北村からのメッセージ

 

 第25回(9月1日) 雇用が最大課題 安全網の構築を

 台風11号は幸いにも大被害を与えず、渇水列島に恵みの雨を降らせました。台風一過で朝夕はめっきり涼しく、秋が忍び寄っています。皆さんはよい夏休みを過ごされましたか。9月は企業の中間決算の季節。だが、景気は依然低迷し企業は青息吐息。経済の9月危機が叫ばれています。政府は8月末に来年度予算の概算要求をまとめ、9月上旬にはこの予算を遂行する小泉構造改革の工程表を発表します。9月下旬に召集される臨時国会では、この構造改革と景気回復策を巡り、与野党が激しい論戦を展開することになります。

 量的金融緩和策

 8月の月例経済報告によると、景気はさらに悪化、鉱工業生産は減退、民間設備投資は落ち込み、輸出は減少と、いずれも暗い指標ばかり。9月7日に発表される4―6月期の実質国内総生産(GDP)でもマイナス成長が予想されます。日銀は8月14日、構造改革を支援するため、これまで5兆円程度だった日銀当座預金残高を6兆円程度に増額し、月4000億円ベースで実施してきた長期国債の買い入れを月6000億円ベースに増額するなど、3月に次ぐ第2弾の金融の量的緩和策(緩和策は4回目)を打ち出しました。

 効かぬカンフル注射

 銀行は低迷する株価で有価証券資産の含み損が続出、経営を圧迫されていますが、不良債権に懲りてリスクの大きい企業融資は見送り、安全な長期国債を多量に保有しています。日銀はこれを銀行から吸い上げて日銀券(お札)をじゃぶじゃぶ提供、銀行の“貸し渋り”をなくそうとしています。これには、物価下落が続くデフレを阻止し、景気回復の基盤を整備する狙いがこめられています。しかし、市場が好感を示したのはたった1日だけ。株価はバブル崩壊後の最安値を日々更新するなど、日銀のカンフル注射は一向に効きません。

 インフレ目標の期待

 自民党内では「日銀の金融政策は手ぬるい。さらなる量的緩和を図るべきだ」「国民はデフレ感覚に陥り、さらに物価が下がることを期待して買い控えている。インフレ目標策を導入してプラス成長に誘導すべきだ」など、インフレターゲット論が高まっています。日銀は、適切な経済成長を支えるため、物価の安定を念頭に金融政策を遂行することを第一の使命に掲げていますが、山崎拓幹事長や竹中平蔵経済財政担当相は「物価の高騰を抑えるだけでなく、物価下落を防ぐのも金融政策だ」とインフレ目標設定を容認しています。

 デフレのアリ地獄

 確かに、金融の量的緩和で銀行にお札がダブついても、既に担保資産を手放した中小企業に、銀行が潤沢な資金を融資するとは思えず、“貸し渋り”は続くでしょう。デフレ下では借金が膨張し、要注意債権も一気に不良化する恐れがあります。消費の抑制、生産の停滞、設備投資の減退やリストラが繰り返され、アリ地獄のようなデフレスパイラルに陥るよりは、債権(借金)がチャラになるインフレを、財界が期待していることも事実です。

 路頭さまよう失業者

 しかし、小泉構造改革の工程表は、不良債権の最終処理を第一に掲げています。不良債権を処理すれば、建設業、不動産、大手スーパーなどで倒産や失業が多発すると見られています。内閣府は最大60万人の離職者が出て、うち19万人が職を得られず失業すると試算しましたが、民間調査機関は「下請け企業を入れると失業者は100万人以上」との厳しい見方をしています。生活苦などの自殺者は3年連続3万人を超えました。リストラが進めば失業者が路頭にさまよい、インフレの追い打ちを掛けられるのではたまりません。

 シルバー層に大打撃

 朝日新聞によると、吉川元忠神奈川大教授は「インフレ目標という最後の緩和策、つまりインフレになるまで無限に紙幣を印刷することは、結局、超インフレを招いて国民に塗炭の苦しみをなめさせる。第1次大戦に敗れた後のドイツや、冷戦に敗れた最近のロシアを例に引くまでもない。賃金、年金や(金融)資産も大幅に切り下げられ、生活が破壊されてしまう」と指摘しました。実際に年金生活を送るシルバー層は大打撃を受けます。

