第144回(11月16日) 教育・防衛で野党抵抗 賑わう核保有論議
 安倍政権は10月の衆院統一補選に全勝したものの、11月12日の福島県知事選で手痛い敗北を喫し、19日の沖縄県知事選に全力を挙げています。私は衆院安全保障委員会の理事と教育基本法特別委の委員を務め、今国会の目玉である防衛庁の省昇格関連法案と教育基本法改正案の精力的な審議を続けています。
 しかし、野党は福島知事選で国民が安倍政権を批判したと受け止め、沖縄知事選後まで教育法案の審議を引き延ばすほか防衛省昇格法案にも強く抵抗するなど与野党の攻防が激化しています。

 こうした最中、米中朝3カ国は10月末、北京で突如非公式会合を開き6カ国協議の再開を決めました。日韓抜きで“核保有3カ国”会合の印象を与えたため、北朝鮮はしたり顔で、「米国の属州・日本が6カ国協議に入る必要はない」と主張。国内でも「核保有国の誇り、自負を持て」と国威発揚に懸命です。一方、北朝鮮の核実験以来、危機感を強めた与党幹部や閣僚から核保有論議が出たり、従軍慰安婦問題で「閣内不一致」の発言が出るなど国会を賑わしています。

 福島知事選敗れ沖縄も強敵
 福島県知事選は、佐藤栄佐久・前知事が談合事件で引責辞任したことを受けて5人が立候補しましたが、自民・公明推薦で元金融庁課長補佐の森雅子氏(42)と、民主・社民推薦の前参院議員・佐藤雄平氏(58)との事実上の一騎打ちとなりました。森陣営には中川秀直自民党幹事長、太田昭宏公明党代表、菅義偉総務相ら与党幹部が大勢駆けつけ、国政の政権選択と関連づけて応援しました。森氏は東北大卒後米国に留学し、帰国後に弁護士事務所を開いた才媛ですが、知名度が不足していたため渡部恒三民主党最高顧問の秘書を務めた佐藤氏に敗れました。

 沖縄知事選は3人が立候補。自民・公明推薦で前沖縄電力会長の仲井真弘多氏(67)と、民主・共産・社民・国民・日本推薦の野党連合で前参院議員の糸数慶子氏(59)とこちらも事実上の一騎打ちです。米海兵隊普天間飛行場のキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)への移設など、在日米軍基地再編に大きな影響を及ぼす沖縄知事選だけに、告示直後に丹羽雄哉自民党総務会長、太田公明党代表らが駆けつけ、稲嶺恵一県政の継承者である仲井真氏を支援しました。だが、糸数氏は04年参院選で自民党候補に10万票近い大差で圧勝、高い知名度を持っており、なかなかの強敵です。

中川氏火付け、麻生氏同調
 さて、国会では高まる核保有論議で麻生太郎外相不信任決議案提出の動きが出ています。
「寅さんが6カ国協議から『旅に出るぞ』といなくなってしまい、ふらっと戻ってきたら、鞄の中に核実験が入っていた」――。自民党の中川昭一政調会長は1日、日本記者クラブで記者会見し、6カ国協議への復帰を表明した北朝鮮を「男はつらいよ」の主人公「フーテンの寅さん」に例え、「これで物事が前進したと判断するのは早い。北朝鮮の核廃棄が実現するかどうかを注視すべきだ」との考えを示しました。

 中川氏は北の核実験以来、「日本は核兵器保有に関する議論を行う必要がある」との発言を繰り返し、この日の記者会見でも、「私は核武装論者でもない。侵略、先制攻撃、武力行使はしてはならないのは言うまでもない」と断ったうえで、「相手が核という今までにない要素を出した以上、核を抜きにした議論はあり得ない。日本が核の議論をすれば、米国が離れると危惧する人もいるが、そうではない」として、核保有議論が必要との持論を改めて強調しました。

亀井氏、麻生外相の更迭要求
 中川氏がこの問題で口火を切ったのは10月15日のテレビ朝日番組。@憲法でも核保有は禁止されていないA核があることによって、攻められる可能性が低くなるBやればやり返すという論理は当然あり得る――とタカ派らしく明解でした。同24日の参院外交防衛委でこの問題を質された麻生外相も、「日本がなぜ(核を)持たないかという理由を論議して置いた方がいい。議論は封殺されるべきではない」と核保有論議を肯定しました。

 中川氏らの発言に対し、山崎拓前副総裁は1日、山崎派総会で「北朝鮮の核保有は悪として制裁を講じている時に、我が国の核武装を議論するのは全くアンタイムリーな議論。これは断固として阻止しなければならない。それが政治指導者の責務だ」と批判しました。国民新党の亀井静香代表代行も同日の記者会見で「自由な議論をしたとしても日本の核保有は不可能だ。持てもしないのに発言しても、北朝鮮の金正日総書記に対するプレッシャーにならない。北朝鮮の核武装の口実にも使われ、百害あって一利なしだ」と厳しく批判。中川氏に同調している麻生外相に対しても「更迭を要求する」と述べました。

