第207回(7月1日)総選挙は秒読み段階 鍵握る日露会談
衆院議員任期切れの9月10日まで70日余。海賊対処法、改正国民年金法、改正租税特措法の重要3法が6月19日に成立し、解散・総選挙はいよいよ秒読みに入りました。首相は大型補正など最優先してきた景気・雇用対策が一段落したことで「景気底打ち」を宣言。8〜10日のイタリア・サミットで成果を挙げ、政権公約を高く掲げて国民に信を問う構えです。しかし、郵政社長人事を巡る鳩山邦夫総務相の事実上更迭や厚生労働省の分割問題のブレなど首相の指導力を問われる迷走が続いて内閣支持率は急落、自民党内では麻生降ろしの蠢きが表面化してきました。首相がこの蠢動を抑えるには、3日に天皇皇后両陛下がカナダに出発される直前に解散、8月2日投開票が有力ですが、12日の都議選に掛かる同時選挙には公明党が反対し、自公選挙協力にマイナス要因となります。そこで、17日に陛下が帰国される直後に解散、8月30日(大安吉日)が総選挙の本命となります。首相はサミット期間中に行われる日露首脳会談で北方領土問題が多少進展すれば、総選挙で有権者の支持を引き戻せると読んでいるようです。日本を半世紀間、発展させた自民党にしか政権担当能力はありません。さらなるご指導、ご支援をお願い申し上げます。

3重要法成立、駆け引き活発
私が3ヶ月間に渡り副大臣答弁に立った「海賊対処法」、基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1に引き上げ、公的年金制度の財政を持続可能なものにする「改正国民年金法」、09年度補正予算関連法案の1つで、住宅取得のための生前譲与に対して2年間限定で贈与税を減税する「改正租税特措法」の重要3法は19日、参院本会議で否決後に衆院本会議の3分の2の再可決で成立しました。7月28日の会期末までに残る法案は、衆院を通過した臓器移植法改正案のほか水俣病未認定患者救済法案、北朝鮮に出入りする船舶の貨物検査特別措置法案、公務員制度改革法案、小沢一郎前民主党代表の牽制を狙った政党解散決定後の助成金寄付を禁じる政党助成法改正案、共産党候補を増やして民主党票の分散を狙う供託金引き下げるための公職選挙法改正案があります。首相はこれら法案の成立に意欲を見せつつ、法案の処理を解散先送りの駆け引き材料に使おうとしています。早期解散を唱え重要法案の審議に協力してきた民主党は、首相を解散に追い詰めようと焦っていますが、党内には船舶貨物検査特措法案に慎重論が強いため国会対策には苦慮しています。

景気対策奏功し「底打ち」宣言
政府が17日発表した6月の月例経済報告では、景気の基調判断を「厳しい状況にあるものの、1部に持ち直しの動きが見られる」とし、2ヶ月連続で上方修正し、政府は事実上「景気底打ち」を宣言しました。4月の鉱工業生産指数は前月比6・9%増と過去2番目の伸びを記録、4兆元(約60兆円)規模の景気回復を進める中国向け輸出の持ち直しが、企業の生産回復を後押しし、東証株価も1万円台を回復しました。これは、エコカーやエコ家電に対する購入補助策など政府与党の景気対策が功を奏したものです。しかし、各紙の世論調査では、麻生政権が心血を注いだ景気対策にも「評価しない」が6,7割を占め、西川日本郵政社長の続投人事にも「納得できない」が同様の比率を占め、内閣支持率は読売、日経を除いて16〜17%台に急落しました。このため、自民党内では内閣改造、党総裁選繰り上げ、首相の信任投票――などを求める動きが一気に表面化しました。

総裁選前倒し首相信任投票も
 町村派の山本拓衆院議員が2日から始めた「9月総裁選前倒し実現」の署名運動には108人が賛成し、16日夜の若手議員(当選1,2回)による「自民党を刷新する第3世代の会」の会合には約15人が集まり、「麻生首相では戦えない。総裁選の前倒しが必要だ」との意見が相次いだといいます。また、同日の代議士会では、鳩山氏の元秘書、古川禎久環境政務官が首相の面前で、「鳩山政変でわが党は徹底的に国民の信を失った。田園まさに荒れなんとす。いざ帰りなん。大政奉還を決断すべきだ。党の指導者は小手先の策をろうさず横綱の矜持を持て」と非難しました。若手議員からは「首相の信任投票を要求」する声も出ています。細田博之幹事長は「選挙が厳しくなると、若手は目立った自己主張をしたがる」と意に介さない態度ですが、総選挙の前哨戦となる静岡県知事選(5日)と都議選(12日)に、もしも負けるようなことがあれば、雪崩を打って総選挙も敗北する恐れもあるとして、首相は6月7日から懸命に立候補予定者の事務所行脚を進めています。

都議選前に党役員・閣僚人事
古賀誠選対委員長が1時、ダブル選挙を示唆したことから、町村・伊吹両派の幹部会合では「総選挙と都議選のダブル選挙もあり得る」との意見が出ましたが、公明党は中選挙区で自民・公明が争う都議選と、小選挙区で協力し合う総選挙が重なれば支持者は混乱するとして都議選前後1ヶ月の総選挙に断固反対しています。また、自民党執行部の1人は「首相が都議選であれだけ回っているのだから(負けたら)覚悟を決めていると思う」と、敗北した場合の首相の引責辞任に言及しています。その最中の25日、首相は日本記者クラブで会見し、衆院解散は「そう遠くない日だ」と都議選前の解散を示唆、解散前に党役員人事を検討する姿勢をにじませました。役員人事では民主党との論戦を見据えて、幹事長には桝添要一厚労相や石原伸晃幹事長代理らの名が浮かび、与謝野馨財務相や佐藤勉総務相の兼務解消も取り沙汰されています。これには中川秀直元幹事長が函館市で、「支持率低下の中で解散は絶対してはいけない。自民党が勝てる環境を作ることが総理・総裁の使命だ」と退陣を勧告。武部勤元幹事長も「なぜ内閣改造をしなければならないのか。新しい総裁を選んで新しい政策を掲げ、信を問うべきだ」と麻生降ろしを公然と宣言しました。

