第183回(7月1日)洞爺湖サミット開幕 政権浮上目指す
 七夕の7月7日から3日間、北海道・洞爺湖で日本が議長国のサミット(主要国首脳会議)が開かれます。主要議題は地球温暖化、原油高騰、食糧危機の対策で、第1次石油ショックを話し合うために始まった第1回のランブイエ・サミットの原点に立ち返り、経済問題を中心に討議されます。温暖化では昨年のドイツ・ハイリゲンダムサミットで安倍晋三前首相が提唱した「2050年までに炭素(温室効果ガス)排出量を半減する」との「クールアース構想」を議長総括で明確に書き込めるかどうかが最大のポイントです。首相が5月の日中首脳会談で一致した白樺ガス田(中国名・春暁)の共同開発は、両国の共同投資とし、翌檜ガス田(同・龍井)周辺の日中中間線にまたがる海域を共同開発区域とすることで合意するなどの成果を上げ、北朝鮮の拉致問題でもやや進展の兆しが見え、福田外交は着実に実績を上げています。1時は20%台を割った各紙の内閣支持率も何とか回復基調にあります。得意の外交が功を奏しサミットのホスト役を務め上げれば、求心力は高まり、政権は浮揚するでしょう。私も6月末から超党派の「中東・アフリカ・欧州国連平和協力調査議員団」に参加し、クウェート、スーダン、ベルギー、ドイツなどを視察、安全保障問題で見聞を広め、秋政局に向けて英気を養って参ります。どうぞご支援下さい。

福田ビジョンでサミット主導
 首相は6月中旬に「地球温暖化問題懇談会」(座長・奥田碩前経団連会長)の提言を受け、温暖化対策の内容や実施時期を明記した行動計画を7月中にまとめる考えを表明しています。これに先立ち6月9日、日本記者クラブでの記者会見で、温室効果ガスの削減に関し、日本が提唱した産業分野別に削減可能量を積み上げる「セクター別アプローチ」を適用し、最新の省エネルギー・新エネルギー技術を導入すれば、「2020年までに05年比14%削減が可能」との試算を示したうえ、@50年までの長期目標として、現状から60〜80%を削減するA来年中に日本の中期目標となる「国別総量目標」を発表するBガス排出枠を企業間で取り引きする「排出量取引制度」は今年秋に国内統合市場の試行的実施、実験を開始する――との指針を明示、同取引制度を国内で導入する考えを明らかにしました。温暖化対策を包括的に提言したこの「福田ビジョン」は、洞爺湖サミットで国内外の議論を主導しようとするもので、「低炭素革命に真剣に取り組んでこそ、国際社会における日本の存在感を高め、日本経済をさらに強固に出来る」と胸を張りました。

BRICsがCO2まき散らす
 サミットの最優先議題はもちろん環境気候変動問題です。温室効果ガス削減では、1997年に日本のリーダーシップで採択した京都議定書があります。だが、日本は2012年までに1990年対比の温室効果ガスを6%削減すると約束しながら06年度の速報ベースでは逆に6・4%増えています。ブッシュ政権は京都議定書から離脱し、ロシアは04年に批准したものの、京都議定書では中国、ロシアなどの新興国に対しては削減の義務を課していません。そのBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国=チャイナ)が急速な経済成長を遂げ、近代工業化や車社会の進展で二酸化炭素(CO2)をまき散らし、大気中の温室効果ガスは現在約4000PPMに達しています。これが5000PPMに達すれば恐ろしい気候変動が始まって水面が1メートルも上昇し、日本の砂浜の九割は消滅します。昼は砂漠のように灼熱、夜は氷点下など極端な気温変化が起きるとも言われています。南太平洋に浮かぶ珊瑚礁の9つの島・スバル国(旧英領=人口1万人・品川区の広さ)では、既に高波で地下水に海水が混じりだし、やがては水没の危機にあります。

投機資金が原油・食糧高騰招く
 北極海ではこの数10年、北極熊の移動や餌の捕獲に不可欠な海氷が温暖化で激減し、約45年後には絶滅するとして、米国はこのほど北極熊を「米絶滅危惧種保護法」の対象に指定しました。米国の低所得者向け住宅融資「サブプライムローン」問題に伴う損失額は40兆円とも100兆円とも言われますが、その影響で機関投資家のマネーがサブプライムローンから逃げ、中東の石油に向かったことが原油高騰を招いています。一方、温室効果ガス対策として脚光を浴びたバイオエタノール燃料の開発が、原料のトウモロコシなど穀物の奪い合いとなって食糧価格を高騰させています。英国の経済学者トマス・マルサスは、@人間の生存には食糧が必要であるA食糧は算術級数的にしか増加しないが、人口は幾何級数的に増加するB人口は絶えず食糧増加の限界を超えて増加する傾向にある――との「人口論」を著しましたが、半世紀前に20億人だった世界の人口は3倍の60億人に増え、2050年には90億人に達すると予測されます。食糧、エネルギーの消費はさらに増大しサイクロン、干ばつなど気候変動の要因となり、炭素の削減は待ったなしです。