首相は政治家個人発言と容認
 首相は10月27日に都内で講演し、「政府や自民党の機関として議論しないことははっきりしている。それ以外の議論は封殺することは出来ない。政調会長はアカデミックな場所などで議論されると言う観点から話したのではないか」と中川氏を庇いました。塩崎恭久官房長官も1日の記者会見で「中川政調会長は政治家個人として発言されているという理解だ」と発言。安部首相も同日、中川氏と会談しましたが、「個人の意見表明」として容認したようです。

 もともと首相と中川氏はタカ派的気質を共有しているとされ、会談で中川氏は10月の米仏訪問について「米国高官に核保有論に関する話をすると、懸念を示す人もいれば、『議論は当然だ』という人も居た」と首相に報告、了承されました。しかし、公明党の太田代表は「政府、与党の然るべき立場にある人は非核3原則堅持を貫くべきで、『1議員であるから』という言い方は望ましくない」と懸念を表明しています。

鳩山発言に中川幹事長応酬
 核保有の論議は麻生外相も何度か容認する発言をしたことから、その後広がりを見せ、民主党の鳩山由紀夫幹事長が3日、都内の会合で「唯一の被爆国として、世界中から核をなくす運動のトップリーダーとして動くべき日本の外相が、こういう発言をしたことに心から怒りを持って罷免の要求をしていこう」と述べ、さらに6日の都内講演で「(首相が麻生外相を)罷免できないなら、不信任決議案提出を検討してもよい」と述べました。

 これに対し、自民党の中川幹事長は同夜の講演で、「鳩山氏も党代表の時、『核武装を国会で検討したらどうかと言った瞬間にクビになる、議題にすら乗せてはいけないという発想はいかがなものか』と言っている」と批判しました。これは、後に民主党入りした西村真悟防衛政務次官(99年10月当時)が、週刊誌で核武装の検討を求めて更迭された際の、鳩山民主党代表の発言を指摘し、すかさず反論したものです。

国会運営に深く絡まる
 こうした与野党首脳間の応酬を苦々しく見守っていたのが国会運営を預かる自民党の二階俊博国会対策委員長。5日のNHK番組で、中川政調会長や麻生外相の核保有議論を容認する発言について「国際社会の誤解を招きかねない発言を何回もすることは、任命権者(安倍首相)の責任を問われるような事態になりかねず、発言は慎むべきだ」と両者に発言の自制を促しました。公明党の漆原良夫国対委員長も「順調な滑り出しをした安倍首相の指導力が問われ兼ねない」と同調しました。

 ところが、7日の自民党役員連絡会で、笹川尭党紀委員長は「北朝鮮が核を持った場合の対応として、『(非核3原則の)持ち込ませず』ということで安全が守れるだろうか」と問題を提起。記者団に対しても「非核3原則は堅持すべきだが、北朝鮮が核兵器を仮に使うとすれば、米国はどういう方法で日本を守るのか。『核の傘』というが、日本に核を持ち込まないで、どうやって守ってくれるのか」と発言の真意を説明しました。野党国対委員長会談では、外相不信任決議案の提出などを本格的に協議する考えであり、核保有論議は国会運営にも深く絡まって来つつあります。

下村官房副長官発言も波紋
 このほか、下村博文官房副長官が10月25日、従軍慰安婦問題で旧日本軍などの強制性を認めた「河野談話」の内容を再検討する必要性を、講演の場で唱えたことが波紋を広げました。安倍首相は河野談話を継承すると国会答弁しており、野党側は安倍内閣の「閣内不一致」として追及、塩崎官房長官は26日の記者会見で「河野談話を受け継いでいるのが政府の基本的な立場だ」と下村発言の火消しに懸命。下村氏も「1議員の資格で意見を述べた」と釈明し切り抜けました。 
 
 だが、さらに下村副長官は5日、熱海市の講演で、保育所の入所待機児童解消策について「(特にゼロ歳児保育に)税金投入するなら(母親は)無理に働かなくとも家庭でしっかり子育てをやって貰えるようにシフトしていくことが望ましい」と述べ、制度見直しを求めたことから再び波紋を描きました。保育所の入所待機児童解消策は、小泉内閣が01年に閣議決定した仕事と子育ての両立支援の重点政策。

野党、閣内不一致を追及
 少子化対策や男女共同参画社会を推進する政府方針から逸脱したともとれる下村発言だけに、塩崎官房長官は6日の記者会見で、「個人的発言だ。(政府は)これまで議論して決めたことは粛々とやっていく」とまたも火消しに大童。高市早苗少子化相にいたっては、7日の閣議後記者会見で「女性は仕事を辞めて家で子育てしろと言い切られると、自分の仕事を続けられないし、子どもを産めない」と強い不満を表明しました。このように火種をばら撒く下村発言に、野党は再び「閣内不一致だ」と追及する姿勢を強めています。