第259回(9月1日)小沢傀儡政権は阻止 萎む大連立構想
  8月29日の民主党代表選を経て野田佳彦財務相が30日、衆院の首相指名選挙で第95代の首相に選ばれました。未曾有の大震災と原発事故の大人災。震災復旧も事故収束の展望もないまま、国民の厳しい目線、苦悩からかけ離れて争われた「脱小沢」、「親小沢」の醜悪な茶番劇。決戦投票で2位以下連合が1回目トップの海江田万里経産相を破り、“小鳩・傀儡政権”を阻止したことは国民にとってせめてもの救いでした。同党の小沢・鳩山・菅の「トロイカ(3頭立て馬車)体制」に終止符が打たれ、中堅世代が政治刷新を目指す“野田丸”が船出します。「怨念を超えた政治。ノーサイド」を唱える野田氏は幹事長に親小沢の輿石東参院議員会長を起用し、党役員人事・組閣で小沢グループや中間派を処遇。党内融和を図りましたが、候補乱立で亀裂が深まった同党の挙党態勢確立は容易ではありません。自民党は大震災復興の第3次補正予算案の成立には協力し、その後は衆院解散・総選挙に追い込みますが、民主党代表選で各候補は争点の増税問題、マニフェスト見直しなどで「小沢支配」を意識して消極発言に終始。特に海江田氏が「3党合意は白紙にしてもよい」と平然と述べたように、小沢氏の「二重権力」は復権しつつあります。野田首相は早期解散を否定しましたが、九月の臨時国会から来年度予算案審議の1月通常国会にかけて与野党の攻防は激しく波乱含みです。さらなるご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

脱小沢、親小沢で5氏が乱戦
  ドン栗の背比べ的な国民不在の民主党代表選を振り返ってみましょう。いち早く出馬を表明したのは当選3回の若手・馬渕澄夫前国交相。次いで財務省など霞ヶ関(官僚)が期待する野田財務相、ベテラン議員や農水族が推す鹿野道彦農水相、先の代表選に出馬経験のある樽床伸二元国対委員長、小沢鋭仁元環境相の5氏でした。辛口の政治評論家・小林吉弥氏は、馬渕、鹿野、野田氏、キーマンの小沢一郎元代表の4氏の名前から1字を取って「馬鹿野郎の争い」と揶揄し、仙谷由人代表代行も「2級グルメの顔触れ」と批判しました。だが、最終局面の23日、各紙世論調査で人気抜群の前原誠司前外相が「挙党一致で日本の危機を救い、国難を乗り越える先頭に立ちたい」と手を挙げたのに対し、小沢氏が鳩山グループの海江田万里経産相を「対抗馬」として支援すると発表。推薦人の20人集めに失敗した樽床、小沢(鋭)両氏は断念して構図は一変し、代表選は「脱小沢」と「親小沢」が激突する5氏の乱戦となりました。前原氏は当初、05年の代表選で野田氏から支援を受けたお返しに今回は立候補を取りやめ、野田氏支援を匂わせていました。3月に在日韓国人からの政治献金が発覚し「謹慎中」の身でもあり、菅代表本来の任期である来年9月までの「つなぎ代表」ではなく1年後の本格政権を目指し一時は出馬を辞退していたものです。

野田氏・執行部は大連立志向
  ところが、野田財務相は出馬表明と同時に増税路線を唱え、「財務省の言いなり」と批判され、自公両党との大連立構想も谷垣禎一総裁から、「外交など政策面で考え方が違う。是々非々で行く」と閣外協力の「パーシャル(部分)連合」を主張されて頓挫しました。この萎んだ大連立構想が、前原氏を急遽出馬に促した背景にあります。野田氏は8月13日のテレビ東京番組で「救国内閣を作るべきで、連立だ。でないと政治は前進しない」と明言。終了後の記者会見でも「自民、公明両党の皆さんのご意見を踏まえて対応しないと第3補正予算案や来年度予算案もある」と語り、大連立志向を説明しました。ねじれ国会の対応に苦労した野田財務相には野党に低姿勢を示すことで国会運営を楽に進める狙いがあったようです。岡田克也幹事長は首相退陣3条件の3法案成立では、マニフェスト(政権公約)の大幅見直しに応じてきており、翌14日に「最終的に大連立の考えはあっていい。その可能性があるなら、首相指名選挙は9月に臨時国会を開いて処置すればいい」と記者団に語って大連立に賛同し、前原氏も同日のフジテレビで「(野党幹部に)閣内に入って頂くのがベストだ。野党の協力を得ないと国会は前に進まない」と大連立に賛意を表明しました。

