第246回(2月16日)門外の虎、党内の狼 3月危機到来
 通常国会は冒頭から「首相退陣」(内閣総辞職)か「衆院解散」(総選挙)を迫る自民党など野党と、「消費増税と社会保障の一体改革」で与野党協議の旗を掲げる菅首相ら政府民主党とが対立、攻防の凌ぎを削っています。菅内閣は@政治とカネ問題A予算案の修正と衆院マニフェスト(政権公約)の変更・撤回B4月統一地方選の対応――のトリレンマを抱えて四苦八苦。@は強制起訴された小沢一郎元代表を処分すれば、小沢軍団の造反者が出て予算案の衆院通過が危ぶまれます。公明党の参院協力が得られず、予算関連法案を通すには衆院3分の2以上の賛成で再可決が必要ですが、Aは社民党の予算案修正要求に応じるのは困難です。Bは愛知の「民主王国」でトリプル選に惨敗、4月統一地方選に翳りが生じたなど八方塞がり。内閣支持率も最低の20%前半に急落し、逆に政党支持率は自民党が完全復活とはいかないまでも、民主党の2倍、28%前後に回復しました。衆院予算委は地方公聴会と集中審議の日程をこなしましたが、11年度予算案の年度内成立の見通しは暗く、まして予算関連法案の成立は困難で3月危機の到来です。内閣総辞職と引き替えに予算関連法案の成立も想定されますが、菅首相の性格から見て、破れかぶれのやけっぱち解散に踏み切る公算が大です。緊迫政局ですが、一層のご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

自公揃って解散・総辞職要求
 「与謝野馨氏が変節したか、政権が変節したかのいずれかだが、国民の政治信頼は失われた。ただ、マニフェストを『騙し絵』『選挙用の毛針』と非難した与謝野氏の指摘は極めて的を射たものだった。憲政史上最大の確信犯的な公約違反で、有権者を著しく冒涜している。潔く過ちを認め、政権公約を撤回し、お詫びした上で信を問い直すべきだ」――。自民党の谷垣禎一総裁は1月26日の衆院代表質問で、13回も解散を迫って激しく首相を批判しました。公明党の井上義久幹事長も、「菅政権の政策的な矛盾や不誠実な政治姿勢、国民感情とのズレで、政権担当能力に大きな疑いを持たざるを得ない。マニフェストを修正するなら国民に契約不履行を心からお詫びし、改めて信を問うべきだ。出来ないなら首相の職を辞すべきだ」と解散か総辞職を求め、他の野党党首も厳しく菅内閣の政策を追及しました。これに対し、菅首相は「消費税を含む税制抜本改革の考え方は一貫している。消費税引き上げに際しては国民の審判を仰ぐ」と引き上げ前の解散を確約し、参院代表質問の答弁では「民主党の財政健全化の道筋は自民党の財政健全化責任法案と共通している」と答えました。これは、同法案が再提出されれば、小渕内閣が97年に民主党が提案した住宅金融専門会社(住専)の処理策を「丸飲み」し、金融危機回避のための「金融再生法」、「金融機能早期健全化法」を成立させたように、大幅に妥協する考えを示唆したものです。

2与党政策立案者を弾よけに
 「丸飲み」スタイルは、新公約の「消費増税と社会保障の一体改革」にも見られます。自公政権で同改革に取り組んだ与謝野経済財政相を司令塔に、元厚生労働相の柳沢伯夫・城西国際大学長を同改革の「税と社会保障」集中検討会議(議長・菅首相)のメンバーに起用しました。柳沢氏は自民党税制調査会長当時、「消費税率10%」を提唱、厚労相当時は「女性は子どもを産む機械」と発言して野党時代の民主党に不信任案を突きつけられた人物。民主党を激しく非難した与謝野氏と同様、柳沢氏の起用には同党内でも強い反発があります。それを首相が敢えて両氏を起用したのは、自公政権以来の懸案決着に超党派で取り組む姿勢を示し、与野党協議で自公両党が中身に反対する余地を与えないようにする狙いがあります。本人も厚労相経験者として得意分野の社会保障で支持率回復を願っています。しかし、公明党の山口那津男代表は「菅政権は白旗を掲げたに等しい。我々が与党当時の政策立案者を弾よけに使って、自らの案を誤魔化していく姿勢に他ならない」と参院代表質問で批判し、与野党協議に難色を示しました。

