第185回(8月1日)出るか福田カラー 臨時国会攻防激化
首相が政権の浮沈を賭けた洞爺湖サミットの結果は、各紙の世論調査を見ても内閣支持率は微増にとどまり、残念ながら政権浮揚には結びつきませんでした。やはり、国民の関心は原油高による諸物価高騰に注がれ、首相が精魂を込めた地球温暖化対策の成果はかすんでしまったようです。7月16日から6日間の夏休みで久々に充電した首相は政権運営について熟考、8月上旬にも「福田カラー」を明確に示す内閣改造を断行します。だが、下旬開幕予定の臨時国会は新テロ対策特措法改正案など内外の重要案件が山積、与野党の攻防は一段と激化しそうです。とりわけ民主党は「衆院選が政権交代の最大の機会であると同時に最後のチャンス」(小沢一郎代表)と訴え、解散に追い込む構えです。同党の「次の内閣」が7月9日、長崎県・福江島で開いた初の地方公聴会は、ホテルが用意した500席が埋まり、300人が立ち見席になったそうです。政策に財源の裏付けを持たない無責任な同党に政権は渡せません。国会では年金、長寿医療制度、物価高、公務員倫理など野党の攻撃材料が多く、今解散すれば自民党は苦戦を免れません。来秋の任期満了までに必ず天下分け目の関ヶ原が到来します。さらなるご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

最後の願い衆院解散・総選挙
某社の政治部記者の話によると、「福田首相には3つの願いがある」と言います。第1は亡父・赳夫元首相の夢が叶わなかった、日本で開催するサミットの議長職。第2は自分に比べ政歴の浅い弟分の安倍晋三前首相より、1日でも長い首相在任記録。第3はこれも父親が果たせなかった、衆院解散・総選挙の断行――の3つです。このうち1番目の願いは北海道洞爺湖サミットによって成就。テロや、反グローバリズム・グループによる大きな騒動もなく無難にホスト役をこなし、なかなかの成果を上げました。だが、各紙世論調査の内閣支持率は微増の20%台半ばにとどまり、政権浮揚効果は限定的でした。とはいえ、マスコミが一頃囁いた「サミット花道論」はもはや消え、政権発足から間もなく1年。「在職366日の安倍前首相より一日でも長く」という第2の願いは実現しそうです。第3の願いは、「日本で初開催のサミット成果を引っ提げて衆院解散」との思いを込めた父・赳夫首相と同様、首相は解散権行使の強い意欲に駆られているに違いありません。

入念な身体検査で「自前内閣」
しかし、物価高の中で開く臨時国会はあまりにも懸案が多く、自民党にとっては不利な情勢。今戦えば現有300議席を守るどころか、下手をすれば半減するとの危機感さえ漂っています。従って秋の衆院解散は見送り、来年通常国会冒頭の1月解散・2月選挙か来年度予算成立後の3月解散・4月選挙の見通しが強まっています。そこで首相は支持率向上の「最後の切り札」として内閣改造と取り組んでいます。現内閣は安倍改造内閣を継承した「居抜き内閣」であり、人心一新の「自前内閣」をつくる考えですが、首相は各派から担がれて総裁に就任しており、党内には財政運営を巡る「上げ潮派」と「再建派」の対立があって、これらのバランスを取れば総花的人事になりかねず、極めて難しい人事になります。それに新閣僚にスキャンダルが出れば、直ちに福田内閣は崩壊するので、入念な“身体検査”が必要です。首相はじっくり想を練り、電光石火の改造を断行するでしょう。

新テロ対策など重要法案山積
臨時国会には、08年度補正予算案や来年1月15日で期限切れとなる海自のインド洋給油活動を延長する新テロ対策特措法改正案、首相肝いりの消費者庁設置関連法案、タガーナイフなど殺傷力の高い刃物所持を禁止する銃刀法改正案、日雇い派遣を原則禁止する労働者派遣法改正案、専門家による医療事故調査の医療安全調査委員会設置法案など緊急を要する法案の提出を予定しているほか、前通常国会から継続審議の政府管掌健康保険国庫補助特例法案、地域力再生機構法案、首相提唱の「200年住宅」の認定制度を創設する長期優良住宅普及促進法案、臓器移植法改正案、労働基準法改正案など重要法案が目白押しです。自民党執行部は、年末の予算編成に影響を及ぼさないよう、重要法案は「9月中の衆院通過、11月中に“見なし否決の60日規定”を適用して衆院再可決」を目指し、臨時国会の召集を8月下旬と想定していました。しかし、原油高に伴う諸物価高騰などから、自・公与党内では野党に追及の場を与えないよう、早期召集に反対論が出てきました。

