第264回(11月16日)第1関門突破したが TPPで党分裂危機
 野田政権は立て込む外交日程の合間、第3次補正予算を11月半ばに成立させ、第一関門をクリアしました。しかし、首相が10月28日の所信表明で「震災復興、原発事故の収束、日本経済の再生に向け、歳出削減と税外収入の確保に断固たる決意で臨む」と強調したのとは裏腹に、歳出削減より所得税、消費税の増税オンパレード。東日本に冬の足音が近づく中で被災者の生活再建は一向に進まず、欧州金融危機の影響を受けて経済再生もお先真っ暗です。おまけに民主党内は環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加を巡り党分列の危機。安全運転で発信力のない「ドジョウ内閣」に対し、支持率もじりじりと下降気味で、首相は綱渡りの国会運営を続けています。自民党は「早急に国民の信を問え」と早期の衆院解散を迫り、政局は緊迫しています。なお一層のご支援ご鞭撻をお願い申し上げます。西岡武夫参院議長が5日に亡くなりました。議員在職の通算期間は42年の大ベテラン。76年に金権政治を批判して自民を離党しましたが、私にとっては長崎県・母校早大の大先輩。昨年の議長就任後は菅直人前首相に辞任を求め続け、8月には小沢一郎元代表の要請で民主党代表選への出馬を考慮した「保守再生」一途の信念居士。心から哀悼の意を捧げます。

外交月間で消費増税を国際公約
 野田首相は11月の「外交月間」に入り、3、4日に仏カンヌでのG20首脳会議、12、13日に米ハワイでアジア太平洋経済協力会議(APEC)と日米、日中、日露各首脳会談をこなし、17〜19日はインドネシア・バリで開く東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議と東アジア首脳会議(EAS)に出席します。カンヌでは「2010年代半ばまでに消費税率を10%まで引き上げる」と国際公約しました。日本の公的債務残高はGDP(国内総生産)比で約210%、放漫財政で国家破綻の危機に瀕するギリシャの約160%よりも最悪、財政再建の旗を掲げないと国際市場で信認を失うからです。ハワイでは民主党内でも賛否両論が吹き荒れたTPPについて交渉参加の意思を明確に示し、TPP効果で200万人の新規雇用を生み出し1年後の再選を目指すオバマ米大統領を援護しました。胡錦濤国家主席との日中首脳会談では、来年が国交正常化40週年に当たるため、両国関係の安定化を目指し首相の12月訪中で合意しました。だが、19日のバリ島会議では南シナ海での覇権を強める中国に対し、日本は米国やASEAN諸国と連携し海洋安全保障をめぐる国際ルール作りを進める考えであり、首相訪中では中国が態度を硬化させると予想されます。

ウソつき内閣、解散で信を問え
 「ウソをついて奪い取った政権が続く以上、根強い政治不信は払拭できない。衆院を解散して信を問うべきだ」――。自民党の谷垣禎一総裁は先月末の衆院代表質問で、11年度予算が民主党の政権公約(マニフェスト)では16・8兆円と言った無駄の削減額が3・6兆円にとどまった点を取り上げ、「国民は衆院選で票という代金を支払ったが、約束の商品は受け取れないままだ」と追及、早期解散を迫りました。復興予算国会は7日から本格化し、衆院本会議での復興財源確保法案の審議入りと10日まで4日間の衆院予算委審議で第3次補正予算案を衆院通過、11日の衆参予算委でのTPP問題の集中審議を行いました。野党側はこぞって野田政権の3重苦である@消費税の増税A復興増税の仕組みB国民的論議のTPP問題――に絞り、厳しく追及しました。とりわけ自公両党は、前回総選挙の民主党マニフェストにも明記されず、首相が先月末の所信表明演説で一言も触れなかった消費増税を国際公約したことについて『公約違反』と追及、「マニフェストはウソだったと認め、信を問うのが筋だ」と衆院解散を要求しました。これに対し首相は「G20の発言は6月の税と社会保障の一体改革案に基づき、何度も申し上げてきた従来の方針」と答え、今年度中に提出する消費増税法案の成立後、増税の実施前に民意を問う考えを強調しました。

