第254回(6月16日)「死に体内閣」退陣 大連立は難航
 菅政権打倒と民主党分裂を狙って自民、公明など野党3党が提出した内閣不信任決議案は2日の衆院本会議で否決されました。だが、自民党は「死に体内閣」の月内退陣を求め、激しく追い詰めています。決議案に小沢一郎元代表、鳩山前首相両グループの多くが造反して賛成・可決するとの票読みは本会議の直前に崩れました。造反の挫折は、採決日の朝、菅・鳩山会談が急遽開かれ、首相の辞任を前提に3項目の「確認事項」を取り交わし、採決直前の代議士会で首相が早期退陣を示唆したからです。ところが、首相は否決後の記者会見で自らの辞任時期は来年1月頃が念頭にあると述べて開き直り、国会会期も事実上の通年国会で12月まで延長すると表明しました。これは、「一事不再議の原則」で不信任決議案の再提出が困難なため、大幅延長で野党の動きを封じ込めて続投する意欲を示したものです。これには鳩山氏が「ペテン師だ」とカンカン。民主党内の「菅降ろし」がさらに激化しました。自公両党も国民無視の茶番劇を粉砕しようと、大震災復興基本法案は与野党合意で17日にも成立させますが、菅政権が悪あがきの延命を図るなら直ちに首相問責決議案を提出するなど倒閣運動を盛り上げる方針です。自民、民主両党の執行部や中堅・若手の超党派議連は既に「菅・小沢抜き時限的大連立」を模索、大連立もしくは部分連合の前提となる特例公債法案の見直しや第2次補正予算案などの政策協議を進めています。政局は混迷の度合いを深めていますが、一層のご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

私の提言実り中古船が被災地へ
 「津波で多くの船を失った三陸へ、中古船を贈ろう」――。4月16日付けのHPでお知らせした通り、私は全国漁協組連合会(服部育弘会長)などの協力を得、日本海、太平洋の2ルートから被災地に中古小型漁船を贈ろうと、3月末に水産庁や防衛省の幹部に事務次官会議で取り上げるよう要請しましたが、このアイデアは着々進行中です。政局に入る前に若干説明します。朝日は4日付夕刊で、「北海道函館市の港から岩手県の久慈港に向け228隻の中古船が台船2隻に乗せられて出発」と報じました。台船には「がんばれ東北!」の横断幕が掲げられ、漁船集めに尽力した函館市5漁協の1つ「南かやべ漁協」の小川正毅専務は「漁師にとって舟は命。同じ漁師として何かしたいという思いが集まった」と話しています。久慈市漁協は漁船617隻の93%を津波で失い「6月にはウニの漁期を迎えるのに船がなくて出られない」と、救援物資を船で届けてくれた函館市に苦境を訴えたところ、函館市から「昭和9(1934)年の函館大火の恩返しに中古の船を譲りたい」と返事が来たそうです。大火では2800人余の死者・行方不明者が出た際、函館には久慈など岩手各地から義捐金が贈られました。今回はその返礼ですが、久慈市漁協は「そんな昔の話、覚えている人はほとんどいないのに、有り難い」と感激しています。

フカヒレ漁に延縄漁船2隻調達
 船贈与の動機が何であれ岩手、宮城、福島3県の津波被害は壊滅的です。読売によると、水産庁と3県の被害調査では、漁船1万8610隻=1167億円、漁港258港=5944億円、カキ、ホタテ、昆布など養殖物442億円、養殖施設319億円で、計約8千億円にも達しています。09年の3県漁獲量は65万4千トンで国内の約12%、生産額は1350億円で約10%を占めています。ミナミマグロの4割、サンマの3割は3県で水揚げ、養殖のカキは3割、ウニは2割を3県で占め、ワカメに至っては8割が岩手、宮城県産です。気仙沼市(宮城)のフカヒレ、大船度市(岩手)の天然干しアワビは中国などで高値流通しているため、私は社団法人全国近海かつお・まぐろ漁業協会(三鬼則行会長)の納富善裕専務に、延縄漁に使う漁船2隻を気仙沼漁港に贈るようお願いしました。

