。橋下氏の要請を受けて各党がそれぞれ法案を提出、自、公、民、みんな、国民新の5党が協議して法案を1本化。これに新党生活と新党きづなが賛同して共同提出に踏み切りました。特別区設置法案は、次期総選挙で地域政党に票田を荒らされかねない既成政党が自衛手段として共同提出したもの。しかし、大阪維新の会幹事長の松井一郎大阪府知事は1日の記者会見で、「政党と地域政党ではメディアの扱いや選挙で出来ることが全然違う。悔いなく(次期総選挙を)戦うために既存政党と同じ体制にしたい」と、公選法上の政党要件を満たすため国会議員5人以上を集める意向を示すなど国政進出の姿勢を明確にしました。大村秀章愛知県知事も「中京維新の会」を設立、同様に国政進出を狙っています。

松野氏ら呼応し九州に地域政党
 無党派議員や既成政党の離党者5人を勧誘して政党要件を満たせば、小選挙区と比例区に重複立候補でき、浮動票をかき集められるほか、政党助成金や企業献金も受けられます。300人の候補擁立を目指す大阪維新の会は3日の幹部会で、国会議員の報酬や定数削減などの数値目標を明示した衆院選公約の「維新八策」を今月内に完成させることにしました。この動きに呼応して民主党の松野頼久元官房副長官は4日、地元熊本市の国政報告会で「民主党の政治スタイルに限界を感じている。(政界)流動化の新しい流れの中に身を置くかもしれない」と新党模索の考えを表明。松野氏は吉田元首相側近の“策士”で祖父の鶴平・元参院議長、自民党福田派ながら三木政権をとことん支えた父頼三・元政調会長の3代目。鳩山グループの幹部ですが、親譲りの勘の鋭さで既に維新の会幹部と接触、九州選出の議員を主に「道州制型統治機構研究会」を結成、すでに10回以上の会合を重ねています。与野党7会派が折角、維新の会をけん制する意味で特別区法案を共同提出しても、虻蜂取らずに終わりそうです。

特例公債で3党話し合い解散か
 残された問題は、予算執行に支障をきたす特例国債法案、補正予算案、公選法改正案をどう処理するか。残存会期が短いため、臨時国会に持ち越しそうですが、解散時期を絡めた自公民3党首会談による「話し合い解散」で決着を図るしか道はなさそうです。だが、これにも輿石幹事長は「党首交代なら合意は白紙だ」と反対し、求心力の薄れた首相が党を抑さえ込むのは困難な見通し。自公民3党は7月26日の政調会長会談で政府提出の共通番号制度関連法案(マイナンバー法案)の修正で合意したため、近く衆院を通過、消費増税法に合わせて成立の運びとなりました。また政府は先月末、基礎年金国庫負担分の不足財源を確保するため、12年度と13年度に赤字国債の一種である「つなぎ国債」を発行する規定を特例公債法案に追加することを閣議決定しました。一方、参院各会派代表らによる「選挙制度改革検討会」は先月末、民主党提案の「1票の格差是正」に向けた「4増4減」の公職選挙法改正案に自・公・国民新3党が賛成し、今国会での成立が確実になりました。民主党は衆院の「0増5減」に加え、公明党を含め少数政党が期待する比例定数の40削減と小選挙区比例代表連用制の一部導入を盛り込んだ関連法案を提出済みですが、自民党はこれに反対、「0増5減の」関連法案だけを衆院に提出し成立を図っています。