第182回(6月16日)首相問責決議可決 波乱国会閉幕へ
 通常国会は戦後初の日銀総裁空席を生み、憲政史上初の首相問責決議を参院で可決するなど、破天荒な展開を見せた後、会期を6日間延長して6月21日に閉幕します。日銀総裁人事の3度流産、ガソリン税暫定税率の失効と復活など波乱に富んだ「ねじれ国会」でしたが、宇宙基本法、国家公務員制度改革基本法など重要法案も成立しました。しかし、終盤国会では「居酒屋タクシー」問題が浮上するなど、民主党が錦の御旗に掲げる「霞が関(官僚政治)の打破」に口実を与える国家公務員の倫理問題が国民の関心を集めました。そうした中で福田首相は5月の日中首脳会談に続いて、横浜の第4回アフリカ開発会議で40カ国首脳との「マラソン会談」、ローマの食糧サミット出席などを精力的にこなし、7月の洞爺湖サミットの準備を着々と進めています。内閣信任決議案の可決後は、「乱気流に飛び込むつもりで必死に頑張る」との決意を幹部に伝え、サミットで温暖化対策の「福田ビジョン」を掲げ、得意の外交を武器に議長国の大役を無事務め上げ、20%台の危険水域にある内閣支持率から起死回生を図ろうとしています。私も党内で重油高騰に苦しむ巻き網漁など水産業界の救済策に打ち込んでいます。さらなるご支援をお願い申し上げます。

内閣信任可決で与党切り返す
 野党4党が提出した後期高齢者医療制度(長寿医療制度)廃止法案は6月6日の参院本会議で可決。野党は会期末までの成立を与党に迫りましたが、与党が衆院での採決に応じないため11日に首相問責決議案を参院へ提出、可決して首相に内閣総辞職か衆院解散を求めました。しかし、同決議案には法的拘束力がないため政府与党は無視、対抗して衆院に内閣信任決議案を提出し、12日に与党多数で可決しました。信任決議は宮沢内閣当時に次いで16年ぶり2度目です。自民党の伊吹文明幹事長は講演で「民主党が問責決議案を出した理由は、暫く選挙がない雰囲気になり、党内が固まらないからだ。凪になると対決ムードを煽って党内を引き締める。同党の判断基準は(国民本位ではなく)党内政局だ」と同党をなじっています。これに対し、党首討論を中止し審議拒否に入った民主党の鳩山由紀夫幹事長は「問責決議案の可決は重いもので、(今国会が)閉会した瞬間に消えるとは思っていない」と反論、秋の臨時国会でも冒頭から審議に応じない姿勢を示しています。

EPA承認で1週間会期延長
 参院審議の空転で、民主党も賛成して衆院を通過した防衛省設置法改正案や条約などの審議が宙に浮き、政府が重視する日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の経済連携協定(EPA)も承認が困難になりました。同協定を臨時国会の審議に持ち越せば、参院先議となって承認の見通しは暗くなり、国際信用を失墜するばかりか「参院の名誉に関わり、参院無用論につながる」(伊吹幹事長)事態になりかねません。同協定は憲法61条の規定により、予算案と同様、衆院通過から30日を超えた21日に自然承認となるため、福田首相と太田昭宏公明党代表が10日に協議し、会期を6日間延長することで合意しました。ところで、8日投開票の沖縄県議選は、自民が4議席減、公明が現状維持で県政与党が過半数割れし、衆院山口2区補選に続いて与党は敗北しました。敗因は長寿医療制度に対する批判が強く、野党がタイミング良く6日に廃止法案を参院で可決したことにあります。しかし、野党の廃止法案は、遅くとも10月から@保険料の年金天引きは全廃A保険料負担を軽減B被扶養者約200万人の保険料の凍結を継続――としただけで、元の老人保健制度に戻した後の保険料の負担軽減策など新たな制度は示さず、無責任な法案でした。

