北村からのメッセージ

 第27回(10月1日) *構造改革特集 波乱の雇用国会開幕

 波乱含みの臨時国会が9月27日に開幕しました。世界を震撼させた米国の同時多発テロ、17年ぶりの日経平均株価の1万円大台割れ、大手スーパーの倒産、過去最悪の完全失業率5%、それに狂牛病疑惑まで発覚しました。僅か1ヶ月の間に今年の10大ニュースが続発、政権政党が解決する課題は山積しています。いずれもグローバル社会がもたらした政治の課題といえましょう。雇用不安のセーフティネット(安全網)確立、効果的な景気浮揚策、米軍の後方支援などテロ対応措置、安全食品の供給――。これを72日間の短期国会で即断即決し、どう国民の期待に応えるか。政治家に課せられた使命は重大です。

 危機管理国会

 「雇用対策国会」と当初名付けた今国会は、国民の生活防衛だけでなく、国民の生命・財産の根幹に関わる安保・外交を含めた幅広い「危機管理国会」の様相を深めてきました。私は衆院厚生労働、農水委員会に所属する立場から、雇用対策、高齢者医療、狂牛病対策などの国会審議には全力投球しますが、自民党団体総局の地方自治、消費者団体副委員長として、構造改革が地方自治の切り捨てやデフレ加速とならないよう、来年度予算編成では入念なチェックをしたいと考えています。もちろん、基地を抱える佐世保出身の代議士として、米軍後方支援の在り方について外交部会などを通じ積極発言をするつもりです。

 構造改革とは何か

 それはともかく、最近、選挙区の支持者から「同時多発テロで国際社会が激変しているのに、構造改革をやる余裕があるのか」「供給サイドの改革より需要拡大の景気浮揚を優先させるべきだ」「小泉改革の中身がさっぱり分からない」「そもそも構造改革とは一体何か」――など数々の疑問が出されます。このHPではこれまで特殊法人の改革や、国民の痛みである雇用問題など、小泉改革の各論部分を先行して随所に取り上げてきました。しかし、皆様のご指摘通り、改革の必然性についてはあまり述べていません。そこで今回は、予算編成の骨格となる構造改革の本論について皆様とともにおさらいしたいと思います。

 競争社会を構築

 小泉改革は一口でいうと、スリムで効率的な行政の“小さな政府”実現と、規制緩和を推進して民間企業の“競争力”を高め、国際社会に立ち向かうものです。そのため、首相は「構造改革なくして景気回復なし」と聖域なき構造改革を唱え、「民間に出来ることは民間に」と官業や特殊法人の廃止・民営化で“競争社会”を構築、真っ先に経済再生の癌である不良債権を処理し、来年度予算で行政経費を1割削減するなど外科手術を施そうとしています。確かに皆さんご指摘のように、株価1万円割れに多発テロが加わり、日本経済の先行き不安が募るばかりで、改革と景気の“2兎”を追う困難さは目に見えています。

 ナローパス

 しかし、冷戦の終結で一挙に拡大した人、物、カネのグローバリゼーションに日本経済は立ち後れ、産業の空洞化が進み企業活動は停滞、バブルの後始末に追われて動脈硬化の不良債権が山をなし、日本経済は息絶え絶えの状況。これには制度疲労を起こした諸制度の改革が緊急課題です。手術は強烈な痛みを伴いますが、参院選で掲げた小泉改革の公約が国民の信を得た以上、2兎追うことがナローパス(狭い道)であっても、実現しなければなりません。しからば、なぜ今構造改革が必要のか。その背景から入りたいと思います。

 産業の空洞化

 [背景]戦後崩壊した日本経済は日米安保条約の「核の傘」のもと、朝鮮戦争特需で息を吹き返し、60年安保改定を機に池田内閣の高度成長路線をばく進、世界の「加工列島」化とベトナム戦争特需もあって、米国、西独と並ぶ“スリーエンジン”、“ジャパン・アズ・ナンバーワン”ともてはやされるほどの経済大国に成長した。その後の石油危機などもうまく乗り切ったが、民需喚起の中曽根政権民活路線に便乗した企業は、無謀な設備投資や不動産投機を続け、バブル経済に浮かれた。労働者の給与水準が世界一に上昇したため、企業は近隣アジア諸国の低賃金を求め、海外進出を図るなど産業の空洞化が進んだ。

 景気に130兆円投入

 しかし、80年代後半の冷戦終結後、世界は自由経済を拡大、市場の国際化と平準化を加速した。旧来の官僚機構はこの変化に対応できず、日本経済は著しく世界の流れに立ち後れた。飽和点に達したバブル経済は一瞬に弾け「土地神話」が崩壊、旧大蔵省主導による護送船団方式の銀行は、これまた金融ビッグバンの直撃を食らい、北海道拓殖銀を皮切りに長銀などの大手までが経営破綻し「銀行神話」も消え去った。歴代内閣はバブル崩壊の後始末に追われ、公共事業中心の景気対策を重点に、92年の宮沢内閣から00年の森内閣まで10回の景気刺激策を打ち出し、その規模は合計で130兆円を超えている。