自公政権当時の社保改革が軸
 集中検討会議は一般委員に元連合会長の笹森清・内閣特別顧問らも加え、週1回のペースで開き、社会保障改革の対象として、年金、介護、高齢者医療の3分野に、現役世代に関わる少子化対策と雇用問題を加えて協議、4月に社会保障改革案を、6月に一体改革案をまとめる段取りです。だが、野党から「超党派協議の前に政府与党案を示せ」と強く言われ、泥縄的に設置した会議だけに、社会保障と税金の将来像を総合的に描き直すことは容易でなく、5日の初会合では、自公政権時代に決めた社会保障改革案を軸に幅広い国民の理解を得ながら議論を進める方針で一致しました。今年は年金と医療で「国民皆保険」が実現して50年の節目の年。前号でも若干触れたように、民主党はマニフェストの看板政策が厚生・共済・国民3年金の一元化と全額税方式の「最低保障年金」(月額7万円)ですが、消費税増税以外に道はなく、目玉政策の子ども手当は財源確保の目途が立たず、首相は月額2万6千円の満額支給を12年度も諦める考えを示唆。消費増税の封印、ガソリン税暫定税率の廃止、高速道の無料化などバラマキ政策のマニフェストは大幅な修正が避けて通れない状況です。結局はかつて与謝野氏らがまとめた自公案に頼らざるを得ません。

小沢G造反なら予算成立せず
 首相が国民の目を“場外”の「消費増税と社会保障の一体改革」と「農業改革と環太平洋連携協定(TPP)参加」の新公約遂行にそらしている間に、国会は審議ストップもなく、月半ばまで集中審議や党首討論を淡々とこなしました。小沢グループの造反さえなければ、92・4兆円の過去最大という歳出の予算案本体は3月2日までに衆院を通過、衆院優先規定で30日後には年度内成立が可能です。しかし、その財源を裏付ける予算関連法案は参院で可決されなければ成立しません。赤字国債の発行などで歳出の4割強の40・7兆円を確保する特例公債法案や税制改正関連法案が不成立なら、3歳未満児を7千円多く2万円にアップした子ども手当は実施できず、自公政権時代の児童手当に戻り4月から支給されます。鉄建・運輸施設整備支援機構の「埋蔵金」をあてにした基礎年金の2分の1の国庫負担分にも影響、年金制度の信頼を揺るがします。また、国の資金繰りが破綻すると見られて国の信用が失墜、国債が売られ、長期金利が急上昇する恐れもあります。

公明抱きつき失敗、社民攻略
 このため、管政権は、衆参両院に各21人の議席を持ち、キャスチングボートを握る公明党に抱きつき、参院で可決に賛成して貰おうと秋波を送り続けました。とくに公明党が昨年、子ども手当法案と補正予算案に賛成した経緯から、民主党の玄葉光一郎政調会長は記者会見で、「公明党は非常に“大人”の、国民生活に真摯に向き合う政党だと信じている」と持ち上げましたが、公明党の漆原良夫国対委員長は「我が党は生まれ変わって“子ども”になった」とはねつけました。同党の井上幹事長は「特例公債法案は認められないのが常識」と述べ、山口代表もテレビ番組で「予算案を大幅修正しない限り賛成しないのが筋」と発言、民主党がマニフェストを修正すれば、「信を問うか、総辞職すべきだ」と対決姿勢を強めました。そうなると社民党と関係修復を図る以外にありません。衆院与党の議席数は民主、国民新両党、無所属を合わせ313議席。社民党の6議席を加えると、参院審議が混迷する際の「60日ルール」など、衆院再可決に必要な「3分の2」の318議席にギリギリ届く勘定です。