 危険なインフレ策

 吉川教授は、さらに「株価下落は、ヘッジファンドがゼロ金利を利用して日本マネーを借りまくり、ハイテクや金融、流通など問題ありそうな業種株を大規模に空売りしているからだ」と指摘。むしろ、“異常金融緩和”の是正こそが必要と、強調されました。インフレ目標の設定は、ブラジルなど物価高騰の国で採用されていますが、デフレ下で取り入れた国はないと聞いています。安易な調整インフレ策に走ることは危険です。小泉首相も箱根の静養先で23日、「目標を設定しても、いざインフレになると制御できない」と否定的考えを示しています。導入の是非論は臨時国会でも大きく取り上げられましょう。

 セーフティネット

 私が所属する衆院厚生労働委員会は、社会安定の基本となる雇用対策が最大の課題です。
財界が「道路駐車違反の監視員を増やして交通渋滞を緩和させるべきだ」など、ユニークな雇用を提言するほど雇用問題は深刻です。不良債権という経済再生の“がん”を切除した後には、痛みを和らげる即効薬を用意しないと雇用不安は広がり、さらに個人消費を抑制し、不況を長期化させます。厚生労働省は予算の概算要求で、リストラや倒産で職を失った人の失業給付期間延長など雇用保険制度の改善と、転職支援、職業訓練など、再就職がしやすい労働市場づくりといったセーフティネット(安全網)の整備を打ち出しました。

 雇用創造が柱

 9月にまとめる「構造改革特別枠」ではチャレンジャー起業の育成、IT(情報技術)振興、都市再生など新規の重点7分野に2兆円が配分されます。この「改革先行プログラム」の工程表作りでは、小泉首相肝いりの“保育所待機児童ゼロ作戦”や、臨時補助教員5万人プログラム、失業者に対する能力開発支援など、雇用創造・人材活性化が柱になります。能力開発ではIT、社会福祉、医療、環境などの分野で中高年層が再就職できるよう、雇用創出に重点が置かれます。

 ワークシェアリング

 とくに重要なのは、対象職種が制限されている「派遣労働」や民間の職業紹介事業などの規制を緩和するとともに、期限限定で労働者を採用できる「有効雇用制度」の年限を大幅に拡大したり、職業制限を緩和して失業者が再就職出来る環境を整備すること。何よりも規制改革が雇用対策でも必要です。それにオランダが元祖というワークシェアリング(労働時間の分配)も有効な対策でしょう。働きバチの日本人は、超過勤務手当を返上してまでも滅私奉公するケースが多いようですが、多少収入が減っても超勤ゼロか、隔日あるいは半日勤務など、健康でゆとりのある生活を送ることも大事な視点です。

 団塊世代に憂き目

 私は先号のODA予算削減問題で、「NGO(非営利組織)を通じ、優れた技能を持つ離職・中高年層や農業技術者を派遣し、途上国の支援活動に従事させる」ことを提案しましたが、8月19日のフジテレビ番組で評論家の竹村健一氏は、「途上国で日本の中高年技術者は歓迎される」と、私と同意見を述べておられ、心強い限りでした。不況下でも日本人の海外渡航者数は今年が最高。物価の安い途上国で支援活動に入るのも中高年層の生き甲斐に繋がりましょう。私を含め団塊の世代は20世紀の企業戦士として活躍、日本の繁栄に貢献してきましたが、定年前の窓際族はおろか、多くがリストラで子会社に出向したり、優遇勧奨退職の憂き目に逢っています。競争社会を逞しく生きただけに惜しまれます。

 雇用はアキレス腱?

 「橋本改革は、金融でとん挫した。小泉改革のアキレス腱は雇用だ」などと読売新聞に揶揄されましたが、構造改革の断行に当たって、雇用対策が最重要課題であることは間違いありません。景気の低迷から今年度補正予算の編成は必至の情勢ですが、従来の公共投資型ではなく、与野党ともに雇用対策中心の補正を要求しています。補正予算案などを審議する9月末の臨時国会では、雇用問題が焦点になります。私は厚生労働委を舞台に各種の雇用対策について論陣を張っていきたいと決意しています。国会と並行する来年度予算案の編成は、年末まで政府与党内の攻防が続きます。どうか一層のご支援をお願いします。