第138回(8月16日)靖国対立軸に激化 熱気孕む総裁選
梅雨明けとともに日本列島は猛暑と台風。それに負けず自民党総裁選も熱気をはらんできました。東京ブロック大会や各地の講演会で、各候補は政権構想を訴えていますが、靖国神社参拝が大きな争点に浮上してきました。ステルス(隠密)作戦を得意とする安倍晋三官房長官が4月に靖国を参拝していたことが明るみに出、「首相在任中は参拝しない」と明言していた谷垣禎一財務相、靖国神社の非宗教法人化を唱える麻生太郎外相との対立が鮮明になってきたからです。正式に出馬を表明したのはまだ谷垣氏1人だけですが、21日に麻生氏、9月1日に安倍氏も立候補を表明する予定です。内外政策での対立軸がさらに明確になり総裁選は激しさを加えるでしょう。国民参加型の総裁選を進める武部勤幹事長は7月末、「小泉構造改革」を検証するPR文書を発表しました。党員はこれを読んでおり、小泉路線の継承を唱え、独走を続ける安倍陣営にとっては、プラス要因になっています。

小泉改革の影の部分に言及
5300人を集めた7月28日の東京ブロック大会では、総裁選先行馬の安倍氏に対し、その前日に出馬表明したばかりの谷垣氏が、小泉改革の継承やアジア外交を巡って鋭く論戦を挑みました。谷垣氏は出馬表明で@アジア外交の立て直しA地域の活力を回復B消費税率引き上げ――を唱えましたが、ブロック大会ではまず、「弱肉強食、格差の多い社会への心配が起こる」と小泉改革の「影の部分」に言及し、政権構想の柱である「絆があり、皆が支え合う国に」を訴えました。アジア外交では「世界の成長センターは中国やインド。アジアの共通通貨の研究も進めるべきだ。首脳同士の外交が基本的に大事」と、首相の靖国参拝で中国、韓国との首脳外交が停滞していることを批判しました。一方、ビデオで出演した麻生氏は「外交は国益を常に頭に置き、原則を大事にすることが要諦」と述べ、北朝鮮のミサイル発射に対する国連安保理決議採択では「情報の収集も早く、原則がぶれないことが国益に繋がる」と外相としての実績を誇示しました。

再チャレンジ支援策で財界要請
これに対し、安倍氏は「日米関係を重要視し、成長する中国、インドとの関係も大切だ。日中経済関係は良好」としたうえで、「靖国を参拝するからと言って、首脳会談をしないでいいのか」と中国側を批判しました。安倍氏は「日米印豪の首脳レベル協議の場新設」を提唱しています。国連決議に関する政府の対応についても、「国連外交60年の歴史の中で、初めて主導権を取った」と麻生氏同様、自賛しました。安倍氏は同31日、日本経団連の御手洗冨士夫会長ら幹部を官邸に招き、失業や倒産などからの「再チャレンジ支援策」に協力を要請、定期的に会合を持つことを確認しました。この後の記者会見で、新政権での経済財政諮問会議メンバーに関し、奥田碩前会長を引き継ぐ形で「御手洗氏は有資格者の1人」と“お墨付き”を与えるなど、早くも新総裁気取りで官邸を取り仕切っているようです。そんなことにはお構いなく、幕末の志士・高杉晋作のファンを自認する小泉首相は8月4日、官邸を空にし、高杉と側室の墓がある山口県下関市の東行庵に参りました。

マスコミ避けるステルス作戦
5日は吉田松陰の「松下村塾」や松陰神社を参拝しましたが、下関は安倍氏の地元。「総裁選の支援ではないか」との声に対し、首相は「人の見方は色々だ」と平然とかわし、同日夜には同県選出の国会議員らと会食しました。首相は安倍氏の靖国参拝についても、「個人の自由だ。(中韓両国の反発は)いつものことだ。反発する方がおかしい」と記者団に語り、安倍氏を庇いました。自らの参拝については「適切に判断する」と述べましたが、残り任期も少ないことから、総裁選の公約通り終戦記念日の8月15日に堂々と参拝しました。安倍氏が参拝したのは今年4月15日の午前7時過ぎ、SP(警護官)、秘書官と共にハイヤーで到着。玉串料はポケットマネー、モーニング姿で「内閣官房長官 安倍晋三」と記帳し、本殿に参拝したと伝えられます。事前連絡が1時間前と急だったため、トップの宮司ではなく、ナンバー2の権宮司が対応したと言いますから、人目に付かず、マスコミにも悟られないよう十分に計算した、完全なステルス作戦であったようです。

強い政治姿勢アピールが得策
歴代の官房長官が「内閣の要」として参拝を自粛してきた中で、安倍氏は「戦没者の方々に尊崇の念を表す気持ちを持ち続けたい」との信念を敢えて貫く形で参拝しました。そして「口角泡を飛ばして自民党の中で議論すべきことなのか。参拝したか、しないかについて申し上げるつもりはない」と、同じ言い回しを会見で4回も繰り返したそうです。しからば、なぜ4カ月後に参拝を表面化させたのか。それは、首相の靖国参拝に批判的だった福田康夫元官房長官が、「靖国問題で党内を二分する論争になれば国益が損なわれる」として出馬を辞退したことで、「安倍氏圧勝」のムードが党内に漂い、安倍氏の参拝が表沙汰になっても不利になる可能性は少ない、と見たからでしょう。「靖国を総裁選の争点にしてはならない」が持論の安倍氏は、「マスコミが大騒ぎするから中韓両国は何時までも非難の鉾を収めようとしない」と受け止め、首相と同様、「靖国は“心の問題”であって、他国が干渉すべきではない」との強い政治姿勢をアピールする方が得策と考えたに違いありません。

