第143回(11月1日)補選勝利で順風満帆 復党で揺れる
 安倍首相は就任早々、北朝鮮核実験の強襲打を浴びましたが、逆にこれをアジア・国連外交に活かし、さらに10月22日の衆院補選も完勝し、政権の地歩を手堅く築きました。小沢一郎民主党代表との党首討論も互角に渡り合い、順風満帆の船出です。小泉前首相の花道宣言とされた「デフレ克服」の発表は未だですが、平成景気はいざなぎ景気を超えて持続、これまた追い風になっています。

 しかし、景気回復は輸出企業のみで、企業間格差、中央と地方の格差は広がり、衆院補選の争点にもなりました。この格差を如何に解消し、国民が喜ぶ安倍色豊かなメニューを来年度予算案で提供できるか。自民党は総力を挙げて編成に取り組んでいるところです。総裁選後、各派閥の衣替えが進んでいますが、党内では参院選に勝利するため、郵政民営化で離反した「造反組」の復党問題が真剣に討議されています。ともあれ、初陣で衆院補選に勝利できたのは、フレッシュな安倍政権に対する国民の期待感の現れと、首相が一早く選挙戦に取り組んだことが功を奏したようです。

さながら衆院補選の出陣式
 「私も秘書としてオヤジの最期をみとりました。お父さんの遺志を引き継いだ亀井善太郎さんをどうぞ、国政の場に送り出して頂きたい」――。安倍氏は早くも9月14日、神奈川県の小田急本厚木駅前で声を張り上げました。衆院統一補選は既にこの時から始まっています。「太郎の上に善がつけば、いい太郎になるのは間違いない」(麻生太郎氏)、「(陣営のオレンジカラーを見て)オレンジ色のハンカチ王子を作らないといけない」(谷垣氏)と2人の総裁候補も軽妙な語り口で呼応し、総裁選であるはずの駅前街頭演説会は、衆院補選の出陣式の様相を呈しました。

 候補者は神奈川の亀井善太郎氏が亀井善之・元農相の、大阪の原田憲治氏が原田憲・元郵政相の、いずれも世襲候補です。亀井氏は5月に死去した善之氏の弔い合戦として早くから始動しました。原田氏は8月にようやく自民党公認を得るという出遅れ。しかも、「民主党王国」といわれた大阪9区へ大阪府議からの鞍替え出馬でしたが、安倍首相の高い内閣支持率と党執行部総出の支援に支えられ追い上げました。

教育など与党主導の国会運営
 22日の衆院統一補選は来春の統一地方選や来夏の参院選の前哨戦と位置付け、与野党が総力戦を展開しました。だが、投票率は神奈川16区が47.16%、大阪9区が52.15%と、いずれも昨年の総選挙を大幅に下回り、盛り上がりには欠けました。それでも、安倍政権スタートへの国民のご祝儀と、公明党の全面支援を受けて自民党は全勝。参院選への弾みがつきました。
北朝鮮が実施した核実験に対し政府与党が迅速に対応、大きな外交成果をあげたことが、国民から信任される結果となりました。

 民主党の小沢一郎代表は衆院統一補選直前の18日、党首討論で首相を追い詰めて補選勝利に持ち込もうとしました。ところが、小沢氏が憲法、北朝鮮制裁問題などで原理原則論に立って論理的に攻め立てたのに対し、首相は現実論で巧みに矛先をかわし、討論が噛み合わないまま終わりました。衆院予算委などでも、野党は首相のタカ派的体質をあぶり出そうとしましたが、『能あるタカは爪隠す』で、首相は、はぐらかし答弁に終始しています。マスコミは敗北した小沢代表の求心力の翳りを指摘しましたが、就任早々の国政選挙で初陣を飾った首相は、教育基本法改正案や防衛庁の省昇格法案などの成立に向けて与党主導の国会運営を目指す構えです。

