第261回(10月1日)震災収束と経済克服 復興増税がヤマ場
 「大震災と世界経済の2つの危機への対応」を最優先課題に“どじょう内閣”は9月2日、船出しました。だが、自民党が4日間の会期は「与党による審議拒否の暴挙」と批判し、9月末まで延長を余儀なくされ、早くも国会運営に躓きました。野田首相は9月21日の日米首脳会談、23日の国連総会での演説などで外交デビューしたものの、所信表明演説に対する訪米前の衆参両院での代表質問、帰国後の両院予算委では第3次補正予算案の財源を巡って野党の猛攻を受け、冒頭からひるんでいます。政府は11兆円規模の復興増税を柱とした同予算案を10月中旬再開の臨時国会に提出しますが、自公民3党の協議はもとより、民主党内でも反対論が渦巻き、調整は難航しました。それでも首相は早期の衆院解散・総選挙は否定し、粘り強く“正心誠意”の低姿勢で国難に立ち向かおうとしています。年末に向けて波乱万丈の国会が予想されますが一層のご支援をお願い申し上げます。

結果迫られ厳しい外交デビュー
 首相は20〜24日の初外遊で日米、日韓両首脳会談、国連総会演説など華々しく外交デビュー。21日の日米会談ではオバマ米大統領と「日米同盟の深化」で一致、同日の日韓会談では李明博大統領と「未来志向の協力関係とシャトル外交の推進」を確認。潘基文国連事務総長との会談や国連総会の演説では、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣と東電福島第1原発事故の「年内収束」を宣言、政府は陸自の施設部隊の派遣を検討するため24日、約30人規模の現地調査団を南スーダンに派遣しました。しかし、日米首脳会談では、首相がトップ間個人の信頼回復に努めたのに対し、オバマ大統領はのっけから沖縄の米軍普天間飛行場問題で昨年5月の日米合意の辺野古移設について、「具体的な結果」を出すよう早期履行を迫り、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加や米国産牛肉の輸入促進など懸案事項の解決を畳み掛けました。これには首相が「引き続き日米合意に従って協力を進め、沖縄の人々の理解を得るよう全力を尽くしたい。TPP参加も早い時期に結論を出したい」と答えるのが精一杯。首相は安全運転に努めましたが、宿題の追求を受け、国際公約した「PKOと原発収束」の2枚看板はすっかり影が薄れました。

失言の弱体内閣理由に短期国会
 「政治に求められるのはいつの世も“正心誠意”の4文字あるのみ。大震災の国難に立ち向かう重責を全力で果たしていく」――。首相は13日の所信表明演説で、勝海舟の言葉“正心誠意”を引用して震災収束の決意を表明しました。しかし、役人の作文を棒読みしただけで何ら具体策はなく、メリハリの利いた代表選の演説とは程遠い内容でした。演説では、「死のまち」発言で辞任した鉢呂吉雄前経産相について、「被災者の心情に配慮を欠いた不適切な言動によって辞任した閣僚が出たことは誠に残念」と遺憾の意を表明しました。だが、野田政権には就任会見で「私は安全保障の素人」と発言した一川保夫防衛相、「タバコは700円台まで(値上げしても)税収は減らない」発言の小宮山洋子厚労相、「踏まれても蹴られても、誠心誠意沖縄に向き合う」発言の玄葉光一郎外相ら閣僚の失言、不適切発言が続出。前原誠司政調会長も政府と調整もしないで、米国の講演ではPKO参加5原則と武器輸出3原則の見直しに言及するなど勝手気ままな言動。これには平野博文国対委員長が「あんまり閣僚からぽんぽん(不適切発言が)出てくると国対として頭を抱える」と記者会見でぼやき、与野党国対委員長会談では、「内閣が出来たばかりで態勢不十分。国会答弁に不慣れだ」と内閣の弱体を理由に会期を4日間で閉じる方針を伝え野党を怒らせました。首相が「党内融和」を優先、軽量級を集めた人事のツケが回ってきたものです。

「審議拒否、選挙互助会」と谷垣総裁
 与党が13日の衆院本会議で4日間の会期を強行採決したのは、弱体内閣に加え26日に小沢一郎元代表の元秘書3人の判決があり、野田首相自身も献金問題を抱えていることから、野党追求を封ずる狙いで国会を早仕舞いにしたもの。これには自民党の谷垣禎一総裁が代表質問で、「野党に協力を願いながら、与党が事実上の”審議拒否"をするとは言語道断」と抗議、大連立にすり寄ろうとする野田首相に対し、「綱領すらない政党は政党の基礎的要件を欠いている。婚姻年齢にすら達していない。政権交代だけが目的の寄せ集め的な選挙互助会だ」と対決姿勢を顕わにしました。みんなの党代表の渡辺喜美代表も「不完全内閣だから、閣僚がスキャンダルや失言で首を取られては困るという発想」と反発、たちあがれ日本の平沼赳夫代表は「姑息なあり方は国会運営に響く」と批判しました。公明党は当初、「短期国会なら閉会中審査で衆参予算委を開催すべきだ」と助け船を出しましたが、民主党が煮え切らないため一転、態度を硬化、野党は一致して28日間延長を求めました。困った輿石東幹事長は国対に図らず独断で9月末まで2週間延長を決めたため、党内は「参院の輿石氏は国会運営のやり方が衆院と違う」と不満が噴出。松本剛明前外相と加藤公一の両国対委員長代理、松野頼久副委員長が平野委員長に辞表を提出、後に撤回しました。

