第252回(5月16日)「菅降ろし」失速 2次補正の攻防
 約4兆円の2011年度第1次補正予算が2日に成立、仮設住宅の建設、瓦礫の撤去など東日本大震災の復旧はようやく軌道に乗りました。菅政権は難航の末、大震災復興基本法案を国会に提出、6月末以降に第2次補正予算案を編成し、本格復興に全力を挙げようとしています。第2次補正の規模は10兆円超となるため、自民党の提言を入れ「復興再生債」の発行を検討していますが、菅首相は償還財源の担保に消費税の増税を画策、@大震災の復興対策A社会保障の財源確保B財政再建――の「1石3鳥」を狙い、延命を図ろうとしています。自民党など野党は復旧対策の緊急性から、第1次補正の成立には全面協力しましたが、震災対応の遅れ、人災である福島原発事故の不手際、安易な増税対策を理由に内閣不信任決議案か首相問責決議案を提出するタイミングを計っています。民主党内では中間派が消費増税に反発、小沢グループも野党と連携しての「菅降ろし」を狙っていますが失速気味。首相は混迷を避けるため6月22日の会期末で国会を閉幕、8月中旬に臨時国会を開いて2次補正を提出する構えであり、会期延長を巡る与野党の駆け引きが活発化しそうです。その中で私は被災地の漁業復興などに力を注いでいます。ご支援下さい。.

看板政策見直しなど3党合意
 第1次補正予算が衆院を通過する前の4月29日、民・自・公3党は、民主党の看板政策を見直す一方、野党の反対で宙に浮いている特例公債法案の成立も視野に検討を始めることを柱とした合意文書に調印しました。文書は子ども手当、高速道路無料化と料金割引制度、法人税減税などの税制関連法案の見直しを前提に、「各党で早急に検討を進める」とし、その代わりに赤字国債発行を認める特例公債法案の成立に向け、「真摯に検討」をうたい、さらに復興財源を「歳出削減と復興のための国債発行等で賄う」と明記し、菅政権が目指す税と社会保障との一体改革については「実行可能な案を可及的速やかに明示し、国民の理解を求める」としています。また、1次補正の財源として「流用」された年金の国庫負担2・5兆円の穴埋めも、「一体改革と2次補正で検討する」ことで合意しました。この3党合意に他野党も同調し、第1次補正と関連法案は全会一致で可決されました。

復興債償還は消費増税が念頭
 自民党の石破茂政調会長が29日の衆院予算委で、「復興債の償還財源はどうするのか。税と社会保障の財源には消費税を充てざるを得ない」と質したのに対し、首相は「復興と社会保障は区別して考えるべきだ」と述べ、恒久財源が必要な社会保障改革と、一定期間の復興財源は区別して検討する考えを示しました。みんなの党の渡辺喜美代表は「何故増税なのか。人件費のカットや『埋蔵金』で財源は出せる」と指摘。首相は「国家公務員の給与引き下げ法案の検討を進めている」と答え、野田佳彦財務相も「どの税目をどう上げるか議論しているわけではない」と述べ、増税ありきではないと釈明しました。しかし、3党合意文書では国債について、「従来の国債と区別して管理し、その消化や償還を担保する」としています。償還財源となる増税には踏み込んでいませんが「償還の担保」とは、借金の返済を裏付けるための増税を指し、首相の念頭にあるのは消費税率の引き上げです。

「1石3鳥」増税で長期政権狙う
 首相は諮問機関の復興構想会議(議長・五百旗頭真防衛大学長)が6月末にまとめる復興ビジョンの第1次提言を踏まえ、2次補正を編成する方針ですが、与謝野馨経済財政相が主導する「税と社会保障の一体改革」も6月末に改革案を決め、年10兆円不足している社会保障財源として、消費税増税の必要性を打ち出すことにしています。第2次補正の規模は10兆円超に膨らむ予定ですが、消費税を1%引き上げると年約2・5兆円の増収となり、仮に3%引き上げるなら、3,4年で復興財源を賄い、その後に社会保障の目的税に切り替えて、年金の国庫負担はもとより900兆円にも達する国の借金(国債、地方債などの累積残高)の返済に回され、財政再建が図られるという「1石3鳥」の効果が期待されます。消費税導入には大平正芳、中曽根康弘両政権が失敗、竹下登内閣で成功、橋本龍太郎内閣で3%アップしたが即退陣と言ういわく付きの税制。消費増税を実現すれば、「1内閣1仕事」どころか後世に名を残す偉業となります。「このような大震災の時に政権を担うのは宿命だと思う」と語る菅首相は汚名挽回、長期政権のチャンスと捉えています。

