第266回(12月16日)消費増税は鬼門 両相に問責決議
 野田政権は会期延長を見送り、第3次補正予算と関連復興増税法に続いて復興庁設置法を9日に成立させて国会を閉じました。自公両党は最終日に問題発言の多い一川保夫防衛相、マルチ商法業者との関係が深い山岡賢次消費者相の問責決議案を参院に提出して可決。首相が両相を更迭しない限り1月の通常国会は冒頭から審議を拒否しようと対決姿勢を強めています。求心力が急落した野田政権ですが、首相は社会保障と税の一体改革の消費増税実現について「年内メドに素案決定。野党に提示し議論したうえ、最終的な大綱をまとめ、今年度中に法案を提出したい」と記者会見で語り、自ら先頭に立つ決意を表明しました。これに対し、民主党が消費増税をしないと選挙公約して政権を奪取した経緯から、小沢一郎元代表は「政権交代の原点に返り国民の信頼を取り戻さないと、必ず大きな鉄槌が下される」と総選挙での惨敗を予測し厳しく批判。同党内ではTPP参加問題以上に反対論が高まっています。この難局を野田政権はどう突破するか。まさに正念場です。慌しい年の瀬に加え緊迫した政局ですが、皆様のご健勝と変わらぬご支援をお祈り申し上げます。

償還延ばし10兆5千億円
 11月30日に成立した復興増税法は、所得税、法人税、個人住民税の増税を順次実施するもの。政府は東日本大震災の集中復興5年間に19兆円程度の復興予算が必要と見込み、11年度の1,2次補正予算で6兆円を計上。それを差し引いた13兆円に、復旧費に流用した年金財源2・5兆円を加えた計15・5兆円を確保する必要があります。このうち5兆円は特別会計の剰余金やたばこ産業(JT)の政府保有株の一部売却など税外財源で賄うため増税は計10兆5千億円を確保することになります。第3次補正の財源としては11兆5500億円の復興債発行を決めています。建設国債の償還期間は60年ですが、国債、借入金など「国の借金」は11年度末に1千兆円を突破する見込みで、財政は欧米以上に危機的状況にあります。政府・民主党は当初、10年間で償還を完了する案を示しましたが、1年ごとの増税額を少なくするよう求めた自公両党の主張を受け入れ、償還期間を25年に引き延ばしました。これに伴い所得税の臨時増税期間も25年とし、13年1月から「復興特別所得税」として所得税額に2・1%分を上乗せし増収額は年3千億円、25年間で7兆円強となる見通しです。前々号で詳しく述べたので重複は避けますが、増税の手法は所得の多少にかかわらず税額に一定の率で上乗せする「定率増税」とし、サラリーマンと専業主婦、子供2人の場合、年収500万円で年間1600万円、年収800万円で年間7000円の増税。単身者なら年収500万円で年間3400万円の高増税となります。

政務官やめ大臣と副大臣2増
 復興庁設置法は復興の司令塔で、今年度から20年度末までの10年間を設置期間とし、東京に本庁、岩手・宮城・福島の被災3県に復興局を設け、@被災自治体への交付金配分A復興特区の設定B復旧施策の企画立案や各省庁間の調整C首相を同庁のトップにし復興相を選任D付則で大臣・副大臣の数を各1増、政務官を3増とする(別途に内閣法を改正)――などが主な内容。3党協議で自公両党は企画立案、総合調整だけで「実施」の権限が盛り込まれていない点を挙げ、本庁を被災地に置き国交省や農水省などに跨る権限を復興庁に集中させる「スーパー官庁」を作るべきだと主張。閣僚などの増員も行革に反すると反対しました。これに対し、藤村修官房長官は「復興特区と復興交付金を担うことで実施権限を持つ」と野党要求を踏まえたことを強調。役所の縄張り意識を反映して復興にかかわる公共事業は従来通り国交省が担当すると答えました。だが、5日の3党協議は@増員は大臣1、副大臣2とし、被災3県に配置の予定だった政務官の3増は取りやめるA各省庁が持つ復興事業の予算要求や予算配分権限を復興庁に移すB運用状況を踏まえて復興庁のあり方を3年後に見直す規定を盛り込む――など同庁権限強化の修正案に合意し6日に衆院を通過、9日の参院本会議で滑り込み可決・成立。同庁は来年3月までに設置されます。交付金交付や被災地での規制、新立地企業の法人税を5年間免除する税の特例措置などを認める復興特別区域法も7日に全会一致で可決・成立。1月中に特区の認定が始まります。

