第275回(5月1日)増税審議入りは連休後 解散風渦巻く
  野田首相が政治生命を懸ける消費増税法案が国会に提出されてから1ヶ月余。衆議院に特別委が設置され、関連法案は最多の11本も上程されましたが、審議入りは連休後に持ち越されました。野党は4月20日、前田武志国土交通相、田中直紀防衛相の問責決議を参院本会議で可決。自民党は両相が辞任しない限り実質的な審議を拒否しています。政治資金規正法違反に問われた同26日の判決で小沢一郎元民主党代表の無罪が確定、小沢グループは反転攻勢を強めています。会期末まで残り50日。首相は盛んに野党に協力を呼びかけていますが、自民党は消費増税の協力条件として社会保障基本法案(仮称)を「踏み絵」として提出。内閣の命運を掛けた正念場で首相は「重大な決意」を表明しました。だが対決姿勢のまま解散・総選挙を断行するのか、「話し合い解散」に応ずるのか。与野党は駆け引きの中で「我慢比べ」を続けています。加えて石原慎太郎都知事が米国で尖閣諸島の一部を都が買い取る意向を表明したこと、北朝鮮が人工衛星と称する弾道ミサイル発射実験が失敗し、逆に第3回核実験が加速してきたなど近隣諸国の緊張が高まっています。青嵐とともに解散風も渦巻いています。さらなるご支援、ご叱正をお願い申し上げます。

両相問責決議で自民審議拒否
 自民、みんなの党、新党改革3党が提出した、前田国交相と田中防衛相に対する両問責決議案は、20日の参院本会議で、公明、共産、社民各党なども賛成し可決されました。前田氏については岐阜県下呂市長選で特定の立候補予定者への支援を要請する文書に署名し、国交省の公用封筒で下呂市の建設業協会と温泉旅館協同祖合の理事長に郵送したことが、公職選挙法129条などの「事前運動の禁止」と「公務員の地位を利用した選挙運動の禁止」に抵触すると断じ、「いまだその地位に恋々としている」と批判しました。田中氏は北朝鮮の弾道ミサイル発射への対応や情報伝達の混乱、予算委などの審議で秘書官のサポートなしにはまともに答えられない国会答弁の迷走を問題とし、「防衛相が素人であることは許されない」としています。問責可決は昨年12月に当時の一川保夫防衛相、山岡賢次消費者相以来で09年に民主党が政権取得後計6人です。本来は会期末に提出の問責決議が会期半ばに出されたのは初めて。18日の参院予算委で任命責任を問われた首相は「職責を果たしている」と擁護、両相の更迭を否定しました。自民党は更迭しない限り原則、国会で全面審議を拒否すると主張、公明党は両相が出席する委員会だけ審議拒否する態度を表明しました。民主党は幹部の協議で「自民党の全面審議拒否には世論がついてこない」と分析、全面審議拒否の場合は、「国会議員の責任放棄」と世論に訴えていく構えを示しました。だが、自民党との対立が深まれば、消費増税の与野党協議がさらに遠のくため、首相は小沢判決後の党内情勢を睨んで、連休明けにも2閣僚交代に踏み切ると見られます。

衆院特別委で最多11本処理へ
 自民党が全面審議拒否を続ける中、政府与党は26日、社会保障・税一体改革法案(消費増税法案)を審議する衆院特別委員会の設置を衆院本会議で議決。27日の本会議で趣旨説明を行う強硬姿勢を示しましたが、自公両党が特別委で審議する法案の整理が先だと主張、連休前の審議入りは見送られました。委員長に起用された中野寛成元国家公安委員長(71)は当選11回で中間派の旧民社党系グループ。一体改革では民主党税制調査会長代行として党内議論をまとめた社会保障分野のエキスパートです。特別委の審議法案は@消費税率を14年4月に8%、15年10月に10%へ引き上げる消費税率引き上げ関連法案(2本)A基礎年金国庫負担の財源不足を穴埋めするため年金交付国債を発行する国民年金法改正案B低年金対策を柱とする年金制度改革法案C共済年金を厚生年金に統合する被用者年金一元化法案D幼稚園と保育所機能を一体化する総合こども園創設が柱の子育て関連法案(3本)E社会保障サービスや徴税を適切に行うための国民一人ひとりに番号を割り振る共通番号制度関連法案(マイナンバー法案3本)――の計11本と最多です。

