第187回(9月1日)政局秋の陣開幕 政権の浮沈賭ける
 臨時国会は9月12日に召集され、政府与党が8月末にまとめた「安心実現のための総合経済対策」を巡り、与野党が論戦を展開します。首相は内閣改造直後の記者会見で、「物価高と景気低迷の困難を解決する」と強調、物価高対策を柱に中小・零細企業向けの金融支援や省エネルギー、非正規雇用、医療などを盛り込んだ景気刺激策をまとめ、これに伴う補正予算案を編成しています。国会は補正予算案、インド洋上の給油を継続する新テロ特措法改正案、消費者庁設置関連法案、通常国会から積み残した法案など重要法案が提出されることから野党の攻勢は激しく、衆院解散含みの緊迫した攻防が続くと予想されます。次期総選挙はまさに自民党政権の浮沈を賭けた、乾坤一擲の勝負となりかねません。私は防衛副大臣に就任以来、各基地視察や水産漁業対策など公務、政務に明け暮れています。いよいよ政局「秋の陣」の開幕。皆さんのさらなるご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

安心実現の総合経済対策決定
 政府与党は8月末、原油高騰に伴う諸物価高、景気低迷に対処するため、総合経済対策をまとめました。物価上昇はコストプッシュ(原材料高騰)によるスタグフレーション(不況下のインフレ)で外的要因が多く、打てる手段は限られていますが、後退局面の景気を再び回復軌道に乗せることが喫緊の課題。そこで、国民の痛みを解消するため、中小企業の資金繰り対策や省エネルギー対策、燃料負担の大きい農漁業業者への支援策を中心に、高速道料金の引き下げなどの具体策も盛り込み、事業規模は総額約11.7兆円(財政支出を伴わない融資枠拡大を含む)に達する大型の景気浮揚策です。内閣改造で上向いた内閣支持率が再び下落しないよう、「重厚・実力者内閣」の閣僚が英知を集め、国民が期待する「福田カラー」の経済政策を打ち出しています。与党内には衆院解散を睨み、数兆円規模の財政出動を求める声が強く出されましたが、ばらまき予算との批判をかわすためにも、補正予算の“真水の”財源は1.8兆円とし残りは今年度予算の予備費、昨年度予算の純余剰金を充て、赤字国債の発行は極力回避しています。実質的には08年度下四半期の1〜3月分と09年度予算を一体化した「15ヶ月予算」の発想で編成しています。公明党が強く要求した低所得者向けの1〜2兆円規模の定額減税は08年度中一年限りの措置として実施する方針を決定。麻生太郎自民党幹事長が提唱した証券優遇税制の拡充などは今後、党税調で検討して行く考えです。

選挙非協力と公明揺さぶる?
 首相は8月25日夜、麻生自民、北側一雄公明両党幹事長と会談し、臨時国会を9月12日に召集、会期を11月20日までの70日間とすることを決めました。召集時期については、前号で述べた通り、伊吹文明前幹事長ら前執行部が8月末を主張したのに対し、公明党は @国会の最大テーマは景気対策の大型補正予算の成立にある A新テロ対策特措法改正案の提出には同意するが、「衆院での再可決」は世論の反発を買うため反対 B矢野絢也元公明党委員長と創価学会の訴訟問題で野党が矢野氏の証人喚問要求をしている――などを理由に、例年通り9月末に召集、短期間で閉幕し、来年夏の都議選に影響が出ないよう、出来れば年末年始の衆院解散・総選挙を断行するよう主張しました。公明党の言い分を無視するなら、「次期総選挙での選挙協力には応じかねる」との切り札をチラつかせ、揺さぶったという説もあり、首相はやむなく、足して2で割る折衷案で召集日と期間を決定しました。小沢一郎民主党代表は「党の代表選は9月にやることが決まっている。相手のことを斟酌して決めるのが当たり前の常識を持つ人のやり方だ」と首相を非難しています。

野田氏の断念で小沢3選確実
 民主党はまず、中国製冷凍餃子中毒事件で、中国政府から、洞爺湖サミット開会直前に中国での被害者発生の連絡を受けながら、日本政府が公表しなかった問題について徹底追及する構えです。政府は中国の捜査に協力するため、外交上の機密扱いにしたと弁明していますが、民主党は首相が「消費者重視の行政」を旗印に消費者庁設置法案を提出しておきながら、国民の最大関心事を公表しないのは「ポーズに過ぎない」と責める方針です。矢野氏の証人喚問は与党の足並みを乱す効果があると見て、他の野党と組んで公明党に追撃をかけることにしています。こうした中で同党の野田佳彦広報委員長が8月21日、9月8日告示、21日投開票の党代表選に立候補の意向を表明しましたが、同氏の支持グループ「花斉会」の意見集約が出来ず出馬を断念しました。同会の若手からは「開かれた政党として選挙戦を行うべきだ。衆院選に向けて党の政策をアピールするためにも、小沢氏の無投票3選は望ましくない」と出馬を促す声が出たのに対し、「もはや堂々とした政策論争が出来る時機は逸した」との反対委意見が出て、同会が分裂の様相を深めたからです。野田氏は02年の9月の代表選に立候補しましたが、鳩山由紀夫代表(当時、現幹事長)に敗れており、今回は「ポスト小沢」への足掛かりを築くため出馬を考えたようです。だが、野田氏の断念により、他の出馬は見あたらず、小沢代表の無競争3選が確定しました。

