第244回(1月16日)政界は荒天模様 仏滅内閣が再出発
 山陰は記録的なドカ雪で帰省の車約千台が動けず、漁船145隻が転覆したそうです。異常気象は今年も続き、天界だけでなく政界も荒天の年明けになりました。菅首相は4日、年頭の記者会見で、民主党の小沢一郎元代表が「政治とカネ」問題で強制起訴された場合、「政治家としての出処進退を明らかにすべきだ」と議員辞職を含む対応を促し、「小沢切り」によって内閣支持率の回復を図る意欲を示しました。これに対し、小沢陣営は、12,3日の両院議員総会、党大会で茨城県議選など相次ぐ敗北の責任追及と執行部刷新を求めて反撃、対立抗争が再燃しました。自民党の谷垣禎一総裁が「国家像無き稚拙な政権運営を繰り返し、内政・外交を混乱、劣化させた。(政権交代への)国民の期待は失望へ、さらに怒りへと変わった」と年頭所感で述べたように国民は呆れ、うんざりしています。首相は14日、自公両党の求めに応じ仙谷由人官房長官らの更迭を含む内閣改造を24日召集の通常国会に備え断行しました。だが、人心一新どころか逆に求心力が薄れ政権維持は一層困難になりそうです。自民党は政権奪回を目指し国会で対決しますが、いつ解散・総選挙があってもおかしくない政局です。15日に佐世保市で開いた新年会には多数ご出席頂き感謝しています。本年も旧に倍するご支援、ご叱正を賜りますようお願い申し上げます。

首相「小沢切り」で宣戦布告
 「政治とカネが、国民から不信の念で見られている。多くの改革を進める上で、国民に痛みを分かち合って頂くことはとても出来ない。この問題にしっかりけじめを付ける年にしたい」――。首相は伊勢参りに先立ち、首相官邸で行った記者会見で、「最少不幸社会」「不条理を正す政治」「平成の開国」という3つのキーワードを使い、中でも不条理の筆頭は「政治とカネ問題」であるとして、小沢氏に切り込みました。小沢氏が強制起訴された際の対応を聞かれると、「政治家としての出処進退を明らかにし、裁判に専念されるならそうされるべきだ」と語り、「専念とは議員辞職すべきだという考えか」との記者団の問いにも否定はしませんでした。首相は昨年末、衆院政治倫理審査会(政倫審)を拒んでいた小沢氏に政倫審出席を求める議決だけでなく、証人喚問を検討する姿勢も見せ、強制起訴された場合は離党勧告をする態度を示していました。それが会見では議員辞職にまで追い込む構えであり、小沢氏に対し完全な宣戦布告をしたと言えます。首相と小沢氏は元日午後の同じ時間帯に別々の新年会を開き、早くも火花を散らしました。首相が約5時間に渡って首相公邸で開いた新年会には仙谷官房長官、北沢俊美防衛相、蓮舫行政刷新相、枝野幸男幹事長代理、江田五月前参院議長ら約45議員が参加、一方、都内の小沢氏邸には昨年より50人程度少ないものの、原口一博前総務相、山岡賢次副代表、細野豪志前幹事長代理ら約120議員が集まり気勢を挙げました。鳩山前首相、樽床伸二前国対委員長、旧民社党系の各グループ議員も顔を見せ、「数は力なり」の小沢流政治を誇示しています。

小沢陣営は党大会で責任追及
 首相は5日、テレビ朝日の番組で「通常国会前までに、最も力が発揮できるような党と内閣の体制を整備したい。野党にも議論に出てきて貰い、国民にプラスになる政策を決めていける国会にしたい」と語りました。これは、唯一の政権浮揚策である「脱小沢」カードを切った以上、国会招集前にテンポよく障害を取り除こうとするもので、@野党に審議拒否の口実を与えないため今月中旬にも政倫審の幹事会を開いて日程や公開方法を協議し、国会召集前に小沢氏の国会招致にけじめを付けるA党大会直後に内閣改造・党役員人事に踏み切る――との作戦でした。小沢氏は4日、首相の年頭発言に対しBS11の番組収録で「私自身のことは私と国民が裁く。首相は僕のことなんかより、国民のために一生懸命、何をやるかが問題だ」と反論、菅政権の外交、国会運営について批判を続けました。小沢陣営は、参院選以降、茨城県議選敗退など退潮が止まらない地方選挙の責任を追及するため、昨年末両院議員総会を開くよう署名活動を展開、13日の党大会は4月の統一地方選を控える地方代議員らの不満をバックに、「挙党態勢」確立の場にする狙いで動きました。

