第192回(11月16日)解散4シナリオ 生活防衛の戦い
今国会の会期末は11月30日に迫りました。追加景気対策を実施するための第2次補正予算案を今国会に提出し大幅な会期延長で成立を図るか、それとも来年1月の通常国会に提出するか、政府・与党は扱いに苦慮しましたが、結局、延長しない方針を固めました。首相が衆院解散の先送りを決めたことで、民主党は臨時国会で抵抗戦術に切り替え、論戦に厳しさを加え、第2次補正にも抵抗する構えを見せているからです。4日の米大統領選でオバマ上院議員が大勝したことから、日本でも同じ民主党勝利にあやかろうと追い風に期待し首相の政権運営を揺さぶっています。解散シナリオは@クリスマスA来春通常国会冒頭B09年度予算成立後C7月の都議選とのダブル選挙――に絞られています。総選挙の争点は政府の追加景気対策と民主党が政権公約に掲げる「新生活5つの約束」で、どちらの「生活防衛策」に国民が軍配を挙げるかです。私は閣内にあって、選挙戦と並行して09年度予算案編成に取り組んでいますが、さらなるご支援をお願い申し上げます。

会期延長に強硬・慎重両論
総事業規模約27兆円の第2次補正予算案を提出できるのは早くても11月下旬で、会期内成立は困難視されます。補正予算案は衆院から参院に送付後、30日で自然成立しますが、関連法案は送付から60日経ないと衆院で再可決できません。民主党は抵抗路線に転換後、新テロ対策特措法改正案、金融機能強化法改正案の参院審議を引き延ばしました。今国会ではほかに31本の法案を抱え、与党は「優先処理」法案を消費者庁設置関連法案など17本に絞りましたが、いずれも審議は難航しています。昨年の臨時国会では、新テロ対策特措法を成立させるために会期を再延長・越年しました。同様に2次補正予算の関連法案を成立させるには60日ルールを適用しなければならず、来年1月下旬までの会期延長が不可避となります。与党内には、「大幅延長して、民主党が抵抗を続けるなら追加景気対策の実現を大義名分に解散すればいい」との「強硬論」もありますが、年末の税制改正や09年度予算案編成に支障をきたさないよう、「今月の会期末で一旦仕切り直しをし、通常国会を早めに召集し、2次補正予算を処理すればいい」との「慎重論」もあります。

Xマス解散は「なれ合い」ヒント
先に挙げた解散シナリオ@は、「強硬論」と「慎重論」を折衷したクリスマス解散で、麻生首相の祖父・吉田茂元首相の「なれ合い解散」がヒント。やや「話し合い解散」に近いものです。吉田氏は「抜き打ち解散」「バカヤロー解散」など政治史に残る解散を手掛けましたが、新憲法下初の第2次吉田内閣の総選挙では、解散権は「憲法7条により内閣にある」と主張する与党と、「憲法69条により国会にある」とする野党が対立。解散を望まない野党が「内閣不信任案を提出」「これを可決する」との双方了解ができ、1948年12月23日のクリスマスイブに「なれ合い解散」が実現しました。憲法7条の解散は「内閣の助言と承認に基づいて行う天皇の国事行為」であり首相の専権事項。つまり「伝家の宝刀」です。同69条は「衆院で内閣不信任決議案が可決された場合は10日以内に解散か総辞職」と定められています。「なれ合い」なら、話し合って会期を大幅延長し第2次補正予算案を今国会に提出して成立に努力するが、野党が抵抗する場合は09年度予算案を編成した直後の12月23〜25日に解散、1月13日公示―25日投開票が想定されます。

冒頭・予算成立後・都議選Wも
ケース@とAの間には越年した場合の延長国会で、第2次補正予算と関連法を処理した直後の@の“変形”としての解散、場合によっては「話し合い解散」もあります。しかし、民主党などが“迷走気味”の定額給付金を盛り込む第2次補正予算案に反対姿勢を強めたことから、12月は国会を閉じて09年度予算編成や外交課題に専念した方が得策だとの意見が党内各派に高まってきました。古賀誠選対委員長は13日、古賀派総会で「一時期、解散風は暴風圏だったが、穏やかな風になった。12月は選挙区も大事だが、東京での(予算編成などの)活動に力を入れてほしい」とケース@に否定的感触を示しました。Aのケースは通常国会を今年同様、1週間程度早めて1月18日ごろに召集、冒頭解散し2月選挙となります。これだと、09年度予算の今年度内(来年3月末)成立は困難で、暫定予算編成を余儀なくされます。Bのケースは09年度予算を3月末までに成立させた直後解散、4月14日公示―26日投開票が考えられます。ただし、予算関連法が60日ルールを適用して5月に衆院再可決・成立する場合は、「5月解散―6月選挙」となります。Cのケースは、そこまでずれ込むなら、都議選と一緒にやった方が都市浮動票の発掘につながり、ベターとみる「ダブル選挙」です。これには都議選を重視する公明党が反対しています。衆院任期満了選挙(9月)は三木武夫内閣で惨敗しており、避けなければなりません。