参院選は造反組の地盤が頼り
 「たった1つの問題で(自民党から)出ていって、本人に戻る意欲があり、後援組織も同じなら、帰さない方がおかしい。遅くとも年内だ」――。片山虎之助参院幹事長は10月20日、札幌市の記者会見で郵政民営化に反対して離党した「造反組」の早期復党を訴えました。造反組の復党問題は、同月13日、横浜の中華街で開いた各派事務総長懇談会で口火が切られ、平沼赳夫元経済産業相ら多数の離党者を出した伊吹派の河村健夫事務総長(元文科相)が「復党を急ぐべきだ」と主張、各派幹部も賛同しました。

 いうまでもなく次なる天王山は来夏の参院選です。片山氏ら参院幹部が復党に熱心なのは、衆院選を勝ち抜いた造反組議員が強い地盤を持っており、その協力の有無が勝敗を左右する参院選の選挙区が多いからです。平沼氏をはじめ堀内光雄元通産相、保利耕輔文相、野田聖子元郵政相ら復党希望の12人は小泉前首相から差し向けられた「刺客」を退け、無所属で当選を果たした強者ばかり。しかも、今国会冒頭の首相指名選挙では安倍氏に投票しています。

執行部は新人庇い復党に慎重
 安倍首相は23日夜、「首相指名で私を支持し、所信表明の方向性で同じ考え方を持っている人たちにどう対応するか。幹事長をはじめ、党本部で検討していく」と記者団に語り、党執行部が本格的な調整に入る意向を明らかにしました。しかし、中川秀直幹事長ら執行部は復党に慎重姿勢を示しています。中川幹事長は、野田氏の「刺客」となって斬り込み、敗れて比例復活当選した佐藤ゆかり議員の地元・岐阜市で講演し、「単に参院選に勝つために数合わせをするような(自民)党ではない」と述べ、新人議員の立場を配慮し、選挙目当ての安易な妥協はしないとの姿勢を強調しました。
 
 23日の記者会見でも「党員になる以上は、昨年の衆院選政権公約(マニフェスト)や安倍首相の所信表明を完全に支持してもらわなくてはならない。その中には郵政民営化も当然入る」とクギを刺しました。前日に宮崎市で開かれた党県連パーティでも中川氏は同様に公約を無視する離党者は復党させない意向を示しています。
 党則では、離党者の復党承認は「党紀委員会の審査を経なければならない」と定めていることから、笹川尭党紀委員長は17日の役員連絡会で、「党紀委員会を差し置いて、勝手に復党を言うべきじゃない」と苦言を呈しましたが、本心では、落選の造反組を含めた一括復党を容認する意向のようです。  

政党助成金絡む、調整難航
 造反組の衆院議員は36人です。うち、国民新党や新党日本に所属しなかったのは現職・前職合わせて27人ですが、落選した川上義博氏(鳥取2区)は小沢氏に口説かれ民主党から、自見庄三郎元郵政相(福岡10区)は綿貫民輔前衆院議長が代表の国民新党から参院選に出馬を決めています。
 無所属の現職は野呂田芳成元農相を除いて12人全員が首相指名選挙で安倍氏に投票し、復党を希望していますが、出来れば落選した前職を含めた一括復党を望んでいます。執行部と折衝する窓口の平沼氏は、来年1月1日の時点で政党に所属していなければ政党助成金が貰えないため、復党が無理なら新党を立ち上げることも検討していますが、調整は難航しそうです。
 
 復党で問題になるのは「刺客」で戦った議員の扱いです。19日の伊吹派総会では、同派名誉会長の島村宜伸元農相が「自民党の歴史では、党を追い出すようなことはなかったし、刺客を向けるやり方はなされなかった」と小泉前首相の手口を批判すると、「刺客」候補だった西川京子氏は「党の命令で党のために戦ったのだから、偏見的なことを言わないで」と涙ながらに訴える場面もあったそうです。