与党出身議長が身内政権批判
 小沢氏は「挙党態勢」の一環として、野党と同様、参院で問責決議を受けた仙谷官房長官、馬淵澄夫国交相の更迭を求めましたが、小沢氏シンパの西岡武夫参院議長も8日発売の月刊文春2月号に、「菅・仙谷には国を任せられない」と題する手記を寄稿しました。手記は国営諫早湾干拓事業を巡る訴訟で福岡高裁判決への上告を断念した例を挙げ、「あまりにも思いつきで物を言うことが多すぎる」と首相の言動を非難した上、仙谷氏も含め、「国家観、政治哲学を欠いたままでは、国を担う資格なし、といわざるを得ない」と酷評。6日の長崎市での記者会見でも、「信じがたい行動や答弁が随所に見られ、官房長官として不適格だ。議長として参院の権威を守る立場からも断固として臨む。閣僚への横滑りは受け入れられない」と閣僚辞任を求めました。与党出身議長が身内政権批判をするのは異例です。こうした動きを読んだ執行部は、小沢陣営の要求通り両院議員総会を党大会前日に開いてガス抜きを図るとともに、首相が党大会で内閣改造を明言、人事のニンジンをぶら下げて閣僚など政務3役適齢期の期待感を集め、どうにか無事に党大会を乗り切りました。

仙谷、馬淵両相の交代が主軸
 菅政権は臨時国会で郵政改革法案など大量の重要法案を積み残しながら、不毛の党内抗争と国会対策に明け暮れ、国会の召集時期を引き延ばしてきました。麻生政権が多くの法案成立を目指し1昨年の正月5日に召集したのと大違いで、国民の批判が高まっています。また、召集が遅れると「予算審議が遅れるのは与党の責任」との口実を野党に与えます。そこで、首相は世論・国会対策の両面から、当初28日に予定した召集を24日に繰り上げ、仏滅の14日に内閣改造・党役員人事を完了するハメとなりました。改造を急いだのは、@皇居での認証式の日程調整が必要A新閣僚には予算案に関する国会答弁の準備期間か必要――などの理由からです。首相は衆参代表質問を終え、スイスのダボスで開催の「世界経済フォーラム」年次総会にほぼ日帰りで出席し、29日に演説して30日に帰国する強行日程も考慮しています。内閣改造は仙谷、馬淵両相の交代と、仙谷氏が兼務する法相の補充など小幅となりました。首相サイドには「衆院優先の憲法下では参院での問責決議に法的拘束力はない。辞職の前例を残せば、首相問責決議が可決された場合に内閣総辞職を迫られる」と、他閣僚への「問責ドミノ」を恐れ、内閣の屋台骨である仙谷氏の続投は死守する声が強くありました。だが、召集は10日前に官房長官が衆参両院の議運委理事に日程を伝える慣例があり、仙谷氏続投だと国会は冒頭から空転しかねず、断念しました。

幹事長続投、国対委員長更迭
 このため、仙谷氏は党代表代行の要職に就けて処遇、後任の官房長官には仙谷氏と同じ前原誠司外相グループで仙谷氏に最も近く「脱小沢」急先鋒の枝野幹事長代理を起用。岡田克也幹事長、国家戦略相兼務の玄葉光一郎政調会長は続投、予算担当の野田佳彦財務相、日米関係重視の前原外相、北沢防衛相、片山善博総務相ら10閣僚も続投となりました。注目人事はたちあがれ日本(共同副代表)を離党したばかりの与謝野馨氏を経済財政相に起用したこと。自民党時代に官房長官や財務相を務め、消費増税を含む財政再建策を取りまとめた与謝野氏の抜擢は、菅改造内閣が取り組む消費増税を含む税制抜本改革で自公とのパイプ役を期待したものです。このため、海江田万里経済財政相は経済産業相に、大畠章宏経済産業相は、仙谷氏と同じく問責決議を受けて辞任する馬淵国交相の後任に玉突きで横滑りしました。また、仙谷氏が兼務していた法相には江田前参院議長、野党が問責決議の標的にした岡崎トミ子国家公安委員長は退任し中野寛成元衆院副議長がそれぞれ就任しました。内閣官房副長官には大物の藤井裕久元財務相を起用、老・壮・青で内閣を補強する仕組み。与野党対決が決定的な国会運営の司令塔も鉢呂吉雄国対委員長から安住淳防衛副大臣に交代しました。鉢呂氏は臨時国会で公明党を補正予算賛成に呼び込めず、将来の連立に繋げることが出来なかったばかりか、法案成立率はわずか38%止まり。後任には仙谷氏が兼務する案もありましたが、岡田幹事長が難色を示し、安住氏に落ち着きました。

