第258回(8月16日)遂に続投断念 自公協力で法定促進
 8月15日は戦後66年の終戦記念日。あれから半世紀以上を経て起きた東日本大震災は明治維新、第2次大戦敗北と並ぶ「3大国難」。前2回が復活・再建、繁栄をもたらしたように今回の国難も立ち直れるかどうか。延長国会は先月末の第2次補正予算に次いで、8月末の会期内に特例公債法案、再生可能エネルギー法案が成立する見通しです。内閣崩壊同然でも菅首相は、「特例公債法案が不成立なら、9月の臨時国会も続投」と側近に漏らし、政権にしがみついてきましたが、「退陣3条件」が充たされたため、ついに延命を諦めたようです。民主党執行部は月内か、9月早々に後継代表選を実施する方針です。党内では既に候補者が数多く名乗り上げ、「ポスト菅」争いが激化しています。遅々として進まぬ震災復興と全国に広がる福島原発のセシウム汚染に国民の怒りは際限なく高まるばかり。高度成長後のバブル崩壊と、経済など失われた20年に諸外国は「国民1番、経済2番、政治3番」と酷評しました。自公両党は国際金融等の動向を踏まえ、国民の信頼回復と「政治のガラパゴス化」解消のため、体たらく政権に惜しみなく協力し、重要法案の法制化を促進してきました。菅首相が暴発的な「自爆解散」を断行する事態は消えたと思いますが、猛暑の政局は予断禁物です。皆様のご健勝を祈るとともに、ご支援をお願い申し上げます。

中国鉄道省に似た電力界の体質
 日本の原子力業界は、わずか4年間に日本の4倍の9千キロ以上に達した中国の高速鉄道と共通項があります。中国では浙江省温州市での高速鉄道事故を機に、鉄道省「解体論」が急浮上しました。初めは信号故障を雷による「天災」とし、批判が高まれば信号操作ミスの「人災」に変え、事故車両を壊して埋めたことは「復旧作業のため穴に置いていただけ」と掘り出して「証拠隠滅の事実はない」と弁明、原因不明のまま2日後に運転を再開、捜索打ち切りを決めた後に女児が救出された――。こんなデタラメが出来るのも、鉄道省は国務院直轄で、整備計画から建設、運行、点検まで一貫して管轄し、監督機能として独自の警察組織も持っているからです。日本、ドイツ、カナダなどの技術を導入しながら、中国は「独自の技術で時速350キロの高速鉄道を開発した」と称し、世界各国に特許を申請したと言うから呆れたものです。これに対し、45年間無事故を誇るJR日本の新幹線は東北大震災でもビクともせず、世界で驚嘆されました。ところが、官・業・学が三位一体となった「原子村」は、天下りなど癒着関係と隠蔽体質が多年の「安全神話」を産み、未曾有の原発事故をもたらしました。規制のブレーキを踏むべき原子力安全・保安院が、経産省の傘下にあって業者と同じ立場で原発推進のアクセルを踏む。中国と同体質です。

ベント遅れ農水産物の被害拡大
 東電はJRと同じ公共機関でありながら、放射性セシウムを東北の空に撒き散らし、汚染稲藁を牛に与えた畜産農家は大打撃を受け、風評被害は全国に及び、牛肉を暴落させました。政府が牛の出荷停止を決めたのは福島、宮城、岩手、栃木の4県。原子力損害賠償紛争審査会は、北海道、東北、関東甲信越、東海山陰など17県の肉牛農家に賠償を認める方向です。しかも、東電は1日、福島第一原発1,2号機の原子炉建屋の間にある主排気筒付近で、毎時10シーベルト以上の放射線を測定したと発表しましたが、事故後に測定された放射能は最高値で、40分も浴びると確実に死に至る量。10シーベルト(1万ミリシーベルト)が観測された付近は、事故時に原子炉格納容器内の気体を外に逃がす配管。地震直後の爆発事故を防ぎ、格納容器の圧力を逃がすために行ったベント(排気)作業で、強い放射性物質が配管を流れるうちに付着した可能性が高いと言います。もともと東電幹部は「ベントを行えば廃炉に追い込まれる」と廃炉の損失を意識し逡巡していましたが、理系に強い菅首相が現地に乗り込み、「水素爆発を避けるため、早急にベントを行え」と命じ応急措置を講じました。だが、東電側がもたつき、ベントが遅れている間に水素爆発が起こり、メルトダウン(炉心溶融)が進み、今日の惨状となりました。心配されるのは、放射能を吸収し易い稲藁ばかりでなく、「死の灰」ならぬ「死のセシウム」が風に乗って日本全国の農産物にも汚染が拡大している可能性があることです。既に静岡の茶や松坂牛の汚染が報じられ、農水省はコメの収穫前と収穫後の2段階で放射性物質の検査を実施する方針を固めました。あらゆる農水産物の検査をしない限り国民の不安は解消されません。