生活者・中小企業・地方対策
いずれにしても、株価暴落と円高を招いた世界的な金融危機が、依然底が見えない状況にある中で、首相は「政局より景気優先」という看板を立て、解散先送りを決断しました。その判断は当然です。政府与党は10月30日、「総力を挙げ国民生活を守る」と追加経済対策を発表しました。その中身は前号のHPで取り上げたので重複は避けますが、【生活者対策】と銘打って、(1)生活者対策(2)中小企業の企業活力向上=金融対策(3)地方活性化対策――の3項目にわたり緊急、万全の政策を発表しているので、概要を詳しく列挙します。まず、生活者対策では、@定額減税の変形である「定額給付金」総額2兆円支給A介護報酬月2万円アップ、介護人材を10万人確保B3歳未満児の保育サービス利用率5割増C第2子から年間3・6万円の「子育て応援特別手当」支給D妊婦健診の無料化(14回分)E雇用保険料を大幅引き下げ(標準世帯で年約2万円還元)F年長フリーターの正規雇用奨励、新規雇用創設G過去最大級の住宅ローン減税H電気・ガス料金の引き上げ幅圧縮――などです。雇用は非正規労働者など60万人分の雇用を下支えする対策が盛り込まれています。

どこまで走っても休日千円
 次ぎに金融対策では、@資金繰り対策で、緊急信用保証を6兆円から20兆円に、政府系金融緊急融資を3兆円から10兆円に拡大するなど総額30兆円のセーフティネットを構築A新エネ・省エネ投資の即時全額償却、中小企業法人税引き下げ、海外所得(17兆円)の国内への環流など成長力強化の税制促進B金融機関への資本参加枠(現行2兆円)の拡大C株式配当等の軽減税率を延長――を列記。地方活性化対策では、@高速道路料金を休日はどこまで走っても1000円に、平日昼間も3割引きに引き下げA道路特定財源の一般財源化は1兆円を地方に充てるB「地域活性化交付金」できめ細かい地域インフラ整備――を挙げています。首相は「百年に1度の暴風雨が吹き荒れている」との経済認識を示しましたが、追加対策では、「生活者の暮らし安心」「金融・経済の安定強化」「地方の底力発揮」の3つを重点分野とし、年内に中期プログラムを取りまとめる方針です。首相は14,15両日にワシントンで開催の金融サミット、23,24両日にペルーで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)、12月上旬に日本で開く日中韓首脳会談など切れ目なく続く外交日程と政策をこなしつつ、最良のタイミングで解散を打とうとしています。

民主「新生活5つの約束」
これに対し、民主党は、米民主党が8年ぶりに政権奪取したことで、「日本でも国民が政権交代を実現させたいとの思いに駆られる」(鳩山由紀夫幹事長)と、オバマ氏勝利の追い風に期待をかけ、「生活者を中心とした政治への転換は世界的傾向だ」(山岡賢次国対委員長)とオバマ氏のチェンジ(変革)にあやかろうとしています。小沢一郎代表は10月1日の衆院代表質問で、「総選挙は自公政権を続けるか、民主党中心の政権に代えるか、国民生活の仕組みを選ぶ重要な機会だ。小泉政権以来の市場万能と弱肉強食の政治で生じた格差と不公正を放置すれば、国民生活が崩壊する。日本を変えることは自公政権に終止符を打つしかない」との抱負を語りました。同党は官僚任せの財政運営を大転換するとし、民主党の政権公約(マニフェスト)に「新しい生活を作る5つの約束」を発表しています。政権公約は@官僚の天下りと税金の無駄遣いをなくすA「消えない年金」にシステムを改めるB子育ての心配をなくすC雇用の不平等をなくすD農林漁業の生活不安をなくし、食と地域を再生する――の5項目です。

20・5兆円の新財源捻出
@は「埋蔵金」も活用して2009年度に8・4兆円、10,11年度は各14兆円、12年度には20・5兆円の新財源を生み出すAは国が責任を持って「消えた年金」は全額支払い、後期高齢者医療制度は廃止し、被用者保険と国民健康保険の将来一元化を目指すBは子供1人当たり月2万6000円の「子供手当」を中学校卒業まで支給するCは2ヶ月以下の派遣労働は廃止し、最低賃金の全国平均を時給1000円に引き上げるDは農業の個別所得補償制度を創設し林業と漁業も所得補償制度を検討、中小企業の法人税率を原則半減する――などの具体策を挙げています。公約の「工程表」は衆院選で政権が交代した場合、衆院議員の任期満了までの4年間に実施する事業を、(1)2009年度予算で実施(2)2年以内に実施(3)3年以内に実施――の3段階に分けています。09年度は、ガソリン税などの暫定税率を廃止して2・6兆円の減税、高速道路無料化の一部開始、子供手当創設、医学部定員の1・5倍増や医療事故原因調査制度創設などを挙げています。

埋蔵金など財源裏付けなし
緊急対策の医療改革は09年度に一部実施して10〜11年度に完全実施。農業の個別所得補償は09年度に法律を制定するため「2年以内」とし、12年度に完全実施する方針です。消費税の税収全額を財源として最低保障年金を確立する年金改革は、「4年以内」に位置づけ、3年かけて新制度を設計し、12年度に実施する考えです。事業費は09年度が7兆円、第2段階終了時までの総額が14兆円、4年間の総額が22兆円と試算しています。財源は@国家公務員の人件費20%削減、独立行政法人への補助金カット、国の直轄事業として行う公共事業や調達コストの見直しなどで12・6兆円A所得控除の見直しなどで2・7兆円B外国為替資金特別会計や財政投融資特別会計の運用益など、いわゆる埋蔵金で4兆円C政府資産の売却、租税特別措置の見直しなどで3兆円――によって確保する考えです。直嶋正行政調会長は「税金の無駄遣いをやめ、財政の仕組みを見直すことで、政策の裏付けとなる財源は十分確保できる」と強調しています。しかし、財源は裏付けのないものばかり。与党は国会論戦を通じ財源内容や矛盾点を厳しく暴いています。どうやら年内解散は回避される見通しにありますが、総選挙では、国民の皆さまが民主党の見かけ倒しの「嘘八百財源」を見破るものと期待しています。