イラ菅封印、ひたすら低姿勢
 それだけに首相は原発事故後、東電に乗り込み役員を怒鳴ったり、官邸で役人に罵声を浴びせたりした日頃の「イラ菅」を封印してひたすら低姿勢。1次補正通過寸前の29日、衆院予算委では民主党の渡部恒三最高顧問が「私なら電話でなく自民党本部に行き、手をついて『国のために、貴男が首相になって下さい。私は副総理でお仕えします』と言った。そうしたら谷垣氏も断れなかった」と3月19日の谷垣禎一総裁に電話で入閣要請したことに苦言を呈すると、首相は「まだまだ未熟であり、謙虚さに欠けると見られがちで、私の態度が不十分であったとお詫びしたい」と陳謝するなど忍の一字で通しました。だが、復興増税には反対包囲網が形成され、とりわけ消費増税には党内外から反対論が噴き上がっています。超党派の「デフレ脱却国民会議」が4月27日、国会内で開いた会合では民主党税制改正プロジェクトチーム(PT)座長の小沢鋭仁元環境相が「景気にマイナスを与える増税論議であってはならない」と指摘。国民新党の亀井亜紀子政調会長は「震災に乗じた増税は政府を挙げて不況を作るようなものだ」と批判、増税に待ったをかけました。

「親菅」・中間勢力も増税反対
 与党幹部2人の反対に、中川秀直元自民党幹事長、渡辺みんなの党代表ら野党幹部も同調しました。「親菅」勢力・野田財務相グループの大西健介、柿沼正明氏ら当選1回議員45人は同日夕、「増税なき復興を求める緊急会合」を開き、「震災に乗じた火事場泥棒だ」、「被災者の傷口に塩を塗る行為だ」など抗議が続出、翌28日の野田派定例会でも大西氏が「党内議論がないまま増税が決められるのは納得できない」と政府を批判しました。同党内ではもともと小沢一郎元代表のグループがマニフェスト見直しと増税に反対する拠点でしたが、小沢鋭仁氏ら「両小沢」に加え、中間派の樽床伸二元国対委員長グループも既に「増税回避」の提言書を「復興構想会議」に提出し、菅政権を揺さぶっています。ガソリン価格高騰の減税措置(トリガー条項)一時凍結の税制関連法案が衆院を通過する際、小沢氏や樽床氏らが本会議を退席するなど「菅降ろし」のアクセルを踏んだ背景には、こうした党内外の動きがありました。だが、小沢氏らの倒閣運動はやや失速しかけています。

倒閣シナリオ1、2は総崩れ
 小沢氏が描いた倒閣シナリオ第1は、1次補正が成立して大型連休が明けた後、両院議員総会を開き、統一地方選と東日本大震災対応の遅れを総括して執行部の責任を追及、@菅代表解任決議を可決するA党規約を改正し「代表リコール規定」を盛り込む――というもの。前号で述べた通り、菅政権と距離を置く鳩山前首相、山岡賢次副代表らは4月26日、勉強会「震災に対応出来る連立政権に向けた総調和の会」を設立、党所属議員410人の3分の1(137人)以上を集めて両院議員総会が開催できるよう、署名運動展開の方針を決めました。しかし、党規約の改正は党大会で行うのが筋で、規定も拘束力もない解任決議が可決されても菅首相は応じないと見られます。まして、両院総会に必要な「所属国会議員の2分の1以上の出席」確保と議決に必要な「投票議員の過半数の賛成」が得られるかどうかが大問題で、小沢、鳩山両グループ合わせてもそのメドは立っていません。

参加少数で不信任案可決困難
 加えて小沢氏の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件の4月27日公判で、ゼネコン側元社長が小沢氏の元秘書に計1億円の裏金を渡したと改めて証言。野党は「政治とカネ」問題を災害復旧の遅れと並行して厳しく追及、小沢氏の「菅降ろし」に加担しない姿勢を強めています。検察審査会により強制起訴された小沢氏自身の裁判が結審するのは早くても来年春。当選1回の小沢氏直系衆院議員で作る「北辰会」も党分裂・離党の危険まで冒して次期総選挙を戦う自信はなく、先の見えない小沢氏に付き従うことに不安を感じているようです。倒閣シナリオ第2は野党提出の内閣不信任案に民主党80人以上が造反し、同調・可決するというものでした。ところが、側近の山岡氏が音頭をとった勉強会「総調和の会」の出席者は田中真紀子元外相、原口一博元総務相、松野頼久元官房副長官ら衆参64人止まり。中間派の参加はごく少数で、小沢系議員だけでも100人は超えるとの予想は見事外れ、勉強会参加の衆院議員だけでは内閣不信任案の可決は困難です。

