北村からのメッセージ

 

 第28回(10月16日) 守れ食の安全 業者救済に万全を

 狂牛病の不安が日本全国に広がっています。米国の同時多発テロの陰に隠れ目立たない報道の扱いでしたが、国民の関心は日増しに高まり「牛製品は本当に安全なのか」との“風評被害”で牛肉や牛乳ばかりか、牛エキスを使った食品や化粧品まで売り上げが落ち込むなど、消費者の不安を駆り立てています。政府は4日、ようやく緊急対策を発表しましたが、衆院の厚生労働、農林水産両委員会に所属する私としては、多発テロ以上に深刻な問題と受け止め、畜産、食品衛生の両面から真剣に狂牛病対策に取り組んでいるところです。

 恐ろしいプリオン

 千葉県の牧場で狂牛病の疑いのある北海道産の牛が我が国で初めて発見された、と報道されたのは9月10日のこと。狂牛病は、細菌でもウイルスでもないタンパク質が異常化した「プリオン」が病原体。アミノ酸が繋がる立体構造が「異常型」に変化すると、牛の脳は神経細胞が破壊され、スポンジ状になって、四肢の麻痺や痴呆症などの神経症状が起こり死に至る。2年から8年という長い潜伏期間があり、人に感染すると変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を引き起こす恐ろしい病気。欧州では10数人の症例があるそうです。

 水際作戦を展開

 病原体のプリオンは、牛の脳や脊髄、眼球、小腸の先端など特別な部位だけに蓄積され、人が牛肉や牛乳、乳製品をいくら摂取しても感染の危険性はありません。問題は頭部や内臓、骨を解体・加工して作る肉骨粉の飼料にあり、この肉骨粉が狂牛病の感染源です。農水省は疑惑が発覚した際、「疑いのある牛は焼却処分にした」と発表、直ちに感染が疑われる牛と同じ牧場で育った牛70頭の隔離・検査と焼却を指示、厚生労働省も同じ動物性飼料で飼育された牛の食肉販売の中止を指示するとともに、発症の適齢にある生後30ヶ月以上の牛の全頭検査を実施すると発表するなど、水際防止作戦を展開したかに見えました。

 高まる食肉不安

 ところが、マスコミの調べで疑惑の牛は茨城県で肉骨粉に加工されていたこと、疑惑牛は1ヶ月以上も前の8月2日に起立できなくなったが、当初は狂牛病ではなく敗血症と診断されていたこと、96年春から禁止を指導してきた牛への肉骨粉供与を、全国で100を超える酪農家が続けていたことなどが相次ぎ発覚、国民の間にますます食肉不安が高まりました。このため、農水省は9月18日、これまで行政指導で規制してきた牛への肉骨粉の餌使用を法律に切り替えて禁止しました。だが、狂牛病に関係ない鶏や豚への使用は認める態度を10月初旬まで取り続けました。これには同省内部で「人は肉骨粉を食べないから大丈夫」と軽く考え、家畜の飼育を重点に考える姿勢があったことは否めません。

 目立つ風評被害

しかし、肉骨粉に限らず、牛の骨や骨髄、皮などがカルシウムの栄養剤や医薬品、化粧品の原料として幅広く利用されていることが知られ、騒ぎが大きくなりました。牛骨やくず肉から採る牛エキスは、子供の喜ぶポテトチップスや即席麺のスープ、洋風ブイヨン、コンソメ、ゼラチンなどに広く使われており、Tボーンステーキ、骨付きカルビなどの骨付き料理も多くあります。ハンバーガーチェーン店も「使用肉はどこの産か」と消費者に不安がられ、外食産業は打撃を受けています。こうした一種のパニック状況から、大手スーパーの肉売り上げも3−5割落ち込むなど、“風評被害”が目立っています。小売店は、国が「安全宣言」をし、検査後の牛に「合格マーク」を付けてほしいと要望しています。

 徹底対策の英国

 18万頭の被害を出した英国では、狂牛病の発生が確認された2年後の88年に、牛から採ったタンパク質を牛の飼料に使うことを禁止、さらに90年には豚や鶏向けにも牛原料の肉骨粉の使用を禁止、96年には動物のタンパク質を飼料として使うことを全面禁止しました。英国の農家が牛に与えた飼料の記録は5年間保存されます。昨年4月には食品の安全性と基準問題に対処する「食品基準局」を設置、狂牛病の情報を公開しています。

