第142回(10月16日)初外遊は大成功 衆院補選必勝へ
 安倍首相は10月8,9の両日、中韓両国を歴訪し両国首脳と会談、小泉前首相の靖国神社参拝でこじれていた日中、日韓関係の修復に向け1歩を踏み出しました。両国訪問の最中、北朝鮮は地下核実験の暴挙に出ましたが、これが逆に、両国を最初に選んだ首相初外交の意義と効果を高めました。また、日本は国連安保理事会の議長国として北朝鮮の核実験に自制を促す議長声明を出すのに成功、実験後は制裁措置で主導的役割を演じました。

 中曽根康弘元首相が初外遊に韓国を選んだ時ほどのインパクトはありませんが、政権発足直後の電撃的な両国訪問で、アジア外交の再構築に着手、同時に国連外交をリードしたことは、大変な外交成果といえるでしょう。これに先立つ所信表明演説に対する各党の代表質問、5日からの衆院予算委の質疑も無難にこなし、安倍政権の滑り出しは、まずは快調です。安倍政権の下で私は党政調の水産部会長を拝命しました。来年度予算編成では水産振興に力を注ぎます。何卒ご支援下さい。22日は神奈川16区と大阪9区の衆院補選です。安倍政権初の国政選挙とあって、首相が初陣を飾れるよう党を挙げて闘っています。

議長声明で国連外交リード
 国連安保理事会は6日、北朝鮮の核実験実施表明に「深刻な懸念」を示し自制を求める、日本提案の議長声明案を全会一致で採択しました。議長国はまさに日本であり、これこそ首相の言う「主張する外交」(assertive diplomacy)といえます。

 議長声明は北朝鮮の核実験に対し「国際の平和と安全に対する明白な脅威」とし、安保理の追加的措置発動も警告、実験阻止に向けた国際社会の決意を示しました。北朝鮮はこの決議をあざ笑うように9日、地下核実験を実施しました。安倍首相はその前日の8日、「北の脅威」を討議すべく、1泊2日の訪中・訪韓の旅に出ました。政権発足後13日目の外遊は、岸信介内閣以降では、前任首相の外遊予定を引き継いだ羽田孜元首相(5日目)、恒例の先進国首脳会議に出席した村山富市元首相(7日目)に次いで3番目の素早さです。

 中国では胡錦濤国家主席、呉邦国・全人代常務委員長、温家宝首相と政権序列1〜3位が会談、韓国では廬武鉉大統領が晩餐会、韓明淑首相が昼食会を催し大変な厚遇ぶりでした。

戦略的互恵や交流拡大で合意
 日中首脳会談では、冷え込んだ関係改善のため、首脳の相互訪問を再開し、2国間や国際的課題の解決で協力する「戦略的互恵関係」を目指すことで合意するとともに、双方は北朝鮮の核実験実施など朝鮮半島情勢に深い憂慮を表明し、@6カ国協議を通じて解決を目指すA中国は北朝鮮に核実験阻止を働きかけるB日本は中国に拉致問題で協力を要請C歴史共同研究について年内に初会合を開く――などで一致、合意事項を盛り込んだ「共同プレス発表」を公表しました。

 歴史認識、靖国参拝問題では、胡主席が靖国参拝の自粛を求め、温首相も「政治的障害を除去して欲しい」と要請しました。これに対し、安倍首相は「参拝は恒久平和を祈るためで、A級戦犯を賛美するものではない。(参拝に)行く行かないかは言及しない。政治的困難を克服し、両国の健全な発展を促進させる観点から適切に対処したい」と答え、歴史認識でも95年の「村山談話」の1部を引用したうえ、「日本の平和国家としての歩みを正当に評価して欲しい」と強調しました。

 胡主席や温首相の早期訪日や、国交正常化35周年に当たる来年を「日中文化・スポーツ交流年」として中国各地で各種の交流行事を年間通じ開催することでも合意しました。これで若い世代の交流が拡大され、胡首席は来年1月にも来日しそうです。

韓国とは未来志向で関係改善
 日韓首脳会談は、安倍首相が中国から韓国へ専用機で移動中に、北朝鮮が地下核実験を実施したため、1時間半の予定を2時間に延長して、会談の大半を北朝鮮問題に費やしました。日韓双方は、北朝鮮の核実験が世界の平和と安定に対する重大な脅威であるとして、断固たる姿勢で対応し厳しい制裁措置を講じていくことで合意。日韓関係は未来志向で改善する考えで一致し、第2期の歴史共同研究委を年内に発足させることでも合意しました。

 ただ、廬大統領が、未来志向の関係を開くうえで@靖国参拝A歴史教科書B従軍慰安婦――の問題が「大きな課題になっている」と指摘したのに対し、安倍首相は中国と同様、今後の靖国参拝の有無を明言しないまま、「かつてアジア諸国に多大な損害、苦痛を与え、傷跡を残したことの反省の上に戦後60年の歩みがある。韓国国民の心情を重く受け止めている」と述べ、従軍慰安婦問題でも、旧日本軍などの関与と強制性があったことを認めた93年の「河野談話」を受け継いでいるとの考えを示しました。

