第173回(2月1日)3月危機の国会開幕 一触即発の緊迫
 マスコミが“3月危機”を大合唱し、政財界も波乱の展開に警戒を強めています。1月18日に開幕した通常国会の折り返し点である3月末に、揮発油税(ガソリン税)の暫定税率と年金記録照合作業の期限が切れるからです。
 民主党は「ガソリン値下げ国会」と位置づけ、「ガソリン値下げ隊」60人を巷に繰り出し、「ガソリン解散」を盛んに唱えています。同党は3月19日に5年間の任期を終える福井俊彦日銀総裁の後任人事についても難色を示し、あらゆる手段で福田政権を揺さぶっています。
 これに対し与党は、暫定税率を2ヶ月間延長する“つなぎ”法案を議員立法で提出しましたが、30日に河野洋平衆院議長の斡旋(案)を受け入れ、同法案を取り下げました。同案は租税特別措置法案について「年度内に一定の結論をうる」ことが条件とされガソリン税の失効に歯止めがかかっています。
 原油高による物価上昇が続く中で世界市場の株価は低迷、国民は景気の先行きに不安感を抱くなど悪材料が重なっています。福田首相は施政方針演説で「国民本位の行財政への転換」など5つの基本方針を示し、生産者よりも生活者重視の政策を訴えました。私も政権与党の1員として、予算案と関連法案の成立に全力を挙げています。
 しかし、衆院解散の“政局”の場となるか、与野党“政策協議”の場となるか。会期150日間の国会は絶えず一触即発の緊迫事態が予想されます。心を引き締めていますが、一層のご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

消費者重視へ政策転換
 「自民党は国民の味方だ。国民の声に耳を傾け、党へのまだ消えぬ期待の炎を、燃えさかる支持と支援の炎に変えていく」――。国会開幕前日の17日、自民党大会で首相は「国民」という言葉を何度も使って信頼回復の決意を示し、昨夏の参院選惨敗で生じた政権運営への危機感を強くにじませました。そして、政権の3月危機と指摘される揮発油税の暫定税率を巡る攻防を「何としても乗り切ることに全力を傾注する」と強調しました。
 施政方針演説では、@国民本位の行財政への転換A社会保障制度の確立と安全の確保B活力ある経済社会の構築C平和協力国家日本の実現D低炭素社会への転換――の5つの基本方針に基づき、生活者・消費者主役へ政策転換、環境問題への取り組み強化に力点を置くと訴えました。
 内政では、消費者行政を一元的に推進する新組織を09年度にも発足させ、「社会保障国民会議」を開催、外交・安全保障では、自衛隊の海外派遣に関する一般法(恒久法)の検討を進めることを確約しました。消費者行政担当相は4月にも任命する方針です。

もはや「経済一流」でない
 政府4演説の中で印象深かったのは大田弘子経済財政相の経済演説でした。「2006年の世界総所得に占める日本の割合は24年ぶりに10%を割り、(かつて2位だった日本の)1人当たりの国内総生産(GDP)は経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国の中で18位に低下した。残念ながら、もはや日本は『経済は一流』と呼ばれる状況ではなくなった」と正直に経済の実態を明かし、「成長力を強化するには、世界とつながるオープンな経済システムを作り、世界の成長エネルギーを取り込むことが重要だ」と指摘した点です。
 構造改革を推進した小泉、安倍両政権と違って、福田首相の演説からは“改革”“教育再生”の言葉が消えていましたが、大田氏は「地域のサービス産業を活性化し、生産性を高めて賃金水準を上げ、職業能力を高める機会を開き、人材の力を高めることも必要」と、新成長戦略をこの春にも具体化する考えを示し、改革の重要性を強調しました。

伊吹語録で野党撫で斬り
 「昨年を表す漢字は『偽』だった。政治、政治家にとって品質表示は公約。つまり現物取引、現金決済だ。ところが政権担当しない野党は耳障りのよい政策を乱発する。商品はクーリングオフできるが、選挙ではクーリングオフが出来ない。野党の政策は(財源なしの)約束手形に過ぎず、税法の改正なしでやれるものは1つもない」――。自民党の伊吹文明幹事長は21日、首相演説に対する代表質問で民主党など野党の政策を酷評しつつ、暫定税率維持の必要性を強調しました。
 昨年暮れのHPでは伊吹語録の「これまでの3つの常識は3つの非常識」を紹介しましたが、今年の記者会見で放った伊吹新語録は「民主党はカタログ、ネット販売でカラの約束手形。誰も一度も商品を手に取ってみたことがない」――。その語録を代表質問でも多用して野党の政策を撫で斬りにしました。
 伊吹氏は、「暫定税率が期限切れとなれば、ガソリン代は1リットル約25円、満タンクで1千円程度安くなって庶民は喜ぶが、国・地方合せた税収入は約2兆6千億円も失われ、地方は道路特定財源から譲与される軽油引き取り税や自動車取引税を含め約9千億円、道路整備臨時交付金の約7千億円、計1兆6千億円の穴が開き、大打撃を受ける」と主張しています。

