北村からのメッセージ

 

 第26回(9月16日) 緊迫の雇用国会開幕 勝負は短期決戦

 百歳以上のお年寄りが1万5千人を突破。その比率は九州、四国、中国が高いそうです。世界一の長寿国日本。健やかに敬老の日(15日)を迎えられた高齢者の皆様には、心からの祝意を表します。しかし新聞を開けば、患者負担が原則1割の高齢者医療制度の対象年齢を70歳から75歳へ引き上げるとか、完全失業率が過去最悪の5%を記録し初老に近い中高年齢層のリストラが進むなど、老後の不安が一杯。これでは国民の財布はますます引き締め基調となり、消費不況は募るばかりです。先号で予告した通り、27日開幕の臨時国会は「雇用国会」と名付けられました。弱者救済を念頭に社会保障制度をどう改革するか。私は衆院厚生労働委員会の1員として責任の重大さをひしひしと感じています。

 厳しい景況

 暗いニュースは医療、雇用だけではありません。政府は7日、今年4−6月期の実質国内総生産(GDP)の伸び率が対前期(1−3月期)比でマイナス0.8%、年率換算では3.2%程度減少と厳しい景況を発表しました。日経平均株価は1万円割れすれすれの低迷ぶり。これは小泉首相が取り組む構造改革に悪影響を与え、臨時国会の最大争点である雇用、景気対策など今年度補正予算案の審議にも重大な影響を与えます。自民党内では急激に悪化する経済情勢に対応し、公共事業中心の従来型大型補正を求める声が次第に強まっています。

 補正財源は僅か2兆円

 亀井静香・前政調会長は「抵抗勢力に非ず、提言勢力だ」とし、30兆円規模の大型補正構想を提言、閣内からも「雇用対策や景気の底割れを防ぐため5兆円規模の補正」(平沼赳夫経済産業相)を唱えるなど、百家争鳴の感があります。しかし、税収は当初見込みの50兆円を切る見通し。国債発行も今年の30兆円枠のうち補正分には1兆7千億円の残しかなく、予備費の3500億円、今年度剰余金2400億円を合わせても、残る財源は2兆3千億円という厳しい台所事情です。それでも首相は、「今・来年度の国債発行総額を30兆円以下に抑制する」方針を変えず、「暴風の中を突き進む覚悟」で公約の構造改革を推進する構えです。発行枠を揺るめると国債の増発に歯止めが利かなくなるばかりか、国債の格付けがさらに悪化し、金利が上昇して国債価格の下落を招きかねないからです。

 失速・墜落の警告

 首相が強気になる背景には、依然衰えない国民の支持率、写真集や愛唱ロックのCDなど小泉グッズの売れ行きが上々で、政局乗り切りの自信を深めているからでしょう。だが、構造改革の“痛み”が現実化するにつれ、マスコミの論評にも変化が見られます。政治評論家はテレビ番組で「追い風に乗って小泉グライダーは空高く舞い上がったが、風が止まれば失速し墜落する」と移ろいやすい世論に警告を発しています。参院選で小泉改革の信任を得た我々自民党は、30年代の昭和恐慌に匹敵するといわれるこの経済危機を果断に乗り切り、国民の期待に応えなければなりません。高人気継続の今が改革断行の好機です。

 短期に二兎解決

 それには、当面の景気、雇用対策を最優先に取り組むとともに、医療費はもとより公共事業費の1割削減など来年度予算編成で、構造改革の“外科手術”を同時並行的に推進することが日本経済再生には不可欠です。景気浮揚と財政再建の“二兎を追う”困難さは体験済みですが、この“神業”を遂行しない限り国民の信頼は得られません。国債発行30兆円の枠内という限られた財源で、メリハリの利いた予算編成と行政経費の削減、特殊法人の改革を短期間に断行することは喫緊の課題です。

 ゼロ回答で抵抗

 小泉首相は殊法人の改革で、「独立行政法人への移行は形を変えるだけだ。ゼロベースで見直し、廃止か民営化が原則」と指示、石原伸晃行革担当相に「サンドバックになって取り組め」とハッパを掛けました。ところが、廃止・民営化を発表したのは77特殊法人と86認可法人のうちわずか10法人だけ。各省庁は“ゼロ回答”で抵抗しました。しかも、廃止される法人は、首相が来年の通常国会に廃止・民営化法案を提出すると約束した石油公団を除けば、厚生年金と統合する農林漁業団体職員組合、宇宙化学研などと統合する宇宙開発事業団、郵政公社に事業が統合される簡易保険福祉事業団ぐらいで、いずれも組織を衣替えして乗り切る既定路線のものばかり。最大懸案の日本道路公団、住宅金融公庫、都市基盤整備公団など国土交通省所管の6法人の回答は16日現在、留保のままです。