釜石など10か所に漁船修理場
 このほか、私は大破した小型漁船を長崎・佐世保港などで補修し、被災地に回送するよう提案していますが、水産庁は3日、被害漁船の操業再開を支援するため、宮城県南三陸町や岩手県釜石市など10か所に、仮設の漁船修理場を整備すると発表しました。カキやアワビ漁などが最盛期を迎える秋に間に合うよう、8月末までに1トン前後の小型漁船約1千隻を集中的に修理し、1隻当たり約30万円かかる修理費用は国と県が3分の2を補助する方針です。水産庁はまた、東電福島原発が近く低レベルの汚染水約3千トンを海中に流出させる計画であることに強く抗議しました。カキ養殖の大きな被害を免れた石巻市の養殖業者は、大被害を受けた大船度や気仙沼の業者にカキの稚貝を出荷する作業を始めました。菅政権が被災地の漁業救済に無為無策を続ける中で、このように被災者同士が助け合う相互扶助も盛んに行われ、私の提言が次第に生かされていくことを喜んでいます。

民主党分裂高めた内閣不信任案
 さて、政局に移りましょう。自民執行部か描いた菅政権打倒のシナリオは、@森喜朗元首相ら長老が得た感触では、自公両党が内閣不信任案を提出すれば小沢・鳩山グループの約75人が賛成に回り可決できるA対する菅首相はやけっぱちの衆院解散を目指すが、岩手、宮城、福島の東北3県被災地は名簿喪失で選挙が出来ず、結局、総辞職に追い込まれるB仮に解散を断行しても民主党は分裂選挙で惨敗し政界再編が進むか、政権奪還が可能になる――と言うものでした。1日の党首討論で谷垣禎一自民党総裁と山口那津男公明党代表が厳しく首相退陣を迫った後、不信任案を提出しました。小沢氏グループは同夜71人が造反の結束を固め、鳩山氏や原口一博前総務相も不信任案に同調すると明言、東祥三内閣府副長官(震災現地対策本部長)ら5人の副大臣・政務官も辞表を提出し同調する意向を表明しました。内閣不信任案は横路孝弘議長と欠員1を除く478人が投票する場合、可決には社民党6人を除く野党と、民主党から78人の賛成が必要ですが、小沢グループなど80人が造反すれば可決の可能性は強く、党分裂の危機と緊張が一挙に高まりました。

3方1両得の確認事項で危機回避
 これに危機感を抱いた首相側近の北沢俊美防衛相と、鳩山内閣で官房長官を務めた平野博文衆院安保委員長が水面下で動き、2日朝ギリギリにまとめたのがA4判1枚の「確認事項」です。「一、民主党を壊さないこと 二、自民党政権に逆戻りさせないこと 三、大震災の復興並びに被災者の救済に責任をもつこと@東日本大震災復興の基本方針及び組織に関する法律案(復興基本法案)の成立A第2次補正予算案の早期編成のめどをつけること」が内容で、首相の顔を立て「退陣」の文言こそないが、早期退陣を事実上約束する「念書」のような「覚書」。朝日によれば、「首相の最低限のメンツを保ち、党分裂を回避し、造反議員が不信任反対に転じる大義名分にもなる『3方1両得』」の覚書です。これを2日の代議士会直前に首相、鳩山・平野両氏、岡田克也幹事長の4者が会って最終確認。首相は本会議直前の代議士会で「大震災への取り組みに一定のめどがついた段階で若い世代に責任を引き継いで貰う」と早期退陣を示唆、鳩山氏が「確認事項」と4者会談の経過を補足説明。これで小沢グループは自主投票に切り替え、本会議では松木謙公、横粂勝仁両議員だけが賛成。小沢氏や田中真紀子元外相ら15人が採決を棄権、共産、社民両党も棄権し不信任案は賛成152,反対293で阻まれ、小沢氏らの造反は不発に終わりました。

居直りにペテン師と鳩山氏怒る
 民主党は同日夜の常任幹事会で松木、横粂両氏を除名処分にしましたが、小沢氏の除名には輿石東参院議員会長が反対したため、処分は13日の役員会へ持ち越し、本会議を欠席・棄権した15人のうち、小沢、田中氏ら8人を党員資格停止3ヶ月、当選1回の5人を常任幹事会による厳重注意、欠席診断書を提出していた2人を処分なしとしました。 造反した内山晃総務政務官を除く4人の政務3役も辞表を撤回しました。ところが、菅首相は2日夜の記者会見で辞任時期を聞かれて、東電福島第一原発の原子炉が100度未満の安定状態に保たれる工程表の「冷温停止」時期とされる来年1月を示唆。3日の閣議では「鳩山さんとの話は文書に書いてある通りでそれ以外はない」と強調したうえ、「事実上の通年国会になる可能性があるので、提出を見送った法案もどんどん国会に出して欲しい」と続投に強い意欲を示しました。記者会見で年末まで会期延長を宣言したのも不信任案の再提出を封じる狙いが込められています。これには「首相が6月退陣を確約した」と語っていた鳩山氏が激高。3日朝、自宅前で記者団に「政治家同士が約束を守るのは当然で、出来なければペテン師だ」と非難、両院議員総会を開き、首相退陣を求める意向を示しました。菅首相の「居直り、居座り」姿勢には、松本龍防災担当相が「6月いっぱいが私の認識」と早期辞任を唱えるなど、閣内でも辞任包囲網が広がりました。