谷垣氏は次々に独自構想
「こっそり(参拝に)行っている。なぜ正々堂々と行かないのか。靖国神社に媚びを売るためと取られても仕方ない」と山崎拓前副総裁が言えば、加藤紘一元幹事長は「安倍氏の著書などには東京裁判を否定したいという信条が出ており、小泉さんの参拝より問題が深刻だ」と応じました。六日のTBS「時事放談」に出演した時の二人のやり取りです。「反小泉・非安倍」陣営の安倍氏批判が高まり、総裁任期中の参拝を否定した谷垣氏も「よりはっきりした説明が必要だ」と純粋に靖国問題の議論が深まることを期待しています。京都市の記者会見では「隣国と首脳同士が膝詰めで話し合えないのは靖国のトゲがあるからで、当面(首相参拝は)控えるべきだ」との持論を述べ、各地の講演でも@所得税体系の中で『子宝税制』を創設A地方自治体や非営利組織(NPO)法人への寄付行為を促進する『絆の税制』の検討B個人住民税のかなりの部分を地方共有の『ふるさと共同税』に改定――など独自構想を次々と発表しました。自派閥を谷垣氏に禅譲した加藤氏はもとより、山崎氏も谷垣氏と政策路線に違いはなく、谷垣支援に傾いています。弱小派閥を率いる谷垣氏ですが、今回勝ち目がなくとも、将来の足場固めの“予備選”と割り切り、総裁選後に本格的な「大宏池会」の復活を目指し、活動しようと考えているようです。

麻生氏は靖国の非宗教法人化
海外出張から7月末に帰国した麻生外相は早速地元福岡県に入り、経済人を前に講演し「広田弘毅以来、福岡県から首相は出ていない」と支援を要請。8日に発表した靖国に関する「見解」では、@靖国神社が自発的に宗教法人の解散手続きを取り、国が関与する特殊法人に移行A非宗教法人化の後、A級戦犯の分祀の議論を行い、結論を出す――ことを提案しました。このように総裁選は盛り上がっていますが、8月5日の第2段・近畿ブロック大会は「立候補予定者が出そろっていない」ことを理由に、京都出身の谷垣財務相すら招かず、武部幹事長と評論家の対談だけで済ましたため、会場からは不満が噴出しました。武部幹事長は7月末、【「小泉構造改革」さらに進める課題=検証にあたって=】と題する各地ブロック大会の討議資料を発表しました。「小泉改革は、失われた10年の中にあって、新しい時代にふさわしい内政、外交両面の総合的改革(フルモデルチェンジ)を目指したものだ」とし、A4版10枚にびっしり首相の功績をまとめ、検証しています。

小泉政治継承の安倍氏に期待
@ 郵政、道路公団民営化など「官から民へ」Aデフレに勝ち抜く日本へ「成長力・競争力の強化」B行政役割の転換C持続可能な社会保障制度の確立D世界一安全で安心な国の復活E「国から地方へ」F日米同盟、アジア・国際協調の平和外交をG子どもたちの未来のための教育改革H新時代にふさわしい新憲法をI党改革の推進――の10項目にわたり、小泉政治5年数ヶ月間の成果を讃えています。そして、「小泉改革の歴史的意義と到達点を明らかにしていくことは、今、新総裁・総理が選出されようとしているこの瞬間、何よりも大事な作業である」とし、小泉路線の継承者に大きな期待を掛けています。これは安倍氏支援を打ち出した文書といえるでしょう。山崎派出身の武部氏は、「非安倍陣営」の山崎氏とは距離を置きつつ、「山崎派が山崎先生の思う通りになるようなら、派には戻らない」と山梨県での党研修会で広言。幹事長退任後は小泉チルドレンを中心に武部派とも言える「武部選挙塾」を始める考えです。

安倍氏の優位は確定的
読売新聞は9日、「丹羽・古賀派代表の古賀誠元幹事長と二階派の二階俊博経産相は安倍支持の意向を固めた」と報じました。同社と共同通信社がそれぞれに行った調査では、福田氏康夫氏の出馬辞退によって森派の一本化が固まったうえ、派閥を超えて若手、中堅層にも安倍氏支持が浸透、党所属国会議員の過半数の支持が集まったと、報じています。かつての最強軍団・津島派は額賀福志郎防衛長官の擁立を見送り、山崎氏も出馬断念に傾き、両派の自主投票が強まってきました。安倍支援のNNTTライン(中川秀直政調会長、二階経産相、武部幹事長、竹中平蔵総務相)の動きも活発化しています。公認問題や人事などで執行部の権限が強まったことから、各派閥・議員の勝ち馬に乗りたい心理も働き、安倍氏の優位は確定的になり、「消化試合」の様相を深めつつあります。