低所得者に「9割」減額新設
 長寿医療制度の運営財源は、現役世代が4割、高齢者が1割、公費が5割と明確ですが、老人保健制度に戻せば、負担割合のルールがなくなり、現役世代の負担増に歯止めが掛からない恐れが出てきます。首相は記者団に、「前の制度で立ち行かないから新しい制度にすると、(民主党も賛成して)2000年に参院で決議している。元に戻すというのは、言うこととやることが違う」と民主党を暗に批判しています。首相が見直しを指示し、政府与党が12日にまとめた長寿医療制度の改善策は、保険料の年金天引き制度は原則維持するものの、@保険料のうち加入者が定額負担する「均等割」部分で、今年10月から半年間、年金収入が168万円以下の人は保険料徴収を凍結するA来年度以降は同80万円以下の人には「9割」減額を新設、同210万円以下の人には所得に比例して負担する「所得割」を50%程度減額するB年金収入が180万円未満で、口座振替出来る世帯主(同居する子供らを含む)か配偶者が居て、国民健康保険の保険料の滞納がなかった人は、申し出により年金天引きでなく、世帯主による肩代わりを認め、口座振替の選択を可能にする――などの措置を盛り込んでいます。今年度の必要財源560億円は補正予算で対応します。

縦割行政・割拠主義を打破
 一方、国家公務員制度改革基本法は6日に成立、「省益あって国益なし」といわれた明治以来の公務員制度は改革の一歩を踏み出しました。成立時に渡辺喜美行革相は感涙にむせび、首相も「なかなか難しいと思ったがよくまとまった。渡辺行革相が頑張り、民主党も協力してくれた」と行革相の労をねぎらいました。自民、民主両党の法案修正協議で「内閣人事庁」を「内閣人事局」に格下げするなど、民主党の要求にかなり譲歩したため、マスコミは「民主党に丸投げの法案」などと揶揄しましたが、省益優先の縦割り行政、各省割拠主義を打破する狙いは達成されそうです。同法は  @【国家公務員の役割】内閣官房に首相補佐の「国家戦略スタッフ」と各府省に閣僚補佐の「政務スタッフ」を置き、官房長官が適格性を審査し候補者名簿を作成。職員が国会議員と接触した場合、記録を作成・管理し情報を適切に公開する   A【多様な人材の登用】「総合職」「一般職」「専門職」の各種試験を設け、管理職員を計画的に育成する仕組みを整備。定年を段階的に65歳に引き上げる  B【内閣人事局の設置】内閣官房に「内閣人事局」を置き、各省庁の人事を一元管理する  C【労働基本権】政府は協約締結権を付与する職員の範囲拡大に伴う便益及び費用を含む全体像を国民に提示し、開かれた自律的な労使関係制度を措置する――が骨子です。

倫理消失の居酒屋タクシー
 昨年の通常国会で成立した公務員制度改革関連法案が、各省庁による再就職(天下り)斡旋を禁止し、内閣府に新設する「官民人材交流センター」に斡旋を一元化したこととセットで、公務員の省庁への帰属意識をなくし国益を考える官僚づくりを目指しました。同時に1種試験合格者が幹部候補となる現行のキャリア制度を廃止し、腕一本で幹部に昇進できる制度も導入しています。こうした国家公務員改革の元年がスタートする矢先に、「居酒屋タクシー」と業界で呼ばれる個人タクシーの“車内接待”が明るみに出、民主党は国会で厳しく追及しました。財務省をトップに13の中央省庁・機関の職員ら520人が帰宅する際の深夜タクシー内でビールやつまみ、おしぼりの接待を受けていたばかりか金品を受け取り、これまで判明しただけでも金品授受回数は延べ1万2千回を超えていると言います。中でも税金の使途を厳しくチェックすべき財務省の職員が383人もいて、うち19人が現金や商品券、ビール券などを受け取り、豪の者は5年間に合計180万円以上の現金やクオカードを貰った主計局職員もいたというから倫理観の喪失には呆れ返ります。