自民要求入れたばこ増税撤回
 復興財源に充てる復興債の償却期間は、建設国債の償却期間並みの60年を念頭に自民党の谷垣禎一総裁が30年を主張、公明党が15〜20年、民主党が15年に抑える方針を示していましたが、7日に自公民3党が幹事長会談を開いた結果、25年とすることで合意。たばこ増税など税目については3党税調会長協議に委ねることにしました。約12・1兆円の第3次補正予算は21日に成立見通し、自公両党は復興財源確保法案の月内成立にも協力する姿勢を示しています。償却期間に合わせ所得増税の実施期間が25年に延びると、年収500万円の夫婦と子ども2人世帯の負担増は年間1240円、月103円。年収800万円なら年間5360円、月446円となります。たばこ増税案は1本当たり国税1円、地方税1円の計2円でしたが、自民党は「昨年増税したばかり。場当たり的にやるべきでない」と反対、3党税調会長会議は自民要求を入れ、たばこ増税の削減に合意。この財源を補うため年500円としていた住民税の増税額を年1千円に増やし期間も5年から10年に延長。所得増税の上乗せ率は納税額の2・1%になりました。たばこ税の削減により、所得税の負担増額は年収500万円の子ども2人の世帯では1720円、月143円に若干増えることになります。

TPP参加で政権崩壊と亀井氏
 「私も徹底的な親米だが、『従米』ではない。私は運輸相当時に日米航空協定交渉で米要求をはねつけた。TPP交渉参加は『従米』の極みで、普天間飛行場移設問題の埋め合わせをしようとしている。交渉参加を決めれば野田政権は潰れてしまう」――。連立政権ながら、亀井静香国民新党代表は10日の朝日紙面でこう警告しました。TPPの交渉参加問題で、民主党の経済連携プロジェクトチーム(PT座長=鉢呂吉雄前経産相)は1ヶ月間に計23回の総会を開き、9日の5時間にわたる最終総会でようやく、賛否両論を併記した「政府には慎重に判断することを提言する」との提言をまとめ、最終判断は首相にゆだねました。総会に先立ち原口一博元総務相、山田正彦前農水相ら反対派30人は交渉参加表明に反対する同党議員約230人分の署名簿を持って首相官邸に押しかけました。だが、「アジア太平洋地域は成長のエンジン」とし、「平成開国」を目指す首相は、衆院予算委で「高いレベルの経済連携と農業再生の両立を図る」とTPP参加の強い意欲を表明。年明け通常国会の冒頭に第4次補正予算案を提出する方針を示し、「4次補正には、農業の競争力強化のため、農地の大規模化や担い手の育成強化など来年度予算で農水省が要求中の農業再生策を前倒しする」と述べ、農業競争力強化の姿勢を打ち出しました。

2百万新規雇用で大統領再選へ
 来年11月に再選を目指すオバマ米大統領にとって、高い失業率により格差解消のデモが全国に波及することは最大の脅威。何とかTPPの主導権を握って輸出を増やし、200万人の新規雇用を創設したいところ。見通し暗い米軍普天間飛行場の辺野古移設よりは実現性が高いと日本のTPP参加を強く望んでおり、日米関係の修復を目指す首相の狙いもそこにあります。しかし、前回のHP「北村の政治活動」で詳報した通り、TPPは関税引き下げだけでなく、医療や郵政、金融、食の安全、環境など様々な分野で規制緩和につながる恐れがあります。特に米国は「医薬品や医療機器の関税撤廃で、病院や消費者のコストを減らす」ことを求めています。このため、全国農協組中央会などJAグループや医療団体などは8日、両国の国技館で6千人を集めた大規模反対集会を開き、自民党の大島理森副総裁ら各野党首脳も出席して反対論をぶち上げました。同集会に出席した後、亀井国民新党代表は「細川政権はウルグアイ・ラウンド決着後に倒れた」と首相に忠告。与党の反対派衆院議員5人が10日、離党届を持参して参加表明阻止を嘆願する動きもありました。

TPP参加は吉・凶いずれか
 このため、「党内融和」を優先する首相は10日夕に予定した「TPP交渉参加への決意表明」の記者会見と政府・民主党三役会議、関係閣僚委員会の決定を11日の衆参両予算委のTPP集中審議後に延期しました。これで超党派の慎重派議員は勢いづき、集中審議でも激しい反対論が吹き上がりました。それでも首相の信念は変わらず、11日夕の記者会見と12、13日に米ハワイで、TPPの大枠合意を目指して開いたAPEC首脳会議で、正式にTPP交渉参加する意向を表明しました。首相は清水の舞台から飛び降りるような心境で日本の通商政策の転換点となる「経済外交」のスタートを切ったわけですが、消費増税など難関が山積する中で、党分列の危機まで招いたTPPの交渉参加が、野田内閣の命運を賭けた今後の政局に吉と出るか、凶と出るか。国民も固唾を呑んで見守っています。