第238回(10月16日)菅政権のトリレンマ追及 小沢氏の証人喚問要求
 臨時国会は6日から首相の所信表明演説に対する衆参両院の代表質問を3日間、12日からは両院の予算委審議を4日間、本格的な論戦を展開しました。野党の攻撃目標は、@小沢一郎元党代表が強制起訴される「政治とカネ」問題A尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件B景気対策の本年度補正予算案――の菅内閣が抱えるトリレンマ(三重苦)です。自民党は他野党とともに小沢氏の証人喚問を求め、政治的責任を徹底追及するとともに、議員辞職勧告決議案を提出する方針です。また、尖閣では、逮捕した船長を那覇地検が「政治的配慮」を加えて処分保留のまま釈放したため、検察幹部の証人喚問を要求しています。管政権はこれらの要求を拒めば国会が空転する恐れもあると見て扱いに苦慮し、補正予算案の経済対策など骨格を事前に野党6党に示して歩み寄るなど、背水の陣で臨んでいます。しかし、小沢氏の離党勧告、除名などの党内処分については小沢グループの反感を買わないよう、仙谷由人官房長官が「有罪判決が出るまでは推定無罪だ」と慎重な構えを見せました。刑事被告人が総理の座に着かなかったことは不幸中の幸いでしたが、国民は民主党の自浄能力を厳しく求めています。いずれにしても紛糾要因が多く、補正予算案の審議は難航必至です。激動国会ですが、皆様のさらなるご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

小沢氏に政治家初の強制起訴
 「法に触れることは一切していない」「1年間の強制捜査で潔白が証明された」――。こう言い続けた小沢元民主党代表でしたが、東京第5検察審査会は4日、小沢氏の資金管理団体「陸山会」の政治資金規正法違反事件について、「小沢氏の事件への関与を認めた元秘書の供述は信用できる」としたうえ、小沢氏の供述は「不自然、不合理」と批判。「不起訴とした検察の判断は納得しがたい」として「起訴議決」を公表しました。2度目の起訴議決であるため、小沢氏は政治家初の強制起訴となります。小沢氏は「これは権力闘争だ」と側近に洩らし、「必ず無実を明らかにする」と法廷で戦う姿勢を強めていますが、党代表選に勝利していれば「総理大臣が刑事被告人」になるところ。各紙世論調査で「小沢氏は総理にふさわしくない」と見た国民の目は正しかった訳です。首相の所信表明に対する6日の衆院代表質問トップに立った自民党の谷垣禎一総裁は「小沢元民主党代表が証人喚問に応じて国会で説明責任を果たし、鳩山前首相が(偽装献金事件の)資料を国会に提出するよう、まず首相は十分に指導力を発揮し全力を尽くすことが当然の義務だ」と迫りました。自民党は尖閣問題や証拠改ざん事件でも検事総長らの証人喚問を要求していますが、最終的には衆院に小沢氏の議員辞職勧告決議案を提出する方針です。衆院政治倫理審査会で弁明を求める社民党以外の他野党も、小沢氏証人喚問では足並みを揃えています。

小沢氏処分で党分裂の危機
 証人喚問要求に対し、首相は「国会で議論し、決定されるもので、小沢氏本人が政治的、道義的に自ら判断し、対応することが望ましい」と繰り返し答弁。民主党代表選で「クリーンでオープンな政治」を掲げたことを忘れたように、本人や国会の判断にゲタを預けました。民主党内の小沢氏処分を巡っては、牧野聖修国対委員長代理が4日、「自ら身を引いて離党すべきだ。出来ないなら離党勧告なり、除名することになる」と記者団に語りましたが、翌日には「私の言動が足枷になって党の団結力を失うのは良くない」と述べて辞表を提出、自由の身になって小沢批判を続けています。代表選では国会議員の票が2分されており、処分すれば小沢グループの反発は避けられず、党分裂の恐れがあるため、表立って牧野氏のようにズバリ進退論を唱える議員は少ないようです。小沢氏に近い輿石東参院議員会長は「(尖閣諸島事件の)船長釈放や証拠品改ざんという前代未聞のことがある中で、国民の目を小沢氏の政治とカネに切り替えようとしたと見えないこともない」と指摘したとの報道に加え、小沢氏が7日の記者会見で「離党も議員辞職もせず、裁判で無罪を主張する」と述べました。政権運営への影響を懸念する民主党は12日の役員会で、岡田克也幹事長が小沢氏に国民への説明責任を果たすよう衆院政倫審出席を求めることを決めましたが、小沢氏が無罪を主張しているため、処分は当面は先送りすることを決めました。

