第276回(5月16日)3すくみの政権攻防 梅雨空の政局
 消費増税関連法案は17日から衆院特別委で、税、年金、子育て――の3テーマに別れ、実質審議に入ります。野田政権は野党との協議を重視し、6月21日の会期末までに同法案を成立させる方針ですが、残りは40日足らず。自民党は消費増税と社会保障分野の2つの対案を提示、大幅修正を迫っています。民主党内では、陸山会事件の無罪判決で復権した小沢一郎代表のグループが反旗を翻して増税に猛反対、党幹部の多くは結束を維持するため継続審議も止むを得ないと考えています。連休前半の日米首脳会談で「日米同盟はアジアの礎」と謳い上げ日米関係の修復を喜んだ首相でしたが、内政では向背に敵を受け、進退窮まっています。「小沢切り」を求め、首相を衆院解散に追い込み、総選挙で勝利し総裁再選を目指す谷垣禎一総裁。話し合い解散に応じてでも、増税法を成立させ最も有利な時期に解散し、政権維持を図る首相。9月には民主党の代表選、自民党の総裁選が控えています。両党内部でも「ポスト野田」「ポスト谷垣」を画策する動きが目立ってきました。日本は5日以降、全原発が停止し「節電の夏」を迎えるため、国民の不安と不満が増大、内閣支持率はさらに下降気味。梅雨空の政局ですがご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

増税7法案の実質審議始まる
 8,10,11日の3日間、連休明け衆院本会議で7法案の趣旨説明と質疑を終えた消費増税関連法案は、16日から衆院社会保障・税一体改革特別委員会で実質審議に入ります。民主党の城島光力国対委員長は4月末、「毎日7時間コースでやることを前提にすれば、(会期末の6月)21日までに参院も(野党要求の)100時間に達する」と述べ、7法案を税、年金、子育ての3テーマに分け、連日審議する考えを示しました。特別委で審議するのは、5%から段階的に8%、10%へ税率を引き上げる消費増税法案や被用者年金一元化法案、総合こども園創設を柱とする子育て関連法案など計7法案。答弁に立つのは岡田克也副総理、川端達夫総務相、安住淳財務層、小宮山洋子厚生労働相の4人です。17から3日間は首相出席のもとでテーマにこだわらず審議しますが、その後は1テーマごとに絞って審議する方針で、常任委員会との並行審議や閣僚・副大臣の出席などを巡って野党に協力を求めています。これは自民党政権当時の1999年、中央省庁改革関連法案と地方分権一括法案を審議した行政改革特別委で、国民に分かりやすい議論ができるよう、「地方分権」と「中央省庁」の2つのテーマに分けて審議した方式を見習ったものです。

難題の踏み絵で政権揺さぶる
 これに先立ち自公両党は「特別委で扱う法案が多すぎる」として、当初出された11法案から年金交付国債を発行する「国民年金法改正案」は厚生労働委へ、「共通番号制度関連法案(マイナンバー法案)」の3本は内閣委で分散審議するよう求め、民主党も応じました。自民党はさらに、一度に10%に税率をアップする消費増税法案と、社会保障分野では「自助」「自立」を基本に、現行年金制度の維持、後期高齢者医療制度の存続、受給者の就労促進を中心に生活保護の抜本改革、家族支援が基本の少子化対策――などを強く打ち出した「社会保障基本法案」を提示、民主党の月額7万円最低保障年金制度の撤回を求めました。社会保障の対案を示したことに自民党内では「救命ボートを出してはいけない」(山本一太前参院政審会長)との反対論も出ていますが、執行部は消費増税への協力に歩み寄る姿勢を示し、提案の難題を「踏み絵」に野田政権を揺さぶったものです。これには小沢グループが「撤回したらマニフェスト(公約)が総崩れになる」と猛反発していますが、同制度の創設には莫大な財源が必要なため民主党内でも「現実的ではない。正直に撤回すべきだ」との声が起きており、首相は最終的な修正協議で同制度の撤回を決断すると見られます。 

日米修復に高揚し小沢氏けん制
 「党の方針通り、何の迷いもなく進むべきだ」「何人たりとも党員ならば(党の)方針に従ってほしい」――。首相は先月末、ワシントンでの記者会見で、無罪判決で復権を図る小沢元代表が消費増税法案の採決で造反する場合は、党規約に基づく厳正処分など断固たる措置を取る決意を表明しました。3年2ヶ月ぶりの公式な日米首脳会談は普天間飛行場の移設問題には触れず、環太平洋連携協定(TPP)への日本の参加表明も見送られ、単に日米同盟を「アジア太平洋地域における平和、安全保障、安定の礎」と位置づけ、同盟強化を確認するだけに終わりました。だが、共同記者会見で首相は、オバマ大統領を、相手守備に切り込んで得点を稼ぐバスケットの「パワーフォワード」と持ち上げ、大統領も「首相は柔道の専門家・黒帯だ。君たちが不適切な質問をしたら守ってくれるんだ」と“お返し”の発言。首相は、鳩山元政権以来ギクシャクしていた日米関係の修復を喜び、高揚したのか、改めて増税法案へ不退転の決意を表明し、小沢氏の動きをけん制したものです。