公明含め早期召集に慎重論
早期召集の根拠の1つは、岩手・宮城内陸地震と漁業対策を盛り込む補正予算案の早期成立にありましたが、原油高騰に歯止めが掛からず、最終の対策費がどの程度膨らむか予想もつかないため、補正予算案提出までにかなりの時間がかかること、首相が「今ある予算の活用」を言い出したことから、来年1月の通常国会冒頭での処理もやむを得ないとの声が出て、召集先送り論が高まってきています。参院自民党幹部は、これだけ内政・外交関連法案が並べば、野党攻勢は強まると判断、「例年通り9月後半の召集で十分だ」と主張しています。古賀誠選挙対策委員長、高村正彦外相、麻生太郎前幹事長ら「志士の会」のメンバーが同18日に開いた会合でも、早期召集への慎重論が相次ぎました。こうした先送り論に対し、審議拒否を貫くと主張してきた鳩山由紀夫民主党幹事長は掌を返すように、「野党は国会が閉じた状況だと存在感が示しにくい。開会は早ければ早いほどいい」と早期開会を求め、新テロ対策特措法改正案に反対する態度を表明しました。こうした状況から、召集の最終判断は首相と大田昭宏公明党代表との党首会談に委ねられています。

再建・上げ潮両派の経済論争
ところで、自民党内には2つの論争があります。1つは前回のHP「政治活動」で取り上げた安倍晋三前首相と山崎拓前副総裁との北朝鮮対策を巡る外交路線の確執です。もう一つは、中川秀直元幹事長ら成長「上げ潮派」と与謝野馨前官房長官ら増税「再建派」の経済路線を巡る対立です。先進国の中で日本が最悪と言われる財政赤字をどう解決するか。成長、歳出削減、増税の3点セットのうち、小泉内閣以来、日本は成長と歳出削減路線を続けてきました。同内閣が決めた「骨太06」は今後5年間、「名目3%成長」と「11・4兆〜14・3兆円の歳出削減」を中心に、2011年に財政の基礎的収支(プライマリー・バランス)を均衡させる方針を掲げてきました。そして06年の閣議決定をもとに社会保障費の伸びを07年度から5年間で1兆1000億円の年2200億円抑制、公共事業費を毎年3%削減することを継続してきました。しかし、景気後退により、試算の前提となる08年度のGDP(国内総生産)成長率は今年1月の予想に対して、家計や企業の景気実感に近い名目は2・1%から0・3%に、物価の動きを除いた実質は2・0%から1・3%にそれぞれ大幅に下方修正せざるを得なくなりました。これだと最も理想的なシナリオでも11年度の基礎的収支は3・9兆円の赤字。歳出削減は限界に達しています。

5%成長は幻想と与謝野氏
年金改革関連法は基礎年金の国庫負担割合を09年度に3分の1から2分の1に引き上げると定めており、消費税率1%に見合う約2・3兆円の財源が必要になるため、与謝野氏らは消費税の増税は不可避と主張、これを谷垣禎一政調会長らが支持しています。これに対し、中川氏ら「上げ潮派」は経済成長や政府試算の圧縮で増税先送りを説き、路線論争を続けています。週刊文春6月19日号はジャーナリスト・上杉隆氏が両者に行ったインタビュー記事を掲載しました。主張点が極めて明解なので、断りなしに財政運営に関する発言要旨を1部分借用すると、与謝野前官房長官は「私こそ元祖上げ潮派だ。3年前に『財政再建する時には成長政策とともにやるべきだ』とレポートに書いた。だが、上げ潮派の経済成長5%は幻想で、仮に5%あっても税収は年30兆円不足する。潜在成長率は2%ぐらいで、3%はインフレを起こすしかない。庶民の生活を直撃し、国民の貯蓄を目減りさせ、年金生活者の可処分所得を下げる“悪魔的”だ」と述べています。