“苛ら菅”抑え懸命に協力要請
 「私も野党時代はかなり厳しい言葉を使ったがこれほど汚い言葉は使わなかった」――。首相は2番手の稲田朋美自民党議員の質問に色をなして反論し、短気の“苛ら菅”ぶりを覗かせました。弁護士出身の稲田氏が、民主党を「意思も国家観も理念もない“空っぽ”政党」と決めつけ、尖閣諸島事件で「腰砕け批判を恐れ、検察に責任を押しつける“卑怯者”内閣。“ぶざま”な外向的敗北だ。“嘘だらけの詐欺”とも言うべきマニフェスト」と批判、おまけに首相が野党時代に、拉致事件で国際手配中の北朝鮮工作員が韓国で逮捕されて服役中に、釈放要望書に署名したことや、国旗・国家法に反対したことを挙げ、「“間抜け”政治家」などとこっぴどく攻撃したからです。それでも首相は、代表質問、予算委審議での「政治とカネ」や尖閣問題の野党追及には挑発に乗らず、質問に忍耐強く丁寧に答え、補正予算案については「与野党で意見交換を進め、合意を目指したい。建設的な協議を期待している」とひたすら協力を求め、「ねじれ国会」乗り切りに懸命でした。特に、参院で否決された法案を憲法規定の「60日ルール」によって再可決するには衆院で3分の2以上の議席が必要です。公明党との連立または「部分連合」が欠かせないため、東工大同窓の斉藤鉄夫前政調会長に接近するなど同党に盛んに秋波を送っています。しかし、首相が野党時代、絶えず宗教政党批判を口にしたため、創価学会員の反発は強いようです。

補正予算で野党要求丸飲み
 協力要請の証として、政府・民主党が8日に閣議決定した円高・デフレの緊急経済対策は、今年度補正予算案の早期成立を図るため、野党の要求案を丸飲みし、当初4・8兆円と策定した予算規模も自民党が求めた5兆円に増額、国民新党の要求も入れてさらに500億円上積みし、5兆5百億円に膨らませています。例えば、地方自治体が独自の判断で公共事業や雇用対策などの使途を決められる「地域活性化交付金の創設」は自公両党の主張に沿うものだし、自民党が求めた高速道路などの公共事業の前倒しも、「ミッシングリンク(細切れ状態)の解消」という形で盛り込んでいます。中国の輸出規制で不足が懸念されたレアアース(希土類)の確保策も採り入れ、事業規模は21・1兆円に上りました。具体的には@地域活性化、社会資本整備、中小企業対策(3兆円)A成長戦略の推進、円高メリットの活用(4千億円程度)B子育て、医療・介護、福祉(1兆1千億円程度)C人材育成(3千億円程度)――などを盛り込んでいます。地域活性化などは「国庫債務負担行為」の2千億円の活用と合わせ3兆2千億円程度になる可能性があります。公共事業では、羽田などの基幹空港や道路網の整備といった社会資本整備に5千億円以上、中小企業金融対策にも5千億円以上を配分する考えです。財源は09年度一般会計決算の剰余金と税収増などで賄い、自公両党が主張した建設国債など国債は増発しない方針です。