武部氏が新グループ結成
 「刺客」候補を安心させる方策として、話し合いで選挙区と比例区に交互に立候補するコスタリカ方式を採用する案が浮かんでいます。その場合は、「造反組」の復党を認める代わりに、競合する新人を同方式で比例代表名簿の上位に登載し、当選圏に押し上げるというものです。
 最も復党問題に不安を感じているのは、昨年の総選挙で当選した小泉チルドレン82人で、「派閥に身を寄せて選挙基盤を強化したい」と続々派閥入りを始めています。新人議員の色分けは町村派の14人を筆頭に、津島、山崎、二階の3派が各6人、丹羽・古賀派が4人、伊吹、谷垣派が各3人、高村派が2人、河野派が1人の計45人で、残り37人が「無派閥新人議員の会」の32人と純粋無派閥の5人に分かれています。
 
 派閥解消を唱える武部勤前幹事長は派閥に代わるものとして「選挙塾」を開き、面倒を見てきましたが、23日の講演で、「新人特訓のため、20人ぐらい見所のあるのを集めたい」と述べ、衆院当選1回の新グループ「新しい風」を結成する考えを表明しました。新人議員で作る「83会」が26日に開いた総会では、「選挙区調整を棚上げしての復党は死活問題だ」、「人生を賭けて(出馬に)に乗ったのにおかしな話だ」と反対意見が続出しました。小泉前首相も24日、武部氏に「(郵政関係などの)既得権者の票をあてにしたら、参院選は負ける」と造反組の早期復党に慎重意見を述べ、小泉チルドレンを庇う姿勢を見せています。

森派など派閥の衣替え大流行
 総裁選を節目に派閥のお色直しが進んでいます。総勢87人を擁する自民党最大の森派は19日の総会で、森喜朗元首相が会長を辞任し、後任に事務総長の町村信孝前外相が就任、「町村派」に衣替えしました。かつて最大派閥の田中派の流れを汲む津島派などが、総裁候補を持たないため派閥の活力が失われていることから、町村氏を会長に就け、総裁候補に育てることで、派の結束を維持することを狙ったものです。  森氏は98年12月に当時派閥会長の三塚博元蔵相の会長辞任を受けて会長に就任、首相在任中は派閥を離脱しましたが、01年5月に会長に復帰しました。
 
 森氏は小泉政権を支えるため、森派のカネ、人事の一切を面倒見てきましたが、その仕事に疲れ、安倍政権樹立を機に後進に道を譲ることにしたものです。森氏は小泉前首相や福田康夫元官房長官にも後継会長を打診しましたが、両氏からは面倒がられて固辞されたといいます。 ただ、森氏は安倍首相にも「首相退任後は派に戻ってほしい」と要請しており、町村氏はそれまで繋ぎとの見方もあります。

麻生派独立で世代交代進む
 78人を抱え、党内2番手の津島派も9月末の懇親総会で、額賀福志郎前防衛長官を会長代理とする人事を決定しました。額賀氏は総裁選で出馬を模索しながら派内では擁立論が広がらず、結局断念しただけに、当面は閥務に専念し、求心力を高める考えです。当然、将来は会長を津島雄二元厚相から額賀氏に禅譲する「額賀派」への脱皮を視野に入れています。額賀氏は「津島会長を支え、仲間のために汗をかく。我々は日本政治の中枢を占めてきた。再びエネルギーを結集して国家、国民のために頑張りたい」と挨拶しました。
 
 総裁選2位の麻生太郎外相は23日、年内にも河野派(11人)を継承する意向を固めました。既に派閥を離脱中の河野洋平衆院議長から会長就任の要請を受けていますが、総裁選で無派閥の鳩山邦夫元文相が麻生氏の選対本部長を務めるなど多くの支持を得たため、無派閥議員に派閥入りを呼びかけ、20人以上の規模を目指す考えです。これまでにも同派は麻生氏が運営してきましたが、ポスト安倍を睨んで足場を固める必要があると判断、「麻生派」に代替わりすることを決めたものです。
 
 このように自民党の世代交代は着々と進んでいますが、派閥が変容を遂げる中で安倍首相は、教育再生、技術革新による経済成長など、総裁選公約に掲げた政策を来年度予算編成で肉付けしようとフル回転し始めています。