第181回(6月1日)長寿医療制度で攻防 公務員法は成立
通常国会は6月15日の会期末まで後2週間に迫り、75歳以上を対象とした後期高齢者医療制度(長寿医療制度)を巡る与野党の攻防が激化しています。野党4党は5月23日、同制度を廃止し従来の老人保険制度に戻す法案を参院に提出、4日にも可決しますが、与党が衆院で否決・廃案とするため、野党は会期末に首相問責決議案を提出、可決する構えです。しかし、民主党は宇宙の軍事利用を可能にする宇宙基本法に賛成・可決するなど対決法案以外は粛々と審議に応じ、道路特定財源の一般化協議の再開にも応じました。もう一つの焦点である国家公務員制度改革基本法案は安倍内閣の天下り規制導入に次ぐ改革第2弾で、官僚の反発が強く与党内にも異論があって、「霞が関(官僚)政治の撲滅」を唱える民主党は盛んに与党に揺さぶりを掛けていました。だが、福田首相の対話路線が功を奏し、こちらも27日の法案修正協議で合意に達し29日に衆院を通過−−−成立の見通しです。このため、国会の会期延長はなくなる公算が大となりました。この間にも神戸市で環境相会合、横浜市で第4回アフリカ開発会議が開かれ、首相は政権浮揚を図る7月の洞爺湖サミットの準備を着々と進めています。アフリカを2度訪問した私も横浜の会合には出席し、来日した各国首脳と旧交を温めるなど友好親善に努めているところです。

野党の廃止法案は衆院否決
民主、共産、社民、国民新の野党4党が参院に提出した後期高齢者医療制度廃止法案は、来年4月1日に同制度を廃止し従来の老人保健制度に戻すもので、廃止に先立ち@年金からの保険料天引きは遅くとも今年10月から行わないA遅くとも10月から保険料負担の軽減を図るB被扶養者からの保険料徴収凍結を10月以降も継続する――ことを盛り込んでいます。民主党の直嶋正行政調会長は記者会見で「後期高齢者医療制度は、75歳以上だけ切り離して別の制度にするという差別的な内容だ。まず廃止し、従来の制度に戻してから先のことを考えるべきだ」と述べて、現行制度に代わる制度は示さず、制度廃止に伴う新たな公費負担については「数千億円規模」とし、「特別会計の積立金などで対応できる」と説明しました。野党は2年前に小泉政権が長寿医療制度を強行採決したと反対し、元の制度に戻せと廃止法案を提出しましたが、もともと共産党以外の与野党は老人保健制度について、10年以上前から「病院がお年寄りのサロン化し、投薬過多で無駄な医療費が激増、少子高齢化で現役世代の負担が増大し、今のままでは制度が破綻する」と一致して問題視し、改革論を合唱していました。

与党懸命に制度見直し努力
それが先の衆院山口2区補選では、ちょうど告示日に長寿医療制度による年金からの保険料天引きが始まったばかりで、国民の怒りを集め自民党は敗北しました。野党は世論の反発を背景に福田政権を追い込もうと廃止法案を提出したわけです。これに対し、自民党の伊吹文明幹事長は「元の制度に戻すことは、現役世代に青天井の負担を求め、世代間のぎくしゃくした関係を作り出す」と批判しています。とはいえ、我が古賀派の長老・堀内光雄元総務会長や塩川正十郎元財務相らが「年寄りは死ねという、小泉政権の『負の遺産』だ」「財政よりも思いやりの気持ちが大事だ」とそれぞれ高齢者の感情を無視した政策であると批判したように、いくら首相が“長寿”にネーミングを変えても差別感は否めません。政府与党は国民の理解を得るため、懸命に同制度の見直し策を検討しています。与党は同15日、@保険料の「均等割り」部分の減額割合を現在の「最大7割」から「最大9割」に引き上げる(必要経費約5百億円)A同制度への移行に伴って保険制度が一定額以上に増えた人への緩和措置を創設する――などを早々と打ち出しました。長寿医療制度のあらましは5月1日の「北村の政治活動」で詳報したので重複は避けますが、同制度の保険料は加入者本人の収入に応じて増える「所得割」と、都道府県ごとに制度を運営する広域連合の加入者数に基づく「均等割」の合算で決まります。

低所得者の減額割合引き上げ
所得割の「最大9割」引き上げ案は、同制度の導入で保険料の負担が増えた低所得の加入者に対する激変緩和措置として、年間収入が国民年金モデル額(約80万円)以下の低所得者には、本人の申し出があれば負担の増額分を還付する方針です。同制度運営主体の都道府県広域連合に計数百億円の交付金を支給し、還付財源に充てる考えです。これは法改正が必要でなく、広域連合が決めた条例上の「特別な事情に該当する」と解釈できるからです。また、与党の作業チーム(座長=鈴木俊一党社会保障制度調査会長)は23日、70〜74歳の医療費の窓口負担について、現在の1割負担を来年度から2割に引き上げる方針を撤回し、09年4月からさらに1年間、1割のまま据え置く方針を固めました。引き上げ凍結に要する財源は1300億円程度と見られます。2割負担への引き上げ方針は06年6月に成立した医療制度改革関連法に基づき、08年4月から実施することになっていましたが、07年の参院選惨敗を受けて、08年度の1年間に限り凍結されていました。この凍結期間をさらに1年間延長するものです。

