第277回(6月1日)三つ巴の攻防続く 不信任案なら夏解散も
 今年は辰年。龍神が民主党政権の体たらくを怒ってか、連休末から北関東では雷を伴う竜巻を起こし荒れ狂いました。国会でも“つむじ風”が吹き募っています。消費増税に政治生命を懸ける首相が野党の協力を断念し「重大な決意(解散・総選挙)」に走るのか。自民党の谷垣禎一総裁が解散の確約と引き換えに「話し合い解散」を成就出来るのか、輿石東民主党幹事長が党内融和を最優先に来年夏の「衆参同時選挙」を画策し、同法案を継続審議にし「時を稼ぐ」のか。国会の会期末まで20日足らず。同法案の衆院通過すら危ぶまれ、国債発行の根拠となる特例公債法案、1票の格差是正の衆院選挙制度改革法案など重要法案は手付かずの状態。会期延長は必至の情勢です。延長か臨時国会での継続審議となれば、首相の求心力は急速に薄れ、9月の民主党代表選を待たず「野田降ろし」が始まりそうです。無罪判決から一転控訴となった小沢一郎元代表も来春まで刑事被告人に逆戻り。代表選出馬は困難で、100人のグループを率いるカリスマ性は失われつつあります。総選挙に勝利して総裁選に臨もうとした谷垣氏も解散に追い込めない場合は再選戦略に狂いが生じます。会期末は3者と側近の思惑を秘めたバトルで駆け引きが渦を巻き、三つ巴の政権争奪戦は頂点に達します。雷雲が漂う政局。さらなるご指導、ご鞭撻をお願い申し上げます。

来年夏同日選の輿石発言で停滞
 5月16日から実質審議入りを予定した衆院の一体改革特別委は、訪英される天皇陛下をお見送りする首相が半日しか出席できないため、16日は提案理由説明だけを実施、17日と21〜23日に総括審議を行いました。同月13,14日に北京での日中韓首脳会談を終え、15日の沖縄復帰40年式典に出席した首相は、18,19日に米国・キャンプデービットで開催の主要国首脳会議(G8)にも出席するなど外交日程は多忙。加えて自公両党が求めた参院問責決議の前田武志国交相、田中直紀防衛相の更迭を首相らが拒み、小沢元代表に政治的・道義的責任を求める証人喚問にも輿石氏ら幹部が応じないため、野党は態度を硬化させ、消費増税法案の審議は冒頭から停滞、与野党国対委員長会談で少しずつ日程を詰める各駅停車の審議です。野党は2閣僚関連の委員会には出席を拒否。21日の会期内成立は絶望的で大幅な会期延長が必至です。停滞の原因は民主党の輿石幹事長が11日に述べた「来年夏の衆参同日選が望ましい。問責閣僚の辞任に反対」の発言。増税反対の小沢一郎元代表グループに配慮し党の分裂回避を最優先したうえ、「早期解散」を求める自公両党にも揺さぶりを仕掛けたもの。こうした輿石氏の「時間稼ぎ」戦略は、9月の代表選、総裁選を同時に迎える野田首相、谷垣自民党総裁にとっては大きな痛手です。

小沢切り、公約撤廃など3点追及
 谷垣総裁は14日、日本記者クラブで記者会見し、消費増税法案で首相に協力する前提として、@民主党の09年衆院選マニフェスト(政権公約)に違反した消費増税にけじめをつけるための早期解散・総選挙A小沢氏ら党内反対派との決別B社会保障改革での自民党案受け入れ――の3条件を提示し、自民党は総括審議でも3点を追及しました。果たして自公両党の協力で「小沢切り」の話し合い解散が実現できるかどうか、難しい状況です。自民党は前号で詳報した通り、@民主党が掲げる月額7万円の最低保障年金制度の創設や被用者年金と国民年金の一元化は「非現実的な選択肢である」として撤回A「子ども、子育て新システム」は不採用B生活保護制度は必要な見直しを早急に実施C後期高齢者医療制度は存続を前提に「必要な見直し」を実施――などを要求。「社会保障は社会保険制度を基本とし、公的負担を支える財源は消費税が中心とする」ことを骨子とした「社会保障基本法案」(仮称)をまとめ、与党が修正に応じるかどうか、提出のタイミングを図っています。これは「社会保障制度特命委員会」(野田毅委員長)が15日に最終案の骨子をまとめまたもので、同委は「社会保障制度改革国民会議(仮称)」の創設を主張しています。衆院一体改革特別委で自民党筆頭理事を務める伊吹文明元幹事長は、党の特命委会合で「(骨子は今後の)社会保障制度改革の基本法になる」と強調、野田氏とともに関連法案の修正協議に重点を置いています。