TPP参加、消費税の2大公約
 しかし、改造は「両刃の剣」。安倍晋三内閣が半月後に、福田康夫内閣が1カ月後に退陣しています。今回の「脱小沢人事」に党大会でも小沢系の不満が高まりました。今後の政務3役ポストでは菅首相系議員と小沢・鳩山両氏系議員との間で副大臣、政務官をどうバランスよく割り振るかが焦点。一歩間違えば交代させられた閣僚やそれぞれの所属グループから不満が続出、一挙に求心力が失われ、国会運営は躓き、それこそ「仏滅内閣」になります。首相は元日付けで発表した年頭所感で、国造りの基本方針について「明治の開国、戦後の開国に続く、『平成の開国』にしたい」とし、環太平洋連携協定(TPP)参加と農業改革への意欲を強調しましたが、年頭の会見でも、「TPP交渉参加の最終的な判断と消費税を含む税制改革の方向性は、6月を目途に出したい」と期限を切った2つの公約を掲げました。首相は昨年の参院選で「消費税10%」を掲げたことについて「やや唐突に触れたために十分な理解が得られなかった」と反省したうえ、「社会保障を一体的に推進するのに必要な財源について、消費税を含む税制改革を議論しなければならない」と述べ、超党派の議論を出来るだけ早く開始したいと呼びかけました。与謝野氏起用もこの一環です。

谷垣総裁「衆院解散」と対決姿勢
 これには、11年度予算案で2年連続して国債発行額が税収を上回り子孫に重たいツケを残す罪悪意識を薄めたい、との気持ちが表れています。TPPは貿易や投資、人の移動など幅広い分野で、例外の少ない自由化を実現する枠組みで、工業品や農産物の関税撤廃を含む24分野の新ルールを策定する見通しです。経済3団体のトップは大いに歓迎し、消費税アップとの2大公約実現を要求していますが、自民党の幹部は「国会が動かず、消費税論議が進まないのは野党のせいだというための布石だ」と、予算案審議が停滞する責任を野党に被せることを警戒。谷垣総裁は4日、伊勢参拝後の記者会見で「全力で与党を追い込み、衆院解散を勝ち取るのが今年の目標だ」と対決姿勢を強調しました。与野党協議については9日のNHK番組で、「我が党が2度も国会に提出した財政健全化責任法案では円卓会議を提唱している。政府がまず方向性をまとめるべきだ」と主張しています。

超党派協議は公約見直し前提
 自公両党は与野党協議の必要性は認めつつも、超党派協議の前提として民主党が09年の衆院選で掲げた、恒久財源のない票目当てのマニフェスト(政権公約)の見直しを求めており、石原伸晃幹事長は子ども手当など4Kバラマキ政権公約のリセットが優先する考えを示しています。ただし、公明党の山口那津男代表は戦う姿勢を強めながらも、4日の党新春幹部会では、社会保障改革に関する政府案の提示を前提に協議開催に応じるとの柔軟姿勢も示し、記者会見では「社会保障の中身を示さず、消費税の結論を6月に、と時期だけ言うようでは、国民は違和感を覚える」と増税先行の姿勢を牽制しました。公明党抱き込みに懸命な岡田幹事長は「予算案の修正に否定的ではない」とNHKの討論番組で述べ、12日の両院議員総会で「党大会後に組織を作り、政権公約の検証作業をじっくり行っていきたい」と、8月を目途に09年衆院マニフェストの見直しを正式に表明しました。

TPPに農協孟反対、前途多難
 このように民主党は与野党協議を重視していますが、TPP参加には全国農協組(JA)が「農業の壊滅に繋がる」と猛反対、これを支援する与野党議員も多いため、TPP参加の6月決着は困難と見られます。さらに、前原外相はさきの訪米による日米外相会談で、05年策定の「日米共通戦略目標」の見直しで合意しましたが、普天間飛行場移設の5月合意は事実上断念しました。仮に11年度予算案が年度内に自然成立しても「ねじれ国会」で、税収以上の国債発行に必要な財政特例措置を含む予算関連法案が成立する保証はありません。その前に政権の今後を占う4月の地方統一選があり、菅政権の綱渡りは続きます。自民党の大島理森副総裁は新内閣の顔ぶれを見て、「人材不足のたらい回し人事だ」と改造内閣を批判しました。自民党への政権奪回の追い風は、勢いを増してきたようです。