第278回(6月15日)解散避け続投容認 輿石先送り戦略
 3日の小沢一郎元代表との再会談が決裂した首相は4日、自民党との消費増税関連法案の修正協議に舵を切り、5閣僚を交代させる内閣の再改造を断行、同法成立への環境整備と内閣機能の強化を図りました。組閣後の会見では、「この厳しい時期に首相を拝命したのも天命だ」と使命感を訴え、自ら司令塔となって法案処理の陣頭指揮に当たる覚悟を表明。メキシコでの主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席する前の15日までに与野党が修正合意し衆院で消費増税法案を採決、会期末までに衆院通過を図るよう指示しました。しかし、小沢グループは猛反発して採決には造反の構え。党内の分裂回避を最優先する輿石東幹事長は長期の会期延長に持ち込んで採決を遅らせ、@9月の代表選は首相が続投A法案成立後に花道引退B来年夏に衆参同時選挙――の「先送り戦略」を描き面従腹背の姿勢を取っています。これには自民党の谷垣禎一総裁が「修正協議とけじめはコインの裏表」と述べ、けじめとして国民に民主党のマニフェスト違反の信を問う衆院解散を迫り、応じない場合は会期末に内閣不信任案を提出する方針です。そうなれば今夏にも総選挙となり、暑い戦いになります。緊迫政局ですが、さらなるご支援、ご叱正をお願い申し上げます。

増税法成立へ環境整備・機能強化
4日の内閣再改造は、参院で問責決議を受けて野党が強く更迭要求をしていた前田武志国土交通相と田中直紀防衛相のほか、農産物の対中輸出促進事業に関与したスパイ疑惑の中国人外交官との関係が取り沙汰された鹿野道彦農水相、国会で競馬サイトを見て批判された小川敏夫法相、自見庄三郎郵政改革・金融相が交代し、18閣僚が留任しました。国交相には民主党の羽田雄一郎参院国対委員長、防衛相には民間から森本敏拓殖大教授を起用、農水相に郡司彰元農水副大臣、法相に滝実法務副大臣、郵政改革・金融相に国民新党の松下忠洋復興副大臣が起用されました。郵政改革法の成立を契機に党首の自見氏が退き、松下副代表が入閣、連立を継続したもの。首相は同日夕の記者会見で、「社会保障と税の一体改革を含め、諸懸案を前進させる視点で改造を行った。適材適所の選任だ」と胸を張り、森本防衛相の起用は、「安全保障に関するわが国の第一人者。北朝鮮問題を含め、安保環境が不透明な中、平和と安全を守るため、大いに力を発揮してもらいたい」と持ち上げました。

自民とのパイプ役に森本防衛相
防衛庁発足以来初めて民間人から起用された森本氏は航空自衛官を退官後に外務省に入り、情報調査局安保政策室長を経た後、野村総研主席研究員や拓殖大教授に転じ麻生政権当時は防衛相補佐官を務めた外交・安保の専門家。集団的自衛権行使を容認、憲法改正では9条に防衛軍の保有を明記することを持論とし、自民党との関係も深い論客。政府筋が「自民党とのパイプ役を期待した人事だ」と言うように、首相は膠着状態の米軍普天間基地の辺野古移設解決に森本氏の手腕を期待しています。だが、国家機密を扱う防衛相に民間人を起用してよいか、元自衛官に自衛隊に対する文民統制(シビリアンコントロール)が確保できるかなど懸念が生じ、自民党内では「政治家でない以上、軍事的な出来事に政治的責任は取れない」(石破茂元防衛相)、「安保政策を民間人に任せるのは使命感に欠ける」(中谷元・元防衛長官)と批評し、石原伸晃幹事長も民主党の人材不足を批判しています。

自らが司令塔、党首会談に意欲
 「会期末に向けた約20日間は、日本の将来を左右する大きな決断の時となる。国会は言論の府、熟議の民主主義の実践の場だ。自民党を中心とする野党と政党間協議を改めてお願いしたい」――首相は組閣後の記者会見で消費増税法案の今国会成立に強い意欲を表明しました。財政危機のギリシャに端を発した欧州の信用不安を「対岸の火事ではない」とし、GDP(国民総生産)の約2倍に達する借金を抱えた日本にとって、財政再建や社会保障改革はもはや不可避の喫緊課題と首相は危機感を強めています。「民主党幹部に毎日、的確な情報を上げるよう指示した。必要な判断は私がする」と明言。自民党の谷垣禎一総裁との党首会談を開いて局面を打開する意欲も表明しました。メキシコでの主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席する首相は、16日に日本を出発するため、15日までに与野党が修正合意し、会期末までに消費増税法案の採決(衆院通過)を図るよう指示。中央公聴会も12,13両日にセットし衆院審議時間は百時間を超え、採決準備は完了です。だが、小沢・鳩山グループの反発は強く決着先送りを図る輿石幹事長が慎重運転を続けています。

