第195回(1月元旦)松明けから激突 解散は予算成立後か
 明けましておめでとうございます。政権交代を賭けて戦う総選挙の丑年を迎えました。通常国会は松の内の正月5日に召集され、冒頭から激突が予想されます。総選挙の争点は政府が「100年に一度の金融災害」に対処し策定した「生活防衛」の景気対策と民主党が政権公約に掲げる「新生活5つの約束」のどちらに国民が軍配を挙げるかです。予想される総選挙のシナリオは2つあります。1つは政府与党が強力な国会運営で1月中旬までに08年度第2次補正予算を衆院通過、月末にも09年度予算・関連法案を衆院通過させ、4月に衆院解散・総選挙を断行するケース。もう1つは「話し合い」解散のケースで、この場合総選挙は三月に早まります。しかし、総選挙は5月以降に延びそうです。内閣支持率が50%台から3分の1の10%台に急降下し、与党内に危機感が高まっていること。民主党が話し合いを拒んで強硬路線に転じ、政府を徹底的に叩いて予算成立を阻み、自力で解散に追い込もうとしているからです。いずれにせよ緊迫した政局を迎えますが、今年こそ、倍旧のご指導・ご鞭撻と温かいご支援を賜りますよう、年頭にお願い申し上げます。

赤字国債30兆円は30年ぶり
 政府与党は当面、シナリオ1に沿って、約4兆8千億円の第2次補正予算を1月半ばに衆院を通過させるため、通常国会召集日の5日に中川昭一財務相の財政演説を、翌6日には同演説に関する各党代表質問を行う段取りです。2次補正予算案は10月末にまとめた追加景気対策に伴う支出などを手当てするため、予算総額は4兆7858億円で、財源には「埋蔵金」である財政投融資特別会計の積立金から4兆1580億円を繰り入れるほか、建設国債の追加発行で7360億円を手当てします。歳出は10月末の追加景気対策関連(4兆6880億円)、12月19日に決定した「生活防衛緊急対策」の一部の雇用対策費(1600億円)などを計上。両対策に伴う追加歳出は計4兆8480億円になりました。景気の悪化で法人税収が伸び悩み、当初見積額より税収が7兆1250億円も減額するのを補うため、6兆6890億円の赤字国債を追加発行します。建設国債と合わせると、08年度の新規国債発行額は33兆1680億円と、3年ぶりに30兆円を突破します。追加景気対策の柱「定額給付金」は2兆395億円を第2次補正予算案に計上。内訳は国民への支給額が計約1兆9570億円、市区町村の支給業務経費などが約825億円です。

2月上旬に衆院通過目指す
 09年度予算案は、首相施政方針演説の後、各党代表質問を経て衆院予算委審議に入り、2月上・中旬に本予算案の衆院通過を目指します。これだと本予算は1ヶ月後に自然成立、関連法案も憲法の「60日の否決見なし規定」を適用して2ヶ月後に衆院で再可決、早ければ年度内(3月末)に成立します。だが、与党が多数決で予算案を衆院突破すれば野党は2月中旬以降、審議拒否に転じて国会の空転は必至です。そこで、政治空白を避けるため@与野党が解散を前提に話し合いA野党が予算関連法案を参院で否決した直後に与党が衆院で再可決・成立Bこれに抗議する形で野党が首相問責決議案を参院可決C首相がこれを内閣不信任と受けとめて2月下旬にも衆院を解散する――との筋書き。いわゆるシナリオ2への移行です。11月16日号のHPで紹介したように、新憲法下初の第2次吉田内閣の総選挙では、首相の祖父・吉田茂首相が内閣不信任案の提出を受けて1948年12月23日に「なれ合い」解散を行いました。首相はそれに“郷愁”を感じているようです。

民主、冒頭狙い駆け引き駆使
 しかし、そうは問屋が卸さず解散は5月以降になりそうです。追加景気対策の定額給付金や、道路特定財源の一般財源化に伴う地方への一兆円配分、日本郵政グループの株式売却凍結などで首相が「場当たり」発言して“迷走”。加えて「軽率」失言、「読み間違い」連発で首相の求心力が薄れ、与党内には総選挙への危機感から解散先送りへの期待と、前号HPで解説した通り一部に「麻生離れ」が生じ、閉塞状態にあること。民主党がこれを好機と捉え、話し合いは拒否し冒頭解散に追い込もうと、予算成立阻止にあらゆる駆け引きを駆使して臨んでいるからです。その兆候は昨年末の臨時国会でもありました。民主、社民両党は12月18日の参院厚生労働委員会で、国民新も加わり3党が提出した雇用対策4法案を提案理由説明の時間も含めわずか2時間半の審議で強行採決。翌日の参院本会議では自公両与党と改革クが退席する中、野党賛成で可決。さらに会期末には衆院解散要求決議案、参院議決権尊重決議案を両院に提出しました。4法案は@新卒者内定取り消し規制の「労働契約法改正案」A解雇者救済の「住まいと仕事の確保法案」――などです。

