第161回(8月1日)歴史的惨敗の参院選 くすぶる進退論
 与野党が過半数を懸けて激突した参院選は自民党が歴史的な惨敗を喫し、政局は天下大乱の様相を深めてきました。自民党は焦点の1人区で軒並み敗れ、改選の64議席から37議席に落ち込みました。これは98年に橋本龍太郎首相が退陣した44議席を通り越し、89年の宇野宗佑首相が退陣した過去最低の36議席に匹敵する大敗です。参院選を陣頭指揮した中川秀直幹事長は辞表を提出、青木幹雄参院議員会長も辞意を表明しましたが、安倍首相は惨敗の責任は認めながらも、引き続き政権担当の意欲を表明しました。党内では @参院選は総選挙と違って政権選択選挙ではない A強力なポスト安倍候補が育っていない B安倍内閣は数多くの重要法案を成立させ、対中韓外交、環境外交を成功させた――などの認識から倒閣運動起こしにくく、各派閥の会長も続投を支持しています。首相は9月に任期が切れる党役員人事に合わせ内閣改造を早めに断行、人心一新と挙党態勢を固めて混乱政局に立ち向かう構えです。しかし、参院議長は第1党になった民主党から選ばれるため、同党が主導権を握って政権を揺さぶり、早期の解散・総選挙に追い込む戦略です。このため安倍首相の政権運営は厳しくなり、自民党内で首相の進退論や政界再々編論がくすぶり出すのは必至の情勢です。

逆風が暴風になった戦い
 7月29日投票の参院選は、安倍首相が与党過半数の64議席を維持し、長期政権への道を開くか。民主党の小沢一郎代表が悲願の政権交代へ橋頭堡を築くのか。まさに「天王山の戦い」でした。首相は改憲、教育再生、公務員改革を「戦後レジームからの脱却だ」とし、関連法案を続々成立させましたが、「宙に浮いた」年金、「月給袋開けてびっくり」(民主党ビラ)の住民税、「松岡前農水相自殺」の政治とカネ問題――の3点セットで内閣支持率が急落。崇高な国家ビジョンよりも生活に身近な「財布」の問題、都市と地方の格差、第1次産業の農業振興などが争点になりました。おまけに、「原爆投下はしょうがない」発言で久間章生前防衛相が辞任、赤城徳彦農相の事務所費問題にも火が付くなど4点、5点セットの“負の連鎖”が後を断たず、まさに「逆風は暴風になった」(党幹部)中での戦いでした。

首相の絶叫と「参院選瓦版」
 「民主党の政策はばらまきのオンパレード。その財源は夢物語。全農家に戸別所得補償の“まやかし”制度で1兆円、金持ちもひっくるめて1律2万6千円の子供手当に4兆8千億円、高速道路と3千億円かけて公立高校は全部ただにする――。一体いくらかかるのか。大増税かそれとも国の借金をさらに増やすのか。まるで昔の社会党だ」「自民党は教員免許に10年の有効期限を導入した。やる気のない教師は教壇から去ってもらう。反対した民主党の現職国会議員には日教組出身が6人もいる。子供より教員の身分が大事。自民党は社保庁を解体、民営化、やる気のある人だけ再雇用するが、民主党は社保庁と国税庁を統合、職員も公務員のまま全員居座る。自治労の全面支援を受ける民主党はさぼり職員の首も切れない」――。この激しい民社党批判のビラは自民党が党員に配布した「参院選かわら版」の1部です。首相は逆風に立ち向かって「責任政党とは何か。政権を担うこととは何か。できることしか言ってはならない。言ったことは必ず実行していく。勝利を与えて下さい」、「年金記録不備問題の対策は1年以内に決着をつける」と各地で絶叫、聴衆に分け入り握手して回り、「有言実行」の姿勢を強調しました。

