第164回(9月16日)首相退陣の衝撃 波乱の07年体制
 安倍首相の唐突な退陣表明で永田町に衝撃が走りました。後継を選ぶ自民党総裁選は9月23日に投開票と決定、福田康夫元官房長官と麻生太郎幹事長の一騎打ちとなりました。臨時国会の焦点であるテロ対策特措法の延長は、新法提出の方向が固まりましたが、総裁選で見通しが暗くなくなっています。民主党は、衆参ねじれの参院を主戦場とし、参院選で争点となった年金、農業政策、格差問題、「政治とカネ」などで自民党政権を揺さぶる方針です。同党はこれまでは困難だった国政調査権を使って年金や農水相辞任で明るみに出た補助金など政治家と役所との不明朗な関係について、関係省庁に資料公表を迫り、証人喚問を要求する構えです。参院では首相問責決議案を武器に、新内閣にも攻撃を加え、衆院解散・総選挙に追い込もうとしています。「逆転国会」は、「55年体制」崩壊に代わる「07年体制」の始まりです。私は党副幹事長、衆院安保委理事に加え、テロ対策特別委の委員を引き受け、混乱政局の中で、テロ特措法の延長に全力を挙げています。解散含みの緊迫した情勢が続きますが、皆さんのさらなるご支援をお願い申し上げます。

各派の支持受け福田氏優勢
 総裁選は国会議員387人(衆院304人、参院83人)に各1票、県連に各3票の計528票で争われ、23日の両院議員総会で投票します。青森、埼玉、東京、長野、大阪、熊本など約10都道府県が党員投票(予備選)を実施する方針です。15日に立候補を締め切り、福田、麻生の両氏が出馬しました。首相出身の最大派閥・町村派は同派所属の福田氏を擁立、「安倍・麻生」のタカ派ラインに批判的だった外交リベラル派の古賀、山崎、谷垣派が福田氏を支持、津島、伊吹同派も支持に回ったため雪崩を打ち、福田氏は国会議員の半数以上を抑えて優勢です。地方の支持が多い麻生氏は、短期決戦で先行逃げ切りを図りましたが、投票日が19日から23日に後退し、各派の締め付けが強まるため、麻生派16人の弱小勢力では不利な戦いとなりました。島津派の額賀福志郎財務相は真っ先に出馬の意志を表明しましたが、派内をまとめきれず出馬を断念しました。当選1回の衆院議員は小泉前首相の再登板を求め署名運動を展開しましたが小泉氏が出馬を否定しました。

疲労、ストレスで胃腸障害
 首相は外遊先の豪州・シドニーで「国際公約だ。職を賭して取り組んでいく」と、テロ特措法の成立に不退転の決意を表明、開会10日の所信表明演説でも、参院選の敗北や閣僚の「政治とカネ」を巡る不祥事に率直な反省を示し、政治資金規正法の改正や地方重視の政策を推進する方針を打ち出し、続投の決意を示したばかり。それが、12日午後の代表質問が行われる直前の「敵前逃亡」です。前代未聞の退陣表明に、「青天の霹靂だ」(冬柴鉄三国交相=公明)、「僕ちゃんの投げだし内閣。極めて無責任」(福島瑞穂社民党党首)と党内外から批判の声が高まりました。与謝野馨官房長官は「首相は自分の健康が厳しい日程、精神的な重圧に耐えられるか、吟味しながら進んできた」と説明しましたが、首相は参院選後、体調を崩しお粥と点滴でしのいでいたようです。疲労やストレスで胃腸の機能が悪化する「機能性胃腸症」で13日、慶応大学病院に入院しました。内閣改造で塩崎恭久前官房長官ら気心が知れた仲間が官邸を去り、孤独感から心労を深めていたようです。

裏目の人事で精神的重圧
 自民党は8月末、参院選敗北を総括、年金記録問題、政治とカネ、閣僚の不規則発言の「逆風三点セット」について、内閣と与党の「危機管理能力が欠如していた」と指摘しました。前内閣で相次いだ閣僚の事務所費問題や失言に対し、首相がたえず庇う姿勢を見せ、対応の甘さと統治能力(ガバナビリティ)の不足を国民から批判されたからです。それだけに首相は内閣改造に当たり、「事務所費問題などできちんと説明責任が果たせない者は閣外に去って貰う」と述べ、閣僚の出処進退と透明性には厳格に対処する方針で1カ月かけて入閣候補の「身体検査」を行いました。だが、結果は裏目に出ました。在任わずか8日の遠藤武彦農水相が補助金不正受給問題で、坂本由紀子外務政務官が会議費の二重計上問題で引責辞任、小林芳雄農水省事務次官も7日、農業共済組合の補助金不正受給問題で混乱を招き、同省の対応が不十分だった点に責任を感じて辞任しました。野党は「またも失敗人事だ」とし、首相問責決議案の提出を視野に首相の任命責任と農水省の補助金行政の在り方を厳しく追及する構えでした。それが精神面での重圧となっていたようです。

