第139回(9月1日)政策対立軸に応酬 高揚感薄い総裁選
自民党総裁選は20日後に迫りました。小泉首相は8月15日の終戦記念日に靖国を参拝しましたが、中韓両国とも批判を抑制したため、さほど大きな争点にはならず、各候補が目下、政権構想を巡り激しい応酬を繰り広げています。福田康夫元官房長官、山崎拓前副総裁、額賀福志郎防衛長官が相次ぎ出馬を辞退、ポスト小泉は安倍晋三官房長官、谷垣禎一財務相、麻生太郎外相の現職閣僚三つ巴の争いになりました。政権構想では教育改革、アジア外交、中央と地方の格差是正などが対立軸になっています。福田氏に集まっていた安倍批判票の1部は谷垣氏に流れたと見られ、世論調査では2,3位が、谷垣、麻生氏の順に入れ替わりました。だが、安倍氏が党国会議員の過半数の支持を集め圧倒的優位。このまま逃げ切る構えで、党内には「真夏の雪崩現象」と揶揄する声もあります。福田氏らベテラン組の不出馬は、来年夏の参院選で自民党の苦戦が免れず、次期政権は短命政権と見越して「お手並み拝見」に出たようですが、執行部の1員としては消化試合に終わらせず、政策論争で活気を取り戻し国民が期待する最高リーダーを選出したいと念じています。

首相直属の外交・安保政策機関
三者揃い踏みの政策討論は、8月22日に横浜市で開いた北関東・南関東ブロックの合同大会で火蓋が切られました。安倍氏はまず、祖父の岸信介元首相が執念を燃やした憲法改正について、「政治日程に乗せるようリーダーシップを発揮しなければならない」と力説、日米同盟を基礎としつつ、自由・民主主義・基本的人権などの価値観を共有するインドや豪州などとの連携を強調。「政府レベルの対話を戦略的に行うため、米国のホワイトハウスにあるNSC(米国家安全保障会議)のような組織を官邸に作る」と述べ、首相直属の外交。・安保政策の立案機関と、担当する首相補佐官を設置する構想を明らかにしました。これに対し谷垣氏は、7月27日に出馬表明した際の、@首相になった場合は靖国を参拝しないA消費税率は2段階で10%に引き上げる――などの公約を踏まえ、「首脳同士が腹を割って話し合う体制が不可欠だ」と、あくまで日中、日韓首脳との対話を目指す考えを強調したうえ、「消費税は逃げることなく議論し、社会保障の財源と位置づけ、子供や孫たちの世代に先送りしないようにする」と、消費税増税の必要性を繰り返しました。また、小泉政治の影の部分とされる「地方と中央の格差」解消に重点を置き、地方インフラ(社会資本)整備と地方税収偏在などの是正を唱え、安倍氏との違いを明確にしました。

麻生氏は義務教育前倒し政権構想
5年5カ月ぶりに2度目の挑戦をする麻生氏は先に、「靖国神社の非宗教団体化によるA級戦犯の分祀化」を唱えましたが、この日は中韓との首脳会談の必要性は訴えたものの、外交への言及は最小限にとどめ、内政、教育問題に意欲を示しました。麻生氏は8月21日の出馬表明で「日本の底力―活力と安心への挑戦」と題する政権構想を発表しています。それは、【日本の未来像】として、活力に満ちた、住みたくなる、働きがいのある、品性溢れる国を目指す「豊かさ実感倍増計画」を提唱。【基本政策】に@大胆な政策減税と必要な増税A義務教育の就学を1,2年前倒し、道徳・情操・基礎教育の徹底と教育バウチャー(教育利用券)支給など教育費負担の軽減B日米同盟機軸にアジアの安定、良好な日中関係で地域安定、東アジア共同体の実現【政治改革】@簡素で温かい政府と小さくても強い政府の実現、内閣官房・内閣府・総務省などを再編A国会の委員会審議を大臣出席と副大臣出席に2分B「国と地方の協議の場」の制度化と道州制など地方分権C全ての政策組織を政調会長の下に置き、政調各部会幹部を副大臣、政務官が兼任――など。出馬表明の会見では「二人との一番の違いは経験だ。年も食っている」とベテランぶりを強調しました。