衆参予算委で野党対決姿勢強化
 衆参予算委員会は首相の帰国を待って26日から4日間開かれ、自民党の石原伸晃幹事長ら野党が、失言相次ぐ新閣僚の資質、とりわけマルチ商法業界から献金を受けた山岡賢次消費者相や衆院予算委初日に有罪判決を受けた小沢元代表の元秘書3人の判決に関連し、野田首相自身の外国人献金問題を厳しく追求しました。さらに、民主党内で意見が対立した復興税制や原発政策、オバマ大統領から「具体的結果」を迫られた辺野古移設問題など野田政権の弱点を徹底追及。自民党は第3次補正予算成立後はいつでも早期解散・総選挙に追い込めるよう対決ムードを高めました。このように野党が追及を強める中で野田首相は16日、大震災の復興財源に充てる臨時増税について、法人減税を3年間、実質的に凍結し、所得税を「復興貢献特別所得税」として5%以上の定率増税で10年間実施する方針を固めました。増税規模は11・2兆円で、個人の負担増は年収500万円の場合、夫婦と子ども2人の世帯は年間4300円、独身世帯は年間8800円になります。

10年間11兆円の所得増税
 これは、政府税調(会長・安住淳財務相)が@法人減税の3年間凍結と所得税の5〜10年間の増税A法人・所得税と、たばこ増税などの組み合わせB所得増税――の3案をまとめ、首相に示したところ、消費税は「社会保障と税の一体化」で本格討議したい首相が「復興増税から消費税を外し、所得増税の期間を10年間とする」よう指示したものです。菅前内閣は総復興事業費を23〜26兆円と見積もり、今後5年間では19兆円の財源が必要とし、このうち6兆円は第1、2次補正予算で手当済みなので13兆円の必要額を弾き出しました。これに年金財源流用の穴埋め分を含めると15・5兆円。さらにB型肝炎訴訟の和解金0・7兆円を合わせると16・2兆円の財源が必要です。そこでJT(日本たばこ産業)の政府保有株の売却や財政投融資特会の剰余金の活用などで計5兆円を捻出し、復興増税額は11・2兆円に抑えました。この増税案を民主党税制調査会(藤井裕久会長)と調整、自公民3党とも協議し、9月内に政府・与党案をまとめ、10月半ばの臨時国会に提出する方針です。

時期、税率など党内不満続出
 しかし、16、21、27日に開いた民主党税調の総会では、「増税ありきで議論が進むのはおかしい。党は増税ゼロが主流だ」「復興は税外収入でやるべきだ」「60年償還の建設国債でやるか、日銀が国債を全て買い切ればいい」――など反対意見が続出、実施時期、納税期間、税率などを巡って党内の調整は難航しました。そこで前原政調会長らは税外収入上積み案を検討、「埋蔵金」の国債整理基金や外国為替特会の積立金からの繰り入れなどを論議し、最終的には27日夜、「政府・民主3役会議」を首相官邸で開き、増税規模を11・2兆円から9・2兆円に圧縮する方針を決めました。圧縮は政府が保有する日本たばこ産業株の完全売却や資源開発企業株の売却などの税外収入と歳出削減で財源を捻出、税外収入は5兆円から7兆円に上積みしました。これにより、@法人税凍結は12年4月から3年間A1本2円のたばこ増税は同年10月から国税分10年間、地方税分5年間B所得増税(定率4%)は13年1月から10年間C個人住民税の均等割引き上げは14年6月から5年間――など定率分を圧縮し、実施時期も遅らせるなど工夫をこらしました。


自公の協力が秋政局を占う鍵
 政府保有株のうち日本郵政株の売却は郵政改革法案成立のめどが立たない限り困難と見られています。首相指南役の細川護煕元首相は消費税を「国民福祉税」に名を変えて増税しようとして失敗、政権を投げ出しましたが、19日の朝日インタビユーで、「公務員の人件費削減や出先機関の削減、政府関係法人の資産売却などを強力に進め、その成果を出してからでないと増税は具合が悪い」と語り、野田首相にも同じくアドバイスした模様です。首相は蓮舫行革相に指示し、人件費削減など公務員改革に力を注いでいます。3党協議は10月から本格化しますが、巨額な第3次補正予算と来年度予算編成で自公両党が国民期待の復興対策にどのような協力姿勢を見せるか。秋以降の政局を占う鍵となりそうです。