第267回(1月元旦)大変革の出発年 総選挙、政界再編も
 明けましておめでとうございます。昇竜の辰年。年頭に皆様の勝(昇)運を祈念いたします。といっても、未曾有の国難である東日本大震災の復旧がままならず、国際金融不安と円高で産業空洞化が進み、貧富の格差社会が深刻化しています。一方、世界は1月の台湾総統選に始まり、3月のロシア、5月の仏、11月の米国、12月の韓国と大統領選が続き、秋の中国共産党大会で国家主席が交代するなど日本を取り巻く主要国のリーダーが代わる激動の年。自民党にとっては政権奪還の年です。野田政権は「社会保障と税の一体改革」で消費増税を国際公約し、不退転の決意で臨んでいますが、復興税制に続く増税ラッシュと社会保障政策の改悪に国民の共感が得られず、加えて民主党内で猛反対が起き、すっかり求心力が失われています。自民党は間もなく開く通常国会で災害復興と経済再生策を掲げて戦い、政権担当能力を失った民主党政権を倒す決意です。消費税は歴代内閣が道半ばで倒れたいわく付きの政策。野田内閣は12年度予算を成立させれば上出来で、6月の終盤国会では総辞職か、やけっぱち解散に追い込まれるでしょう。その先に待っているのは政界再編です。「今年は国民生活の隅々まで大きく、広く、永く、深く持続的な改革を成し遂げる大変革のスタートの年。心と身体を引き締めて任務に精励する」が私の年頭所感です。まさに常在戦場ですが、今年も旧年以上のご支援とご鞭撻をお願い申し上げます。

東アジア激変のスーパーイヤー
 昨年は「アラブの春」で明け、「ユーロ危機」でギリシャとイタリア政権が失墜し幕を閉じました。昨年末に北朝鮮の金正日総書記が急死、3男の正恩氏が「金王朝」を継承し、今年はスーパーイヤーと呼ばれる年の幕開けです。4月は故・金日成主席生誕100周年。金日成主席の主体思想の「遺訓政治」を守った金正日総書記は、生誕100年祭に「国家建設のスローガンである思想、軍事、経済の『強盛大国』の門を開こう」と唱え、「先軍政治」を掲げ、核・ミサイルをちらつかせる「瀬戸際(恫喝)外交」で6者協議から食糧援助を引き出してきしました。しかし、強盛大国どころか、人民は飢えと抑圧に疲弊しています。総書記の死去発表の日、軍部は日本海に向け短距離ミサイル2発を発射し虚勢を張りましたが、正恩氏への権力移行が混乱すれば、難民流出や核兵器の扱いを巡って東アジア情勢は一挙に緊迫します。1月の台湾総統選、3月にプーチン露首相が再度出馬する露大統領選、胡錦濤国家主席から習近平・国家副主席に政権禅譲する秋の中国共産党大会、5月の仏、11月の米国、12月の韓国と続く大統領選。ロシアでは先の下院選で不正疑惑があったとして「反プーチン3万人集会」が度々開かれ、露大統領選は予断を許しません。スーパーイヤーの結果次第で、東アジアの安全保障と経済の構図は激変します。

冷温停止で「収束」は時期尚早
 「原子炉が冷温停止状態に達し、事故自体は収束したと確認した。ステップ2の完了を宣言する」――。首相は12月16日の記者会見でこう高らかに宣言、胸を張りました。政府は原発から半径20キロ圏内の警戒区域と20キロ圏外の計画的避難区域を帰還困難、居住制限、避難指示解除準備の3区域に再編、段階的に住民の帰還を進める方針です。しかし、放射線量の最も高い帰還困難区域の帰還には数十年かかるとみられます。1兆円超の予算を組むという除染や帰還などの具体的方法は未定です。専門家は「9月下旬以降に1〜3号機の炉の温度が100度を下回った状態にあるとはいえ、冷温停止状態と定義するには疑義がある」と唱え、民主党小沢グループの中堅議員も「ステップ2の達成と原発の収束とは違う。収束は放射能が完全に放出され、汚染水の処理も万全に出来ている状態を達成してから使うべきだ」と批判。佐藤雄平福島県知事は「事故は収束していない。県の実態を知っていない。多くの県民は不安を感じている」と不快感を示しています。しからば首相は12年度予算案編成、消費増税など山積する課題を抱えながらなぜ宣言を急いだのか。それは野菜やコメ、牛肉などで基準値を超える放射線量が検出され、海外では風評被害が収まらず44カ国・地域が日本の農産品輸入を規制。来日する外国人観光客も11月は55万2千人と前年同月比13・1%も落ち込んだからです。「年内の事故収束」は、国際公約であり、首相は世界の信頼回復のためにも真っ先に取り組む課題でありました。