党首会談拒否を理由に辞任
 今国会最大の焦点は、テロ対策特措法の延長です。首相はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれた豪州・シドニーで記者会見し、「インド洋での給油活動は対外的公約であり、私の責任は重い。職を賭して約束を果たすため全ての力を出しきりたい」と同法成立の決意を表明していました。同法改正案を参院が否決したり、60日以内に議決しない場合は衆院の3分の2以上の賛成で再可決できる憲法の規定もありますが、会期が11月10日までの62日間と短いうえ、参院で主導権を握る民主党が反対している現状では、同法を期限内に成立させるのは極めて困難です。法案の提出では、
 @派遣期間を単に延長する改正案を提出する
 A野党の要求を入れて改正案を修正する
 Bインド洋での海自活動を給油・給水などに限定する新法案を提出する――の3ケースがありますが、政府与党は給油活動の重要性を国民に分かりやすく訴えるため、海自活動を給油・給水に絞り込んで、単純化した新法案を21日にも国会に提出する方針を固めていました。首相は同案をもとに「建設的な協議がしたい」と党首会談を呼びかけました。しかし、民主党は補給活動そのものにも反対し、「国連決議に基づかない自衛隊派遣は認めない」と、党首会談を拒否。首相は記者会見で「今の状況で、国民の指示、信頼の上に力強く政策を進めていくのは困難」と述べ、小沢氏の党首会談拒否を主たる理由に辞任を表明しました。

参院予算委員長ポスト争奪戦
 税金の無駄遣い一掃国会」と位置づける民主党は8月末、党役員人事を手直ししました。小沢代表、菅直人代表代行、鳩山幹事長のトロイカ体制は変わりませんが、輿石東参院議員会長を代表代行兼務とし、前原誠司前代表を岡田克也元代表と同様、副代表に加え、腹心の山岡賢次財務委員長を国対委員長に、直嶋正行元参院幹事長を政調会長に起用するなど、「逆転国会」に備えた参院重視の布陣です。衆院予算委の筆頭理事に岡田氏、次席理事に前原氏を充てたほか、「次の内閣」(NC)には参院幹部の直嶋氏を官房長官に、年金記録問題で活躍した長妻昭氏を年金担当相に起用しました。参院予算委員長ポストを死守する構えの自民党に対し、民主党は「参院第1党となった以上、疑惑追及の主舞台である予算委はもとより重要委員会は軒並み抑える」とし、国会前の前哨戦では自民、民主両党の間で参院委員長ポストの争奪戦が展開されました。「常任委員長人事は投票決着」でよいと、一時は自民が予算委員長を断念する展開となりましたが、参院自民、民主両党協議の結果、民主党が譲歩し、「予算委員長を自民に譲る代わりに、テロ特措法延長問題を扱う外交防衛、年金問題の厚生労働、補助金問題の農林水産など主要委員長ポストは民主が抑える」ことで一転妥協しました。投票決着は48年ぶりのことであり、全面対決すれば「民主党こそ数の横暴だ」と世論に叩かれるのを同党が恐れたからでしょう。

7年体制に和戦両様の構え
 「参院第1党が民主党なので、これまでの政調会長と違って譲るところは譲り、協議するところは協議し、法案成立まで責任がある」――。石原伸晃政調会長は5日、京都で開かれた近畿ブロック政調会長会議でこう力説しました。大島理森国対委員長も「政府・与党が作った法案を通過させるだけでなく、広く合意を見つけていく作業もこれからの国会運営の責任だ」と述べています。朝日新聞は「逆転国会 07年体制」の3回企画を特集しました。この中では、「55年体制は政府・自民党が法案を調整し、衆院で可決されれば参院でもそのまま成立する『衆院のカーボンコピー』と参院が揶揄された時代だったが、07年体制は、政府と与党間の話し合いで政策が決まる仕組みから、政府と野党、与党と野党が向き合う体制の始まりである。2院制の意義、2大政党化が進むなかでの政党の役割を見つめ直す機会になりそうだ」――とし、参院は憲法で認めている予算案の議決や首相指名など衆院の優越を除けば、衆参両院がほぼ対等の関係にあることを強調しています。
これは、諸外国の第2院制度と違って、参院が制度的に強い権限を持ち、独自性を発揮できることを意味しています。さらに@発動が困難だった国政調査権が野党主導で参院議決が容易になり、行政監査機能が高まるA衆院での再可決を重ねれば「民意の否定」批判を招く――と問題点を指摘しました。総裁選の政治空白でテロ特措法の前途も不透明ですが、我々は国民の理解を得る政策協議を中心に、和戦両様の構えで逆転国会に臨んでいます。