第141回(10月1日)戦後世代初の首相 挙党態勢の組閣 
 安倍晋三官房長官が自民党総裁選に圧勝し、9月26日召集の臨時国会で首相に指名されました。本人が「戦後生まれの総理」と自慢するように、戦後世代初の日本リーダー誕生です。

首相は@技術革新による経済成長A自主憲法制定B教育の抜本改正――などの公約を達成するため、挙党一致態勢の組閣・党役員人事を固め船出しました。当面は臨時国会で教育基本法の改正など小泉内閣が積み残した重要法案の処理、10月の衆院補選、年末の07年度予算編成と取り組みます。

冷えた日中関係打開のため、出来れば10月の電撃訪中か、11月にベトナムで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせ、日中首脳会談の開催を画策しています。

しかし、野党は来春の統一地方選、来夏の参院選を目指し一段と対決姿勢を強めているため、冒頭から波浪高い航海となりそうです。とりわけ、25日の臨時党大会で無投票再選を果たした民主党の小沢一郎代表は、参院選で与党を過半数割れに追い込んで政権を奪取すると意気込み、党首討論で論戦を挑もうとしています。こうした状況から、参院選の“天王山”に向けて、緊迫した政局が続くでしょう。

得票66%、党史上最年少
 「改革の炎、たいまつを受け継いでいく」――。安倍氏は総裁就任後、こう挨拶しました。9月20日の総裁選で、安倍氏は、国会議員の267票と党員197票の計464票を獲得。麻生太郎氏が136票(議員69票、党員67票)で2位、谷垣禎一氏も102票(議員66票、党員36票)でともに3桁をクリアし、ポスト安倍の有力候補としての面目を施しました。

安倍支持の我が丹羽・古賀派は安倍氏の得票に貢献しましたが、旧宮沢派の2候補が健闘したことは、次期総裁選で「大宏池会構想の実現」に弾みがついたと言えるでしょう。安倍陣営は議員票、党員票ともに70%以上の目標を立てていましたが伸び悩み、議員票、党員票のいずれも66%の得票となりました。

それでも、所属する森派以外からも幅広い支持を受け、党員票でも42都道府県で最多得票となり、麻生、谷垣両氏に大きく水をあけて圧勝しました。安倍氏は52歳で初の戦後世代。田中角栄元首相の54歳を抜いて自民党史上最年少で第21代総裁となり、26日の国会で第90代・57人目の首相に指名されました。

議員歴わずか13年、閣僚歴1回の総理・総裁はこれまた異例の出世です。25日の党三役人事に続き首相指名後、電光石火に組閣を終えました。

側近で固め小泉流人事踏襲
  「適材適所で、老壮青のバランスの取れた全力投球内閣を目指す」――。安倍氏は総裁選の最中から、族議員排除、脱派閥の挙党態勢構築を広言していましたが、22日から山梨県・河口湖の別荘に一人こもり、派閥の推薦は受けず、携帯電話で“一本釣り”する小泉流人事を踏襲しました。

安倍政権の特徴は、党、内閣ともに理念、思想、信条の合った永年の盟友、同志で要所を固め、官邸主導型の政治を行う「チーム安倍」を編成したこと、総裁選の論功行賞に配慮したことの2点でしょう。

党3役には、安倍氏の後見人で政権構想を主導した中川秀直政調会長を幹事長に起用しました。中川氏は、安倍氏の出身派閥と同じ森派で野党の受けもよく、ベテラン議員と安倍氏を取り巻く中堅・若手議員のパイプ役として調整能力が期待されています。

政調会長には、安倍氏との信頼関係が深い中川昭一農相(伊吹派)を、総務会長には、我が丹羽・古賀派の丹羽雄哉代表(元厚相)を充てました。中川昭一氏はかつて安倍氏と同じ旧三塚派に所属しており、歴史教科書、拉致問題など外交・安保、教育、自主憲法制定などで共闘した同志です。


 麻生氏とは対照的な谷垣氏
 総裁選2位の麻生氏は、歴史認識、外交政策がともに安倍首相に近いため、重要閣僚の外相に留任しました。対照的に消費税率の引き上げを公言し路線対立の目立った谷垣氏は外され、谷垣派からの入閣はゼロの扱いでした。

マスコミは『論功組閣』などと書き立てましたが、真っ先に安倍支持を打ち出した伊吹派は、伊吹文明元労相自らが再入閣を果たしたほか、中川政調会長、松岡利勝農水相と主要3ポストを確保。小泉時代は閣僚ゼロと冷遇されてきたわが丹羽・古賀派も、党3役の一角を占めたほか、森派と同じ閣僚4ポストを得て主流派に浮上しました。

安倍選対本部長を務めた我が派の柳沢伯夫元金融相は厚労相に、同派の安倍支持部隊「再チャレンジ支援議連」幹事長の菅義偉総務副大臣は総務相に起用され、同議連会長の山本有二財務副大臣(高村派)も金融相に処遇されました。この枝振りを見て、中曽根康弘元首相は「安全運転の挙党内閣だ」と好意的な評価を下しています。