 既得権益の防衛

 民営化する帝都高速度交通営団、日本勤労者住宅協会、全国農業会議所など6法人についても、株式会社化する場合は政府が株式の大半を保有する特殊会社化を要求、首相の構想に反発しています。各省庁の回答は「法人が実施する事業に政策的な必要性と公益性がある以上、特殊法人の組織を残すことが必要」とし、長期、低利、ともすればリスクを伴う事業を民間が継続することは不可能との立場を取っています。マスコミは最近、元林野庁長官らが特殊法人を渡り歩き、数年間で報酬、退職金合わせ1億5千万円を手にしたと大きく報じました。このように特殊法人は「官僚天下りの温床」「税金無駄遣いの牙城」と酷評されています。だが、各省庁の官僚は、政治家の後押しを期待し、長年にわたり自己増殖してきた既得権益の防衛に必死で立ち向かい、改革の最大の抵抗勢力と化しています。

 外務省の破廉恥

 こうしたさ中、外務省欧州局の課長補佐が6日、4億2300万円の詐欺容疑で逮捕されました。6年前の大阪APEC会議でニューオータニにホテル代を水増し請求させて資金をプール、その1割に当たる約4300万円を個人目的に使った疑いです。愛人を連れて年に100回もホテルの高い部屋に泊まったり、ハワイ旅行をしたり、おまけにハイヤー会社から高級外車を安い価格で譲り受け、平気で役所に通勤したというから、破廉恥ぶりは言語道断です。外務省では官房機密費約5億円の詐取、ハイヤー代金を水増し請求させて2100万円詐取など、数々の不祥事が発覚、この4年間に4人の逮捕者を出しています。

 改革の7原則

 血税を吸い込むしブラックホールのような同省の構造的腐敗に、納税者国民は怒りを爆発させています。今年は日米安保体制が築かれたサンフランシスコ講和条約締結後50年を経た節目の年。また、米国で起きた神風特攻的な自爆テロが世界を震撼させました。国際信用を失墜する外務官僚の不祥事続きでは、外交が停滞し危機管理もままならず、著しく国益を損ないます。基地問題など外交・安保に力を注いできた私にとっても痛恨の極みです。小泉首相は、構造改革の7原則に「税金の無駄遣い廃止、役人の天下り禁止、看板の書き換えは許さない、民間を圧迫しない」などを掲げました。「民間にできることは民営化」し、行政の簡素化、効率化を図り、役所のスリム化で“安い政府”を作るのが目標です。

 民間と同じ痛みを

 行革7原則貫徹のためにも特殊法人の改革は必ず断行しなければなりません。時代の変化で既に役割りを終えた法人も多いようですが、政府はそこに補助金や出資金の名目で年間約5兆3千億円の国費を投入しています。首相はこの政府支出を1兆円削減するよう指示しましたが、概算要求では半分にも満たない約4千7百億円の減額しか回答されていません。大手メーカーなどが懸命なリストラに励んでいる折に、“第二の政府”といわれる特殊法人が安眠をむさぼってよいものか。民間企業と同じ痛みを共有すべくきでしょう。

 道路公団を6分割

 とはいうものの、日本道路公団の見直し1つとっても改革は容易でありません。行革相の私的諮問機関・行革断行評議会(猪瀬直樹座長)は、同公団と首都高速、阪神高速、本州四国連絡橋も合わせた4公団の債務と資産を独立法人に切り離したうえで、既存道路の運営は地域・路線別に設立する6つの民営株式会社に分割する案を提示しています。しかし、87年6月に閣議決定した第4次全国総合開発計画に基づく9342キロの高速道整備計画のうち、未完成・未着工路線は4分の1の約2500キロも残されています。

 英知を集め結論

 政府の行革推進事務局は、現在建設中のものを含め凍結する案を示していますが、計画路線は全部繋がって初めて効果を発揮するものです。都市部に偏った道路整備、地方切り捨ての改革は、断じて許せません。国土交通省は整備計画が完了するまで「民営化に20年はかかる」と難色を示していますが、整備計画の中止・縮小を回避しながら民営化を実現するには、料金収入の少ない地方路線の建設にどう対応するかなど、英知を集めて結論を出す必要があります。理想と現実のギャップをどう埋めるかが、政治家に課せられた使命です。

 解散におわす首相

 5日の読売{編集手帳}は「<劇場型>政治の火付け役で看板役者でもある小泉首相の表情が、雇用危機に株価急落と、容易ならざる経済情勢に呻吟しているように見える。改革の旗が揺らげば観客は逃げ、改革だけで押せば敵役がどっと繰り出す。小泉改革お披露目の秋は、綱渡りで幕が開いた。依然高い人気だが、舞台の床下は奈落でもある。ご用心」と手厳しくコメントしました。これに答えるように小泉首相は6日、「特殊法人改革など難しい問題は独断でやる。国会で追いつめられたらそのときは覚悟を決める」と衆院解散をにおわして決意を表明しました。確かに国民世論の“奈落”が開けば小泉改革は終わりです。かといってこの非常事態下で国政に空白を作る解散は避けるべきです。

 自民党全体の正念場

 「雇用国会」では入念な雇用対策のほか、株価浮揚のための証券税制改正と「銀行等保有株式取得機構」の設置法案などを早急に成立させ、思い切った景気対策も打たなければなりません。待ったなしの緊迫局面です。このように、首相に限らず自民党全体が正念場を迎えた秋の政局で、私は政策遂行に精一杯がんばり、国民の期待に応えたいと思っています。