公約に民営化見直し盛る合意
 政府与党は9月12日の召集日に首相の所信表明演説、同16〜18日に衆参両院で各党代表質問を行う考えです。前号にも書いたように内閣改造での脱・小泉改革路線は、首相が総選挙の小選挙区で民主党に流れそうな全特(全国特定郵便局長会)とそのOB・家族で作る政治団体「郵政政策研究会」(大樹の会)の二〇万票の懐柔が狙いです。改造に対し、小泉元首相の飯島元秘書官は「敗北した」とマスコミに語ったそうですが、「上げ潮派」の竹中平蔵元総務相(慶大教授)は「アンシャンレジューム(旧体制)の復活だ」と批判しています。喜んだのは「郵政民営化見直し法案は一丁目一番地」と主張してきた国民新党の綿貫民輔代表です。綿貫氏は改造前の7月16日、早くも小沢一郎民主党代表、全特の浦野修会長と三者会談し、次期衆院選で民主党が政権公約(マニフェスト)に郵政民営化での抜本的見直しを盛り込むことに合意しました。これにより「郵政政策研究会」は、国民新党の候補が立たない小選挙区では原則として、同党が推薦する民主党候補を支援することになりました。

取り組み姿勢に「踏み絵」
 旧郵政公社時代の郵便局長は、郵政民営化で国家公務員から民間人になったため、公職選挙法に触れず、政治活動が解禁されました。自民党には皮肉な結果ですが、「郵政政策研究会」は郵便、郵貯、簡保の3事業を元の姿に戻すよう「3事業一体化」を要求、大っぴらに政治活動を展開しています。民主、国民新両党の執行部は8月20日、次期衆院選の選挙協力について協議しました。民主党は党の公認内定者のうち、既に国民新党の推薦を得ている15人を除く224人の推薦を国民新党に要請、国民新党側は「郵政民営化見直しの具体案をさらに両党間で詰めるべきだ」と述べ、個々の公認候補内定者の取り組み姿勢を考慮しながら、臨時国会前にも推薦の可否を決定する方針を示しました。各候補の取り組み姿勢を「踏み絵」とするものです。「郵政研」は郵政造反派だった保利耕輔元文相が政策元締めの政調会長に就任したため、期待を大きく膨らませていますが、自民党でも、保利会長が早速、「郵政化3年後見直し規定」に沿って改善策の検討を開始しました。

財務省は郵政株売却を本格化
 「郵政民営化見直し」には幾つかの障壁が立ちはだかっています。1つは財務省が政府保有株売却で2015年度までに約8兆4千億円の収入を見込んでいることです。日本郵政や日本政策投資銀行などの民営化に伴い、政府は保有株式の売却を今後、本格化させることとし、財務省は売却作業を効率的に進めるため「政府出資室」を新設しました。12人体制で、売却スケジュールなどを策定する「有価証券」担当と、株主権行使を通じて企業価値向上を図る「出資・法人」担当を設けています。従来は4つの課が関わっていましたが、関連業務を一元化し、作業の効率化を図ったものです。保有株の売却は政府の資産債務改革の一環で、「骨太の方針2006」で決まりました。今後、早ければ10年度に上場する日本郵政の株売却で5兆円を、13―15年度には日本政策投資銀行の全株売却で1兆9千億円の収入を見込み、売却収入は国の債務返済に充て、財政再建に役立てる方針です。ただ、計画通りに売却が進むかは不透明です。日本郵政は、グループ全体では08年3月期の純利益が予想を上回りましたが、傘下の郵便局会社は純利益が計画の86%減と経営に脆弱(ぜいじゃく)な面が残っています。

証券投資の麻生構想に反発か
 そこで、「郵政研」は日本郵政株の10年度上場に強く反対して行くと見られます。もう1つは麻生幹事長が証券優遇税制の拡充など予算を必要としない景気刺激策を提案し、首相も暗黙の了承を与えていることです。個人資産の1500兆円を証券投資に振り向ける麻生構想は、郵政職員が半世紀以上に亘り、定額貯金の普及などでコツコツと築き上げてきた国民保有の財産であり、これまでに郵便局が果たしてきた役割は絶大です。その功績が一瞬にしてうやむやになり、郵貯銀行の今後の営業にも響きます。これにも「郵政研」は反対運動を展開するでしょう。2005年の郵政選挙で自民党は東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫の大都市圏の102小選挙区で90議席近い大勝利をおさめました。しかし、全特の基礎票20万票が国民新、民主両党に流れ、共産党が小選挙区の候補者を半分の140議席に絞り込み、自民党に対する公明党の選挙協力が停滞するとなれば、激戦区では民主党への雪崩現象が起きかねません。その意味で、郵政民営化見直しの「踏み絵」は民主党だけではなく、自民党候補にも当てはまるわけで、我々は郵政民営化をしっかり検証し、改良すべき点があれば、それこそ国民の目線で改善しなければならないでしょう。公明党の選挙非協力に加え、共産票と全特の郵政票が民主党支援に回ったら、相乗効果を生んで小選挙区で戦う自民党候補は大打撃を受けることにもなり、要注意です。