第150回(2月16日)舌禍事件を克服 予算委の論戦激化
 柳澤伯夫厚生労働相の舌禍事件で揺れた通常国会は、7日の衆院予算委での少子化問題集中審議からようやく軌道に乗りました。政府与党が野党の厚労相更迭要求を拒否し、一致結束して06年度補正予算案を単独審議で成立させたこと、5日の愛知県知事選と北九州市長選が1勝1敗の結果に終わったことで、野党が「欠席戦術を続けても参院選のプラスにはならず、むしろマイナス」と判断し、1週間ぶりに審議復帰したからです。

 9日からは政治とカネ、格差、雇用問題などを巡って与野党が激しい攻防戦を展開しています。北朝鮮の核問題を討議する6カ国協議も8日から6日間北京で再かれ、05年9月の共同声明に基づき、北朝鮮が核放棄に向けて取るべき「初期段階の措置」と、2段階の対北エネルギー支援について合意しました。 一時は求心力に赤ランプが灯った安倍政権ですが「教育再生」、「生活底上げ」国会の活力を取り戻し、統一地方選、参院選の必勝態勢を固めつつ、当面は予算案の年度内成立に全力を挙げています。教育、社保庁、公務員制度の3改革法案、国民投票法案のほか、私の専門分野である米軍再編推進特措法案、イラク復興支援特措法改正案など重要法案が続々提案されます。まさに正念場で、私は全力投球中です。

復古主義・女性蔑視と欠席戦術
 「(女性は)子供を産む機械と言ってはなんだけど、装置ですね。…その役目の人が、ひとり頭で頑張って貰うしかないんです」――。松江市の講演で放った柳沢厚労相の言葉は瞬時に波紋を広げました。「単に女性蔑視という問題でなく、安倍内閣の政治そのものが非常に復古主義的、権威主義的な体質を持っている」(小沢一郎民主党代表)、「海外から『とても人権のある国とは思えない』と言われる。『美しい国』どころか『恥ずかしい国』になっている」(鳩山由紀夫同党幹事長)、「子供を産まない、埋めない女性は、役に立たない機械か。 女性は(戦前の)産めよ、殖やせよの道具ではない」(辻元清美社民党政審会長代理)など、野党の辞任要求と任命権者・安倍首相の責任を追及する声が一気に高まりました。

 柳沢氏は発言を撤回し、平身低頭して国民へ詫びを繰り返し、首相も「私も深くお詫びする。厚労相も深刻に反省しており、国民の信頼を得られるよう全身全霊を傾けて職務を全うして貰いたい」と懸命に国民の理解を求めましたが、参院選に向けた世論工作に格好な材料を得た野党は罷免要求を下ろさず、補正予算審議では欠席戦術に出ました。

参院選の影響恐れ内閣改造も
 これには、自民党の青木幹雄参院議員会長が「(参院選に)大きなマイナス要因が加わった。どんな言い訳もできない。政治家として間違った発言だ」と講演で述べ、笹川尭党紀委員長が「すぱっと辞めた方がいい。国会答弁の度に頭を下げ続けることになる。内閣支持率も下がる」、公明党の浜四津敏子代表代行が「極めて不適切な発言で大変遺憾。女性に対する侮辱だ」とそれぞれ記者団に語るなど、与党内でも批判が広がりました。

 とりわけ、改選組参院議員は苛立ち、舛添要一参院政審会長は「首相官邸はもっと世論に敏感であるべきだ。それを感じないなら『裸の王様』と言われても仕方ない。内閣を一新して、出直すのも一つの方法だ」と記者団に語るなど、幹部でありながら公然と内閣改造を唱えました。もちろん、首相はきっぱりと早期改造を否定しましたが、舛添氏は、論功行賞人事で閣僚の「政治とカネ」や失言問題が生じ、首相側近で官邸を固めた結果、官邸の対応が不十分だった点を指摘し、早急に内閣支持率を回復して選挙態勢を整えよと訴えたようです。


