第255回(7月1日)延命に燃え尽きる首相 脱原発解散狙う
 通常国会は8月末まで70日間延長され、与野党の攻防は今年度第2次補正予算案と特例公債法案の成否に絞られてきました。菅首相は加えて再生エネルギー法案の成立にも意欲を示し、「燃え尽きる覚悟」で続投に執念を燃やし、かつて自民党の挙党協(挙党体制確立協議会)が追い詰めた三木武夫政権以上の粘り腰で「菅降ろし」に対峙。民主党のメルトダウン(液状化)と迷走は極限状態に達しています。さらに首相は、小泉純一郎政権が「郵政民営化」で国民の信を問い、大勝利したのに倣い「脱原子力」を争点に掲げてイチかバチかの衆院解散を断行する姿勢をチラつかせて延命工作に懸命。あわよくば2年先の衆参ダブル選挙まで視野に入れています。自公両党は「退陣表明した首相とは新たな課題を議論できない」(逢沢一郎国対委員長)と延長に反対しましたが、国民から大震災や原発事故対応に消極的と見られないよう法案修正には積極的に対処、参院への首相問責決議案提出のタイミングを計るなど菅退陣に追い込む戦略を構築しつつあります。梅雨空と同じ不快指数が高まる政局ですが、よろしくご指導、ご支援下さるようお願い申し上げます。

新総理担当が不満で合意拒否
 「年末、120,50,70」――会期延長問題は土壇場の最終日まで2転・3転しました。首相が「通年国会。年末まで延長」を唱えたのに対し、首相の首に「鈴を付ける」役回りの岡田克也幹事長は「大幅延長と、どこかの段階での首相交代は矛盾しない」と区別し「60日ルールで衆院再可決」を視野に4カ月延長を主張。21日の3党最終折衝では延長幅を「50日間」に圧縮し、@第2次補正予算と特例公債法を成立させるA再生エネ法案を採決するB第3次補正は首相退陣後の「新総理」が担当する――との内容を文書で示し、6月末の首相退陣にこだわっていた自公両党幹事長から大筋の了解を取り付けました。ところが、それまでだんまりを決め込んでいた首相は、再生エネ法成立の確約がないことや「3次補正は新総理」の文言を不満とし、「新体制」に差し替えるよう指示するなど3党合意を拒否。平田健二参院幹事長が「特例公債法案を通すのが先だろ。再生エネなんて何を言っているんだ。予算の執行が出来ない」と記者会見で公然と首相を批判するなど政権幹部の不満は沸騰しました。これには自民党の石原伸晃幹事長が18日の講演で「民主党の玄葉光一郎政調会長が自民の石破茂政調会長に『何とか(特例公債法成立へ向けた)3党合意を成立させていただいて、首相が辞めないと言ったら私も辞表を出します』と言ったそうだ。岡田氏も『私も暇になるからよろしくお願いします』と言った。(2人とも)差し違えるつもりかも知れない」とバラしたことも、同党の迷走に輪を掛けたようです。

不信任否決2週後に反転攻勢
 「こんなにうれしい申し入れはありません」――。首相は6月14日夜、自民党の河野太郎氏ら超党派議連の「エネシフジャパン」(脱原発勉強会)が、太陽光など自然エネルギーによる電力の買い取りを電力会社に義務づける「再生可能エネルギー電気調達特別措置法案」の早期成立を申し入れると、相好を崩して喜び、翌15日に加藤登紀子歌手らが出席した市民団体会合で、同法成立を期待するソフトバンクの孫正義社長が「首相の粘り腰で後10年間続投して欲しい」と持ち上げたのに対し、「永田町には菅の顔を見たくないと言う政治家が沢山いる」と述べ、「この顔を見たくないなら」を3度繰り返した揚げ句、「早く法案を通して頂きたい」とユーモアたっぷりに久々の菅スマイルを見せ益々高揚しました。自民党の谷垣禎一総裁は「立法府を侮辱するにも程がある」と怒り、「首相退陣こそが国益」と6月末退陣を迫りました。同法案は大震災発生の3月11日の閣議で提出を決めながら1度も審議されていませんが、超党派議員約2百人が陳情したことから、内閣不信任案否決の約10日後に、首相は同法案の成立を反転攻勢の切り札に活用したものです。

