第191回(11月1日)年内総選挙先送り 民社は戦術転換
08年度補正予算が成立し、政局の焦点は衆院解散・総選挙の時期に絞られています。総選挙の本命は「11月18日公示―30日投開票」でしたが、米国発の金融危機が世界を揺るがしているため、首相側近や自民党首脳も実体経済が予想を上回る速さで悪化していると危機感を感じ、「総選挙先送り論」が一気に高まりました。首相は国際経済の悪化が与党の勝利にマイナスに作用しないかと懸念し「伝家の宝刀を抜くべきか、抜かざるべきか」と大いに逡巡しましたが、30日の記者会見で当面は景気対策に打ち込み、年内総選挙を見送る意向を表明しました。麻生政権の存亡と言うより半世紀にわたる自民党政権の命運を賭けた選挙戦になるため、万全の景気対策を立て国民不安を一掃したうえで国民の信を問いたいと考えたからです。解散環境を作ろうとして、協力姿勢に転じていた民主党は「補正予算の食い逃げは許さない」と怒り、早期の解散・総選挙を迫る一方、対決色を強め参院では新テロ対策特措法改正案などの審議を引き延ばす戦術に転換しています。しかし、一旦吹き出した解散風は収まりません。暮れか年明けの解散は必至でしょう。私は決意新たに激動政局と取り組んでいます。よろしくご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

大恐慌に匹敵の危機的様相
リーマン・ブラザーズの破綻や米政府が3月に公的資金を提供したベアー・スターンズ、バンク・オブ・アメリカが買収を発表したメリルリンチなど米大手証券を巡る経営危機は、世界中の金融市場に動揺を与え、1929年大恐慌に匹敵する危機的様相を呈してきました。金融危機をきっかけに、株式市場だけでなく原油や穀物の商品先物市場から投機マネーが一斉に流失し、相場が大幅に下落しています。市場の混乱に嫌気した投機ファンドが、手持ち資金を確保するための売りを強めているためです。おかげで、高騰を続けていた原油、穀物価格を引き下げたことはラッキーな副産物。10月16日のニューヨーク原油先物市場での原油価格は1バレル70ドルを割り込み、最高値147・27ドルを記録した7月11日から、わずか3カ月で半額以下に急落しました。70ドルを割り込んだのは2007年8月以来約1年2ヶ月ぶりで、冬に向けてガソリンの店頭価格が下落を続けることは庶民に朗報をもたらしました。穀物などの国際価格も下がり、輸入小麦の政府売り渡し価格の引き下げ率が当初見込みの30%から10%に圧縮され、パン類など身近な商品の値上がりも一服状態です。選挙に向かう麻生内閣にとっては若干プラス材料です。

株の乱高下で緊急市場対策
「100年に1度の金融災害とも言うべき米国発の暴風雨が荒れている」――。首相は10月30日の記者会見でこう述べました。金融危機は麻生政権の誕生とほぼ同時期であり、首相は「選挙よりも金融市場の安定化が急務である」として、補正予算成立後、直ちに政府・与党会議を開き、緊急市場対策と新たな経済対策の策定を指示しました。08年度補正予算は、同月16日夕の参院本会議で、民主党も賛成して可決、成立しました。総額1兆8080億円で、中小企業向け新保証制度導入に4469億円、原油高騰の農水産業者支援に1510億円、省エネ型住宅取得支援に209億円などを盛り込み、予算関連の臨時交付金特例法も成立。予算は直ちに実行に移されました。しかし、補正予算は福田政権の置きみやげで、金融危機が発生する以前に策定されたものです。混迷経済を救える内容ではありません。金融不安に伴い株式市場は一時7000円を割り込んでバブル崩壊後の最安値を下回り、26年ぶりの低水準に落ち込むなど長期間、激しい乱高下を続けています。このため政府は27日、緊急市場対策を発表しました。@株式の空売り規制強化A銀行の自己資本比率の算出方法見直しB銀行等保有株式取得機構の活用C国内金融機関への公的資金の注入枠をこれまでの2兆円から10兆円規模に拡大――などが柱です。

解散無理な暇ない外交日程
金融不安が収束しない限り、総選挙での勝算のめどは立ちません。首相は同20日の総裁選支援議員との会合で「米大統領選のある11月から3ヶ月間は米国が政治空白となる。NO2の日本にも空白があってはいけない」と述べたり、11月15日に米国で開く金融危機対策の緊急首脳会合へ出席する意向をいち早く表明したり、24、25両日、北京で開いたアジア欧州会議(ASEM)に出席した際にも日中韓首脳会談を12月上旬に日本で開くことで中・韓両国の了承を取り付けるなど切れ目ない外交日程を設定することで早期解散を打ち消す態度を示しました。首相は実体経済の悪化を憂慮し、北京での記者会見でも「国内的な政局より、国際的な役割を優先する必要性を感じる」と述べ、場合によっては解散の越年・先送りがあることを示唆しています。首相がクレー射撃の5輪選手であったことから、古賀誠選対委員長は、「クレー射撃は引き金に手を掛けてから引くまでに結構、時間がかかる」と述べ、首相の最終決断には時間がかかると予想しています。これには解散環境作りをお膳立てし、審議促進に協力してきた民主党は「食い逃げだ」と反発、金融機能強化法の復活など重要法案の審議には抵抗するよう戦術転換を図っています。