国家公務員給与削減法は流産
 一方、国家公務員給与削減法案は3党実務者の修正協議にゆだねられました。同法案は国家公務員の給与を13年度まで平均7・8%(年2900億円程度)引き下げる内容。政府・民主党は連合系職員労組の同意を得るため、併せて国家公務員に労働基本権の一部である労働協約締結権を付与する国家公務員制度改革関連法案とセットで成立させると約束してきました。自公両党は、労働基本権の付与に反対し、給与平均0・23% (120億円程度)を引き下げるとした人事院勧告を早急に実施したうえ、2段構えで最終的に7・8%削減を実現するよう迫り、協議は難航しました。人事院勧告は国家公務員の労働基本権制約の代償措置と位置づけられ、過去に実施を見送った例はなく人事院は完全実施を求めています。政府は給与削減で大震災の復興財源を些かでも捻出し消費増税に国民の理解を得るため修正に応じ、会期を延長してでも削減法を成立させる腹積もりでした。自公両党も復興予算や関連法の成立までは協力すると国民に誓ってきた関係から最大限歩み寄りました。だが、政府は会期延長すれば民主党内の消費税論議や年内の来年度予算編成に支障をきたすと判断して同法成立を断念。労働者派遣法改正、郵政改革、1票の格差是正など重要法案と共に通常国会へ先送り。野党も両相の問責決議案を提出し対決姿勢を強化しました。

民主幹部も一川防衛相罷免同調
 自公両党が罷免を要求したのは一川防衛相と山岡消費者相の2閣僚です。一川氏は就任の記者会見で「私は安全保障の素人だが、それが本当のシビリアンコントロール」と発言。国会答弁では米軍普天間飛行場移設問題の原点となった1995年の沖縄少女暴行事件を「正確な中身を詳細には知らない」と述べ、来日したブータン国王夫妻の歓迎宮中晩餐会を欠席して仲間議員の政治資金パーティに出席し、「公務より大事と思った」と挨拶するなど無茶苦茶な言動を繰り返しました。これには前原誠司民主党政調会長が「少し勉強不足が過ぎるのではないか。沖縄県民の理解なくして日本の安全保障は成り立たない」と呆れ、「政治家の出処進退は自らが決めるもの」と辞任を促し、友党の下地幹郎国民新党幹事長も衆院予算委で「日本の安保を考えるなら罷免すべきだ」と要求しました。防衛省では田中聡沖縄防衛局長が辺野古の環境アセス提出時期で「犯す前に、これから犯すと言いますか」と記者懇談で暴言を吐き更迭されるなど、士気が緩みっ放し。一川防衛相が2日、お詫び訪問をしたのに対し、仲井真弘多沖縄県知事は「極めて、極めて遺憾」と語気を強めて抗議。会談は一方的に8分間で打ち切られました。自民党の石原伸晃幹事長は「レッドカードを出す」として公明党と共同で9日、参院に問責決議案を提出し、全野党の賛成で可決されました。公明党は、一川氏が民主党の「宗教と民主主義研究会」の幹事長を務め国会で公明党と創価学会の関係を批判した経緯もあるため、可決後も一川氏辞任に追い込むまで戦う構えです。