政治不信と将来の生活不安
 しかし、民主党の小沢代表が昨年来、重点的に回った農村部の1人区は東北、四国、山陰で自民党が全滅、複数区の千葉、東京で自民党は2議席獲得に失敗、都市部でも退潮が目立ちました。5選挙区に候補を擁立した公明党も埼玉、神奈川、愛知で敗れました。国民の間に広がった政治への「不信」と将来への「不安」が有権者の批判となって現れたものです。事務所費問題など「政治とカネ」を巡る閣僚の不祥事や相次ぐ失言など政治不信、「年金記録漏れ問題」が引き起こした行政不信、都市と地方間の格差、非正規社員が増大する雇用の格差、地方税の増額と消費税引き上げなど将来への増大する生活不安がアンチ自民票になったといえるでしょう。40台後半の議席なら、過半数に必要な51議席に届かなくても、民主党を離脱した松下新平、新党日本を離党した荒井広幸両参院議員を一本釣りしたり、国民新党との連携で「何とか穴埋めできる」議席数でした。国民新党の綿貫民助代表は選挙前「自民党と連立を組むことはあり得ないが、『この指止まれ』で、郵政改革の修正など政策面でのパーシャル(部分)連合はあり得る」と述べていました。だが、自民83議席VS民主109議席では、国民新党がキャスチングボートを狙う連携の効能はなくなりました。

重鎮を改造内閣の要に起用
 さて、今後の政局の流れはどうなるか。与党は参院の新議長を選出するため会期4日間程度の臨時国会を8月7日に召集する方針です。首相は19〜25日までインドネシア、インド、マレーシア3カ国を訪問、9月8〜9日まで豪州シドニーでのAPEC首脳会議へ出席。お盆休戦を挟んで秋の臨時国会召集となりますが、テロ特措法が11月1日に期限切れとなるため臨時国会は9月中旬以降には開かねばなりません。この間に人心一新のための内閣改造と自民党役員人事を刷新しますが、「仲好し官邸団」「論功行賞人事」と揶揄されたこともあり、内閣改造では中曽根政権当時の後藤田正晴官房長官のような重鎮を選び、内閣の“要”に起用することになりそうです。当面の課題は議長の選出です。参院の正副議長は、3年ごとの参院選後全議員の投票で選出されます。かつて自民党が単独過半数を占めていた時代は正副議長を独占していましたが、公平な議会運営を目指す趣旨から、1977年以降「議長は第1党・会派、副議長は第2党・会派から選び、会派を離脱する」慣例が続いています。

野党が議長抑え主導権握る
 自民党は89年の参院選敗北後、過半数に届いていないものの、公明との連立で第1党の座は確保しており、56年の松野鶴平議長以来同党出身者が歴代就任してきました。自民党は青木参院議員会長か中曽根弘文元文相を議長候補に立てる予定でしたが、民主党が参院第1党になり、江田五月氏を候補に立てようとしているため、自民党が結党以来50年以上守り続けてきた議長の座を明け渡すことになりました。一時は自民・公明両党が統一会派を結成する「奇策」を模索しましたが、選挙結果は自公両党を合わせた議席が民主党を上回らなかったため、奇策は見送られました。この結果、参院では野党が主導権を握り、対決法案を次々に否決したり、修正出来るようになりました。与党は郵政選挙で得た衆院3分の2以上の現有議席で否決法案を再議決できますが、会期幅の都合もあり、これを繰り返すことは困難で国会運営の停滞は必至です。

問責決議案乱発の虞れも
 まして、参院の議長と議運委員長が野党に握られると、委員会の中間報告を求める議長職権の本会議開催などは出来なくなります。また、衆院の内閣不信任案に当たる問責決議案が可決されるようになります。98年参院選では自民党が惨敗し、過半数割れで臨んだ国会で額賀福志郎防衛庁長官(当時)の問責決議案が可決され、額賀氏は辞任に追い込まれました。首相や閣僚の問責決議案が参院で相次ぎ可決されても、衆院と違って直ちに内閣総辞職とはなりませんが、首相は次期通常国会で予算を成立させても関連の重要法案が成立できず、政権は立ち往生し、首相は早ければ予算成立後にも衆院解散か、内閣総辞職を迫られることになります。解散して与党が勝利しても参院の「ねじれ」は変わらず、政界再編含みの展開になることが予想されます。安倍首相が引き続き政権を担当するには、内閣のレームダック(死に体)化を避けるため、国民受けする斬新な政策を打ち出すとともに、挙党一致態勢で果敢に国会を乗り切る勇気が望まれます。我々も団結して危機を突破する決意を固めているところです。