第157回(6月1日)年金問題で攻防 注目の中宏池会構想
 終盤国会は、自民党の衆院306議席という圧倒的多数を背景に、安倍首相が掲げる「戦後レジームからの脱却」を目指し、憲法改正、教育再生、公務員改革関連の重要法案を遅滞なく、政府与党ペースで続々と成立させています。既に改憲手続きの国民投票法が成立したほか、参院段階ではイラク特措法案、教育改革関連3法案が成立の見通しにあり、社会保険庁改革法案など労働関連6法案、国家公務員法改正案などを巡って最後の攻防を展開中です。集団的自衛権を研究する懇談会(首相の私的諮問機関)も設置され、改憲論議も活発化しています。

 一方、参院選は首相が5月19日、北海道の農業視察から各地方の週末遊説を開始し、勝敗を左右する「1人区」の農村票獲得に乗り出しました。自民党は「都会っ子の農山村留学」「ふるさと納税」などの新規政策を訴え、民主党の「農家の個別所得補償」など“ばらまき政策”相手に火花を散らしています。こうした中で参院選後の内閣改造など激変政局を睨み、合従連衡を模索する自民党内各派の蠢動も始まっています。

宙に浮く年金記録を民主追及
 国会では国民投票法と米軍再編特別措置法などが成立、イラク特措法案、教育関連3法案など重要法案が続々成立する見通しです。米軍再編特措法は、佐世保基地など基地負担が増える市町村に「再編交付金」を配分し、米海兵隊普天間飛行場の移設にも弾みがつく法律です。地方遊説を重視する民主党の小沢一郎代表が逃げていて評判を落とした党首討論も通常国会召集約4カ月後の5月16日にようやく開かれ、舌戦を交えました。
 小沢氏は地方行脚を踏まえ、「皆さんの意見を聞いても格差が広がっている」と格差、教育問題で追及しましたが、首相は「一切のムダを省く、筋肉質の政府を作ることを約束している」と応酬、議論はかみ合いませんでした。その後も毎週開こうとしていますが、改革の実績を強調する首相の方が国民受けしており、説得力があるようです。そこで、民主党は戦術を切り替え、鳩山由紀夫幹事長は「年金問題が参院選最大の争点だ。これ1本で行く」と格差是正の追及から、「宙に浮いた年金記録」など社会保険庁の追及に切り替えています。

2匹目のドジョウ狙う民主
 前回の04年参院選は、年金未納問題が当時の福田康夫官房長官や菅直人民主党代表の辞任にまで発展したうえ、小泉純一郎首相の「人生いろいろ、会社もいろいろ」発言があって、民主党が自民党に競り勝ちました。労働関連6法案のうち、残業代割増率引き上げなどを盛り込んだ予算関連3法案は何とか4月中に成立しましたが、社会保険庁改革関連法案審議中の2月、社保庁が管理する年金記録のうち、持ち主が確定できないものが約5100万件も発覚しました。
 3年前の「年金国会」で勝利の味を占めた民主党は「2匹目のドジョウ」を狙って、納付記録の消失を調査・是正する「消えた年金記録」被害者救済法案と、社保庁・国税庁を統合し「歳入庁」として保険料徴収に国税庁のノウハウを活用するという社保庁改革の独自案を提出、安倍政権を激しく揺さぶろうとしています。与党幹部が参院選向けに民主党支持母体の自治労などを叩こうとして委員会で強行採決に踏み切るなら、柳澤厚労相の不信任決議案を提出し、徹底抗戦する構えです。