前門の虎・後門の狼に“断固”発言
小沢氏は判決前後から活発に身内の会合を開き、判決後はインターネット番組で「政権交代の原点、初心に帰らねばならない」と消費増税や、TPP、原発再稼動を巡る野田政権の政策はマニフェスト違反であると厳しく批判。側近の山岡賢次前消費者相の会合では「天命だとすれば、私はどんな役割でもする」と強調、9月の党代表選への自らの出馬を含め、政権奪取の意欲を表明しました。小沢氏が会長を務める「新しい政策研究会」は8つのテーマごとに勉強会を設け、6月下旬にまとめることにしています。一連の勉強会は@原子力エネルギーA国の統治B安全保障C立法府のあり方D社会保障E税制F雇用対策G景気対策――の8テーマ。大阪維新の会が坂本龍馬を真似て打ち出した「船中八策」にあやかり、代表選の公約作りに入ったものです。しかし、輿石幹事長が8日、「小沢氏の党員資格を10日から回復」すると発表した直後、検察官役の指定弁護士が9日、東京地裁の無罪判決を不服として控訴、裁判は振りだしへ。小沢氏の代表選出馬と増税法案採決時の造反は難しくなりました。自公両党は小沢氏を証人喚問し政治的・道義的責任を追及、消費増税法案の審議はさらに遅れています。「前門の虎(野党),後門の狼(小沢)」と向背に敵を受け、小沢グループにばっさり斬りつけられた首相は、谷垣氏が求める「小沢切り」に繋がる “断固処分”を米国で明言、野党の協力を得るため前田武志国交相と田中直紀防衛相の「更迭もやむなし」に傾き、法案の修正協議にも前向きな姿勢を示しています。

自由と民主接近に焦る公明党
ところが、公明党は自由、民主両党の接近に焦りを感じているようです。来年の衆参同時選と都議選の「トリプル選挙」を最も警戒する同党は「消費増税法案反対で総選挙に臨む方が有利」と判断、「早々に増税法案を否決し今夏に衆院解散」を基本戦略としてきました。しかし、自民党が解散の確約と引き換えに法案に賛成する「話し合い解散」に傾斜したり、民主党執行部が党分裂を避けるため、採決を大幅に引き延ばすか、秋の臨時国会に継続審議として先送りする動きが出てきたため、解散戦略の建て直しを迫られています。山口那津男代表は4月末のラジオ番組で、消費増税法案成立後に解散の確約を条件に自民党が法案賛成に回る可能性について、「両党が合意するにも公明党抜きに進めることは現実的に難しい。何らかの相談が(自民党から)あるはずだ」と自民党をけん制しました。大阪維新の会など地域政党が躍進気味の総選挙で自公両党の選挙協力は欠かせないからです。

「ポスト谷垣」の胎動が活発化
 フランス大統領選は6日の決戦投票で、サルコジ大統領が最大野党・社会党のフランソワ・オランド前第1書記に破れて退陣。11月6日の投票まで半年に迫った米大統領選はオバマ大統領が共和党のロムニー候補に追い上げられて互角の戦い。プーチン露首相は7日に大統領に就任し最高指導者に復帰。世界の指導者は交代期に入りました。日本は野田首相、谷垣総裁、小沢元代表が9月に向けて3すくみとなって政権争奪戦を展開していますが、自民党内では「ポスト谷垣」の動きが水面下で胎動しています。石原伸晃幹事長は昨年12月に訪米した際、「谷垣氏の不出馬」を前提に総裁選出馬の意欲を公言、岸田文雄国対委員長ら中堅10人の会合「十人会」を近く「勁草会」の勉強会に衣替えします。額賀派を離脱し谷垣執行部を批判する石破茂前政調会長は昨年12月、派閥横断の勉強会「さわらび会」を結成、常時約20人が出席しています。最大派閥町村派の町村信孝元官房長官も総裁選への意欲は十分で、4月末の「清和政策研」の懇親会には支持者約3千人を集めました。草刈場にならないよう、弱小派閥の麻生派(12人)、高村派(7人)も合併を前提に今月末、定期的な勉強会の初会合を開きます。「何も決められない政治」と国民はシラケ気味ですが、国民の信頼を取り戻すためにも、一刻も早く次の強い政権基盤を固めなければなりません。