第265回(12月1日)政局波乗り続く首相 自公は対決姿勢強化
 野田政権は国論を二分した経済外交のTPP(環太平洋経済連携協定)問題を「2枚舌」、「玉虫色表現」と批判されながらも何とかクリアし、内政の第3次補正予算と財源の増税法案を成立させて一息つきました。しかし、成立は自民、公明両党の協力によるもの。両党は最大課題の消費増税問題について、来年3月の国会提出時点に「国民の信を問う」よう迫り、全面対決の姿勢を強めています。5日には「政治とカネ」の集中審議を行い、小沢一郎前民主党代表の政治資金問題やマルチ商法業者から政治献金を得た山岡賢次消費者相らを徹底追及します。消費増税はわずか2%アップした橋本龍太郎政権が総選挙で敗れた政権運営の最大関門。民主党内ではTPPでも異論が渦巻いているうえ、増税になるとなおさら反対が強く、政府与党が増税法案をまとめ上げるのは困難視されます。国会は9日までの会期内に復興庁設置や公務員給与削減などの重要法案を成立させるのは難しく、来年度予算編成前ぎりぎりの2週間程度延長される見通しです。慌ただしい師走の国会ですが、私は力いっぱい国政に励んでいます。さらなるご支援、ご叱責をお願い申し上げます。

二枚舌、玉虫色表現を徹底追及
 「外交は文書に残ったことがすべてだ。2枚舌は許せない。総理の資格がない」――。自民党の山本一太議員は15日の参院予算委で首相のTPP参加の表現を厳しく追及しました。ハワイで12日に開かれた日米首脳会談で、首相がオバマ大統領に「経済連携に関する基本方針に基づいて高いレベルの経済連携を追求する」と伝えたのに対し、ホワイトハウスは「すべての物品やサービスを貿易自由化の交渉テーブルに乗せるとの野田首相の発言を歓迎した」と発表したからです。菅政権が昨年11月に閣議決定した基本方針は「センシティブ(重要)品目に配慮しつつ、すべての品目を自由化交渉対象とする」と書いてあります。首相は首脳会談前日の国内での記者会見では「基本方針に基づく」とは言わず、用心深く「交渉参加に向けて関係国と協議に入る」と述べ、民主党内の批判勢力はこれを「事前協議に参加するだけ」という意味に解釈し、離党騒ぎまで起こした反対の矛を収めました。外務省が14日に自民党外交部会で示した首相発言でも、「基本方針に基づく」というくだりは省かれており、反対派を刺激しないような「玉虫色」の表現であったことは明白です。

米国は日本の訂正要求を無視
米発表に対し、日本側はその日のうちに反論資料を発表して否定。首相は参院予算委で米側発表を「事実ではない。事実関係がなかったことは米国当局が認めた」と強調、山本氏から「コメや国民皆保険に風穴が開く」と問われても、「ボトムラインを示すのは手の内を見せること。勝ち取るべきものは勝ち取り、守るべきは守る」と述べ、自由化のネガティブリストについての明言を避けました。しかし、日本の前向き姿勢をアピールしたいオバマ政権は、基本方針の「センシティブ」には触れず、後段部分の「すべての品目・・・」だけに着目して外交文書を発表、日本の訂正要求を無視しました。首相が意気込んで臨んだハワイのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)でも、「関係国と協議」どころか初日のTPPの大枠決定会議にはオブザーバーとしての出席を許されず、首相は蚊帳の外に置かれました。「経済外交」では国益を最大限に擁護しようとする各国の駆け引きは活発で、民主党政権は足元にも及びません。自民党の加藤紘一元幹事長が「(米から)十分に可愛がられて情けない。戦後外交史の中で最も下手」と決め付ければ、公明党の山口那津男代表も「国会論議の機会を無視し、外国で政府の対応を示すのは国会軽視だ」と厳しく批判しました。

日本に刺激され加、墨が参加
このように内政、外交双方に「諸刃の剣」となりかねないTPP参加ですが、オバマ大統領が「首相の決断」を歓迎し、日米同盟関係が修復したのに加え、プラス面も多少あります。日本に刺激されて北米自由貿易協定(NAFTA)を構成するカナダ、メキシコ両国が協議に参加を表明し、TPPは12カ国と一気に拡大することです。現在の9カ国の国内総生産合計は16兆8千億ドルで世界に占める割合は27%。これに日本、カナダ、メキシコが加わると24兆9千億ドル(1917兆円)となり、世界経済の4割を占め、欧州連合の1・5倍の巨大経済圏が誕生します。もう1つは中国がTPPにアジアの成長を取り込もうとする米国を牽制、アジアの広域FTA(自由貿易協定)を日中で動かすことを日本に打診。6月末に菅前首相が東京で開いた日中韓首脳会談で「日中韓FTAの産学官研究を年内に終える」ことで合意。8月にはインドネシアで開催した日中印とASEANなど16カ国の貿易相会合では日中の共同提案で広域FTAの作業部会設置が合意されたことです。