賄賂・公金横領・税金詐取
 「社会通念上相当と認められる程度を超えて利益供与を受けてはならない」との国家公務員倫理規定に抵触するケースと見られますが、仮にこのサービスが運転手の自腹でなく、メーター料金を2,3キロ水増しし、その1部をキックバックしていれば、これは立派な賄賂であり、公金横領、税金詐取に当たります。「居酒屋タクシー」は、大手の無線タクシーと違って、携帯電話専用の個人タクシー運転手が電話の呼び出しを受ければ、すぐ誰かが駆けつけられるよう、助け合う10〜20人でグループを作り、自宅までの運賃が1万円以上かかるような長距離顧客を仲間内で共有しているといいます。官庁の職員もなじみのタクシーを呼べばビールやチューハイが飲めて、次回からは自宅への道順を教えなくともゆったり気分で寝て帰れるわけです。相互扶助の関係ですが、これらのタクシー料金は国民の税金で賄われており、何の後ろめたさも感じずに習慣化しているなら、恐るべき“公金感覚”の麻痺であり、社会保険庁や国土交通省関連職員の無駄遣い以上に悪質です。

中川氏も官僚国家崩壊叫ぶ
 民主党は「霞が関政治の打破」「中央集権から地方分権へ」「官僚の天下り廃止」を掲げて総選挙に臨もうとしていますが、自民党の中川秀直元幹事長もこれに対抗、自著「官僚国家の崩壊」を出版して改革に抵抗する官僚と族議員を「ステルス(隠密の)複合体」と呼び、官僚機構を激しく批判しています。中川氏は政調会長当時、「呆れた社会保険庁の実態」という小冊子をまとめ、自治労・国費評議会や日教組など民主党支持母体の労組を攻撃しましたが、今回は別の角度から官僚機構の劣化、組織の制度疲労を攻め、米大統領選のバラク民主党候補のように変革(チェンジ)を求めています。最もマスコミは町村派内の「ポスト福田」を巡る主導権争いから、政策面で中川氏が「派中派」の行動を起こしたと興味本位に報道しました。片や民主党の前原誠司副代表は「中央公論」7月号で自民党の与謝野馨前官房長官と対談し、小沢一郎代表がまとめた昨夏の参院選マニフェスト(公約)について、「仮にこのまま民主党が政権を取っても、まともな政権運営はできない」と疑問を呈しました。同党内には小沢代表の任期が切れる9月に小沢氏が無投票再選されることに抵抗する若手が多いことから、これは小沢氏独走を牽制する発言と見られています。

前原氏も小沢代表の公約批判
 前原発言は、道路特定財源の暫定税率の廃止など新たな公約を加えると約18兆円かかるとしたうえで、「行革だけによる捻出は絶対無理だ。マニフェストをまとめるとき、当時の政策責任者の間では財源の根拠が希薄だとの難色が示されたと聞くが、最後は小沢さんの『エイヤ』だった」と経過を暴露、「民主党が最もしてはいけないのは、国民に耳触りのいいことばかり言い、仮に政権を取った時に『やっぱり出来ない』となると、すぐに自民党政権に返る。最悪だ」と公約決定の在り方を批判し、同党内に波紋を描きました。読売新聞によると、同氏は京都の会合でも、公約に掲げた主要政策の『農家への個別所得補償制度』について「ばらまきだと言う批判があるが、私もそういう気持ちが強い」と述べています。鳩山氏ら同党の執行部は小沢再選を支持していますが、岡田克也、前原の両元代表や仙谷由人、枝野幸男両元政調会長,野田佳彦元国対委員長ら中堅幹部は党活性化のためにも対立候補を擁立する構えを見せています。同党若手の間では総選挙後の政界再編を目指し、自民党若手との交流を活発化する動きが最近目立ってきました。