第188回(9月16日)首相退陣し総裁選 政策論争盛上げ
福田首相の唐突な退陣表明を受けて、自民党は22日投開票の総裁選に向けて燃え上がっています。10日の告示には麻生太郎幹事長、与謝野馨経済財政相、小池百合子元防衛相、石破茂前防衛相、石原伸晃元政調会長の5氏が名乗り上げ、総裁選に突入しました。財政出動で景気浮揚を図る麻生氏、消費税増税もやむなしとする「財政再建派」の与謝野氏、小泉構造改革路線を継ぐ「上げ潮派」の小池氏、外交・防衛を重視する石破氏、若手の擁立で新風を起こす改革派の石原氏。経済中心の党内論争がそのまま持ち込まれた形ですが、これまでの派閥選挙と違って政策論争を展開することで国民の関心が一段と高まっています。今のところ、4回目の出馬で前回の福田首相と党員投票で互角に戦った麻生氏が有利ですが、総裁選の熱気と新内閣発足のご祝儀相場が冷めない内に解散・総選挙を行うのが政界の常識です。臨時国会で代表質問が終わった直後に解散し11月総選挙。あるいは08年度補正予算の成立時か、来年度予算案を通常国会に提出する1月冒頭に解散し、新春早々の総選挙となる見通しです。党の浮沈を賭けた政局「秋の陣」を元気いっぱい戦う覚悟ですが、皆さんのこれまで以上のご支援、ご鞭撻をひたすらお願い申し上げます。

ねじれ国会“恨み節”、気力喪失
「新しい布陣のもと政策の実現を図っていかなければならないと判断、辞任を決断した。今が政治空白を作らない一番いい時期だ。臨時国会が順調にいくためには、私がやるより、ほかの人がやる方が、より良くなるのではないか」――。辞任の弁を述べた首相は、改造内閣の強力布陣で総合経済対策をまとめたと強調しながらも、「先の国会では民主党が重要案件の対応で国会駆け引きばかりの審議引き延ばしや審議拒否を行った」とねじれ国会が壁になったことへの“恨み節”を並べ立てました。洞爺湖サミットの成果も、大幅改造内閣の評価も内閣支持率上昇に結びつかず、「福田首相では総選挙が戦えない」との声が与党内に高まり、公明党が首相に距離を置きだしたことは事実です。首相は政権運営の気力を失い、退陣を決意したと見られます。対する野党は「安倍前首相に続く2代続けての政権放り出しによって自公政権が国民に責任持てないことを自ら証明した」(菅直人民主党代表代行)、「選挙のために首相を辞めさせる自民党、投げ出す福田首相、どちらも国民を考えない『国民投げ捨て内閣』だ」(福島瑞穂社民党党首)と一斉に批判しました。

複数候補政策論争で信頼回復
中曽根康弘元首相も「議会を乗りきる自信がないと正直に告白して身を引くのは良心的だが、2世、3世は図太さがなく根性が弱い。次の総裁は根っこに不敵さを持ち、知性と見識を持っている人物を選ぶことが必要だ」と読売新聞で述べています。中曽根氏は「2代にわたり暫定短期政権が続いた。これは政党として何か欠陥があるのではないか。人材養成とか、人員の配置とか、人材の選び方に弱点があるのではないか」と指摘、総裁選の焦点は「政策問題はもとより党内部の構造改革、国際関係処理、党風刷新を考える必要がある」と説いています。国民の世論は厳しく、首相の突然の辞任を「出処進退の潔さ」と誉めるどころか、野党が言う「無責任な敵前逃亡」と受け止め、政権政党への信頼を失いかけています。解散・総選挙を前にオープンな総裁選を戦うことは党体制を立て直す絶好のチャンスです。党勢回復のため、日本の進路について複数候補が堂々と政策論争を展開、格差社会の進展に不満を強める国民の閉塞感を吹き飛ばすことが何よりも重要です。

2、3位連合で逆転決勝も
総裁公選規定では、地方票は300票と定められていますが、今回は党則の「特に緊急を要するとき」に該当するとして、衆参両院議員(衆院304人、参院83人)が1人1票投じる国会議員票387票と都道府県連に3票ずつ割り当てられる地方票141票の計528票で争われ、有効投票の過半数を獲得した候補が新総裁に選ばれます。過半数を取る候補がいない場合は上位2人の決選投票に持ち込まれます。1956年の総裁選では石橋湛山、石井光次郎両氏が「2,3位連合」を組み、岸信介氏を6票差で逆転したこともあり、候補者が多い場合は予断を許しません。地方票は全投票数の26・7%を占めており、どの候補に投票するかを誰が決めるかについては、都道府県連の判断に任されています。しかし、密室で決めたとの印象を与えないよう「開かれた党」をアピールするため、党員投票は、前回が35都道府県にとどまっていたのに対し、今回はほぼ全都道府県に広がっています。3日の両院議員総会では、河野太郎衆院議院が「党員が投票できない総裁選をすべきではない。党員全てが投票し、(正式の総裁公選規定の)300票を持つやり方でやるべきだ」と口火を切ると、若手議員から選出方法の見直しを執行部に迫る声が相次いで出されました。