666兆円の借金
この結果、国債、地方債の発行など国・地方自治体の抱える借金は、国内総生産(GDP)を超える666兆円の巨額に達している。この膨大な借金は、次世代を担う若年層の双肩に重くのし掛かる。また、少子高齢化社会を生き延びる老年層にも福祉面で大きな生活不安を与え、国民各層が将来の生活防衛に備え財布を堅く締めるなど、消費不況のデフレを一層拡大した。これが国民の閉塞感を高め、政治、経済に対する不信を強めた。

 米はIT化で景気回復

 日本が長期の景気低迷に苦しむ中、レーガン時代まで景気後退(リセッション)を続けた米国は、冷戦時代に開発したNASAの優れた遺産であるIT(情報技術)を武器に、金融システムの国際化と情報サービス産業を活性化させて景気を回復、世界のマネーが自国に集中する構造を作り上げた。IT化は瞬時に金融情報が世界を駆けめぐることで、数年前には米国のヘッジファンドが暗躍、タイのバーツが暴落するなど、アジアは経済危機に陥った。その米国のITバブルも今や崩壊、米景気が下降線をたどる中で同時多発テロが米経済を直撃、世界の同時株安、同時不況、さらには世界恐慌が心配されている。

 「加工大陸」目指す中国
一方、開放経済に向かった中国は企業誘致を促進、日本の20分の1という低賃金と高い技術水準を生かし、かつての日本のように世界の「加工大陸」を目指し、生産と輸出増加で年率7%以上の高度成長を遂げている。これを助けているのが中国の安い労働力と1次産品を目当てに進出した日本企業群だ。バブル崩壊後の94―95年は自動車、家電、繊維などのメーカーが中国進出のブームを作り、産業の空洞化が一層進んだ。進出企業は製品の加工、逆輸入だけでなく、ユニクロのように徹底した低コストの現地生産で低価格、良質の繊維製品を産出し、日本の店舗で直販、ヤングの心をとらえた企業もある。

 国際競争力の沈下

 また、日本の商社が開発輸入することで、ネギ、生椎茸、い草の価格が暴落、日本は中国に対し農産物のセーフガードを発動した。農業に限らず、テレビは台湾産が日本の市場で増えているように、韓国、台湾など近隣諸国の半導体技術の向上は目を見張るばかりだ。あらゆる産業分野で日本は国際競争力の地盤が沈下している。かつて日本は高度成長期に繊維、自動車などで日米経済摩擦を生じ日米関係がぎくしゃくした。今は時代が変わり、資源小国ながら「加工列島」「世界工場」を誇った日本は、近隣諸国にその場を奪われた。

 消滅資産は1300兆円

 日本経済の「輸出」、「鉱工業生産」、「民間企業設備」のいずれを取っても落ち込みはひどく、4−6月期のGDPは年率換算で3・2%の減少で、今年のマイナス成長は確実だ。株価の1万円台割れはこうした景況への警鐘である。バブル絶頂期の4分の1に下落した地価と株価の暴落は、双方で1300兆円の資産を消滅させた。この資産デフレは担保価値を急速に失わせて破綻先債権、破綻懸念先債権、要注意債権など総額で150兆円もの不良債権を生み出した。金融危機を乗り越えて、日本にも4大メガバンクが誕生したが、債権処理に追われる銀行は企業への“貸し渋り”を続け、低利でも安全な国債に資金をシフトするなど本来の金融機能を消失、9月期決算でも赤字倒産におののいている。

 血液ガンの大手術を

 日銀がゼロ金利を継続、数次にわたる金融緩和を繰り出しても、マネーは銀行止まりで市場や企業には行き渡らず、企業の設備投資は冷え切ったままだ。大手建設会社の株に額面割れが目立つように、破綻先不良債権は建設、不動産、スーパーなどに集中している。大手スーパー界は消費不況の影響でダイエーが倒産したのに次いで、2ランク上の要注意債権であるはずのスーパー・マイカルまでが倒産した。経済の動脈である金融システムが不良債権という白血病(癌)に冒されていては日本経済の再生はない。放置すれば優良債権も一気に不良債権化する。日本経済を回復軌道に乗せるには躊躇なく構造改革を断行する以外にない。国内製造業、サービス業の生産性を高め、国際競争力を回復、日本経済の「失われた10年」を取り戻すには、“痛み”を覚悟しても旧来の制度・慣行、予算、税制の全般にわたり構造改革を断行しなければならない。