受け狙ったジョークで失言
 我が丹羽・古賀派に属する柳沢氏は、大蔵官僚出身で税財政、金融のベテラン。小渕内閣の国土庁長官から森内閣の金融再生委員長に横滑り。小泉内閣で金融相を務め、05年総選挙の際には党政調会長代理とし政権公約の少子化対策をまとめており、最も厚労相に相応しい人物。版画家の柳沢夫人は武蔵野美術大教授で2人の娘さんもフルタイムで働き、柳沢氏は女の子のお孫さんを保育園に送り迎えする“女護島”の「フェミニスト」です。

 ただ、「政策通だが堅物」「まじめで不器用」などと評されるため、講演では受けを狙ったジョ−クのつもりが、あのような発言になったようです。その直後に失言に気づき、すかさず「機械って言って、ごめんなさい」と詫び言葉を入れていますが、「綸言汗の如し」、「覆水盆に返らず」で、いったん発した言葉はいかに発言を撤回しても消えません。それだけ政治家の発言は重く、責任が伴うことを、我々も今さらながら深く肝に銘じた次第です。

小沢戦略に若手が不満・苦情
 首相は野党の審議拒否に対し、「補正予算は災害や鳥インフルエンザ対策など国民の安全や生活に直結しており、野党が審議に参加しないのは残念だ」と述べ、中川秀直幹事長も、小沢代表が柳沢失言と愛知県知事選、北九州市長選を絡めた手法に対し、「党利党略で選挙を有利にしたいという行動が国民の理解を得られるのか」と厳しく批判。粛々と与党単独で補正予算を成立させました。

 これには民主党内でも「柳沢氏の不信任決議案を提出して論戦を挑むべきだ」と執行部不満が出され、民主党のテレビCMで小沢代表が甲板から吹き飛ばされるのを鳩山氏と菅直人代表代行が懸命に支える「生活維新」のPRについても若手から「迫力がない」と小沢戦略に苦情が出されました。結局、選挙結果は接戦ながら1勝1敗に終わり民主党は思うような成果が上げられなかったため、逆に審議拒否への世論の批判を恐れ、野党党首会談を経て7日の少子化問題集中審議から復帰しました。

過大要求で6カ国協議難航
 「やっと野党は眠り(冬眠)から覚めた。言葉狩りなんて無意味だ」――。総裁派の町村信孝前外相はホッとしています。しかし、「格差」「労働」国会と位置づける野党は、衆院予算委の審議で首相の「成長戦略と改憲姿勢」、松岡利勝農水相、伊吹文明文科相らの「政治とカネ」、都市と地方、個人間の「格差」、「雇用」などの問題で論戦を挑み、柳沢厚労相の「失言」も執拗に追及の手を緩めていません。

 さて、6カ国協議の方は8日から北京の釣魚台国賓館で開かれ、北朝鮮の核放棄に向けた「初期段階の措置」と見返りのエネルギー支援などを盛り込んだ共同文書を採択、13日に閉幕しました。議長国・中国が同日未明に提示した最終案は、 @北朝鮮は60日以内に寧辺の5千キロワットの実験用黒鉛減速炉など核施設の活動停止(閉鎖)・封印  A国際原子力機関(ITEA)による監視・検証を受け入れ、他の国は重油年間5万トンのエネルギー支援を行う  B北朝鮮が核施設の無能力化(解体)に応じれば、同95万トンを追加支援する  C朝鮮半島の非核化、経済・エネルギー支援、米朝関係正常化、日朝関係正常化、北東アジアの安全保障メカニズム、に関する課題別の5作業部会を設置し30日以内に開催  D日朝、米朝は国交正常化に向け協議開始  E次回6カ国協議を3月19日に開催ー―という内容です。

枠組み合意上回る法外要求
 「初期段階の措置」は、北朝鮮の核放棄を盛り込んだ2005年9月採択の共同声明の履行を具体化したもので、草案には「初期段階の措置」の見返りのエネルギー支援について数量は明示していませんでした。ところが、北朝鮮は当初から支援の開始時期、規模、期間を明確にするよう要求、ベルリンでの米朝協議でも出なかった200万キロワットの電力、年間200万トンの重油など法外な数字を並べ立て、各国代表を呆れさせました。