派閥薄れ中堅、若手行動活発
今回の総裁選は派閥色が薄まったことが大きな特徴です。前回は対抗馬であった麻生氏の麻生派を除く8派閥が福田首相支持に雪崩を打ちましたが、今回は「党存亡の危機」と受け止める中堅、若手議員の動きが活発化しています。派閥横断グループの「改革加速議員連盟」や衆院当選1回議員の集まり「国民本位の政治を実現する会」などは若手候補の擁立に走りました。中堅の先頭を切ったのは石原候補(山崎派)ですが、立候補を目指した河野太郎氏(麻生派)や棚橋泰文元科学技術相(津島派)、山本一太参院議員(町村派)は推薦人確保のメドが立たず出馬を断念しました。派閥がまとまって麻生氏支持を決めたのは伊吹、二階両派で高村派も麻生氏に集約中です。町村派は麻生、小池両氏に支持が分かれ、津島派は石破、麻生、与謝野の3氏に、山崎派も石原、麻生、小池氏に3分裂するなど大派閥は分裂気味。古賀派は谷垣禎一国交相が出馬を見送ったため自主投票になりました。それだけに政策論争が活発化しています。麻生氏は前回、党員票獲得で福田氏と互角に戦った経験から自信を深め、全国17カ所の街頭演説会などに精力を傾けています。

民主分裂、11月総選挙強まる
民主党は総選挙に向けて「メディア対策チーム」を設置しましたが、鳩山幹事長は初会合で、「メディアの関心はほとんど自民党総裁選に行き、メディアジャックが明確に始まっている。どうすれば党の姿を際立たせていけるか」と同党が埋没する危機感を訴えました。臨時国会は24日に召集されますが、同党の山岡賢次国対委員長は解散・総選挙の日程を@9月下旬の臨時国会冒頭解散―10月末総選挙A10月上旬の代表質問後解散―11月上旬選挙B11月上旬の補正予算成立後解散―12月中旬選挙C11月上旬の補正予算関連法成立後解散―1月中旬選挙――と4通り挙げ、投票日は10月26日、11月2日、11月9日のいずれかを想定、「11月9日が本命だ」と述べて臨戦態勢を整えています。「任期一杯の解散」を唱えていた我が古賀派の古賀誠選挙対策委員長も「秒読み体制に入った」と述べて代質問後の解散を示唆、総選挙が早まることは間違いないでしょう。民主党の悩みは臨時国会を前に造反組が出たことです。渡辺秀央元郵政相、大江康弘(以上参院比例)、姫井由美子(参院岡山)の参院議員3人が8月28日、離党届けを出して新党「改革クラブ」を結成、代表に渡辺氏を選びました。慌てた民主党が説得したため、姫井氏は翌日、離党を撤回しました。新党は郵政造反組で無所属の荒井広幸(参院比例)と松下新平(参院宮崎)も参加して4人の勢力。姫井氏が抜けて「国会議員5人以上」の政党交付金支給要件は失いましたが、改革クは参院の無所属議員を対象に勧誘を続けています。

分裂工作続き政界再編も加速
渡辺、大江氏は通常国会で、日銀副総裁人事同意案件や道路整備費財源特例法改正案などの採決で造反し、党員資格停止処分を受けているなど与党寄りです。大江氏は和歌山県議出身で二階俊博経済産業相と以前から近いことから、新党結成の仕掛け人は二階氏と噂されています。渡辺氏は中曽根元首相の秘書を経て新潟から衆院6期務め、参院2期目です。姫井氏は昨夏初当選し、「姫の虎殺し」で有名ですが、自身の交友関係などが週刊誌に取り上げられ、対応に問題があったとして民主党岡山県連から厳重注意を受けるなどトラブル続きで、次期参院選で同党から立つのは難しいと考え、改革クラブ入りを一旦承諾しました。だが、党の説得工作で撤回したものです。参院242人の過半数は122ですが、参院の民主党、国民新党などの統一会派は120人から3人減って117人になれば、社民党会派の5人を加えても過半数ギリギリ。1人が病気で欠けても過半数割れとなるため、執行部が懸命に工作し、1議席を奪回したわけです。少人数の造反、離脱があれば民主党は参院で主導権を握れず、福田首相退陣の大きな要因となった“ねじれ国会”は解消されます。従って、今後も与党サイドの民主党切り崩し、分断工作が続けられることは必至です。一方、総選挙後は無所属の平沼赳夫元経産相、次の衆院選に出馬する橋本大二郎前高知県知事ら第3極の新党結成や政界再編がさらに続くものと予想されます。