年度内未成立は憲政史上ない
 伊吹幹事長は「民主党の首脳は4月にまたがって審議すると言うが、年度内に予算が成立して新年度に歳入法案の議了がずれ込んだことは憲政史上1度もない」と野党の審議引き延ばしをけん制。「地方が財源不足に陥ると、救急医療や災害時救援に必要な生活道路、児童通学路のガードレール、開かずの踏切、立体交差、電線の地中化など地方の道路、街路整備は一切出来なくなり、地方行政が混乱する」と指摘、その責任は野党側にあることを浮き彫りにしました。
 租税特別措置法案には、中小企業が機械を買った際の費用の一定割合を法人税から軽減する中小企業投資促進税制が含まれ、この措置の期限が切れると中小企業にとっては約2300億円の負担増となります。このほか、日切れ法案としては輸入牛肉など420の輸入品の関税に課せられている関税定率法等改正案の特例税率がなくなり、輸入牛肉の場合は38.5%の税率が50%に上昇するなど食品市場は混乱します。このため、野党は日切れ法案の分割処理を求めていますが、政府与党は従来通り一括して予算関連法案を提出、「租税特措法改正案が通らなければ道路だけでなく国民生活に幅広く影響が出る」と各自治体首長や経済団体に呼びかけて世論を喚起しています。

野党と協議重ね3月中成立へ
 与党執行部は租税特措法改正案の1月中の衆院通過は困難と認めながらも、越年国会の新テロ対策特措法成立で実績を積んだ憲法規定の「否決と見なす」60日ルールの適用は極力避けて、あくまでも野党と協議を重ねて採決に持ち込み、3月中に成立させる決意を固めています。
 このため、例年は2月上旬提出の租税特措法改正案を1月23日に繰り上げて提出し、2月中旬に衆院通過を図りたいとしています。その代わり60日ルールが適用出来る安全網(セーフティネット)として、徹底審議も可能な2カ月間延長の、つなぎ法案を議員立法で29日に提出。これに対し、野党は「強行採決の前倒しだ」と猛反発し、結局議長斡旋案で同法案を取り下げました。
 また、ガソリン価格の引き下げが一時的にも実現すれば「国民の支持が集まり与党は衆院で再可決できなくなる。次期総選挙でも野党が有利に戦える」と見て、ガソリン税論議に絞り込んで猛攻をかけています。
 民主党は「道路特定財源は地方分を含め、すべて一般財源化し、暫定税率を全廃。地方の道路整備事業水準を確保する」と同党の税制改革大綱の柱に掲げ、小沢一郎代表の指示通り新年度にまたがるよう審議を引き延ばし、与党が衆院で再可決に踏み切れば越年国会で温存した首相の問責決議案を参院で可決、解散・総選挙に追い込む構えです。

民主、税率廃止が最大争点
 「直近の民意は(自民党惨敗の)参院選にある」とする鳩山由紀夫幹事長は「米軍艦船にただで油を渡すことに汲々としてきた首相の演説には国民生活の実感に触れた部分は1行もなく、原油高に苦しむ国民の声は自公政権には届かない。日本に活力を取り戻すには民主党政権しかない」と代表質問で述べ、暫定税率の廃止を最大争点に位置づけました。
 鳩山氏は新春テレビ番組でも、「国土交通省の役人が弾く道路整備計画の59兆円はでたらめな数字だし、ゼネコンの利権絡みで他国より割高である工事費を切りつめれば5千億円は簡単に浮く。
 国が直轄する公共事業に対する1兆円の地方負担を廃止すれば減収分は補える。複雑な8種類の税制を抜本的に整理し無駄をなくせば、地方財源に穴を開けずに地方の道路整備事業水準は維持できる」と主張しています。
 暫定税率は田中角栄内閣がオイルショックの74年に導入したものですが、森喜朗元首相は民主党の攻勢に対し、「かつての親分の角さんが折角敷いた路線を子分たちの小沢、鳩山氏、渡部恒三最高顧問らがぶち壊している」とテレビ番組で揶揄しました。
 共産党は“暫定”の税率が30数年も続いていることは異常事態で、廃止で生ずる地方財源の赤字は地方交付税をカットした分や金持ち優遇税制の撤廃などで補填すべきだとし、環境税の導入を主張しています。