死に体内閣は月内退陣しかない
 自民党内では、野党の伝家の宝刀である不信任案を小沢グループとの連携で提出することに否定的立場を取った幹部も多くいて、石破茂政調会長は「小沢チルドレンが決起するという誤った情報に踊らされて高揚したのは間抜けなことだった」と自嘲しました。しかし、谷垣総裁は不信任案否決後の記者会見で「流星光底長蛇を逸すだ」と漢詩「川中島」の1節を引いて口惜しがりながらも、直ちに「菅総理も自らの進退を口にせざるを得なくなった」と不信任案の成果を強調。「退陣を口外した以上、死に体(レームダック)内閣は月内退陣するしかない」と追い討ちを掛けました。民主党内の分裂を助長したことは間違いなく、首相の居座り工作が露見したとたん、同党内でも猛反発が起こり、菅政権内では退陣を暗示する幹部の言動が相次ぎました。4日のテレビ番組で枝野幸男官房長官が「菅首相はそんなに長く居座る気持ちはない」と述べ、岡田幹事長も視察先で「首相は居座るつもりはないと確信する。自ら道筋を付けて身を引かれる」と早期退陣を容認。安住淳国対委員長は「首相は早晩、重大な決断をなさる」と退陣表明まで予告しました。

政策・期間限定の大連立で呼応
 そこに急浮上したのが大連立構想。岡田幹事長は5日のNHK番組で、「大連立というべきか、各党が協力していく体制を是非目指したい」と表明、記者団には「テーマ、期限を切り、与野党が協力する形が望ましい。ただし、第1党から首相を出すのが基本だ」と強調しました。自民党の石原伸晃幹事長も「民主党が新リーダーを決めて、(自民党と)信頼関係を作り、政策を詰め、期限を切ったうえで、何らかの新しい政治の枠組みを作ることが必要だ」と呼応しました。大連立や「ポスト菅」選びに活発に動いているのが仙谷由人官房副長官(民主党代表代行)。仙谷氏は4日に自民党の大島理森副総裁と会ったのを皮切りに、首相や民主党の輿石参院議員会長、石井一副代表、国民新党の亀井静香代表らと会食。官房長官時代に培ったパイプをテコに大連立への根回し役に専念しました。しかし、@首相をどちらの党から出すかA衆院解散の時期との絡みでいつまで連立できるかBどんな政策を実現するか――などを巡り、自民・民主両党の議論が噛み合わず難航しました。

「新体制後に議論」と自民役員会
 7日の自民党役員会では、「(民主党の)新体制に協力すべきではないか」との賛成論に対し、「野党が物欲しそうにしてはダメだ」(脇雅史参院国対委員長)、「国会審議がやりにくくなる」(中曽根弘文参院議員会長)などの消極論が続出。菅首相の退陣後、民主党の新体制が固まった段階で改めて議論することに決めました。石原幹事長は記者会見で「マニフェストを変えないと政策協議は出来ない」と述べ、民主党が子ども手当や個別所得補償などの政権公約を撤回することが大前提になるとの考えを示し、小池百合子総務会長は「大連立は絵に描いた餅」と否定しています。従って、外交・防衛まで含めた大連合に進むのは容易でなく、次期総選挙までの復興に限ったパーシャル(部分)連合を組むのが落とし所になりそうです。
 それに構わず、8日に政権担当1周年を迎えた首相は7日の閣僚懇で、自らの退任時期について「常識的に判断する」と語り、8日夜の1年生議員との懇談では「衆院解散を約束して大連立はすべきではない。復旧・復興を2年間しっかりやって(衆参)ダブル選挙にするのが私の使命だ」と述べ、大震災復興の第2次補正予算と赤字国債発行の特例公債法などを成立させ、今夏をメドに辞任する意向を示しました。

