第236回(9月16日)菅氏圧勝・政権続投 年内編成困難に 解散政局加速か
 「OK(小沢・菅)牧場の決闘」と揶揄された民主党の代表選は菅首相が剛腕の小沢一郎前幹事長を破り、菅政権の続投が決まりました。 国会議員票は僅差(6人分)の勝ちですが、党員・サポーター票は、約5倍の差をつける菅氏の圧勝でした。円高・株安の経済危機のさなか、民主党は党を2分する国民無視の激しい権力抗争を展開しました。菅内閣は新成長戦略に基づく法人税率の引き下げなど雇用対策最重点の11年度予算編成に取り組んでいますが、約1ヶ月間に渡った政治空白の影響は避けられず、官僚を督励しても年内編成は困難視されます。まもなく開会の臨時国会は郵政改革法案など重要法案が掛かるうえ、10月末には小沢氏の政治資金を巡る第5検察審査会の議決が出されます。今回も1度目と同様「起訴相当」の議決が出れば、直ちに小沢氏は「強制起訴」されますが、(仮に挙党体制で小沢氏入閣の場合は)菅首相が憲法に規定の「首相の権限による訴追免除」を行使するかどうかが注目の的です。   小沢氏の証人喚問を要求している自民党は今国会でも「政治とカネ」問題、経済無策を厳しく追及しますが、菅首相の対応如何では内閣不信任案を提出し解散・総選挙に追い込みます。早くも政権奪回のチャンスです。ご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

トロイカ体制崩壊で泥仕合へ
 前号で詳しく述べた通り、民主党代表選は告示前日の8月31日夕まで、鳩山前首相が仲介人となって対決回避の調整が続けられ、そのキーワードとなったのが「トロイカ+1」体制でした。読売によると、「挙党態勢をきっちりやるなら(菅、小沢、鳩山プラス輿石東参院議員会長の)トロイカ+1だな」との小沢氏発言が出発点。首相は「何かあったら相談する」という意味で、トロイカ+1は実権のない「顧問会議」と受け止めたのに対し、小沢氏側は政策からカネまで党運営の全てに拒否権が発動できる「最高幹部会議」と位置づけており、全くの同床異夢でした。しかも、鳩山氏は具体名を一切挙げなかったものの、小沢氏側が参院選敗北の責任を取って枝野幸男幹事長の交代や「脱小沢」色の強い仙谷由人官房長官の更迭を含め、挙党態勢のポストを要求していることが情報として菅陣営に伝わりました。さらに、鳩山氏は代表選の最中、8〜12日まで首相特使として訪露し国際会議に出席しましたが、祖父一郎氏が道筋を付けた日ソ交渉の北方領土返還に執念を燃やしており、「外相で入閣したい野心から調整役を買って出た」と勘ぐられました。読売は「同党の中堅議員が『宇宙語を使う伝書鳩には荷が重い』と吐き捨てた」と報じましたが、「不透明な密室談合だ」、「小鳩退陣のわずか3カ月で復権を許すべきでない」とする党内世論が若手から高まって鳩山調整は挫折。血を血で洗う醜い泥仕合となったわけです。

双方、メディア露出度アップ
 「やるべきことは1にも、2にも、3にも雇用だ。クリーンでオープンな民主党を作っていきたい。政治にカネがまつわる古い政治から脱却しなければならない」と菅首相が攻めれば、小沢氏は「昨年の衆院選公約を誠実に実行することに全力を挙げる。政治家自らの責任で政策、予算を決定出来る体制を作らなければならない」と公約の原点に立ち返ることを強調、菅氏の政権運営は官僚主導であると批判しました。1日の憲政記念館での記者会見を皮切りに2日の日本記者クラブ主催の公開討論会、4日以降の東京、大阪、札幌の立会演説会で両者は政権運営のあり方、消費税率引き上げを含む衆院選公約修正の是非、「政治とカネ」問題への対応などを争点に火花を散らし、両陣営の国会議員も一斉に選挙区に散り、党員・サポーターを演説会に動員するなど多数派工作に駆け回りました。日頃はテレビ出演を嫌い、インタビューにもほとんど応じない小沢氏ですが、連日テレビのワイドショウで笑顔を振りまき、メディアへの露出度を高めイメージチェンジに躍起でした。  だが、小沢陣営は国会議員では互角に戦ったものの、各紙の世論調査が菅氏を支持したのに影響を受けてか、党員・サポーターの票も世論になびき、小沢氏は敗退しました。 外交日程が立て込んでいる菅首相は、今週中に(ノーサイド)党役員・内閣改造人事断行しますが、幹事長は川端達夫文科相、岡田克也外相、前原誠司国交相ら現職閣僚の名がうかんでいます。

円高・雇用対策の司令塔発足
  「新成長戦略の実現、日本の20年にわたる閉塞感を突破する強力なエンジン役を期待したい」――。首相は9日、経済政策の司令塔となる新成長戦略実現会議(議長・菅首相)の初会合で挨拶し、企業の国際競争力を高めるため、法人税率の引き下げについて年末までに結論を出すよう指示、政府税調に対しても雇用促進税制の検討プロジェクトチームを作るよう求めました。実現会議は自公政権の経済財政諮問会議になぞらえて設置されたもので、関係閣僚、日銀総裁、産業界と労働界代表らがメンバー。急激な円高が進み、日産自動車が新車種「マーチ」を国内生産からタイでの生産に切り替えると発表するなど、大手企業が海外に生産拠点を移す動きが加速、産業の空洞化が懸念されています。このため、政府がこのほど策定した新成長戦略では、40・69%と世界でも突出して高い法人税の実行税率を主要国並みの30〜20%台まで引き下げる方針を盛り込んでいます。また、8月末に金融緩和策を決めた日銀は9月7日の金融政策決定会合でも、景気の動向次第ではさらに金融緩和に踏み切る姿勢を示し、首相は円高対策として「G7(先進7カ国)に対し、日本単独での円売り・ドル買いの市場介入に理解を求めている」と語りました。