超過密日程で外遊、予算編成
 首相は17、8日に来訪した李明博韓国大統領と会談。25、6両日は訪中し、温家宝首相、胡錦濤国家主席と朝鮮半島や経済問題を協議。28日は訪印しシン首相とも会って各国との首脳会談をこなすなど超過密スケジュール。金総書記の急死で消費増税の必要性を国民に訴える街頭演説、被災地訪問は取り止めましたが、24日には12年度予算案を閣議決定、年末のぎりぎりまで「消費増税」素案作りの大詰め協議もしました。予算案は一般会計の歳出額が90・3兆円で、過去最大の11年度予算より2兆円余、6年ぶりに下回りました。これは見せ掛けのごまかし数字で、前年度は「埋蔵金」でしのいだ基礎年金の国庫負担2・6兆円を「交付国債」で賄い、大震災復興費3・8兆円を新たに作る特別会計に移し替える“禁じ手”の結果で、実質の歳出額は過去最高の96・7兆円に膨張しました。新しく発行する国債は11年度並の44・2兆円に抑えましたが、税収見込みは42・3兆円で国債が歳入の49%を占め、2年連続で借金が税収を上回る異常事態です。

公約総崩れの予算と自民追及
借り換えを含め国債発行総額は174・2兆円で、12年度末の国債発行残高は708・9兆円になる見込み。昨年9月末時点で、借入金や政府短期証券などを含めた「国の借金」は954兆円に上っていましたが、復興費を工面するための復興債11・5兆円なども新たに加わり、12年度末の借金残高は1千兆円を超えるのが確実視されます。にもかかわらず、「総選挙近し」を予測して歳出は大型公共事業が目白押し。凍結された群馬県の八ッ場ダムの本体着工、東京外郭環状道路の建設再開などバラ撒き政策が多く、公共事業費は6・6%増の5・3兆円に膨らんでいます。八ッ場ダムは「コンクリートから人へ」の選挙公約の象徴として前原誠司政調会長が国交相当時に工事を中断し、政府与党三役会議でも「党が反対する政策は予算化できない」と抵抗しましたが、旧建設省出身の前田武志国交相が「河川局村」の圧力に押され、前原氏の反対を押し切りました。これには地元で多年、建設中止を訴えてきた中島政希衆院議員(比例北関東)が「マニフェストの理念がなし崩し的に後退した」と抗議して離党しました。28日にはさらに9人が「総選挙が戦えない」と離党届を提出、同党は分裂しました。八ッ場の工事再開、子ども手当ての削減、高速道路の無料化中止などマニフェスト違反が相次ぎ、民主党内では小沢グループが強く反発。自民党は「マニフェスト総崩れの予算案だ」との談話を出し、公明党も「公約すら放棄し、政権担当能力がないことを証明した」と批判。通常国会で徹底追及する構えです。

負担増先送りで後世のツケ増大
 野田政権は12月16日、社会保障改革の最終案をまとめました。社会保障の充実・強化策は@年収65万円未満の低所得の年金に月1万6千円を上積みA年金の受給資格期間を25年から10年に短縮B非正規社員の厚生年金加入条件を「週の労働時間が30時間以上」から「20時間以上」に緩和C高額医療費の負担上限引き上げ――などで、消費増税に合わせて実施します。収支改善策では自公政権時代に年金の物価スライドの適用を見送り、本来水準より2・5%分多くなっている支給額を引き下げる負担増も盛り込んでいます。しかし、小宮山洋子厚労相が「後世にツケ回しはしない」として主張した@70〜74歳の医療費の窓口負担を1割から本来の2割に戻すA外来患者の窓口負担に100円上乗せするB年金の支給開始年齢を68歳に引き上げる――などは「総選挙にはマイナスだ」として、民主党内の反対が強く先送りされました。問題は社会保障改革の財源を消費増税でどう捻出し、低所得者の負担感が強まる消費税の「逆進性」対策をどうするかです。民主党税調は低所得者の所得税を減らしたり、現金を払い戻す「給付つき税額控除」の導入を提案しましたが、個人の所得を正確に掴むには15年度開始を目指す国民一人ひとりに番号を割り振る「共通番号制度」と「歳入庁」の設置が必要です。このため、政府は負担の不公平感を和らげる狙いから所得税の最高税率を現行の40%から45%に上げました。