政権生みの親、造反の意思明白
 「行政改革などをやってから(消費税率の)引き上げなら分かるが、そうでないなら賛成できない」――小沢元代表は、首相が「乾坤一擲」をかけた3日の再会談でも、こう主張し、5月30日と同様に平行線で会談は物別れ。記者団が「法案採決で造反し、離党するのか」と問いかけたのに対し、小沢氏は「(法案に)賛成できないというのは反対ということだ。(離党は)考えていない。私自身が先頭に立ち、国民に訴えて任された政権だ」と生みの親として結束に自信を示し、造反の意思を明確にしました。再会談は党内融和を最優先する輿石幹事長がセットしましたが、首相は会談決裂により修正協議に大きく舵を切り、政治生命を懸けた消費増税法案の今国会成立にダッシュしました。しかし@会期末は20日と切迫しているA自民党の修正要求との落差が依然大きいB輿石氏は決着先送りの衆参ダブル選論者だC自民党内でも対応の違いが生じた――など幾つもの障壁があります。

大幅延長か継続審議で花道引退
小沢氏らの造反で党分列を恐れる輿石氏は、5,6両日の自・公・民3党書記長会談で、自民党の石原幹事長が採決日程の明確化を迫ったのに対し、「結納(合意)も済んでいないのに結婚(採決)の日取りを決められる訳がない」と拒否し続け、首相から再度指示を受けてようやく「15日までの修正協議に合意する」と応諾しました。これで2閣僚問責決議後、約40日間も機能麻痺した国会は正常化し、与野党修正協議は8日から始まりました。「野党が採決を促し、政権党が抵抗する」などは前代未聞。おまけに輿石氏は支持母体の連合に配慮し、労働基本権の一部を付与する国家公務員制度改革関連法案の審議も強行、反対する自民党をいたずらに刺激しています。修正協議の担当者の一人には「ミスター年金」として自民政権を追及したマニフェストにこだわる長妻昭元厚生労働相を起用。どう見ても大幅会期延長か臨時国会での継続審議を画策しています。党内の分裂回避を最優先する輿石氏が描く戦略は、@修正協議では下手な妥協はせず、合意しても反対派と徹底討論し党議決定の手続きを踏むA党内協議がこじれ、衆院採決ができない場合は秋まで大幅延長、野党が会期末に内閣不信任案などを提出すれば継続審議として閉会B9月の代表選は延期して首相に続投させ、増税法案成立を花道に引退してもらうC衆院解散は確約させず、衆参議員の任期が切れる来年夏に衆参同時選挙を実施する――という狙いのようです。

分裂回避で3者密約シナリオか
マスコミ人は、先の2度にわたる首相、小沢、輿石両氏の3者会談が計2時間半にも及んだことについて、「誠心誠意、話し合ったとしても、首相が“直談判”したなら、形式的なエール交換で短時間に終わったはず。それが、小沢氏は2閣僚の更迭を了承、野党との修正協議も了解して『法案に今問われれば賛成とは言えない』と、わざと”今”を加えて発言した。よほど3者が知恵を搾り出し、党分裂回避の密約シナリオを作ったのに違いない」と解説しています。小沢グループ約100人は衆院で法案採決に至った場合、分裂・新党結成も視野に入れて反対を貫く構えですが、首相は「造反した党員は断固処分(除名)する」意向を既に表明しているため、若手議員の動揺は大きく、小沢氏は若手と連日面談して結束を固めています。確かに内閣支持率の低迷と民主党勢失墜の中で解散・総選挙を戦えば、首相の退陣どころか、政権崩壊と党の解体に繋がります。消費税は、導入した竹下登氏、税率をアップした橋本龍太郎氏の両政権があえなく退陣した大仕事。野田首相も政治生命を懸けて達成し、歴史に名を刻もうとしていますが、「一将功成り万骨枯れる」では堪らず、「解散なし」は民主党の共通認識。輿石氏の先送り戦略に期待が掛かっています。