問責のあおりで重要4法案停滞
 特別委は定例日がある常任委員会と異なり、毎日でも開け、迅速に審議できるメリットがあります。民主党の城島光力国対委員長は「消費税は社会保障と一体で議論を深めることが必要」と述べましたが、多様な分野の11本もの法案を一括審議するのは前代未聞。自民党は徹底審議を求め、公明党は社会保障分野の法案を優先して審議すべきだと主張しました。自公両党が多すぎると指摘したため、交付国債発行の国民年金法改正案とマイナンバー3法案の計4法案は別の委員会で扱うことになり、残り7法案のうち年金関連2法案は8日、子育て関連3法案は10日、税関連2法案は11日に衆院本会議で趣旨説明する予定です。法案を所管する閣僚は岡田克也副総理はじめわずか5人。5閣僚が特別委に連日出席すれば他の委員会審議に影響が出るため、民主党は法案ごとに審議する曜日を決めて閣僚の負担軽減を図ろうとしています。問責決議のあおりで原子力規制関連、衆院「1票の格差」是正と議員定数削減など重要法案の審議はめどが立たず。自公民3党合意の郵政改正法案は議員立法の別扱いで27日に成立、議員歳費削減法案も同日成立しました。

規制庁設置遅れ原子力行政混乱
原子力規制関連法案は、政府が新設の「原子力規制庁」について、「原子力規制委員会」の事務局的な実施機関と位置付けているのに対し、自公両党が20日に共同提出した法案は、原子力の安全規制を担う組織として、国家行政組織法3条に基づく独立性の高い原子力規制委を環境省の外局として設置することが柱。自民党は両相更迭を先行させるとして3党の修正協議に応じていません。政府が4月1日に設置を目指した規制庁は3党の修正協議が遅れ、さらに設置がずれ込めば、福井県の関西電力大飯原発3,4号機に続く別の原発の再稼動に向けた安全性評価に支障が出ると予想されます。福島原発1〜4号機の廃炉が決まり、54機あった原子炉は50機に減少。現に国内では唯一稼働中の北海道電力泊原発は3号機が5日に定期検査入りし、6日から国内で稼動する原発はゼロになります。原発ゼロなら、電力需要が増える夏には計画停電で、家庭はもとより東日本大震災から回復途上にあるサプライイチエーン(供給)の中小企業にとって大打撃、産業空洞化が進みます。

与野党我慢比べに世論配慮の声
 選挙制度改革でも支障が出ています。民主党の樽床伸二幹事長代行(衆院選挙制度各党協議会座長)は、首相の強い指示を受け、衆院の「1票の格差」是正では、5県で小選挙区を1つずつ減らすとした自民党の「0増5減」案を丸呑し、比例定数は80削減の民主党方針を堅持し、小選挙区5減分を差し引いて比例定数を75削減した上で、残り105議席のうち35議席(全体の3分の1)を少数政党が望む比例代表連用制とする座長私案を25日に提示しました。しかし、2閣僚更迭問題で3党協議が遅れたうえ、自民党が一部連用制に疑問を呈し「0増5減」案先行論を主張したのに対し、公明党が先行処理案に反対し、比例定数80削減も撤回を求め、消費増税の前提となる「身を切る改革」は視界ゼロです。それでも政府民主党は、参院の問責決議には法的拘束力がなく自公の審議拒否戦術に批判があるため「こういう手法で閣僚の首を取りに来るのはいかがなものか」(輿石東幹事長)と、2閣僚を守り、強気で突っ走る構え。「問責決議――審議拒否」は民主党が野党時代に取ってきた常套手段。自民党は当時、「審議拒否は国会議員の職場放棄」と批判してきましたが、今は政府与党がこの言葉を逆用して世論の批判が野党に回るのを期待しています。こうした与野党の「我慢比べ」が続く中、自民党内では古賀誠元幹事長や小泉進次郎青年局長らが審議拒否に疑問を唱え、民主党も藤井裕久元財務相が「日本の将来のためにもトゲを抜くべきだ」と民放番組で首相に2閣僚の交代を促すなど、世論に配慮する動きが出ています。

