第140回(9月16日)安倍氏圧勝見通し 巻き返しに懸命
 自民党総裁選は秒読みの段階に入りましたが、安倍晋三官房長官の圧勝は確実の見通しです。国民的人気に加え、安倍氏が国家の基本問題である新憲法制定、教育の抜本改革を政権構想に掲げたことが党員・党友にも評価され、雪崩現象が加速しています。党内ではかつての激しい権力闘争が姿を消し、主流派入りを競う各派閥、ポストを求める議員個人の“勝ち馬シンドローム”が蔓延。関心は早くも組閣・党役員人事に移っています。これに対し、不戦勝を意識してか安倍氏は、「派閥の順送りはやらない。適材適所、老壮青が力を合わせることが大切」と人事の基本方針を示し、牽制しています。小泉首相はアジア欧州首脳会議(ASEM)に出席のため、告示前の7日から6日間、フィンランドを訪問しました。「安倍後継」を繰り返し示唆してきた首相は、事実上の“小泉指名”が成功したことに満足、卒業旅行を楽しんだようです。こうした中で、麻生太郎外相、谷垣禎一財務相は来夏の参院選後の政局激変に備え「堂々たる2位」を目指し、激しく巻き返しています。

出陣式から安倍氏が大差
 小泉首相の総裁任期満了に伴う総裁選は8日に告示され、届け出は抽選で安倍、谷垣、麻生各氏の順に決まりました。東京、大阪、神奈川、などの街頭演説会で舌戦を繰り広げていますが、19日に郵送による党員・党友の投票を締め切り、20日に衆参両院議員が無記名で投開票を行い、新総裁を選出します。国会議員403票と党員300票の計703票で争われますが、過半数を獲得した候補が当選。過半数に達しない場合は、上位2人を対象にした国会議員による決選投票を行います。立候補後の共同記者会見で、安倍氏は「成長がなければ格差、社会保障、少子化の問題も解決しない」と成長戦略を最優先課題に取り上げ、谷垣氏は@アジア外交の立て直しA地方の活力を引き出すB社会保障や財政の再建――を主張。麻生氏も経済成長とアジア外交の立て直しを優先する、と強調しました。8日の出陣式には、安倍氏が195人(他に代理出席50人)、谷垣氏が22人、麻生氏が35人の国会議員を集め、安倍陣営が軽く過半数を突破、大差をつけました。

論功行賞求め安倍詣で
 安倍氏支持では、派閥横断の中堅・若手が6月に結成した「再チャレンジ支援議連」(109人)が先陣を切ったのに続き、9月4日には派閥主体の選挙対策本部「安倍晋三応援隊」が正式に発足しました。麻生氏を擁する河野派と谷垣派を除く7派が幹部を送り込み、「派閥均衡色」をにじませていますが、「脱派閥」を掲げる安倍氏に配慮し、我が丹羽・古賀派の柳沢伯夫税調会長が本部長に、山崎派の甘利明政調会長代理が事務局長に、森派の町村信孝前外相が本部長代理に就任、本格的に始動しました。他にも6月から水面下で活動していた派閥横断の閣僚経験者による「シニアの会」(11人)、我が派の塩崎恭久外務副大臣や石原伸晃前国交相ら当選4、5回で安倍氏と同期クラスの中堅グループ「安倍晋三さんを支える会」(15人)、小泉チルドレンの「安倍晋三先生を激励する会」(51人)と「無派閥新人議員の会」(22人)などのグループが続々名乗りを上げました。中には複数のグループに参加している議員もいますが、自民党国会議員の8割近くが安倍氏を支援する形となり、論功行賞を求める「安倍詣で」が各グループで増えているようです。

猟官運動で「功名が辻」
 しかし、本家意識の「再チャレンジ議連」が選対本部を離れて独自行動するなど、主導権争いが激しく、安倍陣営は“船頭多くして船山に登る”観を呈しています。特に、臨時国会の召集が26日に決まり、首班指名・組閣までに1週間の空白が生じたため、猟官運動は一層激しくなり、NHKドラマではないが、永田町は「功名が辻」の様相です。それを煽るかのようにマスコミが人事予測報道を始めました。こうした傾向に対し安倍氏は、6日の各社インタビューで人事の基本方針について、「派閥の順送り、派閥の推薦を受けて閣僚を決めていく方法は採らない。適材適所で『チームワーク全力投球内閣』にしていきたい。老壮青が力を合わせて1つの方向性に向かって進んでいくことが大切だ。特定の派閥がポストをテコに党を支配することは出来なくなっている。(総裁と幹事長を別の派に分ける)総幹分離はかつての派閥論理の延長線上でしかない。(官房長官人事は)派閥にこだわらずに考えて行くべきだろう。必ずしも民間人を(閣僚に)入れなければならないことでもない」と小泉流“1本釣り”人事を示唆しつつ、挙党体制の人事構想を示しました。