野党は雇用重視をアピール
 もちろん与党は衆院に送付された4法案を24日の衆院本会議で否決、廃案としました。マスコミは「野党は与党のお家芸の強行採決をやったが、国会閉幕間近に法案を出すなど単なるパフォーマンス」と揶揄しました。野党案は@契約打ち切りで寮などから退去を迫られた非正規労働者の住宅確保や生活支援金最高月額10万円貸与A雇用保険法の適用要件緩和――など非正規労働者救済を重視した内容ですが、政府の追加雇用対策に盛り込まれていたり、実施中のものがほとんどで重複が多く、新鮮味はありません。選挙を前に社会問題化する雇用問題を重視し、素早く取り組んでいる姿をアピールする狙いが野党にはあったようです。寒空の下に突如解雇を言い渡され、ホームレスで越年させられた非正規労働者はかなりの数に上っています。総務省は、国民が「政府は何もしてくれない」との危惧や不安を抱かないよう、地方自治体が失業者に行う年末・年始の緊急雇用・居住者安定確保対策の費用を、今年度予算の特別交付税で5〜8割を財政支援すると通知しました。政府が松の内から通常国会を召集したのは、第2次補正を一刻も早く成立させるためです。

日銀、円高阻止にゼロ金利
 サブプライムローンの「投資銀行」であるリーマン・ブラザーズが破綻して3ヶ月。1929年の大恐慌に似た世界同時不況は連鎖的に経済危機を広げています。サブプライムのマジックに引かれ、米国の低所得者が住宅の資産価格が上昇したと錯覚して購入した「住宅を担保の自動車ローン」は住宅バブル崩壊と同時に焦げ付くなどで米自動車大手3社(ビッグスリー)が経営危機に見舞われています。3社の危機はローンの未回収などで金融不安を増幅、米経済だけでなく世界経済に大きな影響を与えかねないとして、米政府は3社への資金繰り支援法案を米議会に提出しました。しかし、事実上の廃案となったため、ブッシュ大統領は総額174億ドル(1兆5500億円)の緊急つなぎ融資で破綻を回避、公的資金枠を持つ金融安定化法の活用で救済することを検討しています。米連邦準備制度理事会(FRB)も12月16日、金利の誘導目標を年1%から0〜0・25%に決め、事実上のゼロ金利に踏み切り、日米水準は逆転しました。これを受けて日銀は19日、金利の誘導目標を年0・3%から0・2%引き下げ、年0・1%に決め、企業が短期資金を調達するために発行するコマーシャルペーパー(CP)の買い取り、長期国債の買い取り額も増額するなど量的緩和政策に舵を切り替えました。日米金利の逆転で高金利の円が買われ急激な円高がさらに進み、景気悪化が一段と深刻化する見通しがが強まったからです。

貿易産業に負のスパイラル
 円高で苦境に立たされているのがトヨタ、ソニーなどの輸出基幹産業です。トヨタは世界最大の米国市場で9月以降の販売台数が前年実績を20%以上も下回り、世界各地で市場が縮小するなど新車販売が落ち込んだうえ円高の直撃を受け、09年3月期決算の連結営業利益は初の赤字に転落する見通しになりました。トヨタに限らずいすゞ、ホンダなど自動車産業は米国同様の打撃を受けて非正規職員に解雇を通告、ソニーも全世界で1万6千人の人員整理を発表するなど景気後退は深刻です。トヨタの城下町愛知県や工場のある大分県などではリストラの影響が社会問題化しています。こうした負のスパイラル(螺旋)は米国発の経済危機であって、麻生政権のせいではなく、首相はむしろその被害者と言えます。歴代総理でも不況の最中に解散した首相は見あたりません。正月の松が明けると国会では09年度予算案を巡り与野党が激突しますが、「生活防衛」予算をじっくり国民に理解していただき、予算成立後の5月ごろ、国民に信を問うのが最適であると私は考えます。

税収3年ぶり50兆円下回る
 09年度予算案の一般会計総額は、急激な景気の落ち込みから前年度当初予算比で5兆4867億円増の88兆5480億円となっており、当初予算ベースでは00年度を上回る過去最大規模です。小泉政権以降の「財政再建路線」を転換して財政支出を大幅に拡大、景気重視の姿勢を鮮明に打ち出しました。財政赤字を穴埋めする新たな借金の新規国債発行額は33兆2940億円に膨らみ、財政再建の目安の「30兆円」を当初予算では4年ぶりに超えました。政策的経費の一般歳出は4兆4465億円増の51兆7310億円と初めて50兆円を突破し、過去最大となりました。基礎年金の国庫負担を引き上げる費用の約2・3兆円、景気悪化に対応する緊急予備費約1兆円などが盛り込まれ、概算要求基準(シーリング)で設定した上限の47兆8千億円を大きく上回っています。税収は08年度当初より約7兆4510億円(13・9%)少ない約46兆1030億円と3年ぶりに50兆円を下回り、税収の減少率は過去2番目の大きさです。

減税・雇用対策で景気刺激も
 「生活防衛」を謳ったように減税・雇用対策では、@住宅ローン減税で10年間に一般住宅は最大500万円、200年住宅は最大600万円を控除Aハイブリット車や電気自動車を新車で購入した場合、自動車の重量税、取得税を免除B現在、労使折半で賃金総額1・2%の雇用保険料は0・8%に引き下げ(月収30万円の場合、毎月1800円の保険料が1200円に下がる)C出産前の健診費用の現行5回までを14回までに拡大D保育所受け入れ児童を119.7万人から124,2万人に拡大E年収200万円以下の26〜35歳のフリーターらを対象に、職業訓練中の生活費と住居費を毎月10万円貸付ける仕組みを40歳まで拡大――などきめ細かい施策を盛り、景気刺激効果も狙っています。