総合対策で高齢者不安一掃
これに先立ち、政府与党は21日、雇用や税制の優遇措置などを含む総合的な高齢者対策である「高齢者の『安心と活力』を強化するための緊急措置」の原案をまとめました。@【高齢者医療制度の手直し】(イ)長寿高齢者医療制度の見直し(ロ)70〜74歳の高齢者医療負担増の是正A【やる気のあるシルバー世代がいきいきと働ける機会作り】(イ)定年の70歳への引き上げ(ロ)在職老齢年金制度の見直し(ハ)60歳以上従業員に対する雇用保険料減免B【シルバー世代の資産活用】(イ)高齢者マル優制度の復活(ロ)シルバー世代の住宅資産の活用C【若年者と高齢者の相互扶助促進】世代間の助け合いを支援するため、3世代同居世帯の固定資産税や世帯主の所得税軽減などの減税――が骨子で、「高齢者の安心と活力を強化するための合同部会」(座長・与謝野馨前官房長官)を発足させ、検討に入りました。75歳以上の独り暮らし世帯は、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2005年の197万世帯から30年には429万世帯に膨らむとみられ、健康や治安面での不安があることから、3世代同居を促して高齢者の不安を一掃しようとするものです。

国家公務員法は修正協議合意
野党が廃止法案を提出したのに対し、福田首相は「状況によっては、(野党側と)協議する余地はある。まずは論拠をしっかりと双方で述べることが大事だ」と記者団に語り、ガソリン税の時と同様、野党との対話路線を進める考えを示しました。民主党も対話には応じる姿勢で20日に幹部が協議した結果、税制関連法案などの衆院再可決に反発して中断していた道路特定財源の見直しに関する与野党協議会は、消費税率の引き上げなど税制に関する議論を行わないことを条件に再開に応じる方針を決め、28日から再開しました。国家公務員制度改革基本法案は、今後5年間に実施する公務員制度改革の包括的なプログラムを定めるもので、@幹部公務員の人事を一元管理する内閣人事庁の創設A国会議員と公務員の接触を閣僚による許可制などとする政官接触制限の導入Bキャリア制度の廃止――などが柱です。首相は成立に強い意欲を示し、渡辺喜美行政改革相も「国民本位の行政に改め、公務員意識を改革する」と張り切り、中川秀直元幹事長は「戦後一度も変えられなかった国家公務員制度を変えるものだ」と同法案の意義を強調しています。だが、各省庁の官僚が猛反発しているうえ、与党内では政官の接触制限などに「自民党の力の源泉を削ぐことになる」などの異論がありました。

与野党共同の宇宙基本法成立
「霞が関支配の打破」を唱え日銀総裁人事に反対した民主党は、改革の方向性に賛意を示し逆に与党を揺さぶろうとしました。それゆえ自民、民主両党の法案修正協議では創設する「内閣人事庁」の権限や給与水準などの労働条件を決める「団体協約締結権」を付与する公務員の対象拡大を巡って主張に隔たりがあり、協議はなかなか進展しませんでした。しかし、首相の熱意に加え、与野党双方が『改革つぶし』のレッテルを貼られることを恐れ、27日にようやく合意に達しました。合意点は@団体協約締結権の範囲拡大は国民の理解のもとに国民に開かれた自律的労使関係制度を措置するA政官接触制度では「政務専門官」をおかず情報公開で対応するB定年の65歳への段階的な引き上げを検討するC「内閣人事庁」を「内閣人事局」にする――が骨子です。同法案は5月内に参院で審議入りすることが成立の条件と見られていたので成立が確実になりました。一方、宇宙基本法案は自民、民主、公明3党が共同で提出したこともあり、21日に成立しました。「ねじれ国会」で安全保障の関連法案を与野党が共同で成立させたのは初めて。同法は宇宙利用の範囲拡大や宇宙開発戦略本部を宇宙政策の司令塔として設置することを盛り込んでいます。日本の宇宙関連予算規模は米国の14分の1,欧州の半分で「官需」も小さいため、「宇宙分野での日本の競争力は世界で7位、中国やインド、カナダにも及ばない」(米調査会社発表)と言われていました。確かに中国は宇宙開発を国家戦略の機軸に据え、05年は単独で有人船の地球周回に成功、独自の全地球測位システムを進行させ昨年は10機のロケットを打ち上げました。インドも3機で日本の2機を上回っています。

洞爺湖サミットで求心力回復
日本も宇宙基本法の成立で「非軍事」から、ミサイル防衛のための早期警戒衛星の保持などを可能にする「非侵略」へ宇宙開発を転換、新たな安全保障に取り組むことになりました。内閣に新設する宇宙戦略本部は首相が本部長を務め、トップダウンで「宇宙基本計画」を策定します。こうした中で洞爺湖サミットの準備会合は3月から国内10カ所で進められ、気候変動問題を協議した神戸市でのG8(主要8カ国)環境相会合が26日、3日間の議論を経て閉幕。28日から横浜市で第4回アフリカ開発会議(TICAD4)が計約40カ国の首脳を集めて開かれました。首相は演説で、21世紀は「アフリカ成長の世紀」だとして、民間投資促進のため国際協力銀行に新たに「アフリカ投資倍増支援基金」を設け、今後5年間に25億ドル(約2600億円)規模の金融支援を行うと同時に、交通基盤整備支援のため今後5年間で最大40億ドル(約4150億円)の円借款を提供、政府開発援助(ODA)民間投資を倍増することを表明しました。この大盤振る舞いは、中国が最近資源獲得を目指し経済進出を強めていることに対抗し日本の悲願である国連安保理事会常任理事国入りを果たすには国連加盟国の約4分の1を占めるアフリカ諸国の賛同が不可欠であるため、支持獲得の期待を込めて援助を強化するものです。首相は会期内に出席した全国の首脳と個別に「マラソン会談」を開きました。このように首相はサミットの議長を無事務めることで求心力を回復し、政権浮揚を図ろうとしています。