現職閣僚自殺で支持率低下
  気懸かりなのは、「なんとか還元水」など事務所経費の不透明支出や、林道工事官製談合事件の関連団体から献金を受けるなど多くの疑惑について、国会で激しく追及された松岡利勝農水相が5月27日に自殺、翌日には談合関係の緑資源機構の前身、旧森林開発公団理事が自殺し、安倍政権に逆風が吹いたことです。 マスコミは、首相の「美しい国」作りどころか、「政治とカネ」の暗い闇が露呈されたと報じました。
 現職閣僚の自殺は前代未聞であり、同相を庇い続けた首相の任命責任追及の声が高まり、各紙の内閣支持率は一気に急落しました。中川秀直自民党幹事長は安倍政権の求心力回復を目指して、救済法案「年金時効撤廃特例法案」を緊急提出するとともに、終盤国会では「社保庁労組の自治労・国費協議会の怠惰が諸悪の根源」であることを国民に訴え、年金問題で反撃に出ています。

同時選挙の“気構え”で戦う
 6年前の小泉ブームで64議席という大量当選を果たした議員が改選を迎える参院選は最大の正念場。自公両党で過半数を維持するための勝敗ラインは先の参院鹿児島補選の勝利で1つ下がって偶然にも同じ64議席。6年前に目一杯獲得した議席が目減りすることは間違いなく、公明党が改選議席13を維持しても、自民が50議席を割って大敗すれば10カ月で首相の退陣は必至です。 そこで衆参同時選挙の期待感が参院側で高まりました。大平正芳首相が生命を賭して闘った憲政史上初の衆参同時選挙では衆院284議席、「死んだふり解散」と言われた中曽根康弘政権の意表を突く同時選挙でも衆院300議席を獲得した実績があるからです。
 しかし、そのような無理をしなくとも小泉前首相は「郵政解散」で小泉チルドレン82人を含め、296議席という絶対多数の議席数を獲得して圧勝、その後郵政造反組11人を復党させ、現在は最多議席を誇っています。これなら4年の任期いっぱい解散は避けるのが常識でしょう。安倍首相は同時選挙を否定しており、党の役員会などでは衆参同時選挙の“気構え”で戦おうとハッパを掛けています。

敗北なら党5役退陣迫る山崎氏
 いずれにしても、与党が大勝すれば安倍首相の政権基盤は強化されるし、勝敗ライン64議席以上のすれすれで辛勝するか、もしくは、僅かに過半数割れしても政権を維持することは何とか可能です。だが、大幅に過半数を割り込めば首相の退陣は不可避で、直ちに後継争いが始まります。
 山崎拓元幹事長は、与党が参院選で敗北した場合の党5役など執行部総退陣を唱えていますが、4月末には同じく反安倍色を強める加藤紘一元幹事長と共に訪中し独自のアジア外交を展開、首相が改憲を参院選の争点に挙げたことに「時期尚早」と批判。5月17日の党の集団的自衛権に関する特命委(中川昭一委員長)では首相が私的諮問機関の懇談会を設けて「集団的自衛権の研究」を始めたことについて、「参院選を控えた時期に、日中関係にも1石を投ずるような議論をわざわざする必要があるか」と批判しました。二階俊博国対委員長、古賀誠元幹事長を加えた山崎、加藤氏らニューNYKKは「ポスト安倍」を睨み、外交面での「親中国・リベラル派連携」の動きを強めています。

価値観外交の安倍派誕生
 これに対し、安倍首相の提唱する「価値観外交」を支持する右寄りグループの中堅・若手議員43人は同日「価値観外交を推進する議員の会」を発足させ、会長に古屋圭司氏、顧問に中川昭一政調会長が就任しました。歴史教科書問題などで安倍氏と行動を共にし、安倍氏と「理念」を共有する派閥横断的な盟友の集まりで、事実上の安倍派誕生です。古屋会長は「首相が就任直後に日中首脳会談をやったのに、軍事費増大など覇権拡張の疑念は払拭されず、中国は共通の価値観を持った国ではない」と初会合の挨拶で中国を牽制、中川顧問も中国への警戒心を強める発言をしました。
 こうした中でわが古賀派(51人)と谷垣派(16人)が合流を目指す「中宏池会」構想、それに麻生派(15人)を加えた「大宏池会」復活構想が党内の関心を集めています。3派は池田勇人元首相が作った宏池会が、大平―鈴木―宮沢―堀内派の本流を継いだ古賀派と「加藤の乱」後に別れた加藤紘一元幹事長系の谷垣派、河野洋平衆院議長系の麻生派に分裂したもので、元々は同根です。

