第177回(4月1日)ガソリンで4月決戦 日銀総裁は空席
 日銀総裁人事は、野党が武藤敏郎副総裁の総裁昇格案と田波耕治国際協力銀行総裁の再提示案を参院本会議で相次ぎ否決したため、戦後初の空席となりました。ガソリン税の暫定税率維持を巡る攻防も、与野党激突のまま新年度に突入する最悪の事態を迎えました。株安、円高・ドル安で世界の金融市場が危機的状況にある中、「通貨の番人」が不在では国際信用を著しく失墜します。おまけに、暫定税率の失効で一時的にも経済が混乱するうえ、原油高がバイオエタノール製造の穀物騰貴へ連鎖し、ビール、麺類、乳製品などの物価高を誘発、国民生活が圧迫されています。首相は、御手洗冨士夫日本経団連会長に「賃上げは景気浮揚に繋がる」と春闘で異例の要請をしましたが、企業側は景気の先行きに不透明さを感じ、いざなぎ景気を上回った高収益の“成果の報酬”を還元せず、賃上げは前年並みに抑え込まれました。暗い春闘が内閣支持率の低下に追い打ちをかけています。民主党は「春か秋に総選挙」となおも強硬路線を突っ走っていますが、党利党略の国会対策が国民に批判され、同党の支持率も大幅に低下しています。この分では与野党痛み分けで、むしろ解散・総選挙が遠のく気配もありますが、油断は禁物。政権党の責任の重さを感じつつ、局面打開に努めているところです。さらなるご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

民主は霞ヶ関(官僚)と対決
 日銀総裁は、政府が3月18日に再提示した正副総裁人事案を翌19日の参院本会議で民主党などが否決して戦後初の空席が生じたため、同日に任期切れの福井俊彦総裁が、副総裁就任の同意を得ている白川方明京大教授(58)を総裁代行に指名し、迷走劇はひとまず終止符が打たれました。政府は12日の参院本会議で野党が武藤副総裁(64)の総裁昇格と伊藤隆敏東大教授(57)の副総裁起用に不同意、白川教授の副総裁だけを同意したため、総裁差し替え案を約1週間かけて民主党に打診、総裁に元大蔵事務次官の田波国際協力銀行総裁(68)、副総裁に元東大教授の西村清彦日銀政策委員会審議委員(54)を充てる新人事案を再提示しました。首相は提示した18日夜、記者団に「田波氏は国際金融をよくご存じだし、人格識見も申し分ない。今のように国際金融、日本の経済に問題の多い時代にはふさわしい方だ」と太鼓判を押しました。しかし、民主党は元財務事務次官の武藤氏と同様の出自の「財政・金融分離」を理由に田波氏の総裁には反対し、西村氏の副総裁だけに同意しました。鳩山由紀夫幹事長は「旧大蔵省と日銀のたすきがけ人事でいいのか。国際金融に詳しくない人が(総裁の)仕事が出来るのか」と記者団に語っており、「霞が関(官僚主権国家)との対決」を同党の政治姿勢と位置づけているようです。

首相厳しく民主の無責任非難
 首相が当初考えた差し替え案は、福井総裁か、武藤副総裁のいずれかを再任させる案で、大島理森国対委員長は民主党の山岡賢次国対委員長に電話で「総裁は財界人にするから、副総裁に武藤氏をつけてほしい」と首相の意向を伝えました。読売によると、それを聞いた小沢一郎代表は「何だそれは」と失笑し、「この内閣は機能不全を起こしている」とつぶやいたそうです。同党は党首会談や幹事長会談にも鼻から応じませんでした。やむなく首相が次善の策として再提示したのが「田波・西村コンビ案」です。首相は20日のメールマガジンで、「「誰が『民主党が合意できる人物』か、手がかりもない以上、自分がベストだと信じる人を提案するしかない、というのが私の結論でした」と説明。戦前、軍部と妥協せずに軍縮を進め凶弾に倒れた浜口雄幸首相の「唯一正道を歩まん」という言葉を紹介して、自分の信念を強調しつつ、「拒否権を振りかざし、時間切れに追い込むような態度だけでは、政治の責任は果たせません」と民主党を厳しく非難しています。各紙ともに、国際経済の安定に日本が果たすべき責任を放棄させた、民主党の無責任な態度を一斉に批判しました。国際信用が失墜しても平然と構える民主党こそ機能不全に陥っています。

1ヶ月も財金委審議入り拒否
 民主党は与党が2月29日に08年度予算案と税制関連法案の採決を押し切ったことで、「衆参両院議長の斡旋は反古にされた」として、ガソリン税の暫定税率を期限切れ失効に追い込むことに全力を挙げ、1ヶ月以上も参院での税制関連法案の審議入りを拒否したばかりか、日銀総裁人事に反対し、予算案と同党が提案した「対案の審議」を優先すべきだと主張しました。しかも、参院財政金融委員会では定例日(火・木曜)以外の審議を拒否したため、与党は、民主党が参院先議で同党の対案を可決した場合は、「政府案が否決された」とみなし、憲法59条を適用して衆院の「3分の2以上」の多数で政府案を即刻再可決、成立させるべきだと、国会法や衆参両院規則の検討に入りました。これには衆参両院の法制局長が判断を下さず、駒崎義弘衆院事務総長も「衆院議運委の協議マター」との見解で逃げました。民主党は再可決を警戒して対案の審議にも入らず、税制関連法案の審議入りは暫定税率期限切れの3月末をまたぐ4月初めまで拒否し、物理的にも政府案の年度内成立は危ぶまれる事態になりました。「良識の府」の権威をかなぐり捨てた第一党のサボタージュ行為です。事態打開には再度の両院議長斡旋しか方法はありません。伊吹文明自民、北側一雄公明両党幹事長は21日、河野洋平衆院議長に採決協力を再度要請しました。