普天間予算撤廃、法人税見直せ
 社民党は昨年5月、普天間問題で連立を解消しましたが、臨時国会では補正予算案に賛成。労働者派遣法改正案の成立に執念を燃やす福島瑞穂党首は、関連法案に賛成する条件として、@普天間基地の予算計上を取り消すA法人税減税を見直すB成年扶養控除縮小を見直す――ことが必要と主張。沖縄県選出の照屋寛徳衆院議員は普天間基地移設費用が予算化されたことに「一人でも反対する」と言明しています。このため、菅政権は「予算が成立しても普天間の県内移設関連費用は執行を凍結する」案を検討し始めました。しかし、基地予算の凍結は、改善の兆しにある日米同盟関係が冷え込む恐れがあり、6月に予定する首相の訪米と日米首脳会談に悪影響を与えそうです。阿部知子政審会長は子育て支援の充実を主張して子ども手当の修正を要求、小沢氏と親しい又市征治副党首は小沢氏と連携する可能性もあるなど、社民党は一枚岩ではなく、民主党執行部も対応に苦慮しています。こうした中、小沢氏が1月31日、政治資金規正法違反罪で在宅のまま「強制起訴」され、昨年1月に逮捕された石川知裕衆院議員ら元秘書3人の公判が2月7日から始まりました。

小沢氏、国会招致と処分拒否
 小沢氏は衆院政治倫理審査会(政倫審)への出席要求と野党が強く求める証人喚問要求をいずれも拒否。岡田克也幹事長ら執行部が促す、自発的離党や議員辞職にも応じず、法廷で無罪を目指し断固戦う姿勢を強めています。抵抗のよりどころは「一般の起訴と、東京地検特捜部の徹底的捜査で、2度も不起訴になっている。その上での(民間人による)第5検察審査会の強制起訴は(重みが)違う」と無罪を主張。小沢氏側近の輿石東参院議員会長も「検察の起訴ではない。処分の必要はない」と強調、鳩山前首相は「無実を確信する。強力なパワーをもう一度発揮する時が来る」とエールを送っています。このため岡田氏は1月末の与野党幹事長・書記局長会談で小沢氏の国会招致に慎重姿勢を示し、処分問題で数回開いた党常任幹事会でも結論を先送りしました。「小沢切り」人事で内閣支持率を回復した首相は、世論調査で国民の8割が小沢氏の離党あるいは議員辞職に賛成している現状から、4月統一選に備え、小沢氏を一刻も早く処分して影響力を削ぎたいところ。

窮鼠進退窮まり抜打ち解散か
 しかし、処分に反発する小沢軍団が造反し、予算案の衆院採決に欠席戦術を採れば、たちまち3月危機が訪れます。岡田氏ら執行部はその事態を恐れています。 執行部は10日の「菅−小沢トップ会談」が決裂したのを受けて14日午後役員会を開いた結果小沢氏の判決が確定するまでの間「党員資格停止」という軽い処分を決めました。小沢氏は「解散が何時あってもおかしくない」と小沢グループのテコ入れに全国行脚を展開中。岡田氏が長崎県佐世保市の記者会見で政権公約と異なる内容の予算案の大幅修正に容認姿勢を示すと、小沢氏はすかさず広島市の仲間議員の会合で「難しいからと政権公約を辞めてしまっては何のための政権交代か」と批判。これを国民新党の亀井静香代表が同じ会合で「小沢軍団200人の力抜きにして、民主党がしゃんとすることはない」と援護射撃しました。衆院15小選挙区が全員当選した金城湯池の愛知県で民主党は知事選・名古屋市長選・市議会リコールのトリプル選で惨敗しました。小沢陣営は執行部の責任を追及、党内対立は一層深まっています。弱り目に祟り目の管政権に記録的ドカ雪、新燃岳の爆発的噴火、鳥インフルの猛威――の天の怒りが直撃。政府は対策に追われていますが、加えて野党が前門の虎、小沢軍団が後門の狼で、菅政権は進退窮まっています。窮鼠猫を噛む形で首相が抜き打ち解散に打って出るか。全く余談を許しません。