4ヶ月続き倒産は1千件超
「米国の景気後退などを反映し、輸出が緩やかに減少していることや、設備投資が引き続き弱含んで生産が減少していることなどから、景気の下向きの動きが一層明確となった」――。与謝野馨経済財政相は10月の月例経済報告で、厳しい景気認識を示しました。政府が20日に公表した月例報告は、11項目ある景気の基調判断のうち、個人消費、輸出、生産、業況判断、倒産、雇用に関する6項目の個別判断を2ヶ月ぶりに下方修正し、前月までの「このところ弱含んでいる」との表現を「弱まっている」に改め、米国発の金融危機が、日本の実体経済にも深刻な影響を及ぼし、景気の減速が一段と強まっている状況を指し示しました。6項目の下方修正は日本経済が金融不況に沈んでいた1998年4月以来10年半ぶり。倒産は4ヶ月続きで月1千件を超えています。個人消費は東北、中国など7地域、設備投資も北陸、関東甲信越など5地域で前回より落ち込んでいます。雇用状況も全体的に弱めの動きです。

27兆円規模“真水”5兆円
このため、首相は同30日、自ら追加景気対策を発表しました。追加対策は@定額減税に代わる2兆円の定額給付金支給A住宅ローン減税を09年度以降も延長・拡充B証券優遇税制の3年間延長C雇用保険料率の引き上げと非正規雇用者の雇用安定対策強化D「子育て応援特別手当」支給と都道府県に「安心こども基金」設置E金融機能強化法の復活F中小企業の法人税減税と信用保証枠を拡大など資金繰り支援の拡大G高速道路料金を千円以下に大幅引き下げH自治体へ地域活性化・生活対策臨時交付金を交付I減反農家への補助金拡大J海外子会社利益の国内還流――を骨子としており、暮らしの支援、地方対策、中小企業の活性化を目指しています。事業規模は約26兆9千億円で、“真水”の実質的な財政支出額は5兆円です。財源は政府系金融機関などに投融資する財政投融資特別会計の金利変動準備金(埋蔵金)から約3兆円を充てるほか建設国債などで賄う方針です。首相は、「赤字国債を財源としない」と述べ、中福祉・中負担の発想に立って、「大胆な行政改革を行った後、3年後に消費税に引き上げをお願いする」と記者会見で明言、自民、公明両党の政調会長に消費税の扱いを含む税制改革の工程表の策定を指示しました。これは野党の「選挙目当てのばらまき政策、税制規律の棚上げ」との批判をかわすものです。追加対策の裏付けとなる08年度第2次補正予算案を今国会に提出することを検討しています。

定額給付金、4人世帯6万円
定額給付金は公明党が強く主張していた定額減税に代わるものです。同党は所得税・住民税の一定額を減税、4人家族で6万円程度、1年に限り支給するよう総額2兆円を要求していました。定額給付金は1999年に実施した「地域振興券」をモデルにクーポン券(金券)で支給、所得制限を設けず、全世帯を支給対象としています。2兆円を今年3月現在の全国世帯数で単純に割ると、1世帯4人家族の給付金は約6万円になります。定額給付金は物価高に対する生活防衛を目指すもので、借金返済や貯蓄に走らないよう現金ではなく金券方式とし内需拡大の効果も高めたいとしています。住宅ローン減税は所得税と住民税の減税額の上限を過去最高の計600万円まで引き上げます。減税総額は5000億円を超える見通しです。金融機能強化法の復活は地域金融機関の財務基盤を予防的に強化するため公的資金を注入、中小企業への貸し渋り・貸し剥がしを防ぐものです。

民主、新銀行東京救済に反対
24日に提出した金融機能強化法改正案は金融機関からの公的資金注入の申請を復活し、2012年3月まで受け付けを延長しました。法案には、公的資金注入の基準を「中小企業に対する金融の円滑化が見込まれること」と明記、中小企業への貸し渋り防止という法の狙いを明確にしています。注入の条件としていた経営責任や、リストラなどの組織再編は一律に問わず、申請条件を緩和して、信用金庫や農業協同組合などの中央組織である信金中央金庫や農林中央金庫などの財務基盤強化に公的資金を使えるようにしました。地銀の財務基盤を厚くし、中小企業などへの融資を促す狙いがあります。生命保険会社が破綻した場合に、公的資金を活用できるようにする枠組みを延長する関連法案も併せて提出しました。公的資金枠は、先の緊急市場対策に盛られたように制定時の2兆円から5倍増の10兆円としました。民主党は、自民党の支持基盤である農協などの中央組織や、破綻しかけた「新銀行東京」にまで公的資金注入を拡大するとして改正案に反対しています。