 改革先行プログラム

 [改革の手順]行政改革では既に今年1月、内閣の機能強化を中心に省庁の半減を実現した。いよいよ小泉首相が国際公約した構造改革の断行である。政府の経済財政諮問会議(議長・小泉首相)は9月21日、構造改革の手順を示す「改革先行プログラム」(工程表)を発表した。@新産業や雇用を生み出すための制度改革A雇用・中小企業に対するセーフネットの充実B構造改革を加速するための緊急施策――の3本柱で、真っ先に不良債権処理を取り上げた。整理回収機構(RCC)の機能を強化し3年後に不良債権を正常化する。

 企業再生基金も創設

 RCC機能強化では、株価や格付けなどが悪化した企業について主要銀行の自己査定が適正かどうか、資産査定の厳しい特別検査を実施、早めに引き当てを促すとともに、03年度末までに不良債権の買い取りを集中的に実施するため、RCCが銀行から不良債権を買い取る際の価格を引き上げる。これとは別にRCCや日本政策投資銀行、民間投資家などの出資で、企業再生ファンド(基金)を設け、企業再建に積極的に取り組むことにした。

 失業者100万人か
不良債権処理は最低ランクの破綻先債権だけでも11兆7千億円あり、これを最終処理すると、多くのゼネコン、スーパーなどが倒産、60万人の離職者が出ると予想される。これに加えてソニー、富士通などの優良企業が軒並みリストラ策を打ち出し、大手通信・家電メーカーの数社合わせて7万5千人の離職者が見込まれている。7月に完全失業率は最悪の5%に達したが、不良債権処理で100万人の失業者が出るとの見方もある。

 公的部門に臨時職員

 2番目の雇用、中小企業対策では、今後2−3年間の臨時措置として、学校の補助教員、警察支援要員、環境保全のための森林作業員など、公的部門での臨時職員を採用する。失業給付金は、職業訓練を受けている場合は給付期間を延長する制度を拡充するほか、雇用保険に入っていない自営業者が失業した際も、生活資金を貸し付ける制度を次期通常国会でつくる。住宅ローンの返済が困難になった失業者には元金据え置き期間を延長する。また、中小企業が銀行から融資を受ける際、売掛金債権を担保に借用保証を付ける制度を整備する。株価対策では、これまでの貯蓄優遇から投資優遇へ金融の在り方を変更、臨時国会で証券税制を改正するなど証券市場の活性化を図る。

地域再生に新産業創出
3番目の改革加速の緊急施策では、電子政府の実現、学校の情報化推進、保育所待機児童ゼロ作戦の推進、廃棄物処理施設の緊急整備、地域経済再生の新産業創出、都市再生と公的施設整備――など福祉を盛り込んだ政策が目白押し。待機児童ゼロ作戦は、民間活力を活用して公設民営型の保育所を緊急整備、児童受け入れ数を04年度までに15万人増やす方針だ。また、02年3月までに株式会社によるケアハウスの経営を解禁する。

 3方1両損の医療改革

 このほか焦点の特殊法人改革では、先号で紹介した通り、道路4公団、都市基盤整備公団、住宅金融公庫、石油公団の廃止や分割・民営化について早急に結論を出し、年内に閣議決定する。先行工程表にはないが、医療機関、患者、国の3者が“3方1両損”で医療費増を負担する医療保険制度の改革案も概要が示された。こうした特殊法人、医療などの諸改革は次期通常国会マターだが、来年度予算編成に絡めて最終結論が出される。

 国債30兆円枠守れるか

 以上が緊急を要する構造改革の背景と改革先行プログラムの概要ですが、随所に規制緩和(改革)と民営化路線が色濃く打ち出されています。小泉内閣は今年度の税収などを睨み、11月中に補正予算案を今国会に上程しますが、自民党内には景気浮揚策の優先を望む声が強く、税収不足の中で首相が固執する国債発行30兆円の枠を守りきれるかどうかが、大きなポイントです。いずれも短期決戦で処理しなければなりません。

 4K抱え綱渡り政権

 6大改革を掲げ、97年末に財政構造改革法を成立させた橋本内閣は、アジア経済危機、山一証券の破綻など内外の金融不安に直面して軌道を修正、2兆円の特別減税や16兆円余の総合経済対策で切り抜けようとしましたが、参院選に敗れて退陣しました。昭和恐慌時のデフレ経済下で緊縮財政を強行した浜口雄幸首相は凶弾に倒れました。このように構造改革は「言うは易く行うは難し」です。小泉政権が抱える5Kのうち高祖憲治参院議員は国会開幕前に辞職し決着しましたが、構造改革、株対策、狂牛病対策、後方支援の4Kが依然大きな火種であり、まさに今国会は綱渡りの運営となります。私は自民党の国会対策委員として、この難局突破に大いなる貢献をしたいと念じています。どうかご支援ください。