教育改革競う安倍・麻生氏
教育バウチャー制度は、国や地方自治体が、成績などを基準に児童・生徒らに教育利用券を発行。この券を使えば公費による学費の援助などが受けられ、公立学校から私立学校への編入なども容易になるという制度。外交では「日米同盟を機軸としつつ、アジアの安定を求める」としたうえで、「良好な日中関係は2国間の問題のみならず、アジア地域の安定に欠かせない」とし、日中関係改善に強い意欲を示しています。経済政策では「産業界が成長分野に進出出来るように大胆な政策減税を行う」と明記しています。安倍氏も9月1日の正式出馬表明で政権構想を発表しますが、「戦後生まれの私たちがしっかりと日本の国造りに取り組まなければならない」と世代交代を強調しつつ、国造りの中核に教育を位置づける考えです。安倍氏は、現在の小中学校教育について「自虐的な歴史教育で、伝統的な価値観を否定する傾向が強い」として、方向転換が必要と考えています。教育行政の方針はこれまで、中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)が決めてきましたが、有識者主体の中教審は結論を出すまでに数ヶ月から数年かかるため、迅速な教育改革が実現できないと批判されてきました。

首相直属の教育改革推進会議
そこで安倍氏は、短期間に教育改革の実績を挙げる方策として、これまた首相直属の「教育改革推進会議」(仮称)の新設を公約として示す方針です。小泉首相が郵政民営化など構造改革方針「骨太の方針」や予算編成など重要政策の司令塔とした経済財政諮問会議(首相が議長)を参考に、関係閣僚と有識者による首相直属の政策決定機関を新設し、教育改革を促進するものです。教育改革は、橋本龍太郎政権が6大改革の1つに掲げた後、小渕恵三、森喜朗両政権が「ゆとり教育」の見直しや学校選択制の導入、大学教育改革などに取り組みましたが、小泉政権で積み残した改革が教育です。自公両党が先の通常国会に教育基本法改正案を提出しましたが、民主党も独自の改正案を提出、双方とも継続審議となっており、与党内では首相の教育改革に対する熱意の無さが批判されています。安倍氏にとっては、首相との違いを明確にする格好のテーマであり、昨年総選挙の造反・離党組である平沼赳夫元経産相、保利耕輔元文相らが教育改革に熱心だったことから、参院選で離党組の協力を得る観点からも、極めて有効と考えたようです。

安倍氏、実質3%成長を公約
安倍氏は「少子高齢化の進展は労働力の不足や消費の落ち込みを招きかねない」と指摘。こうした不利を克服し、高度成長を達成するため、イノベーション(技術革新)とオープンな市場の構築を二本柱とする政権構想を打ち出す構えです。生産性向上の具体策としては@企業の技術革新を後押しする情報技術(IT)やバイオテクノロジーなど成長分野への投資に対する政策減税A企業が社員の能力開発を目的に行う投資に税制優遇Bアジア諸国との自由貿易協定(ETA)締結などで市場開放を進め、輸出拡大と投資促進――などで実質年率3%程度の高い経済成長を目指す考えを示します。これは、政府が7月に決めた新経済成長戦略大綱の年率2.2%以上の実質成長率を上回るもので、税の自然増収を図り、将来の消費税率の引き上げ幅を抑え込む狙いが込められています。消費税率については、「2009年度までに予定される基礎年金の国庫負担率の引き上げに合わせて検討する」ことにとどめ、引き上げ幅には言及していません。麻生氏もブロック大会で、「徹底した歳出削減後に増税を提起する」と述べ、谷垣氏の消費税率10%引き上げの公約には、「間接税を引き上げると言うのは、景気を中折れさせる」と厳しく批判しました。

“安倍選対”発足で本家争い
安倍氏の正式な出馬表明に先立ち、安倍氏を支持する各派の中堅・若手議員は8月18日、都内のホテルで事実上の“安倍選対”を発足させました。菅義偉氏(丹羽・古賀派)ら6月に結成した「再チャレンジ支援議員連盟」の発起人が呼びかけ人となり、谷垣、二階、河野の3派を除く各派と無派閥から13人が集まり、選対本部長や推薦人の人選など、総裁選に向けた戦略を協議しました。会合では「ベテラン議員のアドバイスを受けながら、重層的、横断的に進めていくことが大事だ」として、ベテラン議員との連携強化を強調する声が出る一方、「派閥領袖クラスに推されるのは安倍氏に取ってもイメージがよくない」と警戒する意見も出されました。なぜなら、各派の自主投票機運が高まる中で、我が丹羽・古賀派の古賀誠元幹事長が福田不出馬を機に安倍支持を打ち出し、二階、伊吹、高村の3派も雪崩を打って安倍支持を決定したからです。伊吹文明元労相は、亀井静香元政調会長が郵政民営化で造反・離党した後の亀井派を引き継いでいますが、亀井氏の志とは異なり、小泉路線継承1番手の安倍支持を表明しました。膨れ上がる安倍陣営の中では、各派均衡の選対本部を作ろうとするベテランに対し、若手が議連独自の選対にこだわるなど世代間の本家争いも出てきました。かつては権力闘争を競い合った各派閥ですが、今は弱体化し、勝ち馬に乗って主流派入りを競おうとしています。まさに真夏の雪崩現象が起きています。