 劣った情報開示

 日本でパニックに近い社会不安が生じたのは、後手に回った農水省の対応に加え、官僚特有の情報を秘匿する体質があったからといえましょう。「食の安全」に関する情報は何よりも優先して公開しなければ国民の信頼は得られません。小泉首相は9月末の閣僚懇談会で「国民の行政に対する不信を招いた」と、農水、厚労両省の不手際を厳しく批判。武部勤農水相も「やれる対策はすべて出せ」とハッパをかけ、牛肉の試食会を開き盛んに安全性をアピールしました。その結果、10月4日から実施されたのが狂牛病の緊急対策です。

 業界は猛反発

 緊急対策で農水省は、感染源の可能性が高い肉骨粉について当分の間、すべての輸入と国産の製造・販売を一時停止としました。輸入品は家畜伝染病予防法に基づき防疫の観点から輸入を規制する措置ですが、国産品は法的根拠のない要請に過ぎません。このため、近く飼料安全法の省令を改正し、違反者には3年以下の懲役か30万円の罰金を科す法規制に踏み切ります。厚生労働省は狂牛病の恐れがあるとされる「特定危険部位」を原料とする加工食品の製造自粛と自主回収をするようメーカーに行政指導しました。食肉処理場に運ばれる年間100万頭の牛の全頭検査も10月18日から前倒しで実施します。これらは、食肉リサイクルという商行為を国が規制するもので、畜産業界は「法的根拠があるのか」などと、国産品の規制を巡って猛反発しています。

 廃棄物は国が買え

 肉骨粉の製造業者で構成する日本畜産副産物協会は「製造を辞めれば骨やくず肉は膨大な産業廃棄物になる。食肉処理場から買い取る理由がなくなるのだから、それらの廃棄物は国が全て買い取るべきだ」と主張、規制には反対しています。確かに製造を中止すれば、牛骨などを廃棄する処分コストは高くつき、焼却施設や在庫の保管場所の確保が難しく、製造業者への補償費も膨大になります。飼料メーカー大手も豚・鶏用に月2千トンの肉骨粉を使っていたのに、大豆かすや魚粉に切り替えるにはコスト高で容易ではないといいます。農水省が国産肉骨粉の規制に最後まで慎重だったのは、こうした理由があるからです。

 業者救済に百億円

 肉骨粉の製造業者は零細企業が多く、年間310億円の売り上げに頼って経営を維持しており、これが消滅するようでは立つ瀬がありません。朝日新聞は、肉骨粉の加工と焼却処分費をキロ当たり70−100円と見込めば、昨年の製造量は40万トンで、仮に流通を1年間止めて焼却すると400億円になると試算しています。しかし、国民の生命、財産を危害から守るのが行政の責任で、食の安全は優先課題。今回の措置に伴い、農水省は製造業者救済に100億円程度の補償費を補正予算に計上し、その費用の3分の1を地方自治体に押しつける構想を検討中ですが、どのような経費が掛かろうとも、国単独ででも実施すべきでしょう。経済産業省は打撃を受ける中小企業に対し、公庫から1億2千万円の緊急融資を決めていますが、融資だけでなく国民が安心して食卓に向かう「安全費用」として、肉骨粉製造業者に対する救済措置は、今国会で必ず成立させなければなりません。

 薬害エイズの轍踏むな

 狂牛病問題が国会で論議され始めたのは、96年の薬害エイズ事件と同じ時期でありました。そのエイズ裁判で東京地裁は「汚染された非加熱製剤の回収と販売中止を製薬会社に命じる措置を怠り、患者1人を死亡させた」と元厚生省課長に有罪を言い渡しました。非加熱製剤を投与された血友病患者は500人を数えます。売れ残りの製剤を処分したがる製薬会社の庇護を頭の隅に置いた官僚の不作為であるなら、官業癒着とも思える、いわば“未必の故意”の犯罪で言語道断。刑事罰は当然です。私はこの判決を、狂牛病の対策面でよい教訓にしたいと考えます。農水省の官僚はこの轍を踏まないよう、国民の食品安全対策に万全を期し、畜産業者の救済措置には手厚く対処する姿勢が何よりも重要です。

 二重行政改善を

 朝日新聞は「農水省の役割は家畜の餌の安全を守ること。人の口に入る食物の安全は厚労省の管轄という、縦割り行政が対応に混乱を生じた」と批判しました。確かに二重行政は多くの弊害を抱えていることは事実でしょう。EU(欧州連合)は。来年を目指し、食品のつながり全体を管轄し、科学的な助言を行う「欧州食品庁」を設置するようですが、生産から消費まで一元的に食品政策を検討する行政機構が日本にもあっていいと思います。国会では以上述べた視点に立って、積極発言をしていきたいと念じています。