石原新党創設向け保守派総結集
 「尖閣諸島は日本固有の領土で沖縄返還時に帰ってきた。(中国が)俺たちのものだと言い出した。とんでもない話だ。東京が尖閣諸島を守る。何処の国が嫌がろうと、日本人が日本の国土を守るため島を取得するのに文句がありますか」――石原都知事は4月16日、米ワシントンで講演し、中国や台湾が領有権を主張する尖閣諸島の一部を都が買い上げる意向を表明。既に島を所有する埼玉県の男性の同意を得ており、今年中に取得を目指す考えを示しました。これに対し、中国外務省の劉為民報道局参事官は17日、尖閣諸島の領有権を改めて主張した上、「日本が釣魚島(中国名)とその付属する島々に採るいかなる一方的な措置も違法、無効である」とする談話を発表。台湾外交部スポークスマンも、「一方的な行動で台日友好関係が損なわれることは望まない」と不快感を表明しました。もともと石原氏は中国を「支那」と呼び、共産党を嫌う。自民党代議士時代は青嵐会の幹事長役を務め、尖閣諸島に上陸を計画した「行動過激派」。それを承知で中国、台湾も、やみくもに抗議する姿勢は見せていません。石原氏の発言には弱腰の民主党政権にハッパをかける狙いがありました。石原氏は亀井静香氏が旗を振る新党構想に、「俺の知らないことが出過ぎる。白紙だ」と訪米前には否定的でしたが、米国の講演で保守回帰のメッセージをぶち上げることで、「石原新党」創設に向けて、保守派総結集を呼びかけたものと見られます。

中国けん制の尖閣買い取り構想
 尖閣諸島は沖縄本島の西約410キロにある5島の総称で、埼玉県の男性はこの内の魚釣島、北小島、南小島を保有。02年4月から年度ごとに総務省と賃貸契約を結び、管理を国に任せてきました。諸島にはかつて鰹節製造工場があり最盛期は約250人が居住していましたが、1940年頃に無人島化し、政府は「我が国固有の領土で、歴史的にも、国際法上も疑いがなく、現に有効支配している」との立場を取っています。しかし、海底資源が豊富にあることが分かったことから40年前の日中正常化の頃に中国、台湾が領有権を主張し始めました。同海域は有力な漁場でもあり、2010年には中国漁船による海上保安庁の巡視船への衝突事件が起き、最近でも中国の海洋局巡視船や漁船が日本領海を頻繁に侵犯しています。石原知事は衝突事件の際に、船長を処分保留で釈放し、中国へ送還した菅政権の対応に、「よほどのことをしないと尖閣諸島は守りきれない」と強い不満を漏らしていました。今回の衝撃的な発言は、支配海域を広げようとする中国をけん制、同時に竹島(島根)も含め国境政策に弱腰の民主党政権に猛省を促すため、あえてワシントン出張に合わせて知日派に訴える発言をしたものです。これには、藤村修官房長官が同日夕の記者会見で、尖閣諸島の国有化を検討すると言及せざるを得ない事態に発展しました。

小沢氏復権で厳しい政権運営
一方、仏大統領選はサルコジ大統領が6日の決選投票に追い込まれ、政権交代が濃厚になってきました。小沢氏は26日の「陸山会の虚偽記入事件」で、「故意、共謀があったとは認定できない」との無罪判決を受け、連休明けにも党員資格停止処分が解除される見通しです。野党は証人喚問を求め、小沢氏の政治的・道義的責任、説明責任を徹底的に追及しますが、小沢氏は増税法案反対の姿勢をさらに強め、9月の代表選に自ら出馬することも含め野田政権を揺さぶる構えです。首相は解散を意味する「重大な決意」を表明しましたが、小沢氏復権の影響は大きく、フランス以上に首相は厳しい政権運営を迫られています。