第168回(11月16日)大連立マグマ噴出 波乱含み国会
 11月の政局は「大連立」のマグマが突如噴出、今も余震に揺れています。福田首相が「あうんの呼吸」という自公民大連立の政権樹立に向けた政策協議は、自民、民主両党のトップ会談で折り合ったものの、民主党の役員会が拒絶、これを「不信任」と受け止めた小沢一郎代表が辞意を表明、2日後に撤回しましたが同党は混迷を深めました。会談の決裂を受けて、政府与党は35日間の会期延長を決め、補給支援特措法案の成立を図る正面突破作戦に出ました。参院で多数の野党が同法案を否決すれば衆院で直ちに与党が3分の2の賛成で再議決する方針です。その場合、野党が参院で首相問責決議案を提出・可決する可能性があり、政局は依然衆院解散の波乱含みですが、民主党内の動揺やトップ会談を密室の謀議と非難する他野党の足並みの乱れもあって終盤国会は与党に有利に展開しそうです。国会閉幕後は08年度予算編成に入り、政府与党内では「経済成長」か「増税」かを巡り財政再建論議が活発化しています。私は特措法案の衆院通過に努力しましたが、道路特定財源の離島対策活用など予算編成に向けて奮闘しています。よろしくご支援下さい。

菅氏ら総理の首よこせと反発
 自民、民主のトップ会談は10月30日と11月2日の2日間で実質3時間に及びました。首相は会談で、「政策実現のための新体制」(自公民3党による「大連立」政権樹立に向けた政策協議)を提案。さらに、小沢氏の持論でもある、自衛隊の海外派遣を可能にする恒久法(一般法)の検討を条件に、補給支援特措法案への賛成を求めました。小沢氏は1回目の会談から特措法案には強く反対しましたが、首相は小沢氏の主張にかなりの理解を示したようです。それは小沢氏の記者会見に表れています。会談模様について小沢氏は「首相が 
 @『自衛隊の海外派遣は国連の安保理か総会の決議で認められた活動に限る』とする私(小沢氏)の持論を受け入れた 
 A連立政権が成立すれば補給支援特措法案の成立にはこだわらない――と確約した」ことを挙げ、「わが国の無原則な安保政策を根本から転換するもので、それだけでも政策協議を開始するに価すると判断した」と記者会見で明かしました。そこで、小沢氏は「政策協議を始めるべきではないか」と考えてこれを持ち帰り、菅直人代表代行ら幹部へ会談内容を説明しました。ところが、菅氏と、鳩山由紀夫幹事長は「大連立を求めてくるなら総理の首をよこせといえばいい」と反発しました。

不信任と受け止め辞意表明
 会談後に諮った役員会でも鳩山氏が「大連立は大政翼賛会的な話で、国民の批判を受ける」と述べたほか、「政権交代が目的だ」「今さら国民や支持者の理解が得られない」など反対論が渦を巻きました。これには、小沢氏が  
 @ほぼ独断に近い形でトップ会談に応じ、2度にわたり3時間も話し合った 
 A大連立の話が出ても拒否して席を立たず、党に持ち帰った
 B役員会で大連立のメリット、デメリットを長々と説明した――ことに同党内で疑心暗鬼が生じたものと見られます。結局、役員会は、全員一致で提案を拒否する方針を確認。小沢氏は「受諾できない」と首相に正式に回答してトップ会談は決裂。党側の拒否は「不信任を受けたに等しい」として4日に辞意を表明しました。小沢氏は会見で、「多くの党員を指導する代表として、また党首会談で誠実に対応して下さった福田総理に対し、けじめをつける必要があると判断した」と説明しました。突然の辞意表明に慌てた鳩山氏らは5日の役員会で慰留することを確認、小沢氏に翻意を促しましたが、小沢氏は「心の整理に時間が掛かる」と一旦は即答を避け、2日後の両院総会で「恥をさらすようだが」と言いながら辞意を撤回しました。

新法成立が党首会談の起点
 しかし、党首会談は小沢氏が言うように、「自衛隊の海外派遣は国連決議に限る。国連活動であれば武力行使も可能」との同氏の原理原則や「連立が出来れば首相が補給支援特措法の成立にこだわらない」と見た同氏の判断に、首相が丸飲みで合意したわけではなく、首相は「こだわってるんですよ、私は」と記者団に“新法断念”を打ち消し、自衛隊派遣の恒久法制定について小沢氏の主張に耳を貸す考えを示したものの、政府方針や憲法解釈の大転換をする考えのないことを強調しています。首相周辺が「すべては新法をどうするかが起点の党首会談だった」と述べているように、会談決裂と同時に政府与党は国会会期の35日間延長を決め、特措法案の成立に全力を挙げています。野党は衆院での再議決を避けるため60日間の審議引き延ばしを図り、参院では民主党が提出したイラク特措法廃止法案の審議を優先させています。といってもだらだら審議は国民に批判されかねないため、終盤に特措法案を否決することは確実です。その時は衆院で3分の2以上の賛成で再議決する方針です。仮に会期末の12月15日までに採決しない場合は1月15日まで1ヶ月間再延長しなければなりません。野党は参院での首相問責決議案を切り札にしていますが、「大連立」騒動で各党にも疑念が生じたことから、足並みが揃うかどうか微妙です。