消費税率と時期明記は年越し
 首相は12月21日に開いた民主党の両院議員懇談会で、消費増税の素案を「年内をメド」にまとめると意気込み、党税調も28日「衆院議員任期満了後の2013年10月に8%、15年4月に10%へ引き上げる」2段階の増税案を合同総会に提示しましたが、党内は猛反対。結局首相は、29日引き上げ時期を半年後に遅らせる修正案を党税調に提示してようやく決着しました。しかし(議員定数、公務員給与削減等自ら身を切る改革を実施したうえで実施との)条件がついておりーーー首相の「素案をもとに野党と協議し大綱を閣議決定、年度末の3月末までに消費増税法案を国会に提出する」との公約は難しくなりました。両院懇談会が始まる2時間前、小沢一郎元代表は国会内に議員106人を集め小沢グループ3派統合の勉強会「新しい政策研究会」の創立総会を開き、自ら会長に就任して「2年前の総選挙で訴えた政策を思い起こさねばならない」と強調しました。「数の力」を誇示し消費増税反対を訴えたものです。旧民主党系の田中慶秋副代表も20日、小沢氏に近い原口一博元総務相、山田正彦前農水相ら議員約30人を集め、「消費増税を慎重に考える会」を立ち上げています。小沢氏側近の鈴木克昌筆頭副幹事長はこの日、藤村修官房長官と会い、「消費税論議の前にやることがある」と述べ、反対議員の署名が100人(実際は130人との説も)を超えたと伝えました。

F35とアセス評価で日米修復
 それでも不退転の決意を示す首相は強気の政権運営を続けています。参院の問責決議を受けた一川保夫防衛相と山岡賢次拉致問題相を続投させ、20日には航空自衛隊の次期戦闘機(FX)を米ロッキード・マーチン社製の「F35」に決定。米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐる環境影響評価(アセスメント)の評価書提出も地元の抵抗に遭いながら、28日未明に宅配便で沖縄県に送り届けました。F35は防衛省が@性能A価格B国内企業の参画C後方支援――に分けて点数化し、特にステルス性能を重視してF35を選んだとしていますが、開発の遅れや不具合も指摘されており、総額1兆6千億円は高い買い物。米ボーイング社の「FA18」、英BAEシステムズ社の「ユーロファイター」など、選定に漏れた2社の不満は大きいですが、日米関係の再構築を重視する野田政権はF35の決定とアセス評価書を予定通り年内に提出したことで、オバマ米大統領を喜ばせました。12年度の沖縄振興予算は前年度当初予算より600億円多い2900億円超とし、このうち使い道の広い一括交付金は5倍増の1500億円に認め、県側に「アメ」を与えています。しかし、強引な手口に県民が怒り、沖縄県側が辺野古移設容認に転じる気配はありません。

反対署名・党分裂の体たらく
 自民党は、金総書記の死去発表の際、野田首相が都内遊説に出かけていて慌てて官邸に帰ったり、山岡国家公安委員長・拉致問題相には急死情報が伝わらず、直後の安全保障会議に遅刻し間に合わなかったなど、政権の危機管理能力のなさを「目を覆うばかりの惨状」(石原伸晃幹事長)とし衆院予算委の閉会中審査で追及する構えです。他野党もこれに同調しましたが、「問責閣僚の出席は認めない」とする参院自民党幹部の反発が強く、審査は年明けに持ち越しました。通常国会が開幕しても両相を更迭しない限り、自公両党は冒頭から審議拒否の方針で、首相がミニ改造に踏み切るかどうか。与党内で公然と反対署名活動や派閥集会が開かれる体たらく。分裂状態では、重要法案は何ひとつ成立しないでしょう。郵政改革法案の遅れから国民新党との連立もギクシャクしており、首相は、独自の修正案を出した公明党を連立に抱き込もうと盛んに秋波を送り続けています。だが公明党は応じず、終盤国会の夏頃には総辞職か解散・総選挙に追い込まれる公算が強まっています。

大阪都構想に各党にじり寄る
 こうした中、大阪ダブル選挙で圧勝した橋下徹大阪市長は就任の12月19日、初登庁の挨拶もそこそこに上京して3日間、各党幹部や関係閣僚と個別に会談し「大阪都構想」の実現に協力を求めました。民主党の前原政調会長は「二重行政をなくす意味で問題意識は同じだ」と理解を示し、小沢氏は「民主党が目指してきたものも、地域から日本を変えることだ。私たちも原点に戻らなければならない」と必要な法整備に協力する考えを表明。自民党の谷垣禎一総裁は「大都市問題を含め議論する必要がある」と大阪都構想を前向きに検討する意向を伝え、公明党の山口那津男代表も「バックアップしていきたい」と約束しました。自民、民社両党はそれぞれ党内に作業部会を設置し検討を始めています。同構想に積極的な協力を示したのがみんなの党の渡辺喜美代表で、「通常国会に地方自治法改正案を提出する」と確約。ダブル選終盤に応援に駆けつけた石原慎太郎都知事も「東西で『教育基本条例案』を提出、地方から政治を変えよう」とがっちり握手。総選挙が迫る中で地域政党の票が欲しい各党は、橋下市長ににじり寄っています。だが、橋下氏は記者団に「だまされないよう推移を見守り国政進出の準備も進める」と述べ、各党協力が得られない場合は「大阪維新の会」候補を国政選挙に立てる考えを示唆しました。やはりしたたかです。