野党の足並み乱す国民新党
 社民党は「少子高齢化や過疎化で路線バスが廃止されたり、市町村合併による医療施設の集約化などで庶民の足が不便になり、1家に2,3台の車が必要な時代にガソリン価格の値下げは歓迎する」としながらも、福島瑞穂党首は「暫定税率は下げる方向だが、環境税の導入がセットだ」と慎重で、共産党と同様な主張をしています。
 野党の中では国民新党だけが、大都市に偏った道路網計画で格差が生じた地方の道路整備に充てるため、「特定道路財源は残し、レギュラーガソリンや灯油代の高騰に苦しむ家庭には補助金制度を設けるべきだ」と暫定税率維持を唱え、野党の足並みを乱しています。場合によっては与野党攻防のキャスティングボートを握りそうです。
 一方、仮に暫定税率の期限が切れても、ディーゼル車用の軽油は小売り段階で課税されるので暫定税率廃止と同時に値下げされますが、揮発油税は出荷段階で課税される「蔵出し税」で、小売り店に届くまで時間が掛かり、3月末までに出荷された「高い税金のガソリン」が暫く売られるなど店頭で混乱が生じます。
 全国都道府県議444人は23日、東京の憲政記念館で「道路特定財源堅持を求める総決起大会」開き、暫定税率廃止反対の気勢を上げましたが、大会には伊吹幹事長ら与党幹部のほか、民主党から渡辺秀央元郵政相、大江康弘氏ら参院議員3人が参加しました。

造反組念頭に修正成立も
 大江、渡辺両氏らは、廃止反対の署名運動も行っており、参院25人を含む39人の民主党議員が署名に応じているそうです。このため、審議引き延ばしや参院での可決、問責決議案提出に反対して本会議を欠席したり造反を起こす可能性があります。参院の明確な反対勢力は民主116,共産7,社民5の計128議席で過半数の121を7議席上回っているに過ぎず、地方財源を心配する野党の“道路族”数人の造反で形勢は逆転します。
 国会前の自公両党幹事長、国対委員長会談では、2月中旬に租税特措法改正案の衆院通過を目標とすることで一致しましたが、与党執行部はこれらの野党造反組を念頭に置いて、当面の緊急措置として、10年間継続の政府案を、原油高騰を理由に延長期間1年程度の暫定措置に修正したり、道路特定財源の一般税化や社民党要求の環境税導入などあらゆる方策を検討、野党と協議のうえ成案を得、年度内に同法案の成立にこぎ着けたい考えです。

環境関連税制と首相受け止め
 もちろん、3月末に参院で否決されれば、憲法の規定により衆院3分の2の与党勢力で再可決出来ます。
 しかし、国民への説得力がなければ、「ガソリン値下げ要求」の世論が盛り上がって、消費税導入に政権を懸けた竹下内閣のように、本予算案・関連法案の成立と引き替えに退陣となる事態もなきにしもあらずです。
 首相は施政方針の中で、「地球温暖化への対応を行うためにも現行税率を維持する必要がある」と述べたため、早速代表質問では野党から「温暖化対策として高い税率を維持するとの主張は道路整備のための課税根拠を変更したのか」と質されました。首相の頭には、ガソリン価格が下がれば国民が湯水の如く油を消費し、CO2をまき散らして議長国のメンツが潰れるとの思いがあったのでしょう。
 衆院予算委の答弁でも、「我が国のガソリン価格はOECD加盟国のうち25番目で非常に安い。(暫定税率は)環境関連税制という受け取り方をすべきで、その廃止は地球温暖化に逆行しかねず、国際的な理解も得られない」と重ねて強調しました。町村信孝官房長官や高村正彦外相、谷垣禎一政調会長も講演などで、首相の考え方に同調する発言を繰り返しています。

「背水の陣内閣」の悲壮感
 「日本でのサミット開催年には必ず解散・総選挙がある」というジンクスがあり、首相は7月の洞爺湖サミットを成功させて上げ潮に乗り、総選挙を勝利しようと意気込んでいます。
 首相自らが言うように「背水の陣内閣」の悲壮感を持つ福田内閣ですが、越年国会で民主党が強引に新テロ特措法案を継続審議に持ち込もうとして野党戦線の分裂で失敗したように、今国会では、巧妙な駆け引きや強力な国会対策で危機を突破出来るか、首相問責決議案を粉砕するために世論をどう構築するか。我々の役割は大きくなっています。