予算成立直後の解散が有力
 首相は公明党首脳に入念な背景説明をしたうえで民主党との党首会談に臨みましたが、民主党と参院で統一会派を組んだ国民新党の亀井静香代表代理はテレビ番組で「小沢氏は統一会派の我が党に事前の連絡もなく密室のボス交なんかやって、首相問責決議案は出せなくなった。首相の作戦勝ちだ」と、信義関係が崩れたことに不満を並べています。また、民主党内でも、親友の石井一副代表が「狐と狸の化かし合いで、小沢は化けものにハメられた」とぼやいたり、小沢氏が辞意表明の記者会見で、同党の現状について「様々な面で力量が不足しており、政権担当能力に対する疑問が提起され続け、次期総選挙での勝利は厳しい情勢だ」と述べたことに対し、「小沢代表は許せない。会見で選挙に勝てないと言った人間を大将にすることはあり得ない」と慰留に反対した向きもあり、「雨降って地固まる」(鳩山幹事長)どころか、「年内に解散に追い込み政権を奪取する」と言った意気込みは薄れつつあります。こうみると参院の問責決議案提出は微妙ですが、仮に同案が提出・可決されても、衆院の内閣不信任案と違って憲法上は直ちに総辞職もしくは衆院解散をする必要はありません。国民の信頼を得るため早晩解散となりますが、終盤国会での解散は遠のき、年明けの通常国会冒頭あるいは予算成立直後の解散が有力になってきました。

仕掛け人は渡辺恒雄読売会長
 小沢氏は4日の記者会見で「私の方から党首会談を呼びかけたとか、連立を持ちかけたとか、いずれも全く事実無根だ。ほとんどの報道機関が政府・自民党の情報を垂れ流し、自ら世論操作の一翼を担っているとしか考えられない。私を政治的に抹殺し、民主党のイメージを決定的にダウンさせる誹謗中傷報道だ」と“呼びかけ人”扱いした読売に抗議しました。首相は「互いにそういう気持ちが多少でもないと。あうんの呼吸だ」と、とぼけています。しからば「大連立」の仕掛け人は誰か? マスコミは8月16日の社説に自らが「大連立」の必要性を書いた渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長・主筆を挙げています。その後急速に、森喜朗元首相、森氏側近の中川秀直・武部勤両元幹事長らが大連立を唱え出しました。渡辺氏は2大政党による大連立が持論の中曽根康弘元首相と10月下旬、都内の料理屋で会食し意見を交わしましたが、2人揃って11月4日のTBS時事放談に出演、「江戸の無血開城を話し合った西郷隆盛、勝海舟の談判に匹敵する会談だ。200%、300%成功する」と渡辺氏が上機嫌なら、中曽根氏は「大連立」の成功例としてドイツのメルケル現政権を挙げるなど、“仕掛け人”らしく思わせぶりな発言をしていました。

独は05年総選挙から大連立
 ドイツは05年の総選挙で第1党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と、第2党の社会民主党(SPD)のいずれも過半数に届かず、小政党との連立工作が不調に終わったため、やむなく両党が手を結び「大連立」政権を作りました。自民党は98年の参院選で惨敗し、今回と同様参院で与野党が逆転した際、小沢氏率いる当時の自由党と連立を組み、その後さらに公明党を加えた3党連立政権を作ったことで政権を安定させました。首相は就任後、法案が1本も成立していないことを憂慮し、1日付けのメールマガジンでも「自民、民主両党がただ対立に終始していたのでは、国民生活に関する法律や外交案件もスムーズに成立しない」と危機感を訴えています。大島理森国対委員長には「特措法が成立しなければ世界に対し、日本の政治の責任が果たせない。立法府の機能が推進できない」として党首会談をセットするよう指示しました。魚心に水心で小沢氏にも「会談と大連立」には多大な関心があったのでしょう。小沢氏は会見で「2ヶ月前、さる人から呼び出され、食事しながら話をした。『大連立』をというたぐいの話だった」と認めました。

競合の小選挙区制になじまず
 しかし、ドイツの連邦議会選挙は比例代表制が軸になっていて大連立が容易ですが、2大政党を目指す日本の小選挙区比例代表制は、各小選挙区で自民、民主両党の候補者が競合しており、候補者調整の一本化は困難で、大連立による政権運営の協力態勢は容易でありません。自民党内でも政策協議のパーシャル(部分)連合の必要性は認め、地方組織の6割が大連立を評価したものの、「公明党との関係に亀裂をもたらす」との懸念の表明や、「密室での相談は、国民には訳が分からず政治不信につながる」「年金など一部に限った連立なら分かるが、大連立は理念なき野合だ」「何の見通しもないまま会談に突っ込んだというなら、ちょっと軽率だ」など批判の声が出されています。ただし、会談は決裂しても、最終的に小沢氏は、首相に電話で「誠意ある対応を頂いたが、連立は飲めない」と回答したことを記者団に明かしました。この丁寧な表現から見ても首相と小沢氏のパイプは密かに繋がっており、トップ間の今後の政策協議と解散・総選挙後の小沢氏の出方が注目されます。

選挙制度、政界再編論が再燃
 小沢氏は先の参院選で29の1人区のうち23区を当選させ、参院で14人の小沢チルドレンが生まれています。これを引き連れ離党し、数人の同志を募れば、参院の与野党差17人の「ねじれ国会」は解消され、民主党の政権奪取は出来なくなります。鳩山氏ら幹部が必死で小沢慰留に動いたのはそのためです。マスコミという公器のトップが権力闘争に絡んだ点、言論界でも批判が高まっているようですが、大連立が論議されたのを契機に、中選挙区制への郷愁を感じるベテラン議員の公選法改正を目指す復古的な動きや、政界再編を模索する動きが今後再燃することも予想され、連立余波は来年の政局に響きそうです。