第145回(12月1日)首相、主導権回復 もめる復党問題
 いよいよ師走。安倍政権は11月19日の沖縄県知事選に勝利し、1週間前の福島県知事選の敗北を雪辱したうえ、教育基本法改正案の衆院強行採決で空転していた国会を正常化させ、政局運営の主導権を回復しました。同月18,19両日のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でも首相は「6カ国協議の再開自体が目的ではない。北朝鮮の非核化へ向け一致結束した行動をとることが必要だ。非人道的な拉致問題は許されない」と訴え、各国首脳の理解を得るなど、初の国際会議デビューを成功させています。

 郵政民営化「造反組」議員の扱いは11人の先行復党で決着しました。残る課題は少なくなった国会会期の中で教育基本法改正案と防衛庁の省昇格関連法案の処理と来年度予算案編成です。私は衆院安全保障委の理事、自民党水産部会長として、省昇格法案の成立と防衛、水産関係予算の獲得に全力を挙げるほか、政府と仲井真弘多・新沖縄県知事との間で始まる米海兵隊普天間飛行場の移設協議についても、側面から強力に支援したいと考えています。

基地問題で現実的判断が勝因
 沖縄県知事選は、自民・公明与党が推す前沖縄電力会長の仲井真氏と、民主・共産・社民・国民・日本の5野党統一候補である前参院議員の糸数慶子氏との事実上の一騎打ちでしたが、仲井真氏が約4万票の差をつけ初当選しました。仲井真氏は普天間飛行場移設の政府案には修正を前提に柔軟に対応する姿勢を示し、選挙戦では経済振興に重点を起き、観光振興や企業誘致などによる雇用創出を訴えました。

 これに対し、糸数氏は普天間の「即時撤去・海外移転」を唱え、政府との対決姿勢を前面に出しました。沖縄県知事選はこれまで「反基地」か「経済振興」か、が争点となり、最近2回は経済活性化を訴えた稲嶺恵一氏が制してきました。稲嶺県政を継承する仲井真氏が当選したのは、北朝鮮による核実験やミサイル発射で日本の安保環境が変わり、日米安保体制を容認し、基地問題で現実的な判断をする有権者が増えたことが大きな要因と見られます。民主党が「反基地」ばかりか日米安保体制すら否認する共産、社民と共闘したことにも県民の批判が表れたようです。

振興策や基地負担に交付金
 日米両政府が普天間飛行場の返還で合意したのは96年の4月で、既に10年以上経過しています。返還の前提となる代替施設建設(名護市へ移設)は在日米軍再編の中核で、普天間移設が頓挫すれば、沖縄の米海兵隊8千人のグアム移転や嘉手納基地以南の施設・区域の返還も進まなくなります。移設実現には移設先(キャンプ・シュワブ沿岸部)の名護市と、公有水面埋め立て許可の権限を持つ県知事の協力が不可欠であり、政府は仲井真氏の就任後、国と県、関係4市町村による協議会の第2回会合を早急に開き、具体的な協議に入りたい考えです。

 協議では仲井真氏が求める政府案の修正を巡り、基本的には修正に応じない政府との間で駆け引きが活発化しますが、政府は移設先の埋蔵文化財調査にも着手しており、名護市など沖縄県北部の振興策や、在日米軍再編関連予算の一環として基地負担が増える市町村に対する交付金の支給制度を創設する方向で検討しています。


強行採決でも知事選影響なし
 「教育問題は慎重審議でありたい。しかし、何時までも引きずられていては政治の生産性は上がらない」――。自民党の二階俊博国対委員長は選挙戦最中の10日夜、那覇市の講演で与党単独採決の姿勢を示し、有権者の反応を探りました。その感触は「採決しても知事選に影響しない」でした。私の所属する衆院教育基本法特別委員会は15日、4野党が欠席する中で今国会の最大焦点である教育基本法改正案を可決。翌16日の衆院本会議で可決し参院に送付しました。

 「106時間16分の審議時間は特別委としては戦後5番目。郵政民営化関連法の審議にほぼ匹敵する」と、町村信孝自民党筆頭理事は記者会見で強調したように、首相も「機は熟した」と判断、APEC出発前の衆院通過にゴーサインを出しました。これには12月15日の会期末を睨んだ参院側の強い働きかけがありましたが、何よりも首相の強気の決断が功を奏し、沖縄知事選への影響もなく勝利しました。

3点セット集中審議で正常化
 民主党の小沢一郎代表は、共産、社民両党の反発が強い同改正案の衆院通過が遅れれば、安倍政権が「臨時国会で成立させる」と公約に掲げた改正案を廃案に追い込めるし、強行採決させれば世論の批判を集めて沖縄知事選に勝利できると判断。 同党幹部に徹底抗戦を指示、強行採決後は衆参両院の審議を拒否してきました。

 しかし、欠席戦術を主導してきた衆院側と、これに批判的だった参院側の足並みは沖縄知事選の敗北で決定的に乱れ、小沢代表は徹底抗戦を不発のまま収束せざるを得なくなり、21日の役員会と常任幹事会で国会審議へ復帰することを認めました。同日夕の与野党国対委員長会談で、野党側は必修科目の未履修、いじめ問題、タウンミーティングのやらせ質問の3点セットで衆院予算委の集中審議を開くよう求めましたが、与党はこれを拒否し、教育基本法特別委で日時も決めず、3時間だけの集中審議を行うことで合意しました。これにより22日から参院教育基本法特別委員会(中曽根弘文委員長)が開かれ、国会は7日ぶりに正常化しました。