補正・再生エネ道筋が私の責任
 首相は14日の閣議で、東電福島原発事故の損害賠償を助ける「原子力損害賠償支援機構法案」を決定するとともに、閣僚懇で第2次補正予算案の編成を野田佳彦財務相に指示、同日の参院復興特別委では「今回の事故で原発のコストも大きく上がる。将来コストが下がる再生エネルギーを促進する法律は極めて重要」と強調、「補正予算案、再生可能エネルギーの道筋、提出法案には責任を果たす。その上で次の世代に責任を引き継いでいきたい」と明言。27日の記者会見でも、自らの辞任条件に「第2次補正、再生可能エネ、特例公債」の3法案成立を挙げ、これら法案が成立する夏以降まで続投する意欲を示しました。第2次補正は、被災者の二重ローン軽減や、福島原発事故の賠償関連費用などに限る約2兆円規模とし、首相はわざと「第1・5次補正」と表現、本格的な復興予算を編成する「第3次補正」と区別して野党攻勢をかわそうとしています。その実、既報のHP通り、8日夜の1年生議員との懇談では大連立を否定し、「復旧・復興を2年間しっかりやって(衆参)ダブル選挙にするのが私の使命だ」と公言。内閣不信任案否決後はメディアも敵に回して20日以上も記者会見を開かずもっぱらネット番組に出演。19日は仙台、郡山(福島)など4会場と首相官邸をテレビ中継で結び、自然エネルギーをテーマに「国民対話」を開き、「私にキーワードは2つある。諦めないことと参加民主主義だ。私は総理の立場だが、物事を変えるには力、権限と中身がないと変えようがない」と“死に体(レームダック)内閣”でないことを強調、続投への理解を求めました。

バックに黒岩知事、孫正義社長
 首相は5月末のG8首脳会議(仏ドービル・サミット)や経済協力開発機構(OECD)の講演で、「太陽光や風力など自然エネルギーの割合を2020年代の出来るだけ早い時期に20%へ拡大する」方針を表明、浜岡原発の停止要請に続いてエネルギー政策の見直しを発表するなど「脱原子力」の姿勢を強くにじませました。これは先の統一地方選で神奈川県知事に初当選した黒岩祐治氏(元フジテレビキャスター)が「太陽光発電パネルを4年間で県内の200万戸に普及させる」と公約に掲げ、当選後の日経新聞のインタビューで「家庭などのパネル設置を信用保証など資金面で後押しする県出資の会社を8月までに設置する」との方針を明示、次世代送電網(スマートグリッド)の整備と合わせた町作りに意欲を示しことに、ソフトバンクの孫正義社長が痛く感動したのが出発点。孫氏は素早く黒岩氏と会ったうえ、各県知事に「自然エネルギー協議会」の設置を働きかけました。

35知事が自然エネ協7月設置
 これには被災地の福島はもとより、北海道、神奈川、愛知、大阪、熊本など35道府県の知事がいち早く参加を表明、7月13日に同協議会の設立を決めました。ソフトバンクは運営子会社を設立し、協議会参加の自治体から用地の提供を受けるなどで、太陽光発電所事業を行う計画です。孫社長は訪欧前の首相と官邸で3時間半も懇談し、「改革派知事らの賛同も得た。太陽光など再生可能エネルギーの促進を図るべきだ」と進言、これに飛びついた首相が担当の海江田万里経済産業相とはろくに調整せずドービル・サミットで「再生エネルギーの20%へ拡大」をブチ上げました。大震災の復興担当相には27日、松本龍・環境相兼防災担当相の横滑りが決定しましたが、一時は「孫氏起用説」が流れたのもこうした経過があったからです。自民、民主の大連立を警戒し、郵政改革法案の成立に執念を燃やす国民新党の亀井静香代表は復興担当相人事に絡め大幅改造に着手するよう進言、自らは副総理兼復興担当相で入閣し「平成の後藤新平」と呼ばれたい気もあったようです。

自民から一本釣りの禁じ手使う
 しかし、首相は亀井氏に「副総理で入閣」だけを打診し、断られると特別首相補佐官に取り込み、原発担当の細野豪志首相補佐官を原発事故収束・再発防止担当相に抜擢。人数枠の点からはみ出す菅内閣の目玉・蓮舫行政刷新担当相を解任し首相補佐官に任命。行政刷新担当相は枝野幸男官房長官に、松本氏が兼務していた環境相は江田五月法相に兼務させました。この玉突き人事のあおりで馬淵澄夫首相補佐官は退任。ほかに、復興担当副大臣に平野達男内閣府副大臣、同政務官に阿久津幸彦内閣府政務官を起用。被災3県に置く現地対策本部長には、津川祥吾国交政務官(岩手)、末松義規内閣府副大臣(宮城)、吉田泉財務政務官(福島)を充てました。このように小幅改造に終わりましたが、極めつけは亀井氏の進言を入れ、自民党の浜田和幸参院議員(鳥取選出)を復興担当政務官に起用し、同氏が自民を離党したことです。狙いはねじれ国会切り崩し策ですが、敵の懐に手を突っ込み一本釣りの“禁じ手”を使ったことに、大島副総裁ら自民党執行部は「我が党に対する挑戦だ」とカンカン。「首相の言う3条件には応じない」と対決姿勢を強めています。