参院選後にまず中宏池会構想
 読売が5月13日の紙面で、「古賀氏と谷垣禎一前財務相が大型連休前後に二度会い、『中宏池会』構想を話し合った」として、「古賀派と谷垣派は参院選後の合流を視野に連携強化を進める構えだ。少数派閥の谷垣派は意欲的だが、古賀派内には、安倍首相と距離を置く谷垣派との連携に否定的議員も多く、実現には曲折が予想される」と「大宏池会」復活に至る前の2段階方式である「中宏池会」構想を紹介しました。
 朝日は翌14日の谷垣派パーティを見て、すかさず同15日の紙面で読売の記事を追っかけ、「ただ、古賀派内には、丹羽雄哉総務会長や塩崎恭久官房長官ら首相に近い議員もおり、亀裂を生まずに運ぶのは容易ではない」と解説しました。確かに谷垣氏は自派パーティで「かつての宏池会も残念ながら分裂して十分力を発揮できない。その力がもう一度、声を大きくするにはどうしたらいいか真剣に考えたい」と語り、これに来賓の古賀氏が「宏池会がいずれ一緒になる流れを誰も止めることは出来ない」とエールを送り、合流への期待をにじませました。

大宏池会復活の丹羽、麻生氏
 それに輪をかけたのが、21日にグランドプリンスホテル赤坂で開かれた「宏池会と語る会」です。 まず、丹羽総務会長が「半世紀を迎えた宏池会は残念ながら3つのグループに分かれた。私どもの時代に別れたのだから、大同団結し次の時代にバトンタッチするのが私どもの責任だ」と述べ、麻生派を含めた「大宏池会」復活の考えを改めて表明し、首相に近い麻生氏も同様の意向を示しました。谷垣氏も「同じ名前を名乗る我々はDNAが一緒。丹羽会長のお話は感銘を持って聞いた。別れた者たちがもう1回力を合わせ頑張るように私も一生懸命やる。我々は自由で繁栄した平和な国を作る役割を果たしてきた。古い革袋に新しい酒を汲もうと改めて決意した」とぶち上げました。
 しかし、「加藤の乱」以降、非主流に傾いてきた谷垣派との合流を牽制する首相側近の塩崎恭久官房長官は「我が派の柳澤伯夫厚労相、菅義偉総務相、溝手顕正国家公安委員長と私の4人は安倍内閣を支え、美しい国造りを応援している。私の父は宏池会の初代事務総長だった」と述べ、派内での自分の位置づけと安倍チームの4閣僚と共に安倍政権を支える主流派意識を強調しました。

派内配慮し古賀会長慎重発言
 こんな派内事情を踏まえ古賀会長は「心打つ会が開けた。我が派の多くの閣僚、副大臣、政務官が安倍内閣の美しい日本作りに協力している。51人の政策集団の一人一人が人脈を持ち、優れた人材であることがうれしい。昭和32年に池田勇人先生が作った心強いえにし(縁)の宏池会だが、50年の栄光、伝統ある歴史の上に立ち、使命と責任感を持って、“大”であれ“中”であれ、国民が何を求めているかを真摯に受け止め、新たに素晴らしい宏池会を切り開くことが大切だ」とあえて谷垣、麻生派の名前は出さず、踏み込んだ発言を避けて挨拶しました。これは古賀、谷垣氏らが模索する「中宏池会」構想に対し、首相に近い丹羽、塩崎、菅の各氏らが否定的な考えを持つことに配慮したためと思われます。このように党内各派には、参院選の結果をあれこれと予測した動きが出始めています。