増税・大連立に反対の小沢陣営
  しかし、玄葉光一郎政調会長は「大連立は望ましいが、そうたやすいことではない。周到な準備をしながら進めるべきだ」と慎重論を唱え、菅首相の側近・北沢俊美防衛相は「大連立は数が足りないから仲良くしようといって出来る話じゃない。出来れば菅内閣がこんなになるわけがない」とけん制しました。「自公両党と組むのは民主党の主要政策見直しを是認することだ」(小沢氏側近)、「政権交代の原点をもう一度思い出せ。震災復興は増税でない方向で結論を出すべきだ」(鳩山前首相)と小沢、鳩山両グループは、大連立は野党からマニフェストの一層の見直しや衆院解散・総選挙の時期について注文が付けられるなど、新政権が事実上解散権を縛られることになりかねないと、反発を強めました。野田氏では、大連立や増税路線には反対する最大勢力の小沢グループが担ぐ候補者には勝てそうもなく、人気も盛り上がらないため、菅政権を支えた岡田執行部や「脱小沢」陣営では非主流に転落する危機意識から、「来年の本格政権どころか、今回が前原政権実現のラストチャンスになる」との声が脱小沢陣営内に高まり、前原氏は周辺に強く推され出馬の決意を固めました。

自民内は協調派、強硬派が対立
  一方、自公両党は、「衆院小選挙区制の下では、大連立は例外中の例外」(谷垣総裁)、「基本政策について何の協議もしていない。今直ちに前向きに検討するとは言えない」(山口那津男公明党代表)といずれも慎重姿勢でした。自民党内は菅退陣後、出来るだけ早く衆院解散・総選挙に持ち込む基本戦略で一致していますが、特例公債法案の処理などをめぐり民主党執行部と折衝に当たってきた大島理森副総裁や石原伸晃幹事長は、第3次補正予算案や来年度予算編成でも協力する「協調派」で、国民の信頼を維持し、民主党マニフェストの「撤回」を理由に解散を迫るというのが「選挙への近道」(大島氏)と考えています。これに対し町村信孝元官房長官や伊吹文明元幹事長ら派閥領袖、ベテラン議員は「強硬派」。「協調は復興対策に限定し、対決姿勢を強めるべきだ」との意見が根強くあり、「協力は国会をスムーズに運ぶのに利用されるだけで、民主党に解散する気は全くない」と反発。町村氏は特例公債法案の衆院本会議採決を退席・造反したほど、党内対立の芽が膨らみました。公明党も、自民、民主両党の間に埋没する大連立には否定的で、閣外協力を望みました。

結束固め勝ち馬に乗る小沢陣営
 「ポスト菅」ダービーのキーマンは、120人の最大グループを率いる小沢一郎元代表。菅首相が続投に執念を燃やした時は、「民主党員の決断で、(自ら)内閣不信任案の再提出」を示唆しましたが、菅退陣が明確になった8月9日からは、側近議員に「選択の間口を広げておけ」と各候補への"悪口禁止令"を出し、自派議員との会食では、「じっくりと候補者を見定めよう。いざとなったら団結だ」と言い渡しました。小沢氏はかつて、海部政権末期の自民党幹事長当時、海部退陣の後任に宮沢喜一、三塚博、渡辺美智雄の3総裁候補を自分の事務所に呼びつけ、面接した剛腕政治家。菅政権の「脱小沢」路線から復権するにはまたとないチャンスですが、資金管理団体「陸山会」の土地取引事件での初公判が10月6日、小沢氏本人の被告人質問が来年1月の通常国会前に実施されるとあっては、師匠の田中角栄氏同様キングメーカーに徹し、判決後の出番を大人しく待たざるを得ません。身近な参院議員が主催した8月10日の講演会には鳩山前首相グループを含め150人を集めて結束を誇示し鳩山氏とも連携を深めました。「数は力」をバックの小沢陣営にとって候補者の乱立は大歓迎で、頼ってくる候補をじっくり品定め「勝ち馬に乗る」構えでした。

二重権力是認の小沢氏詣で続々
  小沢氏接近のトップを切ったのは「怨念政治の打破」を唱える野田財務相。6月上旬から小沢氏側近と会って協力を求め、9日には人を介して「明日、『月刊文春』に論文(政権構想)を発表します」と小沢氏に支援要請のメッセージを送り、10日の衆院財金委では税制改正への姿勢を問われ、「将来世代をおもんばかった政治を実現しなければならない。覚悟と段取りを持ってチャレンジしたい」と増税路線を明確にし、小沢陣営と距離を置いたものの、反発に遭うと発言をトーンダウンさせました。小沢氏詣でに最も熱心だったのが馬渕前国交相。6月2日の退陣表明で菅首相が「政権を引き継ぎたいとした『若い世代』は自分だ」と位置づけ同月下旬と8月上旬の2度も小沢氏を訪ね、7月下旬の小沢氏側近の衆院議員主催の勉強会に出席し復興増税反対で足並みを揃えました。樽床、鹿野、小沢(鋭)各氏らも出馬挨拶と称し小沢氏頼みで擦り寄っていましたが、小沢氏のメガネに適ったのは鳩山グループの海江田氏。同氏は、菅首相と原発問題で確執を続けながら辞任のタイミングを失した上、国会答弁中に辞任問題で涙ぐむなどひ弱な体質が評価を落としました。その焦りからか、小沢氏の歓心を買おうと、小沢氏の「党員資格停止」の処分解除を真っ先に言い出して擦り寄り、小沢氏支援の決定後は「マニフェストが弊履のごとく捨てられている」と菅政権を批判、「小沢先生のお力を借りなければ日本は救えない」とまでゴマを擂り、組織票では断然トップに躍り出ました。しかし、小沢頼みは「両刃の剣」で一旦小沢氏の力を借りれば小沢氏が生殺与奪を握る「二重権力」政権に戻る恐れがありました。


