北村からのメッセージ

 

 第15回(4月1日) 日米同盟の強化 ミサイル防衛協力

 桜前線が北上中ですが、政界の春はまだ遠いようです。森喜朗首相が事実上の退陣を表明したものの、繰り上げ総裁選は5月連休の前か、後か。選挙人を国会議員、都道府県代表各1人の「簡易方式」でやるか、それとも地方代議員数を増やすか。――など肝心な段取りが決まらないうえ、後継総裁候補の正式な出馬表明もなく、総裁選は全て霧の中です。

 “花道”外交は一定の成果

 こうした政治空白が続く中、森首相は日米(3月19日)、日露(同25日)の両首脳会談をこなし、引退の“花道”を飾りました。「レームダック(死に体)の首相」「最初で最後の首脳会談」――。米マスコミは冷ややかでしたが、日米首脳会談では景気対策の遂行で合意し、安保対策面では米原潜と水産高校実習船「えひめ丸」の衝突事故でぎくしゃくした日米関係を修復するなど、一定の成果を上げました。

 不良債権処理に好感

 日本の株価は首脳会談直前、16年ぶりに1万2000円を割り込み、米国も1万ドルを割るなど両国とも株式市場は危険水域に入っていましたが、森首相が「最大のネックである不良債権処理に半年ぐらいで結論を出したい」と公約したことで、東証株が一挙に千円近く急騰するなど、会談は好感を持って迎えられました。従来、政権交代時の日米首脳会談は“参勤交代”の色彩が濃厚でしたが、今回は顔見せ以上の重要会談となりました。

 北方領土の仕切り直し

 プーチン・露大統領との会談でも、「平和条約締結後の歯舞諸島と色丹島の返還」を明記した日ソ共同宣言(56年)の有効性を確認するイルクーツク声明に署名、条約交渉の経過を総括することで領土交渉の仕切り直しをしました。二島引渡しで最終決着を図ろうとするロシア、二島返還を確定のうえ残る国後、択捉島返還の継続協議を精力的に進めようとする日本。日ソ共同宣言の解釈では両国に違いがありますが、鳩山一郎首相訪ソ以来の同宣言の法的拘束力を認めたことにより、今後は「二島先行」など段階的返還も含めた北方領土協議が新局面を迎えることになりました。これまた森外交の成果といえましょう。

 二国間同盟の強化

 しかし、一連の首相外交で一番重要なのは、日米首脳会談で二国間同盟の強化を謡い上げたことです。マスコミ各紙は、世界株安などの危機的状況を背景に「経済問題に日米両国が共同して対処」「日本は構造改革と規制改革を促進」など経済問題を中心に大見出しで取り上げました。だが、会談の半分以上は安保、沖縄、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)、中国問題の協議に費やし、日米同盟の強化とミサイル防衛の推進で合意しています。

 全米ミサイル防衛

 会談で米大統領が「日米安保関係は極めて重要、日韓に米軍のプレゼンスを維持する」と述べたのに対し、森首相は「日米安保協力の拡大、深化のため日米防衛協力指針(ガイドライン)の実効性確保などを推進、米国の全米ミサイル防衛(NMD)計画を理解する」と応じ、これらの項目は経済対策を上回る比重で、共同声明に盛り込まれています。
 
 知日派の報告書

 ブッシュ新政権の対日政策は、米大統領選のさなか、米国超党派の知日家がまとめた「日米*成熟したパートナーシップに向けての前進」と題する報告書がベースになっています。これは新政権の国務副長官になったリチャード・アーミテージ氏(元国防次官補)、国防副長官になったポール・ウォルフォウイッツ氏(元国防次官)らが執筆しました。

 戦略的競争相手

 また、昨年暮れに共和党系シンクタンクのポトマック財団は「21世紀の米国の国際的リーダーシップ」という報告書を作成、その中で、「中国とは適正な間隔を保つ政策」が必要だとし、「アジア地域では日米同盟が致命的に重要」と述べています。これを踏まえ、ブッシュ政権は、「中国は戦略的パートナー」と呼んだクリントン前政権と違って、中国を「戦略的な競争相手」と位置づけています。