首相退陣こそ国益だー谷垣総裁
 自民、公明、民主3党は6日、復興の枠組みを定める復興基本法案を修正、17日にも成立する見通しです。8日には税制改正法案の修正でも合意し、これも月内成立の段取りです。しかし、首相がこだわる第2次補正や特例公債法案は野党の反対で合意の目途が立っていません。石原幹事長は「辞める総理が作って、執行しない予算なんてあり得ない。首相は第2次補正予算案を7月末に提出、8月に成立させるというが、7月は来年度予算案の概算要求に入る」と述べ、7日の自公幹部会合で復興基本法成立後、直ちに退陣を迫ることを決めました。谷垣総裁も@重要課題の先送りA原発対応の遅れB第2次補正予算案編成と経済対策の停滞C国内外の信頼感欠如――を理由に、「首相退陣こそが国益だ」と早期退陣を迫りました。復興基本法案の修正は自公両党の主張を丸飲みして、@年内に復興庁の設置A復興特区の新設B復興財源として復興再生債の発行――で合意しました。西岡武夫参院議長は7日の会見で、国家公務員の給与削減臨時特例法案について、「法案が参院に来た場合、議案を付託する考えはない」とし、再び首相の早期退陣を求めました。

首相の哀願無視し代表選準備へ
 追い込まれた首相は9日の衆院復興特別委で、自らの辞任時期について、「(8月中旬までに完成を目指す)仮設住宅に入った人が生活できるようにする。瓦礫の処理も8月中に生活地域から搬出する。原発の収束に一定のメドがつくまでは責任を持って仕事をさせて頂きたい」と哀願調で答弁しました。だが、安住国対委員長は7日、自民党の逢沢一郎国対委員長との会談で、民主党代表選について「7月上旬か8月上旬、15日のお盆明け以降が考えられる」と述べ、9日の党代議士会では「特例公債法は何としても菅首相の下で成立させ、新政権にバトンタッチして頂きたい」と、同法や第2次補正予算編成を花道に首相が退陣するとの見通しを示しました。代表選は任期途中で辞任の場合、両院議員総会の投票で選ぶこともできますが、投票権を国会議員に限定するか、正規の党員・サポーターに広げるかが最大焦点。昨年9月の代表選は国会議員票で菅首相206票、小沢氏200票と大接戦でしたが、菅首相が党員・サポーター票で圧勝しました。従って、首相側近の北沢防衛相は党員・サポーター(昨年末で34万人)参加の正式代表選にこだわっていますが、約150人を擁する小沢グループは両院議員総会だけの代表選を主張しています。

主流派は無色の野田財務相推す
 各紙世論調査の「ポスト菅」では、読売が1位に代表経験者の前原誠司前外相、2位に枝野官房長官と岡田幹事長(元代表)を挙げていますが、前原氏は3月に在日韓国人からの献金問題で外相を辞任したばかりで出馬には慎重。枝野氏は大震災後、連日の記者会見で知名度を高めましたが、菅首相と「一蓮托生」との批判があります。岡田氏も4月の統一地方選敗北の責任を党内から問われています。仙谷氏も参院で問責決議案が可決されて官房長官を辞任しており、今回は裏方に徹する構え。そこへ頭角を表したのが野田佳彦財務相です。岡田、仙谷、枝野、安住各氏ら政権中枢幹部が会談を重ねた結果、野田氏は小沢氏の「政治とカネ」を巡る処分にも関与せず、国会答弁でも野党受けが良いことから、第2次補正予算案や特例公債法案の成立には欠かせないとして擁立を決めたものです。党内には「主流派の密室談合だ」、「財務省の組織内候補」と批判する声があり、ベテラン議員の鹿野道彦農水相(無派閥)、海江田万里経済産業相(鳩山派)を推す動きもあります。

ネズミの運動会傍観し延長攻防
 野田、鹿野両氏とも「内閣の一員として全力を尽くすのみ」と出馬を否定しましたが、「脱トロイカ(小沢・鳩山・菅)」の意向を聞かれた野田氏は「脱とかでなく、超えなければならないのは怨念の政治だ」と党内融和・団結を最優先に掲げたリーダー像を明確にし、強く推された場合は決断する姿勢をにじませました。ほかにも小沢鋭仁前環境相、樽床伸二元国対委員長、原口前総務相、馬淵澄夫前国交相、玄葉光一郎政調会長(兼国家戦略相)らが出馬の意欲を見せています。中堅・若手の多くが手を挙げたのは、首相が「若い世代に責任を引き継ぐ」と言明したからですが、退陣のシナリオを書いた北沢防衛相は「ネズミの運動会だ」と揶揄しています。首相はさすがに大幅延長を断念したようですが、政治空白を避けるためには小幅延長が必至でしょう。我々はネズミの運動会を傍観しつつ、当面は22日の会期末まで、延長幅を巡る与野党の攻防を続けることになります。