修正派と増税慎重派で党内に溝
 これは、民主党がこだわる最低保障年金創設は「国民会議での議論に回し、撤回要求への同党の回答は先送りしてもいい」と、社会保障改革「棚上げ論」の含みをもたせたもの。わが派の古賀誠会長(元幹事長)も同じ考えです。茂木敏充政調会長は23日の一体改革特別委で、「最低保障年金は国民会議で討議する」よう正式提案。首相は国民会議設置に賛意を示し「(会議で)合意形成を見出したい」と答えました。石原伸晃幹事長は14日、衆院議員のパーティで、「社会保障で私たちの案を丸呑みしてくれれば、新しい政治が進むと思う」と述べ、話し合い解散への期待感をにじませました。しかし、菅義偉元総務相ら消費増税慎重派13人は15日、「消費増税を考える会」を結成、初会合では、「増税に協力すれば、衆院解散を先送りされるのではないか」と党の対案提示に難色が示し、谷垣氏周辺からさえも「国民会議構想は"与党呆け“。過剰な協力だ」との声が起きました。このように、総裁任期切れ前に何が何でも解散に追い込もうと焦る谷垣総裁、大島理森副総裁ら執行部と増税慎重派の間には溝が生じており、これが「ポスト谷垣」の動きにも連動しています。

「0増5減」案を自民単独提出へ
 衆院選挙制度改革は、23日の与野党幹事長・書記局長会談で、民主党の樽床伸二幹事長代行が示した各党協議会の樽床座長私案の@1票の格差是正の「0増5減」A衆院定数の80削減(小選挙区5、比例選75)B抜本改革(比例105議席の3分の1に当たる35議席を中小政党に有利な小選挙区比例代表連用制で配分)――の3点を同時決着する案を再度提示。自民党は最高裁判決で「違憲状態」とされた1票の格差是正のため、小選挙区を5県で1ずつ減らす「0増5減」法案の先行・分離提案を主張したのに対し、公明党などは抜本的な改革を同時決着するよう主張し、物別れに終わりました。ただし、会期末までに決着を目指すことでは一致、輿石民主党幹事長が再会談を呼びかけましたが、自民党は問責決議を受けた2閣僚の交代が先決だと反発、「0増5減」法案を先行して成立するよう強く求め、場合によっては単独でも格差解消関連法案を提出する構えを示しています。

選挙・原子力など自公案丸呑み
 「野田首相は見習ってほしい。小渕元首相が日本の再生に踏み切ったように、野党案を"丸呑み"するリーダーシップを期待したい」――。小渕氏の側近だった額賀福志郎元財務相は小渕氏の13回忌に当たる14日、次女の小渕優子元少子化特命相のパーティで挨拶。元首相が98年に民主党など当時の野党の法案を丸呑みして金融危機を乗り切った経緯に触れ、消費増税法案での譲歩を促しました。野田首相は既に郵政改革法案では公明党案を丸呑みして成立。選挙制度でも「0増5減」の自民党案を丸呑み、原子力規制庁の創設でも、自公両党が提出した原子力規制関連法案を受け入れ、大幅修正する方針を固めています。これは、自公案に示された国家行政組織法3条に基づく独立性が高い「3条委員会」である「原子力規制委員会」を創設、環境省の「原子力規制庁」はその下部組織として実務を担うもので、環境相の指示を受けず、自主的に政策を決められます。民主党は政府提出法案成立のメドが立たないため、自公案をほぼ丸呑みして受け入れました。野田首相は増税法案の障害になる後期高齢者医療制度の存続などでも譲歩して修正を重ね、成立を急いでいます。しかし、菅前首相が退陣に追い込まれた特例公債法案は審議入りが出来ないまま。同法案は44兆円国債発行の根拠となる法案で、成立が遅れると予算執行が出来なくなります。その中で、増税反対の小沢グループを支援する鳩山元首相は首相の足を引っ張っています。