 前政権は安保漂流

 クリントン前政権は、冷戦終結後のアジア太平洋地域に大きな安全保障上の問題が生じなかったこともあって、政治、安保よりも自動車交渉などで日本に厳しく当たるなど、通商重視の政策を採り、同盟関係は“漂流”する状態でした。95年9月に沖縄米兵の少女暴行事件が起きてからは、安保再定義に加え、沖縄の負担を減らす日米特別行動委員会(SACO)の作業も進んでいますが、クリントン政権は中国傾斜が基本的な姿勢でした。

 中国封じ込め

 ブッシュ政権には、やはり知日派で黒人女性として初めて安全保障担当の大統領補佐官に就任したコンドリーザ・ライス氏もいます。ライス氏はスタンフオード大学助教授だった86年1月、防衛大学校に客員教授として招聘され、「自由主義社会の中での軍事力」「米国のシビリアンコントロール」などの集中講義を行い、脅威に対抗するには同盟国との連携強化が不可欠との論を展開しました。同女史は昨年もフオーリン・アフェアーズ誌に「アジア太平洋の安定にとって、中国は潜在的脅威。中国のパワーを封じ込めるため、日米同盟を強化しなければならない」と主張しています。

 潜在的脅威

 ブッシュ大統領、チェイニー副大統領、コリン・パウエル国務長官もライス氏とほぼ同じ考えで、中国の潜在的脅威に備え、戦域ミサイル防衛(TMD)構想を推進しています。中国が3月初めに発表した国防予算は前年当初費17%の伸び。2005年までに台湾海峡を睨む短距離弾道ミサイルを650基に増強する計画といわれています。

 SDIを継承

 米国はレーガン大統領時代に、ソ連の弾道ミサイルを迎撃する戦略防衛構想(SDI=スターウオーズ計画)を打ち出し、軍事的優位を確立する一方、西欧諸国や日本など同盟国に対し、防衛力の増強と役割分担の強化を求めました。米国が現在検討中の米本土ミサイル防衛(NMD)構想は、SDI構想を継承したもので、米本土を攻撃する弾道ミサイルを、迎撃ミサイルで撃ち落とすシステムです。これにはロシアが「対米報復力が減殺され、新たな軍拡に繋がる」と反発、中国やNATO諸国も同一歩調をとっています。

 ノドンは100基

 TMDもNMDと目的は同じで、技術的にも重なる面が多く、近隣諸国の核、ミサイル開発を脅威と認識する日本は98年から、米国とTMD構想の共同研究に乗り出しています。93年以来、北朝鮮の核・ミサイル開発が顕在化し弾道ミサイルのノドン、テポドンが試射されました。日本を射程圏内とするノドンは100基の配備が確認されています。
  
 TMDは2タイプ

 TMDは米国が在外米軍と同盟諸国をミサイル攻撃から守るために研究・開発中の防衛システムで、敵のミサイル発射を関知する宇宙衛星からの情報も組み込まれる予定です。上層から突入する短・中距離の弾道ミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落とすものと、低層で飛来するミサイルの迎撃用に分かれており、地上型と海上型の2タイプがあります。

 米台協議が中国刺激

 四月に予定される米台軍事協議で台湾側は、最大の脅威が大陸からのミサイル攻撃であるとして、イージス艦4隻と最新鋭迎撃ミサイル「パトリオット能力向上型」6−9セット、キッド級駆逐艦4隻などの兵器売却を求めています。イージス艦は海上発射型TMDのプラットホームに転用が可能だからです。こうした米台の動きが中国を刺激しています。

 アジア安保は重大課題

 3月22日の米中会談で、中国の銭其深副首相は台湾への武器供与でブッシュ大統領に強く反対した模様ですが、08年夏季五輪の北京開催の協力を要請する立場もあり、会談は「良好な米中関係を維持することが世界の平和と安定に不可欠」との当たり障りのない合意で終わっています。10月には米大統領が訪中しますが、TMD問題がある以上、簡単に相互理解は深まらないでしょう。以上のように日本を取り巻くアジアの安保は極めて重要であり、知日派が米政権の要職を占めた機会に同盟強化を図るべきだと思います。