水面下交渉で激しい駆け引き
 首相の訪中は01年10月以来5年ぶり、日中首脳会談は05年4月以来、日韓首脳会談は昨年11月以来のことです。日中間には東シナ海のガス田開発と尖閣諸島問題、日韓間には双方が主張する排他的経済水域(EEZ)の重複する竹島問題など、両国間には海洋資源や領土を巡る問題が山積しています。「戦後レジーム(体制)からの脱却」を目指す首相は、太平洋戦争の過去を引きずる中韓両国との外交を未来志向で立て直し、「国益」が絡む諸問題を一刻も早く解決したいと望んでいました。

 そこで、総裁選の優勢が見えてきた官房長官当時の今春から水面下の交渉に入り、日本側は、かつて首相が父親・安倍晋太郎元外相の秘書官をしていた頃から昵懇の間柄で、首相が官房副長官当時は官房副長官補として安倍氏を支えた谷内正太郎外務事務次官。中国側は、胡主席の信頼厚い戴秉国外務省筆頭次官のルートで折衝、激しい駆け引きを展開しました。この中で安倍首相が強く指示したのは「廬武鉉大統領が13日に訪中する以前に会談設定を」という特命。そこには中韓の事前協議を許せば、「靖国や歴史認識問題で圧力をかけてくる恐れがある」と警戒して、これを避けたい首相の強い気持ちが現れています。

北朝鮮が2度も首相を後押し
 中国は事前調整の最終局面まで、首相の靖国参拝自粛を確約するよう迫りましたが、中国の安定成長には日本の「経済(貿易)・資本・技術協力」が欠かせないことから、最終的には妥協しました。その狙いは「戦略的な互恵関係」構築の合意にあったわけです。

 首相は8日夜の記者会見で「互恵」の具体的分野として、投資・経済、北朝鮮の核・ミサイル問題、環境、エネルギーを挙げました。首相はこれまで、日中関係が「政冷経熱」の実態にあることを黙認するかのように、「政経分離」を唱えてきました。だが、「政治問題をおろそかにしている」との批判を受け、「政経両輪」に路線を修正しました。それが「戦略的な互恵関係」の合意です。首脳会談の環境整備に役立ったのが隣国共通の緊急課題である北朝鮮の核実験実施の宣言でした。
 
 首相は官房副長官当時、小泉前首相の訪朝に随行し拉致問題で毅然とした態度を示し、一躍総裁候補に浮上しました。北朝鮮は今回も首脳会談の直前に日中韓の足並みが揃うよう、皮肉にも地下核実験で後押しをしてくれました。


中曽根元首相も高い評価
 首相は師匠の小泉氏同様、強運に恵まれ、鮮やかな初外交を飾ったと言えるでしょう。中曽根元首相は、瀬島龍三氏を密使として派遣のうえ訪韓し、険悪化していた日韓関係を修復しましたが、「政権交代する時は、外交転換の絶好のチャンス」と、自らの手法を真似た安倍首相の初外遊を高く評価しています。
 中韓訪問に先立つ首相所信表明に対する各党代表質問、衆院予算委の質疑では、民主党の鳩山由紀夫幹事長、菅直人代表代行、岡田克也副代表らが質問に立ち、22日の衆院補選を意識して、安倍政権にダメージを与えようと論戦を挑み、日中韓首脳会談に絡む北朝鮮対応、歴史認識、従軍慰安婦の強制連行はもとより、憲法改正、格差社会、官製談合など外交・内政の重点課題を取り上げ、厳しく追及しました。

巧みな答弁で攻撃かわす
 とくに、首相が「侵略、植民地支配、戦争犯罪などは確定したものではなく、歴史家の判断に委ねるべきで、政治家が言及する問題ではない」と、はぐらかし答弁をしてきた歴史認識について、何とかタカ派的発言を引き出そうと攻撃しました。
 
 しかし、首相は歴史認識では、過去の植民地支配や侵略に対する「痛切な反省と心からのお詫びの気持ち」を表明した95年の「村山談話」と05年の終戦記念日に発表した「小泉談話」の精神を基本的に引き継ぐ考えを表明、A級戦犯などの戦争犯罪でも「国内法的には戦争犯罪人ではないが、指導的役割を果たした者の責任は重い」と曖昧戦術で巧みに攻撃をかわしました。

“真紀子節”もから回り
 「小さな子供が玄関先に置いてある大人の靴をいたずらで履いて、チョロチョロ道路に出てきて右寄りに歩いた印象で危なっかしい」――。民主党・無所属会派の田中真紀子元外相も安倍内閣を右寄りと冷やかしながら、拉致問題、日中首脳会談などで攻め立てました。

 しかし、安倍首相は「同期の中では田中真紀子さんこそ首相になるとの印象があった」と皮肉るなど余裕たっぷり。「ハンカチ王子が出て、親王様も生まれたが、空っぽの風船のような王子が生まれないようにしてもらいたい」と、総裁選中にも毒舌を吐いていた田中元外相でしたが、予算委の質疑は、“真紀子節”が空回りに終わりました。国会答弁も合格点を得たようです。22日の衆院補選は、来夏参院選の帰趨を占う選挙だけに国民の関心が高まっています。検査入院で代表質問に立てなかった民主党の小沢一郎代表は焦り気味で、補選直前の18日には国会での党首討論を要求するなど、対決姿勢を強めています。

 自民党は小沢氏が民主党代表に就任した直後の千葉7区の衆院補選で敗れているだけに、今回雪辱しなければ来年の地方選、参院選のダブル選挙に影響を及ぼしかねません。党は必勝を期して闘っているところです。