首脳更迭、規制と推進分離し新庁
 さらに恐るべきことは、経産省原子力安全・保安院が07年8月の中電浜岡原発のプルサーマル発電に関するシンポジウムの際、中電に対し、参加者の動員と会場での発言を依頼していたことが発覚したことです。会場での質問が反対ばかりとならないよう、地元住民に原発に肯定的な発言をして貰うための措置だそうですが、九電玄海原発と同様の「やらせ」を事実上指示し,同じく東北電、四国電でも「やらせ」を主導していたと言います。政府は3日、経産省の保安院を同省から分離して原子力安全委員会と統合し、「原子力安全庁」(仮称)を環境省の外局として新設。閣僚が長官を務め、経産省の影響力を排除して安全規制を強化する行政組織再編案を固めました。新庁は新政権で発足する予定です。海江田経産相は4日に記者会見し、松永和夫同省事務次官、寺坂信昭同省原子力安全・保安院長、細野哲弘同省資源エネルギー庁長官の3首脳を更迭すると発表しました。海江田氏は「任命権者である私が1カ月前から検討し、2日に首相に報告した」とわざわざ会見で首相の介入を否定しましたが、9月上旬に辞める3首脳は勧奨退職の扱いで、1千万円以上も退職金を上乗せ。しかも後任人事は改革派ではなく、むしろ原発推進派の順送り人事であったため、「更迭ではなく単なる定期異動」と海江田人事は評価を落としています。

原子力損害賠償支援機構法成立
 東電と経産省に不信感を強める首相は更迭人事には一応満足した様子。広島原爆の日の6日、広島市の平和記念式典で、「原子力の安全神話を深く反省し、原発に依存しない社会を目指す」と挨拶、「脱原発依存社会」は個人発言でなく内閣の方針であると会見で明言しました。民主党内では「脱原発」よりも、時間軸によって原発の依存度を低下させる「減原発」の慎重論が起きています。東電福島原発の賠償を支援する「原子力損害賠償支援機構法」は3日、自公も賛成し成立しました。同法は原子力事業者(原発を持つ電力など11社)が出資して設立する支援機構が、被災者の賠償に当たる東電の資金繰りを支援する仕組み。政府は2兆円分の交付国債を発行し機構の運営を支えます。自公民3党は採決前に@被害者救済に対する国の責任明文化A電力会社の無限責任などを定めた原子力損害賠償法の改正B国、東電、株主など利害関係者の負担のあり方見直し――を条文に追加するよう修正しました。賠償額が青天井となり電力料金や税金に跳ね返るのを避けるためです。

広島原爆20個分放射能が飛散
 朝日の6日付「天声人語」は「広島と長崎での追跡調査は、被曝に『これ以下なら安全』と言う量はないと教えている。国会で説明した児玉龍彦東大教授によれば、福島からは広島原爆20個分(ウラン換算)の放射性物質が飛散した。残存量も遙かに多く、影響の広さ、長さは知れない」と報じています。放射性セシウム汚染の稲藁を食べた17道県産の約3500頭の牛肉について、農水省は流通在庫を全て、総額約860億円で買い上げると発表しました。出荷停止の福島、宮城など4県のほか、風評被害を受けた岩手県のブランド「前沢牛」は1頭100万円が50万円の半値に下落しています。主食のコメも千葉県の収穫前検査はパスしましたが、2段階の検査次第では出荷停止の恐れもあり、在庫の古米・古々米で食いつなぐとなれば米価も高騰し食生活は大混乱します。太陽光パネルを張って再生エネを確保するどころか、来年は休耕田を急ぎ開墾する必要に迫られそうです。

陸軍並み隠蔽・虚偽の情報操作
 6日夜のNHKスペシャルは、陸軍の情報部隊が広島へのB29原爆投下機「エノラ・ゲイ」の出撃暗号無線を到着3時間前に、長崎への「ボックスカー」の暗号無線は5時間前にキャッチし、極秘情報として参謀本部に上げたが、参謀本部は単発の偵察機ぐらいに軽く見て、空襲警報を鳴らさなかった。このため勤労女学生らは防空壕に入らず倒れた――と報じました。広島、長崎の原爆死者は計20万人を数えましたが、防空壕に避難していれば半数の10万人もの尊い命が救われたはずです。東電幹部も陸軍参謀本部と同じで、国民が正確、迅速な情報開示を求めているのに対し、「国民に不安を与える」との配慮からか、言論統制に徹し情報の隠蔽、虚偽説明に明け暮れ、「レベル4ではなく、チエルノブイリと同じレベル7で放射性物質の放出は1兆倍だった」と発表したのが1ヵ月後。メルトダウン(炉心溶融)の公表は2カ月後。毎時10シーベルトとの放射線測定の発表も今月に入ってからと言った具合で、平然と捏造、改ざんを思わせる情報操作を続けてきました。