総裁再選の谷垣戦略に党内異論
総選挙に勝利することが9月総裁選の再選戦略と位置づける谷垣総裁は「修正協議と“けじめ”はコインの裏表」と述べ、民主党のマニフェスト違反について国民に信を問う衆院解散。総選挙(けじめ)の確約を取ることが修正協議の前提だとし、5日の党総務会で修正協議の一任を取り付けました。だが、共同通信の調べだと、前回の衆院選(09年7月)では自民、民主両党合わせた支持率が53・7%だったのに対し、現在は34・7%にまで落ち込み、支持政党なしが48・3%に激増。総選挙を急げば、「大阪維新の会」など第3極の新党が漁夫の利を占める恐れがあります。自民党内では「世論の不興を買う消費増税は民主党政権にやらせる方が得策」として森喜朗元首相、古賀誠元幹事長らが解散にこだわらず修正に前向き姿勢。衆院一体化特別委筆頭理事の伊吹文明元幹事長も修正協議で、民主党マニフェストに掲げた最低保障年金制度などは自民党対案の「国民会議」の議題に棚上げする考えを強調しています。一方、「増税より改革」を主張する増税慎重派の中川秀直元幹事長らは「消費増税を考える会」を結成、塩崎恭久元官房長官、河野太郎衆院議員ら20人が参加し、5日には大島理森副総裁に「民主党の増税に加担するだけでは選挙を戦えない」として修正協議が本格化する前に全議員懇談会を開くよう申し入れました。

社保制度改革対案の丸呑み要求
創価学会の総選挙支援態勢を考慮し、政府案を早期に否決し解散に追い込む構えの公明党は、蚊帳の外の置かれてはたまらないと急遽、社会保障政策の抜本改革で全体像の討議を求めて修正協議に参加しました。8日からの3党修正協議で自公両党は民主党が違反した衆院選マニフェスト(政権公約)の扱い(けじめ)を明確にするよう要求。自民党は同党がまとめた「社会保障制度改革基本法案」の「丸呑み」を求めました。基本法案は、@最低保障年金制度創設の廃止A被用者年金と国民年金の一元化撤回B現行後期高齢者医療制度の存続C社会保障制度改革協議の「国民会議」設置――などを掲げ、民主党公約の撤回につながる「現行の制度を基本」に見直すことが修正協議の「大前提」であるとしました。公明党も独自の社会保障政策を発表しました。民主党は難色を示し、協議は平行線をたどりましたが、自民党が「2段階で消費税率の10%へ引き上げ」を受け入れ、所得の低い層に逆進性が強い消費増税の低所得者対策では、民主党が給付つき税額控除を主張したのに対し、自公両党は食品,医薬品、新聞などを軽減税率とするよう主張。結局は8%に引き上げる段階で現金給付を行い、10%で軽減税率を検討する方向に落ち着きました。

解散賭け不信任案で最大ヤマ場
焦点の社会保障改革で、民主党はマニフェストの最低保障年金創設、後期高齢者医療制度の廃止などの撤回は拒んだものの、関連法案が未提出であるため、「政党間の協議と有識者で構成する『社会保障制度改革推進会議』の審議を踏まえ、1年以内に 結論を得る」との「推進会議」方式を逆提案。自民党が救いの手を差し伸べた「有識者による国民会議」で論議するとの「棚上げ案」に歩み寄りました。子育て支援策でも政府案の幼稚園と保育所を一体化する「総合こども園構想」を取り下げ、自公政権でスタートした「認定こども園」制度を拡充することで折り合いました。15日中に与野党協議が決着すれば、首相はG20首脳会議から帰国後に谷垣総裁と党首会談を開いて最終合意。会期内に増税法案の衆院通過を図る方針です。しかし、民主党は12日から与野党協議の経過を報告する合同会議を開いた結果、反対派約120人が出席して異論を噴出させ、了承取り付けは手間取っています。これに業を煮やした自公両党が内閣不信任案か問責決議案を提出、これが成立すれば、首相は11日の衆院一体化特別委で解散の決意をほのめかしています。だが、先送り戦略を取る輿石幹事長にとっては思う壺。大幅な会期延長か、採決を見送り閉会して法案を継続審議に持ち込むでしょう。国会は今週以降、まさに最大のヤマ場を迎えます。