5項目の修正方針を首相示す
 忍耐強く修正協議路線を進める首相は19日夜、ガソリン税の暫定税率を維持する租税特措法改正案の修正方針を示しました。@2008年度歳入法案の年度内成立A道路特定財源は税制抜本改革時に一般財源化に向け見直し、その際、地方の財源は守るB道路整備中期計画は、新需要予測データ等を基礎に計画の期間を含め見直すC公益法人への支出を含め、道路予算の透明化、厳格化を行うD以上をもって与党内調整のうえ、野党と協議する――の5項目の指針で、これによって修正案の作成や対民主党などとの協議を行うよう指示しました。これは1月30日に衆参両院議長が斡旋した、@徹底審議を行ったうえで、年度内に一定の結論(採決)を得るA各党間で合意が得られたものは修正する――合意案に沿って修正協議を行い、両議長に再度の斡旋案を依頼しようとするものです。自公両党は21日、この5項目に「必要な道路整備は着実に進める」「与野党協議機関の協議で合意を得た事項は、09年度以降の予算で実行する」の2項目を追加し、野党に提示しました。

総選挙向け民主2つの戦略
 これに対し、鳩山民主党幹事長は「道路特定財源の一般財源化は秋に先送りし、まるでゼロ回答だ。暫定税率廃止と一般財源化は切り離せない」と拒否、「年度内に一定の結論を得る」とした衆参両議長斡旋についても「反古にされたもので、拘束力はない」との考えを示しました。背後には小沢戦略があります。読売は、小沢代表が最近、周囲に「今年中に衆院選はある。春か秋以降だ。2段構えで準備を進める」と語ったとし、2つのシナリオを描きました。@春のシナリオは<租税特措法改正案の参院採決を引き延ばし、3月末で暫定税率が期限切れ−ガソリン価格低下―与党が4月下旬に「見なし否決」規定により同法案を衆院で再可決―参院で福田首相問責決議案可決>――。小沢氏は18日夜の当選1回衆院議員の会合で「内閣総辞職はあり得るが、総選挙の洗礼を受けていない首相が3代続くから衆院解散だ」と語っています。ガソリン値下げと75歳以上の高齢者対象の「後期高齢者医療制度」が4月から始まり、全国平均で年約7万2千円の保険料が年金から天引きされ、世論の支持が当て込めるとも判断。A秋の展開は<首相が7月の洞爺湖サミット後に「福田降ろし」が起きて退陣―自民党総裁選が行われ世間の関心が自民党に集中―新首相が間をおかず衆院解散・総選挙に踏みきる>――。これが読売の示す小沢戦略です。

09年度から一般財源化を提案
 追い込まれた首相は27日夕、緊急記者会見し、「道路特定財源を09年度から一般財源化する」など、思い切った新提案を発表しました。首相の新提案はもちろん年度内成立の前提に立って、一般財源化のほか@暫定税率の上乗せ分の扱いは今後検討A道路整備中期計画は10年を5年に短縮して新たに策定B同計画を08年度道路予算の執行にも厳格に反映し、道路建設を抑制C与野党協議会を設置し一般財源としての使途の在り方、道路整備計画などを協議・決定――が骨子です。首相は民主党が求める暫定税率の廃止は、「2兆6千億円の財源が失われ、道路整備や地方に行くお金がなくなる。現実無視の議論だ。維持することが今の国際的な石油不足、環境問題の観点から考えると必要ではないか」と否定しました。新提案を野党が拒否したため、暫定税率が一時失効し、ガソリンの値下げが確実になりました。政府与党は4月下旬に税制関連法案を衆院で再可決し、再び暫定税率の復活させる方針です。与党は、租税特措法改正案のうち、ガソリン税以外の預金利子課税や土地売買登録免許税など国民生活に密接な7項目の日切れ特別措置に関し、期限の1ヶ月延長を野党に提案しました。これは暫定税率だけの再可決では国民の抵抗が強いと見て、7項目を道連れにして4月末に一括再可決することにしたものです。この与党提案は両議長の仲介により、ガソリン税以外の租税特別措置を5月末まで2ヶ月間延長することで与野党が合意し、「つなぎ法案」が31日の衆参両院本会議で成立しました。

値下げ待ち、「品切れ」で大混乱
 暫定税率の期限が切れる4月1日の「ガソリン1リットル約25円の値下げ」を期待し、庶民が買い控える動きも目立っています。ガソリン税は「蔵出し税」で、税率が切れてもスタンドには高い税率のガソリンが残っていて一斉に値下げとはならず、スタンドが区々の対応をする恐れもあります。車は安いスタンドに殺到して「品切れ」が続出すると予想されますが、4月末には法案を「否決と見なす」60日ルールが働き衆院の「3分の2の再可決」で元の税率に戻り、大混乱を起こします。地方自治体も1ヶ月の税収が落ち込み、対応策を迫られます。民主党は大混乱の責任を政府与党におっ被せ、総選挙を有利に戦おうと躍起ですが、混乱の原因は両議長斡旋を無視した参院第一党・民主党の無茶苦茶な国会運営にあります。その非を正すべく自民党は世論喚起に全力を挙げています。党内では「日銀、ガソリン、年金記録漏れ問題。政権は3重苦だ」(鈴木政二参院国対委員長)と言えば、「いや株安・円高を加えると4重苦だ」(山本一太参院議員)と答えるなど、やりきれない空気が漂っています。イージス艦衝突事故を加えると5重苦になり、まさに福田内閣は正念場です。何が何でもガソリン税の難関は総力を挙げて乗り切らねばなりません。