 三木氏以上のバルカン(菅)政治家
 菅首相は、三木武夫元首相、細川政権の武村正義元官房長官(さきがけ)と並ぶ「バルカン政治家」と称されましたが、政権に懸ける執念は三木氏より遥か上の「バル・菅」政治家です。三木氏は田中角栄元首相逮捕の際、稲葉修法相に指揮権発動を命じなかったため、「天に祈る気持ち」で三木裁定を下した椎名悦三郎元副総裁を嘆かせ、保利茂元官房長官ら自民党長老らが激怒。たちまち挙党体制確立協議会が設置され、75年から2年にわたる激しい「三木降ろし」が勃発。各派閥幹部が昼は赤坂プリンスホテル、夜はホテルオークラに立て篭もり、福田派の園田直元国対委員長が司令塔となって三木退陣を迫り、「角・福戦争」で険悪な仲だった福田赳夫元蔵相と大平正芳元外相の両雄が手を携えて三木氏と何度も鼎談。会談決裂で両雄が立ち上がりかけると、三木氏は羊羹とお茶を出して引き止め、会談が5時間に及ぶこともざらでした。「いやはや、あの爬虫類には参った参った」と巳年生まれで「マムシ」のあだ名があった福田氏がこぼすほど、三木氏の粘り腰はすごく続投か衆院解散に固執。結局、挙党協は三木氏の手による解散は封じたものの、衆院任期満了に伴う解散・総選挙で自民党は惨敗、三木退陣後に福田赳夫政権が実現しました。

第3の被曝阻止訴え8月解散へ
  社民連時代に「脱原発」を唱えた菅首相は生粋の平民政治家で、三木氏以上にしたたか。首相は東電が電源崩壊で「ベント(排気)」が出来ず、水素爆発を起こして原子炉建屋が吹き飛んだ際、東電に乗り込み、怒鳴りまくったほど「庶民の味方」のパフォーマンスが得意。放射性物質の大気拡散や放射能汚染水の外洋漏出などが国民の不安を高め、乳幼児を放射能から守ろうとする主婦層の悩みは深刻です。特に東電の秘匿体質に国民は「怒り心頭」に発し、被災地に限らず原発54基を抱える立地県では原発アレルギーが広がりつつあります。そこで、首相はポピュリズム(大衆迎合政治)の大先輩・小泉純一郎政権を見習って、広島、長崎「原爆忌」の8月に「第3の被曝阻止」を訴えて「脱原子力」を宣言、月末にも破れかぶれの解散・総選挙を目指す構えです。小泉氏は郵政民営化の「シングル・イシュー・ポリティック」を貫き、05年に参院で郵政法案が否決された途端、「自民党をブッ壊す」と豪語して直ちに衆院を解散。造反組を除名し刺客を立てるなど劇場型総選挙を断行、無党派層の支持を得て「一点強行突破」が成功、大勝利しました。小泉戦略に敗れた亀井氏は「小泉は政策的に間違っていたが、政治手法は見習え」と首相に進言、自民党の山崎拓前副総裁にも、「脱原発で国民投票的総選挙を断行する」可能性を伝えました。

ポスト菅不在で2匹目の泥鰌狙う
 首相は「浜岡原発停止の英断」が評価され、内閣支持率が若干好転したこと、側近の北沢俊美防衛相が「ポスト菅はネズミの運動会」と評したように後継者難であることから、小泉氏の郵政民営化と同様、脱原発に「2匹目の泥鰌」の期待を掛けて解散に踏み切ろうとしています。しかし28日の両院議員総会は、首相が自らの退陣3条件に理解を求めたのに対し、自民党から政務官を一本釣りした人事について、「野党を硬化させ、一番大事な時に政局を作ったのは総理本人だ」など厳しい批判が続出して四面楚歌。激しい「菅降ろし」に見舞われ、求心力の衰退を暴露、特例公債法案の成立が危ぶまれています。仮に解散を断行すれば未曾有の国難の最中、「政治空白」を招いた責任は重く、分裂選挙に走った菅政権の無謀に国民の批判が集中、政権党の惨敗は必至でしょう。小泉氏は大相撲で貴乃花が故障の末優勝した際、優勝杯を手渡しながら、「感動した!」の名セリフを残しました。だが、最近の講演で首相のことを聞かれた小泉氏は「『菅・どうした』だな」と笑顔で煙に巻き、「裸の王様・菅と世論が味方の小泉とは違うぞ」との気持ち訴えていたようです。