2位以下連合が海江田氏破る
  前原氏もしっかり、小沢氏と不仲の渡部恒三最高顧問の間を取り持って合同誕生会復活の音頭を取ったり、小沢・前原両氏を支援する稲盛和夫京セラ名誉会長に協力を要請するなど関係修復に懸命でした。だが、告示直前の前原・小沢会談で小沢氏の人事要求を前原氏が拒否したため対立は逆に深まり有力候補から脱落しました。代表選は「親小沢」が推す海江田氏が143票でトップ、野田氏102票、前原氏74票、鹿野氏52票、馬淵氏24票の順。決選投票は2位以下連合の野田氏が215票、海江田氏が177票で野田氏が大勝しました。前原氏が第1回投票で3位に落ちたのは、在日韓国人が代表を務める法人から29万円の献金があったことが新たに発覚、前原氏が首相に就任すると臨時国会で野党の激しい追及を受け、衆院解散が早まると党内中堅・若手が警戒したことが挙げられます。挙党態勢の構築を目指す野田新首相は、幹事長に小沢氏と最も近い輿石氏を参院議員会長兼務のまま起用、幹事長代理には中間派の樽床元国対委員長、政調会長に前原元外相、国対委員長に鳩山グループの平野博文元官房長官を充て、「全員野球」体制を整えました。

予算編成、日米会談で正念場
 さて、野田首相が取り組む課題は、第3次補正予算案と来年度予算案の編成、9月下旬の国連総会出席を兼ねた日米首脳会談です。レームダック化した菅政権は2ヶ月間の「外交空白」を生み、9月上旬予定の日米首脳会談は、代表選待ちで延期されました。8月8日に来日の潘基文国連事務総長からも、9月下旬に国連総会での「脱原発の演説」の要請を受けており、新首相は下旬に日米首脳会談を開く段取りです。日米間では、昨年の日米安保条約改定50周年を機に日米が合意していた新「日米共同宣言」の策定が、鳩山前政権の米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設方針の迷走で日米同盟が深く傷つき、策定断念の事態になっています。日米両政府が6月に発表した新たな日米共通戦略目標、つまり中国や北朝鮮のけん制を念頭に、日米韓、日米豪、東南アジア諸国連合との連携など「多層的な地域のネットワークとルール作り」を謳った新戦略目標も、日本側の事情で実効性を挙げられないままです。米国は3・11の東日本大震災発生では大々的な「トモダチ作戦」の支援を展開してくれましたが、日米経済連携の象徴として米側が重視する環太平洋経済連携協定(TPP)への参加方針決定も菅政権は先送りし、米側の不信感は高まっています。新首相がこれらの懸案を9月末訪米でどう決着するか。外交でも正念場を迎えています。


陸地と離島を瓦礫で埋立て提言
  ところで、東電福島第一原発の事故で飛散した放射能物質による汚染被害は前号でも詳しく紹介しましたが、政府の原子力災害対策本部は17日、福島県の子供約1150人の45%に「問題ないレベルだが甲状腺被曝が確認された」と発表しています。自公民3党は終盤国会に「飛散放射能物質による環境汚染特措法案」を提出、成立させました。国が汚染の著しい地域を指定し、土壌や草木、建物の除染のほか、瓦礫の処理を実施する内容で、原発事故による放射能での環境汚染に対処する初の法律です。同法は「汚染による人への健康影響を低減する」ため、土壌などの除染が必要な地域を環境相が「特別地域」に指定。国は関係自治体などの意見を聞いたうえで実施計画を策定し、除染します。また、汚染のレベルが特別地域よりも低い場所は、汚染状況を調査・測定する「重点調査地域」に指定でき、同地域の除染は、都道府県や市町村が担い、必要に応じて国が代行する仕組み。除染や瓦礫処理の費用は「原発事故の賠償責任の対象」として、東電など原子力事業者が負担することにしています。異臭を放つ大震災の瓦礫やヘドロは3割近くが依然、道路わきの空き地に積み上げられたまま。私は除染後の瓦礫を気仙沼市と離島・大島を結ぶ埋め立て架橋に使うなど、三陸海岸と離島間の埋め立て事業、漁港整備などに活用したいと考えています。