 さらに、米国の金融制裁解除、テロ支援国リストからの除外など敵視政策の撤回を求めるなど、冒頭から過大な要求を次々と繰り出し、協議は難航しました。北朝鮮が出来るだけ高い要求を突きつけ、相手に最大の譲歩を迫るのは常套手段ですが、200万キロワットといえば、1994年の米朝枠組み合意に基づき、「朝鮮半島エネルギー開発機構」(KEDO)が北朝鮮に供給するはずだった軽水炉2基の出力に相当する電力。軽水炉完成までに受け取る重油は年間50万トンに制限し、米国は既に7年間も毎年50トンずつ供給してきました。このクリントン政権合意の軽水炉供給に強く反対したのがブッシュ大統領です。

臨時中止で百万トン得たと報道
 そうした経過から見ても、4倍の200万トンに拡大した要求はあまりにも無茶な要求でした。このため、米国は難色を示し、最終日は断続的に16時間という異例のマラソン協議となりました。各国が努力した結果、核施設の「活動停止(シャットダウン)・封印(シール)」までを5万トン、解体した場合に限って95万トン追加する2段階のエネルギー支援としました。

 しかし、北朝鮮の朝鮮中央通信は「第1段階の措置として“臨時中止"することにより、100万トン分のエネルギー支援が得られる」と誇らしく報じました。問題なのは「核施設の活動停止・封印」は単なる「凍結」で、日朝平壌宣言が目指す「核の放棄」ではありません。寧辺の各施設では毎年、核兵器1発分のプルトニウムが生産され、既に核兵器数個分を保有しており、主な核施設は5ヵ所、関連施設は18〜22施設もあるといわれています。北朝鮮が、”臨時中止“と受け止めるなら、寧辺を名指しして「停止・封印」しても、恐らく寧辺以外の施設のリストアップや査察にも応じる気配はないでしょう。

誕生祝い得意の瀬戸際外交
 米朝枠組み合意が反故にされたのは、02年に米国の追及を受けた北朝鮮が高濃縮ウラン型を認めたのが発端ですが、今回の合意では濃縮ウランを使った秘密の核開発計画に言及していないし、核施設の解体や核兵器とプルトニウム廃棄の手順が全く示されていません。北朝鮮は日韓からKEDO建設の援助を受けながら米朝枠組み合意を平然と反古にし、弾道ミサイルや核の実験を行いました。

 今回もITEAが凍結を監視しても、早晩、核実験を再開しないとも限りません。それなのに米国は共同文書に沿って、北朝鮮のテロ支援国指定解除や敵国通商法の適用終了の作業を開始することになりました。まさに「盗人に追い銭」です。北朝鮮は先の核実験で“核保有国”になったと自負し、金正日総書記の誕生日(16日)に花を添えようと、イラク戦争処理に手を焼くブッシュ政権の足元を見ながら、したたかに「瀬戸際外交」を続け、土壇場で2倍の重油を受ける成果を得ました。

毅然たる態度で支持率回復を
 首相は13日の衆院予算委で「拉致問題があるので、エネルギー支援とかの援助は出来ない。(6カ国協議の)枠組みの中で間接的に協力するということだ」と述べ、「拉致問題の進展なくして支援なし」の決意を改めて表明しました。麻生太郎外相も11日のテレビ朝日番組で、「日本は孤立しないか」と聞かれ、すかさず「孤立するのは北朝鮮だ」と答えています。

 理由は「エネルギー、食糧が枯渇し民族は餓死寸前にあり、経済が疲弊して困るのは北朝鮮」であるからです。日本の援助が国民に渡らず、軍部を肥やし、核開発に使われてはなりません。核開発の完全停止を意味しない今回の合意にホクソ笑んで、北朝鮮が核兵器の小型化、弾道化を進めていけば、ノドン・ミサイル200発に包囲されている日本の平和はたちまち脅かされます。首相が毅然たる態度で押し通す姿勢を示してこそ、その決意が国民の共感を呼び、内閣支持率が回復するものと私は信じています。