1%成長なら70年と中川氏
中川元幹事長は「4〜5%成長は世界の常識。まともな経済運営なら控え目に見ても可能。1〜3%は適切な上昇率で物価安定の目安。インフレとは言わない。批判する方が逆に3つの意味で悪魔的。1番目に英国は30年間3・5%成長だから20年で所得が倍増した。1%成長なら70年、0・6%成長なら110年かかる“停滞国家”だ。2番目に停滞国家だと国益を守るには軍事力が必要との議論が出かねない。3番目は新規雇用、正規雇用が減る一方になる。子孫にとって悪魔的だ。必要なのは正しい社会投資。1は次世代の人材への教育投資。2は寄付社会を作ることだが『ふるさと納税制度』で一部実現した。3は政府資産の有効活用。約7百兆円もある財政融資特別会計、外国為替特別会計など『埋蔵金』の活用だ。すぐ使える埋蔵金は40兆円ある。さらに外国人1千万人ぐらいを50年かけて受け入れれば4〜5%成長は実現する。日本の官僚は環境へ過剰適応、過去の成功体験に埋没、強固な身内共同体を作った。旧日本軍もそうだがこの3条件が揃うとどんな組織も死に至る。官僚制度の未来は身内共同体の解体で始まる」と反駁しました。

「霞が関埋蔵金」論争が再燃
以上の両者の発言を見ても対立には根深いものがあります。与謝野氏は4月に「堂々たる政治」を出版、首相の知恵袋として財政改革に取り組んでおり、首相も6月の主要国通信社首脳とのインタビューで消費税について「決断しなければならない大事な時期」と引き上げを示唆しています。片や中川氏は「官僚国家の崩壊」を5月に出版、その中で改革に抵抗する官僚と族議員を「ステルス(隠密)複合体」と呼んで官僚機構へ厳しい批判を突きつけ、政界再編にも言及するなど激動政局に向けて積極的な発言を続けています。この論争の中から出てきたのが「霞が関埋蔵金」です。火をつけたのは民主党で、「歳出削減に埋蔵金(積立金)を使えば消費増税は要らない」と昨年の予算編成で主張しました。自民党の再建派は各特会の積立金について、「それぞれの目的が存在し、埋蔵金はない」「大きな積立金は社会保険特別会計だが、これに手を付けるわけにはいかない」「積立金は民間の貸し倒れ引当金のようなもの。一回しか取り崩せない」と反論しました。だが、中川元幹事長らは、財政融資金特会の積立金約20兆円のうち半分程度は「不要になった」とし、08年度から国の借金返済に回せると述べ、昨年の予算編成で論争が加熱しました。

57兆円捻出が可能と町村派
今年も「無駄や歳出削減の余地がまだまだある」とし、霞が関埋蔵金論争が再燃しています。自民党町村派の政策委員会(杉浦正健委員長)は7月4日、2008―11年度の4年間に特別会計の積立金などの「霞が関埋蔵金」で最大57兆円の捻出が可能とする提言を取りまとめました。これを活用し経済活性化や環境対策、社会保障の財源に充てれば消費税率の引き上げは不要としています。記者会見した町村派代表世話人の中川元幹事長は、提言の実現を政府に働き掛ける考えを示しました。提言では、4年間のうち08―09年度に捻出できる財源として@日銀保有国債などの償還費6兆8千億円A労働保険と財政融資資金、外国為替資金の各特別会計の繰越金計5兆3千億円B国債の金利変動準備金4兆円―-を挙げています。さらに、将来的に与野党が社会保障制度改革に合意するまで、日本郵政株と国有地の売却益による計9兆2千億円や、独立行政法人への出資金の活用による14兆5千億円などを財源にすべきだと指摘しました。中川氏はヘビースモーカーでありながら、「タバコは安過ぎる。欧米並みに1箱1000円ぐらいに値上げすれば、消費税率は上げなくてすむ」と主張、タバコ業界を慌てさせています。改造内閣に再建派、上げ潮派のいずれが入閣するかによって、「福田カラー」の政策は大きく変わるでしょう。