談合避け国会で透明な論議
 これに対し、4兆円規模を要求していた公明党の山口那津男代表は、テレビ番組で審議に協力し賛成する姿勢を示していますが、自民党の石破茂政調会長は「規模や中身さえ一緒なら良いというものではない。マニフェスト修正がほとんど図られていない補正予算には今の段階で賛成とは言えない」と述べ、子ども手当や高速道路無料化など民主党が昨年の衆院選挙で掲げたバラマキ政策が財源不足で満額実施できないことをまず国民に謝罪し、主要政策を変更するよう求め、与野党談合ではなく国会の場で透明性の高い補正予算を実現させる構えです。首相は所信表明演説で@経済成長A財政健全化B社会保障改革――の一体的実現とC地域主権改革D主体的外交の展開――の5課題と取り組むと強調。新成長戦略推進のための「3段構えの経済政策」を示しました。9月24日に決めた家電エコポイント制度の延長、新卒者の就職支援など本年度予備費9千2百億円を執行する「第1段階」、景気回復中心に本年度補正予算約5兆円の「第2段階」、過去最大の11年度当初予算約96・8兆円を実現する「第3段階」で、切れ目ない15ヶ月予算を目指しています。

「戦略的互恵関係」唱えるばかり
 「首相は“奇兵隊内閣”と名乗ったが、“大風呂敷”を広げただけの不誠実な内閣だ」と8日の参院代表質問で我が党の岸信夫議員は質しました。首相の言う「奇兵隊内閣」「有言実行内閣」は、実行しようにも口先だけ、大言壮語・中身不在の「大風呂敷」政策ばかり。「熟議の国会」は片鱗も見られず逃げの答弁に終始、ひたすら部分連合にすがる「抱きつき国会」の様相を呈しました、自民党は12日からの両院予算委審議でも政策の問題点や「政治とカネ」、尖閣諸島問題を各項撃破で徹底追及しました。首相は所信表明で「国際社会は安保、経済の両面で歴史の分水嶺と呼ぶべき大変化に直面している」として「主体的外交の展開」を唱えましたが、日中関係では「経済協力の進展を含め、大局的観点から『戦略的互恵関係』を深める双方の努力が不可欠。中国に対し、尖閣の類似事件の再発防止に向けた協議を行う」と述べただけで、外交無策ぶりを露呈しました。中国は前回も述べたように、与しやすい相手は攻めまくり、既成事実を積み上げるのが常套手段。日米同盟に生じた亀裂の間隙を突いて、「中国脅威論者」の前原外相が前国交相当時に船長逮捕を許可した報復を兼ね、中国とのパイプを持たない菅政権に外交圧力を掛けてきたと見られます。

親中国派小沢氏支援の思惑も
 その背景には@経済力増大に伴う自信過剰A海洋権益確保の強化B習近平副主席へ円満な政権委譲を睨んだ12年党大会への布石Cネット時代の国内世論対策D海軍力を強化した軍部の士気高揚――などがあるとマスコミは指摘しています。それに143議員が胡錦濤主席と2ショット撮影した昨年末の朝貢的な小沢訪中団も舐められ、軽く見られた要因。菅政権の「脱小沢路線」に対し中国に媚びる小沢氏を支援する思惑もあったでしょう。沖の鳥島は島嶼でなく単なる岩と見る中国が突如、同島を爆破したり、尖閣を占拠して実行支配したらどうなるか。したたか外交の中国に対し、外交無策・左翼体質の菅政権には領土・主権・国益を守る使命感も資格もありません。民主党の中ですら、尖閣諸島への自衛隊常駐論が起き、同党の原口一博前総務相ら超党派議員が作った「国家主権と国益を守るために行動する議員連盟」は9日、空から尖閣を視察した後、沖縄県石垣市で記者会見し、「国境離島振興法案を提出したい」と語りました。議員立法で提出されたら、私が委員長を務める衆院沖縄・北方問題特別委員会で審議される筈です。尖閣問題に加え劉暁波氏へのノーベル平和賞受賞の報道を封殺し猛反発した中国に対し、国際社会は「異質の国家」観を強めています。尖閣問題は「一党独裁」の中国共産党が本性を現し、日本に仕掛けた国難と言えます。国家主権、領土を脅かす島嶼防衛は、超党派で取り組まねばなりません。