鳩山、輿石両氏も倒閣自粛要請
 小沢氏は1993年、宮沢内閣の不信任決議案に同調して自民党を離党し、細川政権を樹立した経緯から、「壊し屋」と言われています。読売は、小沢側近が「勝負するなら不信任案しかない。80人は集められる。可決すれば、『憲政の常道』からいって次期首相は谷垣自民党総裁だ」と怪しげな「小沢メッセージ」を自民党関係者に伝えた、と報じています。だが、実際に衆院で可決するには野党(163人)と無所属(議長を除き5人)の全員に加え、与党会派(民主306,国民新4)で、過半数には少なくとも72人以上の造反が必要です。盟友の鳩山前首相は26日夜、都内の料理屋で新党さきがけ時代の仲間、前原誠司前外相、たちあがれ日本の園田博之幹事長、武村正義元官房長官らと旧交を温め「菅批判」に花を咲かせたそうです。小沢・武村氏は細川政権時代に犬猿の仲だったので、何とも不可思議な会合でしたが、鳩山氏は小沢氏と会食した29日夜、「党が分裂するようなことについては冷静に考えて欲しい」と忠告。挙党態勢構築にこだわる輿石東参院議員会長も小沢氏に倒閣の自粛を求めました。小沢氏はなおも密かに野党との連携を模索していますが、自・公両党には「小沢アレルギー」が根強くあり、連立は不可能です。今や刑事被告人として小沢氏の影響力は日々に薄まり、復権の舞台は次第に遠ざかっています。

自民は不信任・問責の時期計る
 「政権与党の足下は液状化している。(内閣不信任案は)伝家の宝刀ですから、いつでも段平を振りかざすわけにはいかないが、赤サビを置かすというわけにもいかない」――。自民党の谷垣禎一総裁は、記者会見で内閣不信任案の提出時期を聞かれるとこう答えています。自民党内には震災復旧や原発事故の収束にメドが立たないうちに権力闘争を仕掛けることが世論の反発を買うとの躊躇感もあって、谷垣総裁は当分、是々非々の態度で政府の復興対策、財源論議の推移を見守り、内閣不信任案、首相問責決議案提出のタイミングを計ろうとしています。一時は自・民両党が「菅抜き大連立」を組む構想も囁かれましたが、挙国一致で復興に取り組む必要から今国会に必ず第2次補正予算案を提出させ、会期延長を求め、衆参両院に災害復興対策特別委員会を設置して同法案の成立を図る方針です。小沢氏の倒閣シナリオはいずれも崩れており、本人は6日、「今そんなことを考えてはいない」と内閣不信任案への賛成を否定、菅首相の政権運営を見守る考えを示しました。

現地にも対策本部の基本法案
 政府は東日本大震災の復興基本法案をまとめ国会へ提出しました。同法案は復興を迅速に推進して@安全な地域づくりA雇用機会の創出B被災地域の社会経済の再生と生活の再建――を図ることを目的としています。全閣僚が参加する「東日本大震災復興対策本部」(本部長・菅首相)を内閣に設置、震災復興担当相も新設し、官房長官とともに副本部長に充て、有識者らが復興ビジョンを描く「復興構想会議」はこの下部組織としています。また、福島第一原発の周辺自治体の復興を議論する会議(首長による合議制の機関)を同本部の下に設け、被災地に現地対策本部を置くことも明記しています。これは4月14日の復興構想会議で、原発問題を復興論議から切り離すべきではないとの意見が続出したのに配慮したものです。被災現場の意見をより反映させるため、現地に政府の拠点が必要と判断し、現地対策本部は首相が関係府省の副大臣や政務官の中から本部長を任命、現地に事務局を置いて、国や東電への意見をまとめる場にする方針で、一種の「分都」構想です。

中古船回収の提言が功を奏す
 自・公両党が創設を求めていた「復興庁」については期間限定の設置とし、施行後1年以内をメドに法整備を行うと付則に明記。「被災地復興の施策を統一するため、企画立案、総合調整を行う行政組織」と位置づけ、当面は内閣に「復興対策本部」を設置し、その後、復興庁に移行させる段取りです。当初は自・公・民3党の共同提案を目指していましたが、自民党は復興庁と同様の「復興再生院」を盛り込んだ独自案を決定したため、政府与党は法案修正も視野に入れて自・公両党と協議を進め、早期成立を目指しています。ところで、4月22日の朝日夕刊に「三陸の漁師に中古の船やエンジン、漁具が全国から無償で届き始めた」との記事が載りました。先々号のHPで「漁村再生に小型漁船 裏表日本2ルートで」の提言を「北村の政治活動」に載せたことが全国漁協を動かしたと喜んでおります。