史上最大予算編成、抗争で難航
 首相は実現会議で、@健康・環境分野の雇用増進A正規雇用の増加B育児支援C障害者雇用――の4雇用対策と重点的に取り組むため、税制面からの支援を講じるよう求めるとともに、インフラ需要の旺盛なアジア地域への海外展開を図る事業者を支援し、国内投資を促進する「官民による円卓会議」の設置も指示しました。財務省が1日に発表した11年度一般会計予算の概算要求総額は、10年度当初予算に比べ4兆4473億円多い96兆7465億円で過去最大。成長戦略などを実現するために設けた「元気な日本復活特別枠」への要望は、当初想定した1兆円を遙かに超えて2兆9445億円に上りました。特別枠の配分は、専門家による議論とインターネットを通じた国民の意見で政策を比較する「政策コンテスト」を行い、最終的に菅首相が判断します。ところが、コンテストの具体的方法、参加者、開催時期などは未定です。それよりも代表選では「健全財政」(菅陣営)と「公約実現」(小沢陣営)が最大の争点になり、予算編成でも党内抗争は続きそうです。

官主導に小沢氏バラマキ圧力
  「予算シーリング(概算要求基準)の各省一律10%削減の決定は自民党政権と同じ手法だ。国民に約束したことと民主党政権のやっていることが違う」――。小沢氏は代表選で、菅政権の予算編成が官僚主導であると決めつけ、衆院選の公約に沿って一から編成し直すと言明しました。政権構想の「国民生活と地域経済の再生」では@年金生活の一元化を実現するA地域の病院・診療所間ネットワークを構築するB子ども手当は11年度に現行の月額1万3千円から2万円に引き上げ、12年度から満額の月額2万6千円を支給するC農業の個別所得補償を拡充、漁業も11年度から段階的に所得補償を導入する――などを目玉に挙げました。その財源は、「一般・特別会計を合わせた国家予算207兆円の全面組み替えを断行。行政の無駄を徹底的に省き、マニフェスト実行の財源に充てる」としたほか、ひも付き補助金の一括交付金化によって地方分権(地域主権)を実現、その過程で子ども手当満額支給の財源を捻出、利子を付けない代わりに相続税を免除する無利子国債の発行や、国有財産を担保にした国有財産の証券化でも財源を生み出す――と主張しました。菅氏が景気対策に1兆円の予備費を充当し年内に補正予算を編成すると述べたのに対し、小沢氏は予備費に国債増発も含め2兆円規模の財政出動を要求しており、予算編成では色々と圧力を掛けると見られます。

貫けるか「カネと数の原理」阻止
 一方、10月末にも第5検察審査会の再議決が行なわれます。小沢氏が日本記者クラブの討論会で「審査会もよく理解してくれると信じている」と期待感を表明したのは、2度目は「起訴不適当」の議決が出るよう、言外に圧力を掛けたものです。今回も1度目と同様「起訴相当」の議決が出そうですが、その場合は訴追に対し「私も逃げない」と答えた通り強制起訴を受けて刑事被告人になるのか、それとも、菅首相に頼んで入閣を果たし、憲法75条の「国務大臣は在任中、首相の同意がなければ訴追されない」の規定を適用して訴追を免れようとするのか。目下不透明です。小沢氏は「捜査当局が不起訴と言ったことについて、一般の素人がいいとか悪いとか言う検察審査会の仕組みがどうかという議論が出てくる」と現行制度を批判しています。しかし、菅氏は代表選で、「小沢さんの政治は資金的な強さ、仲間の数の多さなど、『お金と数の原理』が色濃くある」と小沢氏の金権体質を批判したからには、小沢氏を庇うことはあり得ないはずです。昨年の総選挙で勝利した後の小沢氏は、幹事長として「権力2重構造」にあぐらをかき、ヒットラー的独裁手法で党を運営し、国民は世論調査で「政治とカネ」の小沢氏に強い反発を示しました。

自民3役若返り戦闘態勢整う
  仮にも、管政権が小沢氏を副総理などに起用し、検察審査会の議決を無視して憲法75条で押し切れば、「指揮権発動以上の暴挙だ」と世論は騒然とします。自民党は臨時国会で「政治とカネ」問題、代表選の政治空白が招いた経済危機、普天間基地移設の混迷による外交停滞などを徹底追及するため、大島理森幹事長を副総裁に、石原伸晃組織運動本部長を幹事長に昇格、小池百合子元防衛相を総務会長に起用、石破茂政調会長は留任させるなど党3役を若返らせ、戦う態勢を固めました。国会では小沢氏の証人喚問要求を強め、会期末には衆院で内閣不信任案、参院で首相問責決議案を提出する構えです。証人喚問では小沢氏の土地購入に充てた4億円の出所をめぐる発言が「政治資金―銀行融資―個人資金」と2転、3転した経緯など、「政治とカネ問題」の説明責任を厳しく追及する方針です。代表選のしこりが残って民主党議員の1部が不信任案に同調すれば不信任案は成立し、年内にも一挙に衆院解散・総選挙の政局に突入、政権奪回を賭けた天下分け目の決戦となります。その際民主党は分裂選挙となり、総選挙後は政界再編が急激に進むと見られます。