堂々たる2位目指し追い上げ
 「幕が上がった時には芝居が終わっていた――では申し訳ない」と、麻生氏は、もっぱら地方の党員票掘り起こしに懸命です。党員に141票しか与えられていなかった2001年の総裁選で小泉氏は、「私が生みの親、育ての親です」という超人気スターの田中真紀子氏を連れて全国遊説し地方票をかき集め、橋本龍太郎氏の復活・再選を阻みました。その心象風景が、麻生氏の記憶にはあるようです。今回から党員票は300票に増えており、麻生氏は日本青年会議所(JC)会頭、政調会長、前総務相の肩書きを活かせば、かなりの追い上げは可能と読んで全国遊説には力を入れ、地方の格差是正を訴えています。小泉首相は3度目の正直で政権を奪取したが、麻生氏はまだ2度目の挑戦です。苦戦が予想される参院選の結果次第では再び政局になり、次期政権は短命で終わる可能性もあります。そのためにも麻生氏は「堂々たる不動の2位」を確保しようと意欲を燃やしています。

参院選後のリリーフ投手狙う
 「(安倍政権は)線香花火だ。パッと(火)が付いたら、すぐ落ちてしまうことに国民はすぐに気づく。小泉首相は4尺玉で音は大きいが、国民は5年経って『何だったのか』と思っている」――。田中真紀子元外相は、“安倍政権の短命”を予想し、「首相になれば課題を全て解決できるような経歴を積んだ人ではない。マスコミ人気先行の小泉首相と同じラインの人」と酷評しました。次期政権が短命に終われば、経験豊富な麻生氏がリリーフから抑えの投手として登場する可能性が強くなります。リリーフといえば、46年5月の戦後初の総選挙で自由党は第1党に躍進しましたが、鳩山一郎党首が公職追放に遭ったため、麻生氏の祖父・吉田茂氏が代わって組閣、2期に渡る長期政権を樹立しました。また、80年6月に大平正芳元首相が急逝した際には麻生氏の岳父・鈴木善幸氏が後継首相に選ばれるなど、麻生氏の家系には不思議なDNAが流れている、と側近は期待しています。

 逃げずに政策論争を展開
 このことに関連すれば、候補に必要な推薦人20人を確保できず出馬を断念した鳩山邦夫元文相(無派閥)、河野太郎法務副大臣(河野派)の2人が麻生陣営に加わり、鳩山氏は選対本部長に就任しました。麻生氏は「鳩山一郎、河野一郎、(とライバル関係にあった)吉田茂の孫3人が手をつないでいくのはいいことだ」と述べ、過去のしがらみを忘れて満足そうです。2位争いに懸命なのは谷垣氏も同じ。山崎派の野田毅元自治相を選対本部長に迎え、「逃げずに政策論争を展開する」と意気盛んです。痩せても枯れても派閥領袖として出馬したのは谷垣氏1人。善戦すれば旧宮沢派の「大宏池会」復活への期待も膨らんできます。そこで、靖国問題や消費税10%アップなどで違いを明確にし、安倍、麻生両氏への対抗意識を盛り上げています。8月末には「『活力と信頼の国家』を創る〜『絆』の社会を目指して」と題する政権構想を冊子にまとめて公表。そのなかでは@アジア外交の立て直しA都市と地方の格差是正B財政再建――を掲げ、安倍氏との対決姿勢を鮮明にしました。

参院選で造反組の復党容認
 しかし、安倍氏は1日の地元中国ブロック大会(広島市)に合わせて正式出馬を表明するなど、小泉首相譲りの「メディア戦略」を駆使し、「立候補宣言」の文字を会場後方に掲げた巨大スクリーンに浮かび上がらせるという演出の凝りようでした。政権構想も、伝統や家族の価値を重視する「開かれた保守主義」的国家観のもとで、憲法の全面改正に取り組むなど、戦後を引きずる「戦後レジーム」体制からの脱却、教育改革や技術革新による経済成長を訴えました。これには、地方議員が来春の統一地方選挙を勝ち抜くため、いずれのブロック大会会場でも国民人気の高い安倍氏と2ショットでカメラに収まろうと、門前市をなし、党員票でも『安倍楽勝』を印象付けました。青木幹雄参院議員会長らも参院選での「安倍効果」に期待しています。苦戦が伝えられる参院選では、郵政民営化問題で離党した造反組に協力を仰ぐべきだと声が高まっていますが、安倍氏は「長年自民党で一生懸命汗を流した人がいる。同じ方向を向いているなら、協力していく道を考えるべきだ」と復党に前向きな考えを示し、麻生、谷垣両氏も同調しました。このように安倍氏は「小泉亜流」との批判をかわすため、徐々に首相との違いを見せ始めていますが、首相もその点は了解済みのようで、「離合集散は世の習い」と安倍氏の復党発言を容認しています。