石原知事、小沢氏との連携否定
 「男は恥を知るものだ。のうのうと沖縄に来て、県民に泥をかけるのか」――自民党の野中広務元官房長官は15日、沖縄復帰40年記念式展会場で鳩山氏を見かけ、直接苦言を呈しました。鳩山氏は09年の衆院選前に「最低でも県外」と訴え、県民の辺野古移設反対論に火をつけ、日米関係の悪化を招いた張本人。今回も宜野湾市内で講演し、迷惑かけたと詫びながらも「『最低でも県外』という気持ちを果たさなければ皆さんの気持ちを十分理解したとは言えない」と述べ、16日の「よみうり寸評」に「ご本人は無頓着、相変らずの宇宙人ぶりだ」と批判されました。日本が欧米諸国と協議し、イランに制裁圧力を強めていた矢先の4月初旬にも鳩山氏は勝手にイランを訪問して2元外交を展開、顰蹙を買っています。鳩山氏は小沢グループと連携して増税に反対、「野田降ろし」に傾斜していますが、小沢元代表の無罪判決に検察官役の指定弁護士が控訴したことで、小沢氏の復権への気炎は勢いが失せ、増税法案の採決で「造反」できるかどうか、最大百人軍団の結束にも翳りが生じています。それでも小沢氏は14日、名古屋市での大村秀章愛知県知事のパーティで、「日本の国家統治の仕組みを根本から変えていかねばならない」と述べ、大村氏や橋下徹大阪市長らが国と地方のあり方を見直すことを目指して第3極の新党結成を目論んでいることを踏まえ、大村氏に連携を呼びかけました。これには石原慎太郎都知事がすかさず民放番組で、「小沢と手を組むなんて死んでもいやだな」と小沢氏との連携を否定、19日の会見では地域政党・大阪維新の会と連携し6月にも政治塾を設立する意向を表明しました。

 党内融和で時稼ぐ輿石「風林火山」
 小沢グループに配慮し、党内の分裂回避を最優先する輿石幹事長は「首相の専権事項に触れたわけではない」と弁明しながらも、「来年夏の衆参同時選挙」のアドバルーンを揚げ、2問責閣僚の辞任にも反対しました。山梨県出身らしく、風林火山の「動かざること山の如し」でじっと時を稼ぎ、機を見ては「疾きこと風の如く」動こうとするものです。内紛回避のために自ら行司役になって首相と小沢氏の「直談判」を開こうと動き、首相も同調して三者会談のセットを指示。自民党が「民主党内の『与野党党首会談』だ」(大島副総裁)と揶揄した三者会談は30日に開かれました。首相は消費増税反対の小沢氏を説得して党内融和を目指すか、分裂覚悟で自民党と協力して今国会で成立を図るか――の大勝負を意識してか、記者会見では、「誠心誠意、乾坤一擲、一期一会」と重大な決意を示しましたが、三者会談は平行線を辿り、近く再会談が想定されます。一方、野田首相は5月連休中に谷垣総裁との会談を模索していたことが16日に判明。谷垣氏は同日のBS番組で「2閣僚の更迭要求に首相が応じない限り、連休中に談合(会談)なんて出来ない」と会談要請を否定しましたが、関係者によると藤村修官房長官が大島副総裁に会談を打診したとされます。首相と総裁の極秘会談は2月にも行われており、輿石氏は再会談の打診について、「話し合い解散でもするのか。できるわけがない。党内が持たなくなるぞ」と不快感を示しました。

内閣不信任案準備し政局風雲急
 谷垣氏も苛立ちを隠さず、17日の記者会見で、政府与党が消費増税関連法案の採決を先送りし、継続審議にした場合について、「(首相は)政治生命を懸けると言明した。出来なければどうするか考えなければならない」と述べ、会期末に内閣不信任案(衆院)や首相問責決議案(参院)を提出する準備を進めている考えを明らかにしました。同法案採決で小沢グループが造反すれば確実に解散が実現します。政局は風雲急を告げてきました。