「政治主導」に官僚は面従腹背
 「天声人語」が言うように原爆20個分の放射性物質が福島原発から飛散したなら、被害は全国に及び、野菜、魚、牛肉、コメの出荷制限に止まらず、風評被害で農水産物輸出は全面ストップします。まさに「人災」で、国民生活を混乱、不安に陥れた責任は、適切な対応策を示せなかった菅内閣にあります。菅・民主党政権が「政治主導」を唱えたため、官僚は面従腹背で大震災が発生後もソッポを向き、6月2日に首相が事実上の退陣表明をした後は「レームダック(死に体)内閣に用はない」とばかり官邸に寄り付かず、役人の首相詣では半減しました。農水省は事故8日後、「牧草は事故発生前に刈り取り保管したものだけを使う」と通知しながら、「稲藁は稲刈り後の昨年秋に屋内に運び保管されていると考えていた」と弁明しており、あまりの「現場を知らない行政」に酪農家の怒りは高まりました。閣僚や官僚への威令が届かず求心力を失った内閣は総辞職する以外にありません。

目玉政権公約取り下げ3党合意
 「民主党は『子ども手当』で政権を取り、我が党はこれで負けた。『子ども手当』から『児童手当』に戻ることを明記するのが大事」――。民主党の目玉公約「子ども手当」は今年度限りとし、来年度以降は自公政権時代の「児童手当」を復活・拡大させる――ことで3党が合意した3日夜、自民党の石破茂政調会長はこう記者団に胸を張りました。谷垣禎一総裁も4日の記者会見で「財源的にも実現不可能なバラマキ政策で政権を取りながら、看板政策を降ろし、政権の正統性は大きく損なわれた」と批判しました。3党合意は、子ども手当を9月末まで続ける根拠の「繋ぎ法案」は廃止し、新たに特別措置法案を今国会に提出して成立させる。年度末までは子ども手当の仕組みを事実上維持するが、来年度からは「児童手当法の改正を基本とする」ことを特措法案の付則に明記する、というものです。現行の子ども手当は、民主党公約の半額の1万3千円ですが、10月以降は、@0〜3歳未満に1万5千円A3〜12歳の第1、2子に各1万円、第3子以降に1万5千円B中学生に1万円――をそれぞれ支給することが合意済みでした。所得制限については公明党の「坂口力元厚相案」、「山口那津男代表案」など色々ありましたが、来年度から額面収入960万円程度とする方向で、所得制限所帯には月額9千円程度の子ども手当を減額支給しますが、それを減額支給とするか、税額控除とするかは引き続き協議していく方針です。

残る3Kも民主党が見直し合意
 自民党内には「バラマキ4K」のうち子供手当ては決着しても、高速道路無料化、高校無償化、農業個別所得補償の見直しの残る3Kについて、民主党がマニフェスト(政権公約)の誤りを認め、撤回することが特例公債法案に協力する前提であるとし、死に体内閣のまま衆院解散に追い込むべきだとの強硬論が根強くありました。しかし、公明党は支持母体の創価学会が地方統一選の疲れから総選挙を嫌っている上、高校無償化には基本的には賛成で、子供手当ての担保が得られれば、第3次補正予算の編成に与野党が協力して取り組むことが重要と判断、自民党にも柔軟な対応を促してきました。このため、9日の3党幹事長会談では@高校無償化と農業個別所得補償は12年度以降に制度を見直すA高速道路無料化は12年度予算の概算要求に計上しないBこれらと子供手当て見直しによる歳出削減は11年度補正予算で減額補正すると特例公債法案の付則に明記する――で3党が合意、11日に同法案は衆院を通過、24日にも参院本会議で成立します。再生可能エネルギー法案も10日の連合審査を経て3党が修正協議を終え、盆明け19日に衆院通過、26日に成立の運び。首相が退陣3条件に挙げた3法案は全て今国会成立することになりました。

ポスト菅に多数出馬し激戦必至
 民主党執行部は、28日にも両院議員総会を開いて代表選を実施したい考えですが、遅れる場合は9月中旬に開く臨時国会で新政権の首相指名選挙を行う方針です。代表選への出馬が取り沙汰されているのは、野田佳彦財務相、前原誠司前外相、鳩山前首相が推す海江田経産相,ベテランが推す鹿野道彦農相、仙谷由人官房副長官、若手の樽床伸二元国対委員長、小沢鋭仁元環境相、馬渕澄夫前国交相ら。このうち前原氏は代表経験者、樽床氏は2回目の挑戦です。10日発売の「月刊文春」に野田氏は「我が政権構想」を、海江田氏は「覚悟の手記」を、馬渕氏は「代表選 一匹狼の挑戦状」と題する各手記を発表。この中で野田氏は、財政危機下での財政規律を維持するために必要な消費税の増税や原発事故の収束に向けた施策などを打ち出しました。増税路線に樽床氏は慎重、馬渕氏は反対しており、代表選では激しい論戦が展開されそうです。小沢一郎元代表は10日、自グループ約150人を集めて会合を開き結束を固めましたが、小沢、鳩山両Gの動向が代表選の鍵を握っています。菅首相は、8日に来日した潘基文国連事務総長から「9月下旬に開く国連会合に菅首相本人が出席し、原発事故の教訓を世界に説明してほしい」と要請され、訪米に意欲的でした。だが、各紙の内閣支持率は14〜18%に急落。国民にレッドカードを突きつけられた首相は10、11日の国会答弁で辞任の意向を重ねて明言しました。