市場原理・金融資本主義の弊害
 証券化された低金利のサブプライムローンは、米国の住宅バブル崩壊によって、日本の住専問題と同じく不良債権化し、不特定多数の投資家や海外の金融機関にまで損失を与えました。3月には米国証券大手のベアー・スターンズが破綻し、JPモルガン・チェースに買収されました。米連邦準備制度理事会(FRB)は、その買収資金にニューヨーク連銀を通じ、300億ドルを融資しましたが、証券会社救済にFRBが巨額資金を工面したのは異例なことです。IT(情報技術)社会の発展で金融のグローバル化が進み、過去に東南アジアの通貨危機などを生みましたが、「ハゲタカ・ファンド」が世界的に跋扈し、随所に金融資本主義、市場原理主義の弊害をもたらしています。日本はバブル経済崩壊の際、欧米にしつこく奨められたため、公的資金を投入し銀行を救いましたが、米国はサブプライムローン問題が起きても涼しい顔で、自国での公的資金投入を嫌っています。原油、食糧の高騰もあり米国の実質経済成長率は年率1%を下回る低成長で景気後退は深刻です。

初回の経済サミットに立ち返る
 その意味でも洞爺湖サミットは環境、食糧、開発などを討議する本格的な経済サミットに立ち返りました。そもそも第1回サミットは先進国首脳が1975年にニクソンショック、第1次石油危機などで世界的な狂乱物価時代が到来したことにより、経済問題を話し合うためフランスのランブイエで開かれました。パリ郊外のランブイエ城は洞爺湖と同様、テロ行為から各国首脳を守るには治安上最適だったからです。日本は“三木降ろし”政局の真っ只中。ホスト役のディスカール・デスタン仏、フォード米両大統領が向かい合って握手を交わす様を片隅に陣取った三木首相、大平正芳蔵相、宮沢喜一外相が渋い顔で見守る中を会議は始まったといいます。その後サミットは経済問題から離れて政治問題を中心に討議、参加国も日、英、米、仏、独、伊の6カ国にカナダが翌年参加、94年からはロシアが加わり8カ国に増え、今年は環境討議に中国、インドなど新興国多数が参加します。

環境・開発・経済・政治の4議題
 洞爺湖サミットの主要テーマは@京都議定書2013年以降の次期枠組みなど【環境・気候変動】A2015年までに貧困や飢餓の撲滅、疾病の防止など8分野の「ミレニアム開発目標」達成に向けた【開発・アフリカ】B持続的成長、投資、貿易、知的財産権保護など【世界経済】C核不拡散態勢、テロ、地域情勢について取り組む【核不拡散など政治問題】――の4議題です。既に3月14〜16日に主要国閣僚のG20対話(千葉市)、4月5〜6日に開発相(東京都)、5月11〜13日に労働相(新潟市)、同24〜26日に環境相(神戸市)、同28〜30日に第4回アフリカ開発会議【TICAD4】(横浜市)、6月7〜8日にエネルギー相(青森市)、同11〜13日に司法・内務相(東京都)、同13〜14日に財務相(大阪市)、同15日に科学技術相(沖縄県名護市)、同月26〜27日に外相(京都市)の計10都市で準備会合を開いてきました。

新興国反対し数値目標困難か
 昨年12月にインドネシアのバリ島で「コップ13」(気候変動枠組み条約の第13回締約国会議)が開かれ、京都議定書の期限が切れる2013年以降を議論する作業部会を作り09年までの行程表(ロードマップ)作成で合意しましたが、具体的な数値目標には入れませんでした。欧州連合(EU)が目標設定を強く主張したのに対し、米国が抵抗、排出国で力を増してきた新興国の中国、インドが大反対したからです。1月末にスイスのダボスで開かれた会議には福田首相が出席し@「ポスト京都のフレームワーク」A100億ドル規模で途上国を支援する「国際環境協力」B省エネ技術で炭素排出を減らす「イノベーション」――の三課題を提案。この席で首相は安倍前首相の「クールアース構想」を実現するため、産業別、排出する主体別の目標を積み上げ、それを国全体の目標にする「セクター別アプローチ」方式を提言しましたが、これにも中国、インドは「セクター別とは何だ。自分たちはそんな話には乗らない」と反発しました。新興国には「我々はこれまで二酸化炭素を大量に排出していない。先進国がひどい地球にしておきながら今さら何だ」との不満があり、サミットで数値目標を設定しようとしても、難しい状況にあります。

父の無念晴らし、求心力回復
 神戸の環境相会合で議長の鴨下一郎環境相は「世界全体で50年までに半減」を主要排出国の共通認識とするよう提案、先進国はそれより上回る目標を掲げるべきだとし、日本は「50年には現在の60〜80%削減」すると表明しました。だが、EUが実施中の排出量取引制度の導入については依然慎重。日本は排出量の半分を電力と鉄鋼が占め、排出量取引に抵抗しているため、議長総括では「低炭素社会に向け市場メカニズムの活用」と言うぼかした表現になりそうです。食糧価格の高騰も深刻です。エジプト、ギニアでは死者多数が出る暴動が起きました。食糧問題は、前回までのHP「北村の政治活動」の「農産物価格急上昇」(上中下)で詳しく取り上げたので重複は避けますが、首相は先の訪欧でブラウン英首相と会談した際、両首脳は世界的な食糧、原油価格の高騰をサミットの「喫緊の課題」として取り上げ、主要8カ国が強いメッセージを出すことで一致しています。横浜で開いたTICAD4では食糧価格高騰がアフリカの貧困削減に悪影響を及ぼすとし、コメの生産高を10年間で倍増させる行動計画を採択しました。「アジア・ドクトリン」を世に出した父君の福田赳夫元首相は1979年の初回東京サミット開催に執念を燃やしましたが、総裁選に敗れ「天の声にも変な声がある」とのセリフを残し退陣しました。息子の康夫首相はその無念を晴らすと同時に、「福田ビジョン」を世界的に認知させて求心力を回復し、解散含みで波乱予想の秋政局に向けて大いに政権浮揚を図ろうとしています。