FTAAPは登山ルート3形態
APECは2020年までに域内の貿易や投資を自由化する目標を掲げ、経済統合の最終版である「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」の実現を目指しています。中国は米国がアジアで中国包囲網を形成するのを警戒、日本とFTAAP実現の主導権を握ろうとしています。FTAAPを山頂とすれば、登山ルートにあたるのが@日本が推進するASEANプラス日中韓の3カ国A中国がリードするASEANプラス日中韓、豪州、ニュージーランド、インドの6カ国B米国主導のTPP――の3つの経済連携の枠組みです。首相は「どのルートから登っても究極の目標は自由貿易圏にある」とし、参加国が増えれば増えるほど各国の主張が強まり、コメなどで関税撤廃の例外扱いが勝ち取れると自信を深めています。日本はシンガポール、スイス、インドなど13の国・地域と経済連携協定(EPA)を結び、コメや牛肉など850品目もの農水産物を関税の対象外としています。だが、来年1月に米韓FTAが発効すれば、韓国から米国に輸出する乗用車にかかる2・5%の関税は5年後にゼロになります。韓国は「アジアの自由貿易のハブ(中心)」になる戦略で、日本がTPPに参加するか米国とFTAを結ばない限り、円高に苦しむ日本企業は無関税の韓国に工場を移し欧米に輸出した方が有利と判断、産業の空洞化がさらに進むことになります。

断固農村守ると低姿勢捨て強調
経産省はTPPに参加しなければ、自動車、機械、電気電子の主要3業種の年間生産額が20年に10・5兆円押し下げられると試算。内閣府は参加すれば、逆に10年間で国民総生産(GDP)が2・7兆円増えると弾いています。しかし、TPPに参加すると、関税の全面撤廃だけでなく、医療や郵政、金融、食の安全、環境など様々な分野で規制緩和が求められる可能性があります。とりわけ農業は崩壊の危機につながりかねません。17日の衆院本会議で谷垣総裁が拙速なTPP参加を厳しく追及したのに対し、首相は「私は世界に誇る国民皆保険の医療制度、郵政、日本の伝統分野、美しい農村、そうしたものは断固として守り抜く決意で、リーダーシップを発揮して取り組んでいく」と低姿勢をかなぐり捨て、胸を張りました。また党内慎重派が署名で開催を要求した両院議員懇談会を24日に開き日米首脳会談の発言内容、TPP参加を決断した理由などを説明、ガス抜きをしました。各紙の世論調査は賛否両論に別れ、政府の説明不足に不満が示されましたが、関税の削減で海外の安い農産物が入ってくれば消費者の福音となり、歓迎ムードも出てくるでしょう。

 自公は消費増税提示で解散迫る
東日本大震災の復興策を柱とする第3次補正予算は11月22日、補正財源の増税法も月内に成立しました。反対は共産党だけです。総額12兆1千億円で、歳入は高台への集団移転や道路・農地の整備など40事業。被災自治体に復興交付金を計上、復興補助事業を国の全額負担とする地方交付税交付金も手当てし、原発事故対応では福島県に基金を作り除染や放射線被曝医療整備などに使い、円高対策の2兆円も含まれています。歳入のうち11兆5千億円は復興債の発行、残りは子ども手当ての見直しによる歳出削減などで賄い、復興債の償還には所得税や法人税などを増税します。第3次補正は阪神・淡路大震災の規模を上回り、今年度の予算総額は3次補正までで106兆円と過去最大。首相は「必要ならさらに予算措置をしたい」と4次補正の編成に意欲的です。第3次補正予算の成立で、政局の焦点は「社会保障と税の一体改革」の消費税を巡る年末の攻防に移りました。首相は来年3月末までに消費増税法案を提出し、成立するまでは衆院解散・総選挙を行わない姿勢ですが、民主党内でも反対論が強く、自公両党は提示の段階で「国民に信を問え」と迫っています。

年内編成、消費税で波乗り続く
「補正予算が通ると、野田さんは『消費税は重たい荷物だから谷垣さん、一緒にかごを担いでくれ』といってくる。そうはいかない」――。自民党の谷垣禎一総裁は11月19日、新潟市の講演で、民主党が09年衆院選で消費増税を否定したことを取り上げ、「その舌の根も乾かぬうちにやるなら国民に信を問うべきだ」と強調。解散・総選挙をしない限り、消費増税法案に協力する考えのないことを鮮明にしました。自公両党は24日、会期内に復興庁設置や公務員給与削減などの重要法案を成立させることで合意したものの協力はそこまで。谷垣氏は次期通常国会中に衆院解散を実現、総選挙に勝利して来年秋の総裁再選を目指そうと対決姿勢を強め、今国会延長の場合は会期末に山岡消費者相の問責決議案を参院に提出する考えです。これには公明党も同調しています。TPP参加表明で政局運営の関門を1つこなした首相は今月中旬に訪中を予定。すっかり外交づいていますが、年内に来年度予算編成と「社会保障と税の一体改革」に結論が出せるか。政局の波乗りが続きます。