2日かサミット前後に解散狙う
首相は1日に10年度予算編成の枠組みとなる概算要求基準(シーリング)を決定した直後に党役員と閣僚補充人事を行い、天皇訪加前日の2日か、12日都議選前のイタリアサミット前後(6日または11日)に解散、麻生降ろしが再燃する前に選挙戦に突入する構えです。次善の策には、都議選で善戦しサミットで得意の経済と外交で成果が挙がることを前提に、陛下ご帰国の18日に解散、8月30日か任期満了直前の9月6日の投開票を考えているようです。その頃には諸々の景気対策が効果を表して内閣支持率が回復すると見ていますが、最も重視しているのがイタリアサミット期間中にメドベージェフ露大統領と行う日露首脳会談での北方領土返還交渉です。首相は外相当時、「面積2等分返還」論を打ち出していますが、4島完全返還でなくともロシアが暫定的な解決策として3・5島返還論に歩み寄れば、国内世論は好転し、総選挙に良い結果が生まれると期待しています。

面積2等分返還論で局面打開
 首相は外相時代の06年12月、衆院外務委で「択捉島の25%を残り3島(国後、色丹、歯舞)にくっつけると、50、50の比率になる。2島だ、3島だ、4島だと言うと勝ち負けの話になり、なかなか合意が得られない」と発言しました。この発言を裏書きするように、前外務事務次官の谷内正太郎政府代表は「返還後の北方4島は、非軍事的な地域にすることを日露間で合意するという案もありうる。個人的には(4島返還ではなく)3・5島返還でもいいのではないかと考えている。2島では全体の7%に過ぎない。択捉島の面積が大きく、面積を折半すると3島プラス択捉の20〜25%ぐらいになる。実質は4島返還になる」と述べたという報道が4月17日の毎日新聞に載りました。当時訪米していた谷内氏はすかさず同日、「あれは間違いだった」と記者団に述べた上、「ロシアが『協力がこれだけあるなら4島を返還してもよい』ということも理論的にはある。日本も『これだけ得るものがあるなら、4島にこだわることもない』となることもある」と述べ、エネルギー協力なども勘案して領土問題を解決すべきだとの考えを強調しました。

柔軟処理で3・5島返還示唆
首相も当日夜、記者団に政府方針に変更はないとした上で、「北方4島の話は帰属の問題がはっきりしさえすれば、後は“柔軟”に考える」と語りました。この一連の発言は波紋を広げました。なぜなら、谷内氏が今年1月、重要な外交問題で外国政府との交渉役を担う政府代表に起用されたのは首相の強い意向によるものだったからです。谷内氏は、首相が「面積2等分割論」に言及した外相当時、外務事務次官として麻生氏を補佐し、安倍晋三元首相からも厚く信頼されていました。政府代表となってもこれまでの外務省住まいではなく、首相官邸に部屋を持ち首相の相談相手を務めています。谷内氏は今年の2月、首相の訪露(サハリン)にも同行しました。首相はサハリンでメドベージェフ露大統領と会談した後にも記者団に「向こうが2島、こっちは4島(要求)ではもう全く双方進展しない。すべてはここに引っかかる。役人に任せているだけでは駄目。政治家で決断する以外に方法はない」と語り、3島での決着が念頭にあるのではないかとの憶測を呼びました。

中露国境河川は「領土折半」
この会談では両首脳が「新たな、独創的で型にはまらないアプローチ」で領土問題に取り組むことで合意したと日本側が発表しました。中曽根弘文外相が4月20日、米国滞在中の谷内氏に事情を聞いたのに対し、谷内氏は毎日インタビューの「3・5島返還」発言は否定したものの、「全体の流れの中で誤解を与えるような発言があったかも知れない」と遺憾の意を込めて釈明、中曽根氏は厳重注意を与えたといいます。しかし、ロシアは過去に、ハバロフスクに近い中国との国境河川に浮かぶ2島の国境紛争を、係争地の面積を分け合う形で決着した経緯もあり、「領土折半論」は現実味を帯びてきます。首相は5月のプーチン露首相来日の際にも密かに領土問題を打診し、7月のイタリア・サミットでのメドベージェフ大統領との会談で領土問題を打開し、総選挙を勝利に導こうと意欲を燃やしました。首相と親密な関係にある谷内氏は首相の本音をいち早く察知して首相の意向を毎日の紙上で代弁したと見られます。

領土打開すれば政権安泰か
ロシアは他の先進国と同様、世界的な経済危機に見舞われ、シベリア開発面で日本の経済協力を強く期待しています。その意味で、この「独創的で型にはまらないアプローチ」がより具体化すれば、右翼は別として国民は一定の評価を下し、麻生政権はひとまず安泰になると思われます。しかし、ロシア下院は6月24日、北方領土を日本の「固有の領土」と明記した北方領土問題等解決促進特措法改正案の撤回を求める非難決議を採択し、領土問題での歩み寄りを拒否する態度を示しており、首脳会談は難航が予想されます。