防衛省昇格法で1週間延長も
 参院の審議では、「必修逃れ」などで問題になった教育委員会制度のあり方や「愛国心」の表現などで火花を散らしていますが、参院の審議時間は通常、衆院の7〜8割とされ、会期内に最大60〜70時間程度は確保できる計算なので、十分成立できる見通しです。もう1つの懸案である防衛庁の省昇格法案は、民主党が原則的に賛成なので成立はほぼ確実ですが、会期末の与野党攻防次第では1週間程度の会期延長が予想されます。

 一方、復党問題は難航しました。年明け復党では政党交付金が貰えなくなるため、年内復党が難しい場合、造反組は新党結成もしくは統一会派を組まなければなりません。そこで中川幹事長は11月22日夕、郵政民営化に反対し離党した造反組・無所属議員12人の交渉役である平沼赳夫元経済産業相と会談し、「復党で譲れないのは、 @郵政民営化を含む党の政権公約の順守 A安倍首相の所信表明への支持 B党紀・党則の順守と、昨年の衆院選での『反党行為』に対する反省の表明だ」と条件を示したうえ、新たに誓約書を添えて27日午前中に復党願いを提出するよう求めました。落選議員は検討対象から除外されており、26日にはさらに「誓約に違反した場合、議員辞職する」を盛り込み、ハードルを上げました。

復党は世論重視か党内融和か
 造反組12人は全員が首相指名で安倍氏に投票、昨年10月の総選挙後提出の郵政民営化法案には平沼氏を除く11人は賛成しています。しかし、平沼氏は昨年2回とも同法案に反対した“信念居士”。「私の場合、中川氏の要求はハードルが高い」と記者団に不満を述べ、造反組の足並みを揃えるため、復党願いは提出したものの、「あんな屈辱的な誓約書は出せない」と誓約書は出さず、年内の復党を見送りました。
 
 他の11人は、幹事長が示した条件を厳し過ぎると受け止め、平沼氏に同調して復党を見送る意向の議員もいましたが、11人は4日の党紀委員会を経て復党することが内定しました。難航した復党問題には参院選対策が大きく絡んでいます。中川氏が強気な姿勢を見せた背景には、「郵政解散で国民の信を問うたのに、政府・自民党が信念を曲げたと誤解されては選挙が戦えない」とする国民世論や無党派層を重視する小泉政権以来の路線があります。これに対し、参院幹部には世論よりも党内融和・協調と支持団体取り込みを重視する実利的な思惑があります。

中川、平沼両氏はライバル
 青木幹雄参院議員会長らは参院選の勝敗を左右する「1人区」対策として昨年の総選挙で刺客候補を破った造反組の協力は欠かせないと判断しており、とりわけ改選期を迎える片山虎之助参議院幹事長は地元岡山で頼りとする平沼氏の支援がどうしても欲しい立場です。
 
 「本会議で郵政法案に賛成票を投じたことは最大の意思表示だ」とする青木氏は21日、「いい加減にしなさい。いつまで野党の幹事長みたいなことをしているんだ。」と中川幹事長をたしなめましたが、中川昭一政調会長も22日の党岐阜県連のパーティで「『総括しろ』とか『反省しろ』とか言うと、天安門事件を思い出す。政治には情というものがある」と幹事長に異を唱えるなど執行部に亀裂が走りました。
 
 中川政調会長は平沼氏や亀井静香元政調会長らとかつての三塚派(旧福田派)を飛び出して亀井派を作った仲間。逆に中川幹事長は、三塚派を継承した森喜朗前首相の森派に残り、同派の中核的存在であり、平沼氏とは同じ当選9回で三塚派分裂以来のライバル同士。タカ派の平沼氏に対しリベラル派です。

森前首相が痛烈に批判
 安倍首相はむしろ、拉致問題に熱心で「女系天皇」を容認する皇室典範改正に反対した平沼氏とは政策的に近く、政治理念は中川政調会長と共通しています。
 こうした中、森喜朗前首相は「ナニをやっているんだと言いたい。安倍首相に協力してくれるなら、早く復党させればいいじゃないか。自民党には二階国対委員長、小池百合子首相補佐官など、他党から入ってきた人は山ほどいる。入党時、“踏み絵”などはやっていない。復党反対の1年生は“郵政”たった1回だけの功績だ。地盤も固まっていない。次の選挙で保証を求めるなら、(政治家は)辞めた方がいい」と12日の日本農業新聞で、政治評論家・小林吉弥氏の直撃インタビューに答え、執行部のもたつきを痛烈に批判しています。
 “非情”が売りの小泉前首相は、復党に怯える小泉チルドレンに対し、「政治家は使い捨て」などと冷ややかな態度ですが、確かに復党問題は、森氏が言うように政権交代時がチャンスでした。首相が間髪を入れず復党を認めていれば、こんなにこじれることはなかったように思います。