辞任ドミノ恐れ首相は更迭せず
 山岡氏はマルチ商法(連鎖販売取引)業者から2008年に45万円の献金を受けた(後に返金)のを隠し、同業者主催のセミナーでも勧誘行為をし謝礼金を受けたとして、衆参予算委で厳しい追及を受けました。自公両党は山岡氏も消費者相に相応しくないとして問責決議案を参院に提出、野田首相の任命責任を追及しました。首相は両相を更迭すれば、鉢呂吉雄前経産相に続く「辞任ドミノ」となり、求心力が低下するばかり。一川氏は参院民主党を束ねる輿石東幹事長が「参院枠」から推した「党内融和」の象徴的な閣僚。両相はともに消費増税に反対する小沢グループ中の最側近で、更迭すれば首相肝いりの「社会保障と税の一体改革」の実現どころか党分裂も引き起こしかねません。首相は国会答弁で「これまで以上に襟を正して職責を果たしてもらう」と一川氏を庇い、市川氏本人も「責任を問われる致命的なものではない」と開き直り、輿石氏も盛んに擁護しています。かといって消費増税を実現するには野党の協力が絶対に必要。首相は、菅政権が昨年11月、当時の仙谷由人官房長官、馬渕澄夫国交相の問責決議が可決された際、直ちに更迭せず年明けに内閣改造したケースを念頭に、問責決議に法的拘束力がないため当面2人を続投させ、1月の通常国会前にミニ改造する案を検討中です。しかし、更迭に応じない場合、自公両党は消費増税の与野党協議を拒否し、通常国会は冒頭から審議が空転します。まさにトレードオフ(二律背反)の関係。首相はどう転んでも「虻蜂取らず」で、八方塞がりに陥っています。

年内メドに消費増税素案提示
 「年内をメドに(大綱)を取りまとめるべく、先頭に立って政府・与党内での議論を引っ張っていく決意だ。素案をまとめた段階で野党に提示し、(消費増税の)時期、税率を含めて最終的大綱をまとめ、法案提出の準備に入っていく」――。首相は党首討論翌日の1日、記者会見で「社会保障と税の一体改革」に取り組む決意を表明しました。菅政権は6月に政府与党がまとめた一体改革案で、「10年代半ばまでに消費税率を段階的に10%引き上げる」と打ち出し、13年以降に税率を7〜8%に上げ、15年度に15%にするシナリオを描きました。野田首相も11月初旬に仏カンヌで開いたG20首脳会議でこの改革案を国際公約。4日に京都で開いた国際労働機構(ILO)の会議でも「格差を固定化せず、貧困を生まない社会を目指し、社会参加の機会と経済成長の果実がすべてに行き渡る社会を実現させる」と訴え、一体改革で「中間層の危機」解消を目指す社会保障像を明示しました。国会答弁でも一体改革に「不退転で取り組む」決意を強調しています。しかし、国民に負担増を求める消費税は大平政権以来多くの政権が道半ばで倒れた鬼門の課題。国民は財政再建の総論には賛成でも、各論で復興税、消費増税と増税ラッシュが続き、年金水準の引き下げ、支給年齢の引き上げなど社会保障の改悪が進めば総選挙で国民のしっぺ返しは必定。野田政権は崩壊します。消費増税は北村の政治活動で詳報したので是非お読み下さい。


民主代表選はドント方式に変更
 解散風が強まる中、自民、民主両党内では次期代表選びに向けた動きが活発化しています。民主党は7日、党規約・代表選挙規約検討委で代表選の集計方法の変更を正式に決めました。これまでの党員・サポーター票は衆院300の小選挙区単位で集計し、最多得票候補が1ポイントを得る「総取り方式」でした。これでは死票が多く出るため、都道府県単位で集計し、得票に応じて配分する「ドント方式」で票を割り振る方式に変えるものです。これで1人2ポイントを持つ国会議員票の比重が大きくなり、多数派の小沢グループが有利になります。一方、自民党の石破茂前政調会長は7日、政策勉強会「さわらび会」を立ち上げ、初会合には塩崎恭久元官房長官、山本有二元金融相ら無派閥議員を中心に38人が参加しました。呼び掛け人は山口俊一元首相補佐官や小坂憲次前参院幹事長らで、石破氏は「日本に残された時間はそう長くない。私たちが果たすべき役割は大きい」と挨拶、次期通常国会中に政策提言を行う意向を示しました。当然、来年9月の総裁選に再出馬する狙いの動きと見られます。消費増税の攻防を軸に来年の政局は風雲急を告げてきました。