5補佐官活用し官邸主導型
 確かに側近で固めた「チーム安倍」は安全運転でしよう。盟友・側近政治は、年金、介護保険など社会保障で政策グループ「ナイス」(安倍氏ら4者の頭文字NAIS)を結成した当選同期や同世代仲間の塩崎恭久外務副大臣(丹羽・古賀派)を官房長官に、根本匠氏(同)を経済財政担当の首相補佐官に、石原伸晃元国交相(無派閥)を党幹事長代理に、と全員を抜擢したことに現れています。

また、補佐官を定員上限の5人に増員し、根本氏のほか、小池百合子環境相を日本版「国家安全保障会議」(NSC)の創設、側近の山谷えり子氏(参院森派)を教育再生、世耕弘成氏(同)を戦略的広報、中山恭子元内閣官房参与を拉致問題の、それぞれ担当補佐官に任命、ホワイトハウスばりに官邸の機能強化を図りました。

「公邸の窓からヒヨドリがよく見えた。雛が孵り、巣立ったよ」――。安倍政権産みの親・小泉前首相は公邸を去る日、記者団に目を細めて語りました。各マスコミの世論調査でも内閣支持率は70%を超え、安倍丸の船出は上々です。

しかし、脱派閥の全員野球は無責任体制と裏腹の関係にあり、論功行賞の配当にありつけなかった勢力の不満やしこりが残って求心力が低下、手の平を返したように安倍離れが起きないとも限りません。

野党対決で緊迫政局続く
 26日開幕の臨時国会は、予算編成の都合もあり12月15日まで81日間の日程です。
28日の開会式、29日の首相所信表明を受けて10月2日から3日間、衆参両院で代表質問が行われます。

所信表明演説で安倍首相は、近著の「美しい国日本」で示した政権構想をもとに、「構造改革を加速、補強する」と強調し、小泉改革をさらに推進する一方、「成長なくして財政再建なし」の成長戦略を基盤としつつ、格差を解消し「誰でもチャレンジ、再チャレンジできる社会、勝ち組、負け組が固定しない社会」構築を訴えました。

とくに@文化・伝統・自然・歴史を大切にする国として、新時代に相応しい憲法の制定、開かれた保守主義、家族の価値や地域の再生A自由と規律ある国として、教育の抜本的改革、民間の自律と、過度の公的援助依存体質からの脱却Bイノベーション(技術革新)で新たな成長と繁栄する国C世界に信頼、尊敬、愛されるオープンな国として、日本の強さを生かした積極的貢献――など政権の基本的方向を打ち出しました。

「与党過半数割れ」の一点張り
  「民主党の対案路線が、小沢代表になって反対野党に逆戻りした。何でも反対で手段を選ばない傾向がある。10月の衆院補選、来夏の参院選は極めて重要だ」――。

武部勤前幹事長は警戒感を強めていましたが、民主党の菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長の留任でトロイカ体制を継続する小沢代表は、「参院選で与党を過半数割れに追い込み、政権交代を実現する」ことの一点張りで、対決姿勢を強めています。

9月半ばに発表した基本政策で小沢氏は、「共生を理念とし、公正な国・日本を作る」を基本理念に格差社会の是正を掲げ、雇用や社会保障など「日本型セーフティネット」の構築などを明示しました。

具体的には@日本国教育基本法を制定、高校まで義務教育化し中・高一貫教育A「子ども手当」「親手当」の創設B非管理職の勤労者は終身雇用C基幹農産物には「個別所得保障制度」を創設D個別補助金は全廃し地方の自主財源として一括交付E自衛権は個別的であれ、集団的であれ、急迫不正の侵害を受けた場合に限り行使――などを挙げています。マスコミが指摘するように農業政策1つとっても、財源無しの選挙目当て“ばら撒き政策”ばかりです。

継続5法案廃案で野党共闘
  小沢氏はこの基本政策を代表質問でぶっつける構えでしたが、検査入院で断念。今後は小沢氏の発案で始めた党首討論を毎週実施するよう求める方針です。

小泉政権積み残しの継続審議案件は、@教育基本法改正案A防衛庁の省昇格関連法案B「共謀罪」創設の組織犯罪処罰法改正案C憲法改正手続き制定の国民投票法案D社保庁改革法案E11月1日で期限が切れる、インド洋上で多国籍軍へ給油するテロ対策特別措置法の延期法案――の6法案です。

来年の通常国会での処理は、来春の統一地方選や参院選に影響が出るため、これら重要法案は臨時国会で出来るだけ多く成立させなければなりません。これに対し野党側は、「悪法が継続審議になったので、野党共闘して廃案に追い込むべく力を合わせたい」(福島瑞穂社民党党首)と抵抗戦線を組む構えです。
国会の論戦よりも重要なのは、10月22日に神奈川16区と大阪9区で行われる衆院補選。安倍政権初の国政選挙とあって、自民党は絶対に負けられない一戦です。目下、党を挙げての戦いを続けているところです。