ベテランがアジア外交研究会
これに対し、安倍氏の外交政策に批判的な加藤紘一元幹事長、山崎拓前副総裁らが同24日、都内ホテルに集まり派閥横断的な「アジア外交のビジョン研究会」の設立発起人会を開きました。集まったのは両氏のほか、野田毅元自治相、保岡興治元法相(以上、山崎派)、船田元元経企長官(津島派)、中谷元元防衛長官(谷垣派)ら閣僚経験者を主体に、急激な世代交代を望まないベテラン議員21人。会長に選ばれた加藤氏は「総裁選には絡めない」とし、総裁選後に本格的な活動を始めますが、谷垣派7人、山崎派9人が中心であり、谷垣氏支持派は明白です。設立趣意書案には「国連中心主義、日米同盟堅持、アジアの一員――の3本柱は常に一体として展開しなければならない。当面、アジア外交の最優先課題は対中・対韓関係の改善だ」とリベラル派の主張を明記、安倍氏の右よりの外交姿勢に警鐘を鳴らしています。従って、「安倍政権」発足後もうるさい存在になりそうです。

地方選、参院選対応が焦点
このように安倍支持、アンチ安倍の両陣営は政策を対立軸に、国会議員票の取りまとめや、党員投票に向けた多数派工作を激化させていますが、日本の進路を託すリーダーを5年ぶりに選ぶ最大の権力闘争としては、高揚感の薄れた総裁選になっています。その原因は来夏の参院選にあります。春の統一地方選と参院選がダブルのは12年に1度で、自らの選挙に全力投入した地方議員は疲労困憊し、参院選支援の実働部隊にはなり得ず、ダブル選ではいつも自民党が苦戦してきました。特に、参院候補者が頼りにする地方議員は市町村合併の結果、かなり減っています。しかも、来夏に改選期を迎える参院議員は5年前に小泉ブームに乗って当選、自民党に最高の議席数をもたらした議員たちで、目減りはあっても議席増は望めません。公職選挙法の改正で群馬などの2人区が1人区に減り、逆に保守勢力が弱い東京、千葉など巨大都市の選挙区が定員増になったことも響きそうです。小沢一郎民主党代表は「まず統一地方選に勝ち、参院選で与党を過半数割れに追い込み国会を麻痺させ、衆院解散・総選挙で政権交代する」との3段跳びを主張しています。

短命政権を見越し不出馬
国家予算は参院で否決されても30日後に自然成立しますが、予算関連の重要法案が参院で否決された場合は衆院で再採決しなければなりません。仮に野党が過半数を制し、議長や主要の委員長を押さえることになれば法案の妨害工作に出て、国会を延長しても重要法案は1本も成立出来ず、いかに衆院で与党が絶対多数を占めていても、国会は完全に麻痺し、局面打開の手段としては、衆院解散しかあり得なくなります。橋本内閣が消費税率アップで参院選に破れて政権を投げ出したように、次期政権も参院選で与党の過半数が維持出来なければ、即刻退陣となります。福田氏らベテラン議員が今回出馬を見合わせたのは、そのあたりを見計らって慎重の態度を示したものと思われます。それだけに、私は党執行部1員の副幹事長、長崎県連会長として、総裁選が“消化試合”にならないよう盛り上げ、来夏の参院選でも必勝態勢を固めなければならないと肝に銘じているところです。

幹事長と豪州など3カ国訪問
なお、私は武部勤、冬柴鐵三・自公両党幹事長のお伴で8月14日から22日までの8日間、豪州、カンボジア、ベトナム、の3カ国を訪問、英気を養ってきました。他の同行者は自民党の小島敏男副幹事長と永岡桂子女性局次長の2人。今が真冬の豪州ではバルガ炭坑を視察。キャンベラでは16日にハワード首相、ダウナー外相らと会い、北朝鮮問題などを話し合いましたが、ハワード首相は「小泉首相ほど勇気のある指導者はいない。なぜ辞めるのか。党の内規を変えて続投すべきだ」と辞任を惜しんでいました。17日には赤道を越えてシンガポール経由で真夏のカンボジアのプノンペン着。午前はチア・シム上院、ヘン・サムリン下院の両議長を表敬訪問。夕刻は首相私邸でフン・セン首相と約1時間半会談。19日には母子保健センター、プンプレック浄水場、トウール・スレン博物館などを視察。夕刻にはベトナムのハノイに移り、20日は日本から800人が参加したジャパンフェステフィバル・イン・ベトナムのレセプションや芸術・文化・スポーツ交流行事、記念植樹式に出席。21日は首相府で就任間もないグエン・タン・ズン首相に祝意を表明。ズン首相は「10月に訪日、日本の新首相と首脳会談を開きたい」と述べました。